毎週水曜日連載中の『教えて!サクラバレエ』シリーズ。
見学や体験レッスンに来てくれた方達が書いてくれたアンケートの質問への答えや、私発信でサクラバレエについてのお話しをしていきます。
11回目の今回は、~なぜ大人だけの教室なの?~です。
サクラバレエには“大人から始める本気のバレエ教室”というサブタイトルがあります。
入会は18歳以上からになっていますが、実は以前は年齢制限はありませんでした。
それがなぜ年齢制限が出来たのか。
なぜ大人にしか教えないのか。
先に答えを言っておきます。
それは、自分の意思で「バレエを習いたい!」と思った人にバレエを教える教室でありたいからです。
子供は自分の意思というよりは、親の意思や希望でバレエを習うことが多いので。
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もちろん、私が大人になってからバレエをはじめて現在に至っている、というのもあります。
やる気がある大人に対してきちんと向き合うバレエ教室がこれまでなかったから、自分がはじめたというのもあります。
バレエは子供の時から教えた方が、教師にとっても生徒にとっても楽です。
子供は身体も心も素直でクセがなく、体も美しく、筋肉がつきやすく、落ちにくく、記憶力も良い。ケガもしにくければ、バレエ向きの身体に骨格ごと変えられます。若いということは、それだけでもうバレエに向いています。
私も以前、所属していたスタジオでアシスタントや助教師をさせて頂いていた時は、4歳から大人まで、つまりベビーちゃんクラスから、小学生クラスや中学生クラス、そして大人クラスまでを担当していました。
そこで気がついたこと。
「子供達は、みんながみんなバレエが好きで、やる気があるというわけではないんだな。」
むしろ、バレエを習わせたいのは親の方で、親を喜ばせたくて子供達は頑張っています。
実に90%以上の子供達がそうであると感じていましたし、実際に他の先生方もまったく同じことを言われていました。
バレエはもともと職業訓練です。
アマチュアのバレリーナはいません。全員プロです。
アマチュアの歌舞伎俳優がいないのと同じです。
バレエのレッスンとは、プロフェッショナル養成プログラムです。
(エレーナ先生のレッスンを受けた人達は気がついたと思います。)
楽しいことばかりのはずがありません。
だから、可愛いチュチュやトゥシューズに憧れて、または親の意向でバレエを習いはじめた子供達は、ほとんど全員がどこかのタイミングで
「バレエやめたい」
「先生が怖い」
「レッスン行きたくない」となります。
でも、親は「一度はじめたことを、簡単に投げ出すのは良くない」と考えて、すぐにはやめさせないこともよくあります。
そのため、やる気がなくてイヤイヤレッスンを受ける子供がとても多かった。それを“怖い先生オーラ”を出しながら有無を言わさずレッスンするのです。いつか、やる気になった時のために。
でも、そんな人はほんの一握りです。
コンクール入賞、海外留学しても、就職出来るバレエ団はなく、帰国。
バレエと関係ない仕事につく人も多いのが現実です。
それなのに、スパルタ職業訓練バレエレッスンをイヤイヤ10年近く受け続ける。
“プリマになりたくてもなれなかった先生”や、”バレエを習いたかったのに習えなかった親”の果たせなかった夢をかなえるために。
そう、私は、“イヤイヤ”バレエを習いに来ている子供にバレエを教えるのが、本当に嫌だったのです。辛かった。
バレエ教室というのは基本的にどこも厳しいです。スパルタです。厳しくないバレエの先生に私は会ったことがありません。
“舞台は厳しいもの”それはそうなんですが、プロを目指す訳でもない子供達は厳しいレッスンにやがて自信をなくし、自分がどこを目指せば良いのかわからなくなり、教師や親の言葉でひたすら辛くなります。
やる気があってもつらいのに、やる気がない子、やる気をなくした子は本当につらいだろうな、と思います。
今、うちに来てくれている、小さい頃にバレエを習っていた人達も、みんな口を揃えて、「とにかく先生が怖かった。」「今は先生が怖くなくて幸せです。」と言います。
私にも厳しさはあります。何度言ってもルールやマナーが守れない時は、ハッキリとNOを、言います。スパルタではないけれど、その人にとって良くないと思えば、大人でも叱ります。ただ、普通のバレエの先生達のように、とにかく怖い、ひたすら厳しい、近寄れない、というのとは違います。なんでも説明してもらえて、自分の意見を聞いてもらえて、先生の考えや気持ちを教えてもらえるというのが大きな違いかなと思います。
(子供の頃にバレエを習っていて一度やめたけど、大人になってから自分の意思でもう一度バレエを習いたい!と門をたたいて来た人は、常に何人かいます。この話は長くなりますので、また機会があればお話します。)
もちろん、多くの親は良かれと思って、この子の将来のためと思ってバレエを習わせてみることが多いのだと思います。その子に何があうのかは、習わせてみないとわかりませんから、子供にバレエを習わせること自体は良いと思います。
バレエで得られるものは多いので、何かの役に立つように、とバレエを選ばれる気持ちはよくわかります。
でも、本人がこれ以上やりたくない、と言ったら、やめるメリットデメリット、続けるメリットデメリットを教えてあげて、本人の意思を尊重してあげて欲しいのです。
いずれにしろ、大人の方が子供よりも、自分の意思でバレエをはじめる確率が圧倒的に多い。
だから、私は大人にバレエを教える教室をつくりました。
だって、私はやりたくないことはやりたくないのです。(おそらく、多くの人がそうだと思いますが)
やりたくないことを、やらされている人を見るのもイヤなのです。
バレエをやりたくない人にバレエを教えるのも、もうやりたくないのです。
バレエを習ってみたいと思っている人、やる気のある人にエネルギーを使いたい。
昔、当時まだ会社員として仕事をしながら、バレエ教室でアシスタントをしていた頃ですが、職場の同僚の女性が小学生の娘さんを私とは違うバレエ教室に通わせていて、その子は「バレエをやめたい」とずっと言っているのだけれど、小学校を卒業するまでは頑張って続けなさい、と言って続けさせていました。
そして、私は「娘が最近トゥシューズを履くようになったけれど、うまく立てなくてふてくされているので、ちょっと自宅まで見に来てやって欲しい」と頼まれました。
気が進まないながらも、お役に立てればとその人の家に行ってみると、見るからにやる気のない娘さんが、奥からイヤイヤ出てきました。
トゥシューズを履いているところを見るまでもなく、私はその子を一目見て言いました。
「腹筋と背筋が弱いね。トゥシューズで綺麗に立ちたかったら、お家で毎日腹筋した方が良いよ。」
それから、脚を見て、立ち方やトゥシューズのコツを教え、腹筋を何回かやってみせて、「これが10回くらい出来るようになれば、トゥシューズでずいぶん楽に立てるようになるよ。」と言いました。
そして、その子の良いところ、バレエに向いているところを伝えました。
その子はその場でやりもせず、聞いているのか、聞いていないのかよくわからない表情をしていました。
お母さんだけがとても熱心に頷いていたのが印象的でした。
次の日、お母さんから報告があり、「教えてもらった腹筋を夜に娘と2人でやってみたら、2人とも1回も出来なくて、「あのお姉さんはどうしてこれを、あんなに簡単そうに何回も出来たの?!」と、とても驚いていたそうです。
当時、私は腹筋背筋を含めた筋トレは毎日30分くらいはしていましたし、そして、それは大人子供関係なくトゥシューズで綺麗に踊るためには当たり前のことだと思っていましたから。
だから(うーん、これを1回も出来ないのか。それじゃあ、この子はバレエシューズでもあまり上手に踊れないはず。残念だけど、これはもうすぐバレエをやめるだろうな)と思いました。そして実際にその通りになりました。
やる気がない人に、バレエを教えるのは本当にイヤだと、心の底から思いました。あの日、誰も幸せではありませんでした。
実はサクラバレエにも昔は小学生や中学生がいたこともあったのです。
ここでも私は、“やりたくないバレエのレッスンをさせられている子供達”に出会います。
親の都合で連れて来られて、イヤイヤレッスンを受けている子供にバレエを教えるのは、本当に本当にイヤでした。
その点、多くの大人は自分の意思でバレエを習い始めます。
ただ、実は大人でも、成人していても、たとえ結婚していても、まだ親のためや誰かのためにバレエを習う人もいることに気がつきました。
そういう人は、親はもちろん、教師である私に対してもなかなか「NO!」が言えない。
自分が本当にバレエが好きでレッスンに来ている人と、お母さんを喜ばせるためにバレエを習っている人とでは、表情が、意識が違います。他人のためにバレエを習っている人は、やがて息切れしてやめていきます。
また、大人でも(痩せたいから)(女子力をあげたいから)という理由でバレエをはじめた場合、やりたいことは、ダイエットや立ち居振舞いの習得であって、バレエでない場合も何年かしたら、やめていきますね。
逆に、バレエにすっかりはまって、毎日のようにレッスンに通う人もなかにはいますが。
そう考えると、18歳未満でも、本人が本当に心の底からバレエを習いたい!と思っていて、自分で自分の面倒が見られるのなら、もしかしたら入会を許可するかもしれません。ただ、やっぱり私は大人に教えるのが好きですが。
いずれにしろ、サクラバレエの『大人からはじめる本気のバレエ教室』の“本気”は、実は“やる気”の方がしっくりくるような気が、最近しています。
人間というのはシンプルで、それでいて複雑で面白いです。