レティクル座妄想 / 筋肉少女帯 | 安眠妨害水族館

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レティクル座妄想/筋肉少女帯

レティクル座妄想 レティクル座妄想
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1. レティクル座行超特急

2. 蜘蛛の糸

3. ハッピーアイスクリーム

4. 香菜、頭をよくしてあげよう

5. さらば桃子

6. ノゾミ・カナエ・タマエ

7. 愛のためいき

8. ワダチ

9. ノゾミのなくならない世界

10. パリ・恋の都

11. レティクル座の花園

12. 飼い犬が手を噛むので

 

1994年にリリースされた、筋肉少女帯の9th。

メジャーデビュー30周年を記念して、先日、ボーナストラックを追加したリマスター盤も発表されています。

 

メンバーチェンジや解散・再結成を経験しながらも、四半世紀を超えて活動中の彼ら。

作品数も多ければ、音楽性や世界観も変化していくので、10人いれば10通りの最高傑作が存在していても不思議ではありません。

その前提で、個人的な最高傑作を選ぶとするならば、この「レティクル座妄想」。

この作品を聴く前と、聴いた後で、筋少のイメージがガラっと変わったといいますか、のめり込むきっかけになった1枚なのですよ。

 

"妄想"がテーマとなるコンセプト作品。

"レティクル座"というのは、かつてUFOに誘拐されたヒル夫妻が証言したという宇宙人の出身地。

そこからイメージを膨らませて、死後の世界としてレティクル座に辿り着くことを妄想する主人公たちが描かれています。

ストーリーとして直接繋がっていなくても、同一の固有名詞やキーワードを用いることで関連性が示唆されるなど、リスナーが多くの解釈をすることが可能となっており、その点も魅力の一部になっていると言えるでしょう。

 

この作品の肝は、ネガティブな"死"を、憧れの対象として捉えていること。

曲単位ではなく、アルバム単位で、それを受け入れてしまったこと。

狂気だろうが、妄想だろうが、幸せなんて主観であり、画一的な回答なんてありはしないのだ。

この突き放した思想は、逆説的に、孤独を抱える多くのリスナー層に生きる勇気を与えたのではないかと。

「ハッピーアイスクリーム」のように、当時の流行やカルチャーを知らなければ読み取りにくい部分があるのも事実だが、現代でいうメンヘラ系の先駆けとして聴いてみるのも面白いと思います。

 

スキルよりも演出でカリスマ性を得たVo.大槻ケンヂさんのヘタウマ度合いと、テクニカルな演奏で圧倒する演奏陣とのバランスも、この辺の時期がもっとも絶妙に噛み合っている気がしますね。

オーケンさんが特別上手くないからこそ、スクールカースト底辺側からの叫びという色を持つ作品の雰囲気と合致した部分もあったのでは。

ボーカリストとしての地力がついてきた再結成後では、狙ったようなあざとさになってしまい、この空気感は出せなかったはず。

技術のアンバランスが、ネックどころか強みとして効いていました。

 

なお、収録されたシングルは、「蜘蛛の糸」と「香菜、頭をよくしてあげよう」。

本作のコンセプトから少し外れる気はするものの、この流れで聴くと、それまでは意識しなかった"死"という着地点が選択肢に入ってくるから興味深い。

時代的なものによる音質の悪さは目を瞑らざるを得ませんが、発売から24年経って、ようやくリマスターされたのは朗報。

そちらも聴いてみたいものです。

 

<過去の筋肉少女帯に関するレビュー>

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