【小林アキヒトの一生:破】(配信版)/鐘ト銃声
1. さつき
2. 贖罪
3. 都内の駅員は態度悪い
4. 東京解放区
5. 留守番電話
【小林アキヒトの一生:破】(通販盤)/鐘ト銃声
1. さつき
2. 完全育成計画備忘録
3. 臨界ノスタルジー
4. りんごジュース
5. 贖罪
"性傷年日本劣等倶楽部" 鐘ト銃声の2ndミニアルバム。
"小林アキヒト"シリーズの第二弾となります。
第一弾となる【小林アキヒトの一生:序】は、配信限定でのリリースでしたが、本作は待望の円盤化。
先行してドロップした配信版とは収録曲やアートワークも差し替えるなど、こだわりも見られます。
専門店でゲリラ配布された楽曲や会場限定音源も収録されており、気になっていれば、どちらも耳にしておきたいところ。
残念ながら、即日ソールドアウトとなってしまいましたが、サブスクリプションで聴けるからいいや、とならないように導線を引いた戦略が奏功したと言え、ニーズに対しての供給量の妥当性に課題はあるものの、話題性を増す結果になったのは事実でしょう。
共通して収録されたのは、「さつき」と「贖罪」。
どちらもワンマンライブでの限定CDとして先行発表されていた楽曲で、この2曲がコンセプトな軸になるのかな。
「さつき」は、ゼロ年代のコテコテ系からお洒落系に移行する過程で流行したギミックが目白押し。
早口、ダミ声でまくし立て、シャウトでの煽りパートを噛ませて、サビはメロディアスに。
歌詞は直接的に卑猥な歌詞をぶち込み、源流的なコテオサナンバーに仕上げていました。
「贖罪」は、配信版は加速度を上げる2曲目に、通販盤ではラストに配置。
いずれにしても重要な位置ではありますが、それぞれ、求められる役割が異なるので、同じ曲でも聴き心地が変わるのが面白いですね。
不協和音をガチャガチャと重ね、混沌とした空気を生み出しつつ、サビで疾走する王道感は、「さつき」以上の鋭さを放っています。
全編的に攻撃性に特化している分、メロディアスなサビからアウトロのクリーントーンのギターに至るまでの刹那的な展開は、より印象的に響いたのでは。
「都内の駅員は態度悪い」は、とにかくタイトルのインパクトが物凄い。
何はともあれ聴いてみたい、というリアクションも多いと思われ、配信版に収録したのは正解のはず。
偏見に塗れた批判が、ある種の現代病を歌っているようでもあり、寸劇にてフォローする手法は、なんだか懐かしさも感じます。
「東京解放区」は、ダークでハードな方向に振り切った楽曲で、あえて90年代V系っぽいフレーズを挿入。
配信版をクローズする「留守番電話」は、わちゃわちゃしたアングラチューンのため、違いを生む意味で効いていました。
もっとも、この「留守番電話」も、明確にhideさんのオマージュを織り込んでいるので、サブスクリプションサービスで聴かれることを前提とした配信版は、この層を狙いに来ていたのかと。
一方、コアなファンを対象にしたであろう通販盤は、「完全育成計画備忘録」、「臨界ノスタルジー」、「りんごジュース」の3曲が差し替えにより追加。
先行シングル的に会場限定で販売された「完全育成計画備忘録」は、シリーズの世界観を、彼らの王道的なアプローチで深めるキラーチューン。
この楽曲が収録されたことで、より"小林アキヒト"のパーソナリティを深掘りできるのは通販盤だと言えるのかもしれません。
キャッチーなメロディを求めつつ、奇妙なアンサンブルで変態性を強めていく「臨界ノスタルジー」や、レトロな歌謡曲を独自の解釈で切り取った異質なポップス「りんごジュース」など、実験性にも富んでいて、構成にしても、バラエティ性にしても、ミニアルバムとしての完成度が高いのですよ。
既存曲も相応に多いとはいえ、充実の全8曲。
すべての作詞・作曲を担当するGt.百合子さんの、過去のシーンを総括しつつ、キワモノ的なセンスをぶちこむスタイルが炸裂。
今後、CDのみに収録された楽曲の救済措置があるのかは気になりますが、2022年、更なる飛躍を遂げるのは間違いないと断言しても良いであろう勢いを感じる1枚です。
<過去の鐘ト銃声に関するレビュー>