月と、黒猫と、猫アレルギーの君/Merry Go Round
1. 月と、黒猫と、猫アレルギーの君
2. DESSERT
3. piercing
1997年にリリースされた、Merry Go Roundの1stシングル。
初回盤は、ピクチャーレーベル仕様となっています。
シングル「IMPERIAL DRUGS」との同時発表となった本作。
「IMPERIAL DRUGS」はインディーズから、本作はメジャーからのリリースとなっており、当時のシーンにおける彼らの注目度の高さが理解できるでしょう。
ゴシック、猟奇的、アンダーグラウンドなMerry Go Roundの音楽性で、バンダイからCDが出せる時代。
改めて振り返ってみると、随分と思い切ったことをやっていたな、と。
表題曲である「月と、黒猫と、猫アレルギーの君」は、ミディアムテンポで進行する淡々としたナンバーです。
相対的にはメロディアスな部類になるのでしょうが、印象的なフレーズを繰り返して、あえて展開をしないサビの中毒性は、実に彼ららしい。
美しさと、不穏さ、不気味さは紙一重ということがよくわかる、じわじわと侵食していくようなリフも聴きどころですね。
Merry Go Roundが、その音楽性を維持したまま、メジャーを意識するとこうなるのか。
音は薄めだけれど、確かに感じる名古屋系の湿度。
もっとエグく、ドロドロしたものを渇望する気持ちはあるにせよ、これはこれで興味深い実験作と言えるでしょう。
カップリングの「DESSERT」は、スピーディーなリズムと、不気味なハミングでスタートするハードチューン。
ここまでノリが良く、小気味よい楽曲は珍しい気もしますが、歌われているテーマは、カニバリズムなのかしら。
異常な食材と、異常な認知。
倒錯的にトリップしていく様子がポップなメロディで歌い上げられることで、かえって猟奇性が際立っていますよ。
歌詞についてはギリギリを攻めた感はあるも、これもまた、キャッチーさとアングラ性の融合なのかと。
3曲目となる「piercing」も、やはりメルヘンでポップなメロディが、不協和音の中でくるくると回っているイメージ。
妙に耳に残るフレーズは、官能的でダークな世界観の行き着く先と捉えるべきか。
ともすればコミカルに聴こえてしまう要素はあるのだけれど、1曲目からの流れにより、徐々に許容範囲を広げられているので、抵抗なく"格好良いもの"として耳にすることができました。
ヒステリックなギターフレーズをバックに、ぼそぼそと早口でまくしたてるスタイルも含めて、彼らが王道的なギミックへと引き上げたと捉えても良いのでは。
マニアック、アングラの中でのキャッチーを模索している作品。
メジャー感を逆手にとって、Merry Go Roundにおけるポップネスの幅を広げる実験作風に仕立ててしまう構成力はさすがです。
流通量も相応にあり、彼らの作品としては入手難易度は低めかな。
勢いを感じられた時期だからこその熱量、空気感も含めてパッケージされているので、邪道だからといって無視はしないでほしい1枚。
<過去のMerry Go Round に関するレビュー>
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放送禁止の死んだふりをする潔癖症の実験体と、箱の中の毒入りショートケーキと、逆回転でまわるエゴイストのパラノイアボックス