【小林アキヒトの一生:序】/鐘ト銃声
1. 「東京都無職小林アキヒト(28)」
2. 「私ノ死ニ方」
3. 「性傷年4月の憂鬱」
4. 「赤いリズム」
5. 「午前0時の匿名希望」
2020年に結成された鐘ト銃声。
本作は、先行的にYouTube等で公開していた楽曲を、配信限定のパッケージ作品としてリリースした1stミニアルバムです。
Vo.狂ヰ散流、Gt.百合子、Ba.潤-URU- 、Dr.詠真という4人編成。
白塗りに学ランという衣装にしても、"性傷年日本劣等倶楽部"というコンセプトにしても、ゼロ年代の密室系/地下室系的な世界観を踏襲したバンドと言えるでしょうか。
ただし、サウンド的には、もう少しスコープを広げている印象。
直接的にアングラな昭和歌謡をベースにするのではなく、お洒落系時代のV系シーンの再構築といった側面が強い気がします。
さて、"小林アキヒト"を主人公にしたコンセプチュアルな作品となるのが、この【小林アキヒトの一生:序】。
作詞・作曲は百合子さんが担当しており、複数の楽曲で歌詞のリンクが見られます。
特徴的なのは、下世話で性的な方向に誇張した歌詞。
世界観を無視した現代的なワードを意図的に放り込んでリアリティを与えつつ、主人公に少し理性的ではない行動をとらせることで、人間と狂人の境目なんて紙一重なのだ、というゾワゾワ感を演出しているのかと。
その意味で、「東京都無職小林アキヒト(28)」や「性傷年4月の憂鬱」、「午前0時の匿名希望」 等の楽曲は、実にイメージ通り。
レトロなフレーズを、ライブ映えするような攻撃性でコーティング。
語りや寸劇などをメロディに重ね、わちゃわちゃとギミック多めのナンバーにすることで、変態性も高めていました。
密室系/地下室系バンドのお約束だけでなく、蜉蝣やバロック/kannivalism等からの影響もありそうで、サウンド的には案外ハイブリッド的だったりするのが興味深いですね。
異質なのは、「私ノ死ニ方」。
サビだけを切り取れば、メロディアスで疾走する王道的なV系チューンに仕上がっており、このような引き出しも持っているのか、と驚かせます。
振り返ってみれば浮いていないこともないのですが、まだ音楽性が定着していない中、2曲目で送り込んだのが上手かった。
これもハイブリッドが故の自由度と割り切れば、将来的に音楽性を広げる際の布石になっているはずですもの。
ミニアルバムとしてまとめる点で、地味にいい仕事をしていたのが「赤いリズム」。
昭和の定番曲「リンゴの唄」をモチーフにしており、世界観を整える役割を担っています。
ゼロ年代を知らない現役世代からしてみれば、昭和らしさは衣装だけ、という結論にもなりかねないところ、ダイレクトに昭和を意識させるメロディを織り込んでしまうというのは、裏技的ですが効果的。
結果、世界観が繋がったという感が出ており、これこそオマージュ曲のあるべき形なのでは。
"序"ということで、まだ"小林アキヒトの一生"シリーズは続くのかも。
まだまだ粗削り感が強く、オリジナリティの構築には課題がありますが、現代シーンではニッチな路線でニーズはありそう。
アイディアが枯渇せず、マンネリ化もせずに継続できれば、頭一つ抜けることも不可能ではないでしょう。