NO VISUAL,NO LIFE〜CARPE DIEM〜/V.A.
本日発売となった「NO VISUAL,NO LIFE〜CARPE DIEM〜」
1. なりきり☆ハッピー/下手達
ex-白黒キネマのメンバーを中心に活動しているセッションバンド、下手達(シモテーズ)。
収録された「なりきり☆ハッピー」は、Ba.坂本隆史さんが在籍していた遠州特殊音楽部隊ミゼリア時代のセルフカヴァーとなります。
オリジナルがリリースされた20年前当時の空気感をそのまま持ってきているリアルタイム性が秀逸。
口語調の歌詞やメンバー紹介パートが入る曲構成など表層的な要素はもとより、脈略なく寸劇や台詞が入るタイミングや量的バランスなど、狙ったとて再現しにくい部分までお洒落系を掘り下げていました。
サポートVo.MASUMIさんの少年性のある歌声も、オサレポップにベストマッチしていて、これは景気づけにはもってこいですね。
2. ECEG./Bang-Doll(Eramthgin Retfa Llod-Gnab)
25周年を記念するアルバムの制作中に解散となってしまったBang-Doll。
事実上のラスト音源として、新曲「ECEG.」が収録されました。
メンバーが流動的だった彼らですが、Vo.RSKさん、Ba.To-Ruさんに、サポートGt.You.さんを迎えて、初期編成に近いメンバー構成でレコーディングされているのが熱い。
楽曲としては、わちゃわちゃしたパーティーロックの要素もあれば、硬派でメタリックなテクニシャンの顔も見せて、これまでの音楽性の変遷を1曲に凝縮したような集大成っぷりです。
ヴィジュアル系が原点であるBang-Dollにとって、壮大な伏線を回収したかのような1曲。
3. 祝祭/蟲籠
蟲籠は、奇才・阪本知さんが、Vo.灯さんと結成したユニット。
阪本さんと言えば、心がざわざわする不穏なサウンドというイメージがあったのですが、むしろそれは先入観だったのかもしれません。
ダンサブルなデジタルサウンドに、メロディアスな旋律。
確かに難解さはあるのだけれど、それ以上のキャッチーさを感じられて、ギャップにのめり込むにはうってつけ。
一方で、深く潜り込みたくなる世界観は、解像度が高まったことでより濃厚になり、多くのリスナーにとって中毒性の沼に足を突っ込むきっかけになりそうです。
4. Sylmelia/Artless
ex-StellaCrowのメンバーを中心に結成されたArtless。
「Sylmelia」は、そのStellaCrow時代の代表曲だったのだとか。
"ありのままの"という意味を持つArtlessの名の通り、自然に存在する水や風、風景そのものについて表現しているような素朴さが感じられるナンバー。
着飾ってナンボのヴィジュアル系に、こんなにも無垢な音楽があるものかと衝撃を受けました。
広大な大自然が手作りの芸術作品よりも人の心を揺さぶるように、純粋さを求めるアプローチが、結果的に、お洒落でアート性の高い音楽に昇華されているのは何とも興味深いですね。
5. シュウマツドケイ/咲花-サカナ。-
私、魚がとれたの音楽プロジェクトでございますよ。
ありがたいことに、3回目の参加となります。
前2作とは雰囲気を変えたいと思っての原点回帰。
昭和歌謡ベースのレトロナンバーに仕上げてみました。
セルフライナーノートは、noteに書いているので、そちらも併せてお読みください。
6. 遺書の家/ハクムク
常連組の中村椋さんが、曖ノ音やあめふらしで活動中の叭紅さんと結成。
ふたりのヴィジュアル系シンガーソングライターによるユニットが、遂にそのポテンシャルを爆発させました。
共作名義になっているので、どちらが主導権を握って作詞・作曲をしていたのかは想像するしかないものの、泥臭さのあるヘヴィネスや、歌謡曲要素を纏いながら甘美に流れるメロディなど、バランス良く双方の魅力が詰まっているなと。
そして、サビでの突き抜けた高揚感。
ここまで爽快に振り切るアプローチは、どちらも攻めあぐねていた領域ではないかと思われますが、そこに踏み込むに留まらず、そのまま名曲として完成させてしまう勢いこそが、ハクムクによる化学反応なのでしょう。
7. 綴/MSDV
My Sweet Dreams 【Visions】、略してMSVD。
プロジェクト名だけ聞くと、明るく楽しい雰囲気すら感じさせるのですが、その実、ダークサウンド特化型。
空間系のエレクトロサウンドを主体として、闇の中を浮遊するような、不気味であり、落ち着くようでもある不思議な世界観を構築していきます。
大きな展開はなく、淡々と進行していくスタイルは、ゴシック音楽の様式美と重なる部分。
エレクトロ界の暗黒系とも言えそうな"Dark electronic"、その大きなポテンシャルを感じさせる1曲でした。
8. eMEraLD dUst/夏姫
3回連続での参加となる常連組は、また少し雰囲気を変えて、ライブ感のあるバンドサウンドと清涼感のあるメロディを武器にした楽曲を展開しています。
「eMEraLD dUst」というタイトルの大文字・小文字の表記には理由があるのだろうな、と思っていたら、"ME"と"U"の間には、"L"と"D"が立ち塞がるという意味なのですね。
歌詞を読みながら聴くことで、"L"と"D"が何を意味するかも理解できるのですが、爽快感のあるセツナポップが、どう表情を変えていくのかを考察してみるのも楽しみのひとつ。
ご自身で感じ取って、解釈を加えてみてください。
ちなみに、"U"だけが緑で表記されていることから、赤、青と続いているカラーシリーズ、緑担当ということでよろしいでしょうか。
9. 嗚呼、愛しき馬鹿野郎!/洒落
侍newwaveの本間さんと、gaizaoの江戸川長一郎さんによるスペシャルユニット。
双方、白塗り、ピコピコ、ソロアーティストという共通点が多かっただけに、ユニット結成のニュースは驚きもあれば、納得感もあったといったところなのですが、実際に楽曲を聴いてみると、そのどちらとも違う要素を見出せるから面白いですね。
長一郎さんが作詞・作曲を担当したデジタルチューンは、コミカルなフレーズでスタートしたかと思いきや、シリアスに展開したり、ポップに弾けたりと、とにかく情報量が多い。
それに対して、本間さんが歌に専念することで表現に幅が出来ていたり、だからこそ、歌にも長一郎さんが噛み込むときに高揚感が生まれたりと、ふたりのコンビネーションでモノにしている感があり。
ここまで良い方向に相乗効果が発生するとは思っていなかっただけに、嬉しい誤算ですよ。
10. Brand New Heart/ANOTHER CHRONICLE
ソロやユニットが多いオムニバスの特性もあってか、正当なバンドサウンドが新鮮に映るもので、その中でも特にど真ん中なのが彼ら。
シンプルにギター、ベース、ドラムのアンサンブルで紡ぎ出すグルーヴに、Vo.順一さんの歯切れの良い歌声が彩りを添えています。
Aメロ、Bメロ、サビとで求められるヴォーカルスタイルが異なるものの、細かいギミックやコーラスワークも含めて、勢いを消さずに器用にこなしているなど、無駄がないからこそスキルの高さが伺えますね。
もっとも、既に複数のバンドプロジェクトを並行して稼働している順一さんですから、きっと驚くことではないのでしょう。
サビの頭、フックの部分でのインパクトが大きいのもポイントで、なんだかんだ、バンドサウンドって良いな、というのを思い出させてくれる立ち位置にもなっていたのでは。
11. マリンスノーの心臓/ガートルード
ユキさんによる日本語歌物ギターロックプロジェクト、ガートルード。
繊細なギターのリフと、疾走感のあるリズム。
ノリの良さがあるので聴きやすい一方で、あえて大きな展開を作らず、中毒性を高めていく手法が巧みです。
ぼそぼそと呟くようなフレーズと、浮遊感を演出するファルセットを繰り返し、歌メロに高低のメリハリをつけることで、飽きが来るのを避けながら、繰り返されるリフによって一歩、一歩と世界観に引きずり込まれる感覚が気持ち良い。
詩的な歌詞やタイトルも、それを助長する魅力になっていました。
12. 蜂鳥冱つ/Herpet
YouTubeでの楽曲公開を中心に活動しているはぺ<Herpet>さんも常連組のひとり。
現在は活動休止状態とのことですが、しっかりオムニバス向けに楽曲を仕上げてきてくれたなと。
独力で全パートを高いクオリティで仕上げてしまうセンスも然ることながら、オリジナリティも高まってきていると感じますね。
ヘヴィネスに重点を置きながら、悲壮感のあるミディアムナンバーという点では前作の路線を踏襲しているものの、サビに至るまでの展開や歌詞のストーリー性など、よりドラマティックに進化。
一方で、サビの部分に集中して影響元であるDIR EN GREY要素を強く重ねるバランスが絶妙でした。
13. オペラグラス/岡崎
トリ前に配置されたのは、宮城のひとりKreis系、岡崎さん。
白系由来の幻想的なシンセと、シンプルなビートロックをベースにした楽曲構成で、全世代にアプローチする切なさを演出しています。
そして、何より艶やかで甘みを帯びた歌声の良さ。
何ならふざけた歌詞でも切なく聴かせてしまいそうな歌声をもってして、この刹那系疾走チューンを歌うのだから最強ですよ。
フックの部分でカタカナの単語を持ってきてインパクトを残す歌詞の作り込みも見事。
ソロアーティストとしての岡崎さんを表舞台に引っ張り上げたのは、「NO VISUAL,NO LIFE」シリーズの功績のひとつですよね。
14. 新世界/誠影
ラストを飾るのはこれしかない。
"絶望で華を咲かせる"がコンセプトとのことですが、さらりと聴いた限りでは、シンプルに美しく包容力のあるメロディで、まさにエンディングテーマにふさわしいといったところでしょう。
メッセージ性の強い歌詞に目を向けながら聴くことで絶望の要素も見えてきて、心が揺さぶれるものの、そのドキドキも音楽の魅力。
心情がそのままリズムに乗り移っているかのような構成がたまりません。
解釈の余地はあれど、優しい歌である事実は変わらず、印象的なラストシーンになりました。
咲花-サカナ。-としても、OZ OWRKS ONLINE SHOPにて好評発売中。
特典として2曲入り特殊恋文仕様8cmCDが付属するので、30曲で2,000円(+送料)はかなりの高コスパだと自画自賛しておりますよ。
<過去のNO VISUAL,NO LIFEに関するレビュー>
NO VISUAL,NO LIFE〜CARPE DIEM〜[DISC-1]