Chronos/摩天楼オペラ
DISC1
1. Chronos
2. Kiss
3. Silence
4. Reminiscence
5. Anemone
DISC2
1. 紅 (LIVE摩天狼2020
2. PHOENIX(LIVE摩天狼2020)
3. The WORLD(LIVE摩天狼2020)
4. Mammon Will Not Die (LIVE摩天女2020)
5. Psychic Paradise (LIVE摩天女2020)
6. SHINE ON(LIVE摩天女2020)
前作「Human Dignity」より、再びフルメンバーとなった摩天楼オペラ。
本作は、古代神話における"時の神"をタイトルにしたコンセプチュアルなミニアルバムです。
テーマになっているのは、ずばり"恋"。
全5曲で、異なる時間軸で切り取ったひとつの恋のストーリーをなぞっており、組曲的な構成になっていますね。
正直なところ、大々的にコンセプトとして据えるには安易すぎるテーマでは、とも思ったのですが、結果的にはそれが正解だったのだな、と唸らせる作品に仕上がっていました。
まず、ストーリーについては、出会い、絶頂期、すれ違い、別れ、その果てとして現在地を、それぞれの楽曲で示していきます。
曲順通りに物語も展開されていくので、時系列に関する複雑な推察や解釈は不要でしょうか。
そのうえで、現実性と非現実性のバランスが、とても上手いなと。
本作の肝は、まさにそこにあると言えるのですよ。
例えば、ストーリーテリング調のコンセプト作を描く場合、登場人物の細かい設定だったり、情景描写を歌詞に含めることで、臨場感を出したり感情移入しやすくしたりする手法が一般的。
しかしながら、本作については、登場人物の属性には、ほとんど触れられていないのです。
出会いのきっかけにしても、別れのきっかけにしても、何ら具体的なエピソードが示されないまま、その瞬間での感情描写や客観的な結果だけが提示されていく。
これが何に効いているかと言えば、必然的にリスナーは、主人公に自分を投影したのではないかと。
背景が空白だから、誰でも持っているような恋のエピソードを重ねることができて、共感できる=現実性の高い歌詞になるように仕向けているのでしょう。
一方で、彼らの壮大で幻想的なサウンドワークは、そんな普遍的な恋の物語を、誰もが涙する感傷的なドラマに変えてしまう。
彼らが武器としているHR/HMのスタンスを現メンバーでブラッシュアップしており、メタルコアやジェントといったラウドロックのフレーズも柔軟に取り入れた結果、モダンなアレンジが与える現実的なイメージと、メタルの持つ壮大なスケール感が、最高のバランスで融合。
加えて、キャッチー性も求める歌謡メロディが、そこに感情を預けられるリスナーの幅を広げており、隙がありません。
過去である「Chronos」と、現在である「Anemone」で、意図的に同じ歌詞のフレーズを当てはめることで、運命論、宿命論にまで想像が及ぶように演出しているのもポイントで、まるで小説を読んだ後のような読後感を手に入れることができ、しかも、その主人公が自分なのだから、ある種のVR体験をした=非現実性を堪能した感覚に。
これなら、アドレナリンもドバドバ出るはずです。
ストーリー的にはクライマックスにあたるロックバラード「Reminiscence」、爽やかさと切なさをポップなメロディに詰め込んで、エンドロールを飾る「Anemone」の終盤2曲が、とにかく強力。
ヘヴィーでスピーディーで、という彼ららしさを覆して、リードトラック「Chronos」同様かそれ以上のインパクトを残し、音楽面でもファンを納得させるものに。
サウンドだけを楽しむにしても、完成度の高い作品であることは間違いありません。
強いて一石を投じるなら、別れまでの展開がスムースすぎるので、「Anemone」の心境になるほどの激しい恋だった印象を与えきれているか。
個人的には「Chronos」から「Kiss」までの間に、お互いの気持ちを確認して燃え上がるようなフェーズの楽曲があっても良かった気がするのだけれど、そこはリスナーが勝手に自己体験により補完してくれると踏んで、普遍性を担保できないきっかけのシーンを省いたのであれば、あまりにも策士すぎるだろ、と感心せざるを得ません。
なお、初回限定盤には、2月に開催された男女限定ライブの音源が、3曲ずつ収録されたボーナスディスクが付属。
男限定ライブにおける「紅」のカヴァーがセレクトされているのがたまりません。
コンセプト盤とライブ盤が同時に入手できるというのは、ファンならずともコストパフォーマンスの良さを実感できるのでは。
<過去の摩天楼オペラに関するレビュー>