安眠妨害水族館 -2ページ目

安眠妨害水族館

オバンギャと初心者に優しいヴィジュアル系雑食レビューブログ

Jam/sugar

 

1. Jam

 

littleHEARTS.限定でリリースされた、sugarの1stシングル。

 

キズのVo.来夢さんが立ち上げたレーベル"DAMAGE"からのデビューとなるsugar。

デジタルシングルとなりますが、現時点ではMVをYouTubeとして公開している以外での配信は行っておらず、"キャンディ付きダウンロードカード"形式での販売となります。

ダウンロード期限、およびキャンディの賞味期限は2025年8月とリリースから約1年。

長いととるか、短いととるかは迷うところですが、それ以降は販売されないのかな。

 

収録された「Jam」は、サビからスタートする疾走チューン。

サビの前半と後半でメロディを使い分け、コード進行が類似しても印象を変えることに成功しています。

興味深いのは、そのどちらにも記憶に残るフレーズがあり、突然にアクセル全開になるところ。

これが大きなインパクトを放っており、最初のワンフレーズで引き込むべく人は引き込んだと言っても過言ではないはず。

 

また、終盤に進むにつれて強化されていくコーラスワークも聴きどころ。

導入時にすべてを出しつくかと思いきや、どことなくスケールの大きさを感じさせる終盤も十分に衝撃的。

3分43秒という長いとは言えない尺になんでもかんでも詰め込み切ったことで、目まぐるしさ、展開の面白さもアピールできたのではないでしょうか。

 

なお、2005年~2009年に活動したSugarとバンド名が被っていることでも、その是非が話題になった彼ら。

当時を経由していれば避けるであろうバンド名ですが、解散から15年経っているインディーズバンドということを踏まえれば、現役世代が知らなくても無理はない。

リアルタイム世代としては、ヴィジュアル系という文化における歴史の深まりを感じずにはいられません。

 

 

残酷歌劇/吐き溜め

 

1. グラン・ギニョール

2. 桜花

3. 失敗作

4. こっくりさん

5. 15

 

デジタルリリースされた吐き溜めの1stミニアルバム。

 

江戸川乱歩や横溝正史の探偵小説に出てきそうな猟奇趣味の強い衝撃的なヴィジュアルで注目を集める彼ら。

初のアルバム作品は、5曲入りのミニアルバムサイズとなりました。

すべて、Vo.厭さんが作詞、Gt.お菊さんが作曲を担当。

あえて曲数を絞って、やりたい音楽を凝縮した作品と言えそうです。

 

ずっしりと重たいサウンドと、昭和歌謡的な哀愁メロディを掛け合わせた音楽性。

環境要因なのか、意図的な狙いなのかは置いておくとして、どこかこもった音質もモノクロテレビで怪奇映画を見ているような演出効果になっています。

和訳すれば"残酷劇"となり、事実上の表題曲と言える「グラン・ギニョール」は、哀愁特化型の歌メロが疾走していくキラーチューン。

途中から不気味なリフが増えるなど、メロディは同じでもリズムパートがガラッと差し替えられて、別のニュアンスが出てくるのがポイントでしょう。

 

続く「桜花」のテーマは戦争による離別かな。

桜の持つ、華やかさと仄暗さ、安心感と儚さの両極性が、美しいフレーズの中にあえて不協和音を織り交ぜるアレンジにて表現されていました。

西洋志向をポップスに取り込んだ結果、アングラジャズになってしまう「失敗作」も面白い。

西洋にかぶれた結果、日本独自の音楽文化が根付いていく背景をトレースしているようで、最終的には歌謡曲どっぷりな展開になっていくのも、ある意味でリアリティ。

アートワークから想像できる歌詞や音楽性を忠実に再現しているので、アクの強さはありますが、それがネックになることもありません。

 

終盤の「こっくりさん」は、メロディの歌謡曲要素は抑えて、攻撃性を高めた楽曲。

ダークなリフやリズムパターンなどでライブのノリが理解できてしまうベタさもあるのですが、細かいところにレトロなフレーズを差し込む緻密なアレンジにはこだわりを感じます。

ラストは「15」。

セオリーとして、切なく疾走する青春ノスタルジック系の楽曲がくるかと思いきや、もっともアングラ・ホラーのテイストが強い作風となってるから天邪鬼ですよ。。

テンポチェンジによる場面転換を駆使しながら、見世物小屋を連想させるギミックや、猟奇的な歌詞設定を本格化。

多少、難解さは増しますが、いよいよ吐き溜めが本気を出してきたぞ、と。

 

断片的な展開では音楽性がどちらに振れていくか不安に感じていた部分もありましたが、アルバム作品でこうもツボを突いてくる楽曲が多いとなると、いい加減認めなくてはいけません。

担い手不在になりつつあった攻撃性を帯びた"哀愁バンド"界隈、このアプローチを待っていたファンは相応数いるはず。

ニッチな旗手となり、このまま規模を広げていって欲しいです。

 

 

 

<過去の吐き溜めに関するレビュー>

さよならの終着駅

反吐 生き血 虫唾/gibkiy gibkiy gibkiy

 

1. 縫包

2. 羽化

 

ライブ会場と通販限定でリリースされたgibkiy gibkiy gibkiyの2曲入りシングル。

 

EP「半死半生」のリリースから、僅か10日。

しかも、三部作だと信じて疑わなかった"反吐 生き血 虫唾"シリーズの第四弾ということで、驚かざるを得ませんね。

正確には、タイトルの一部が打ち消された形で、「反吐 生き血 虫唾」「反吐 生き血 虫唾」「反吐 生き血 虫唾」と続いてきたシリーズ。

本作は、そのすべてが打消線で隠された「反吐 生き血 虫唾」となっていて、明確なタイトルの読み方が定められていない作品となります。

 

「縫包」は、マニアックに展開されるドロドロとしたナンバー。

名古屋系にアングラで難解な要素を強く求めるリスナーには刺さりそうな、gibkiy gibkiy gibkiyらしい楽曲と言えそうです。

テンポチェンジに変拍子、一筋縄ではいかないリズムの中、輪唱のように少しズラしてリフレインさせるようなコーラスワークや、ピー音を入れて背徳感を高める演出は、まさにVo.kazumaさんの真骨頂。

呻き声をあげるだけで格好良い世界観を作り上げることができるのは、世界広しと言えど、彼らだけでしょう。

 

アングラ性はそのままに、アップテンポで激しさを追求するのは「羽化」。

不規則なリズムでまくし立てると、吐き捨てるようなヴォーカリゼーションで加速度を上げる。

変拍子が、時間を抉って性急さを高めているイメージで、実際のテンポよりも、生で聴くことでスリリングさが際立ちそうですね。

一方で、ゆったりした美しいメロディも内包していて、「羽化」というタイトルが意味深。

なるほど、そうきたか。

 

ジャケットに描かれているのは、真っ黒な空。

これが完結編となるのか、まだまだ伏線なのかは現時点で不透明ですが、本作が存在するなら他に何が存在してもおかしくない。

深い深いダークな世界へ誘ってくれる1枚です。

 

 

<過去のgibkiy gibkiy gibkiyに関するレビュー>

虫唾

生き血

反吐

連続性の細工

In incontinence

不条理種劇