堺市の交通まちづくりを考える会
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②住之江抽水所の水没と津波(堺市)

↑MBSニュース

 

 堺市も、沿岸部・低地部については「南海トラフ地震後に雨水処理能力が大きく落ちる可能性がある」と考えられます。ただし大阪市と比べると、危険の具合が少し違います。大阪市は市域全体がポンプ排水に強く依存する「超低地・巨大下水道都市」ですが、堺市は堺区・西区の臨海低地、内川・土居川・石津川・古川周辺などにリスクが集中する構造といえます。堺市民は、お風呂とトイレは控えることがないのか?

 

1. 大阪市との違い

 大阪市は、住之江抽水所の事故が示したように、巨大な地下幹線に集めた雨水を抽水所でくみ上げて排水する仕組みに強く依存しています。大阪市の下水道は主に合流式で、令和6年3月末時点で管きょ4,975km、抽水所58か所、下水処理場12か所を持つ大規模システムです。一定量を超える雨水は抽水所や処理場から直接放流されます。 

 今回の住之江抽水所では、6月26日の大雨で雨水ポンプ6基すべてが水没し、運転不能になりました。大阪市の公式発表でも、住之江抽水所は「なにわ大放水路」に流入する雨水を排水する施設で、対象地域は生野区、阿倍野区、平野区、東住吉区、住吉区、住之江区とされています。  報道では、復旧にはポンプやエンジン交換が必要で数年を要する見通し、代替ポンプは能力が低いとされています。 

 一方、堺市は規模が小さいです。堺市下水道ビジョンでは、三宝・石津・泉北の3下水処理場、6か所のポンプ場、5か所の雨水調整池を有するとされています。また、三宝・石津処理区の一部1,465haでは合流式下水道を採用しています。
 つまり、堺市もポンプ排水に依存していますが、大阪市のように58抽水所で市域全体を支える構造ではなく、沿岸部・旧市街地・低地部の重点地区をポンプ場と雨水管で守る構造です。

 

2. 堺市の雨水処理の弱点

 堺市は、雨水対策の目標として時間雨量約50mmに対応する下水道施設整備を掲げています。雨水管、雨水ポンプ場、雨水調整池を整備し、計画を上回る局地的集中豪雨には貯留浸透事業で流入を抑える方針です。 

 ここで重要なのは、堺市自身が「雨水管に流れる雨水は、自然流下だけでは海や川に放流できない」と説明していることです。そのため、雨水をポンプで地上までくみ上げ、海や川へ放流する雨水ポンプ場が必要になります。
これは、南海トラフ地震時には大きな弱点になります。なぜなら、津波・高潮・地震による停電・液状化・放流先の水位上昇が重なると、ポンプ場が動いていても排水しにくくなり、ポンプ場が止まれば低地の雨水は逃げ場を失うからです。

 

3. 古川下水ポンプ場は強化されたが、逆に「ここが要」

↑堺区神南辺町の古川下水ポンプ場完成写真

 堺市で特に注目すべきなのは、堺区神南辺町の古川下水ポンプ場です。令和7年4月に供用開始され、令和7年9月に関連工事が完了した大規模施設で、地盤の低い地域から雨水をくみ上げて海に排出する機能を持ちます。 

 古川下水ポンプ場は、総事業費約390億円、地下4階・地上3階、深さ30.18m、雨水ポンプ揚水能力は約2,100立方メートル/分です。  これは大阪市の住之江抽水所と同じく、地下深くに雨水を集め、ポンプでくみ上げる巨大施設です。

 堺市は、この新しい古川下水ポンプ場について、老朽化した竪川下水ポンプ場と旧古川下水ポンプ場を統合し、既存施設の課題だった耐震性や津波・高潮に対する耐水性を確保したと説明しています。さらに、南海トラフ地震などの大きな地震でも壊れにくく、津波や高潮による浸水にも耐えられるよう設計したとしています。 

 堺市の古川下水ポンプ場は大阪市の住之江抽水所事故と比べると新しく、明確に「津波・高潮への耐水性」を掲げている点で有利です。

 しかし同時に、別の問題もあります。新しい巨大ポンプ場に機能を集約したということは、そこが止まった場合の影響も大きいということです。

 堺市は、古川下水ポンプ場の完成で神南辺町、戎島町、出島・西湊町周辺など約273haの浸水危険を減らすと説明しています。  つまり、この地域はもともとポンプ場がなければ浸水リスクが高い低地であり、南海トラフ後に古川下水ポンプ場が停止・能力低下すれば、雨水処理機能は一気に弱くなる可能性があります。

 

4. 津波ハザードと重ねると、堺区・西区の低地が問題になる

 堺市の津波ハザードマップでは、津波警報・大津波警報が発表された場合はすぐ避難すること、地震発生後に津波が到達するまで約100分間あることが示されています。
 津波ハザードマップを見ると、堺区の臨海部、内川・土居川周辺、石津川周辺、西区浜寺・石津方面などに浸水想定区域が広がっています。浸水深は場所により0.01〜0.3m、0.3〜1m、1〜2m、2〜3m、3m以上の区分が示されています。 

 この範囲は、古川、出島、湊石津、浜寺など、堺市の雨水排水施設が守ろうとしている区域とかなり重なります。堺市の旧ビジョン上でも、古川、竪川、出島、浜寺、湊石津、戎橋といったポンプ場が記載されており、雨水ポンプ能力として浜寺2,050m³/分、湊石津777m³/分、竪川770m³/分、古川300m³/分などが示されています。 

 したがって、堺市では、津波浸水想定区域と雨水ポンプ排水区域が沿岸低地で重なることが問題です。津波でポンプ場そのもの、電気設備、制御盤、燃料設備、吐口、放流渠、管きょ、マンホールが被害を受ければ、その後に降る雨を処理できなくなる可能性があります。

 

5. 南海トラフ後に雨水処理できなくなるシナリオ

 南海トラフ地震が発生する。沿岸部に津波が来る。堺区・西区の低地が浸水する。防潮施設や水門、吐口周辺の条件によっては、海や川へ雨水を放流しにくくなる。地震動や液状化で管きょの勾配が狂ったり、マンホールが浮上・破損したり、土砂やがれきが流入したりする。停電が長引けば、非常用発電機や燃料が頼りになる。さらに、ポンプ場の地下部や電気設備が浸水すれば、住之江抽水所のようにポンプが一斉に停止する危険がある。

 大阪市の地震津波対策基本プランでも、東日本大震災では津波により多数の下水処理場やポンプ場が冠水し、浸水対策を担う下水道事業にとって想定外の甚大な被害だったと整理されています。 

 また、 によると、抽水所・下水処理場について、防潮扉の高さ対策、燃料設備の湛水対策、ポンプ井内水位計の湛水対策、大口径ダクトなど壁貫通部の浸水対策、水中ポンプ化、湛水対応型モータ、防水端子、監視制御設備・自家発電設備の高所配置が必要とされています。 

 これは大阪市だけの話ではなく、堺市にもそのまま当てはまります。特に古川下水ポンプ場のような地下30m級の施設では、建物外周の止水だけでなく、換気口、搬入口、ケーブル貫通部、放流渠、管きょ側からの逆流、電源・制御系の水没対策が本当に機能するかが重要です。

6. 大阪市より安全か、危険か

 単純に言えば、大阪市より市域全体のポンプ依存度は低いが、堺区・西区の臨海低地では大阪市型のリスクが十分あるという評価になります。

 大阪市は、広い低地と巨大な合流式下水道、58抽水所に支えられた非常に大きな排水システムです。どこかの基幹抽水所が止まると、広域に影響します。

 堺市は、南区・中区・東区・北区など内陸・高台側も含めれば、市全体が同じように津波とポンプ停止で沈むわけではありません。しかし、堺区の旧市街・臨海部、西区の石津・浜寺方面は別です。そこでは、自然流下だけで雨水を逃がせない低地があり、ポンプ場が機能しなければ雨水処理能力が落ちる。津波後の停電・施設浸水・管きょ破損・放流先水位上昇が重なれば、晴天時の津波被害だけでなく、その後の雨で内水氾濫が長引く可能性があります。

 

結論

 堺市は大阪市ほど市域全体が巨大抽水所網に依存しているわけではありません。しかし、堺区・西区の臨海低地では、雨水を自然に海や川へ流せず、ポンプでくみ上げて排水する構造があります。南海トラフ地震で津波浸水、停電、液状化、管きょ損傷、放流先水位上昇が重なれば、雨水ポンプ場や下水道幹線が機能低下し、地震・津波の後に降る雨を処理できなくなる可能性があります。

 特に注目すべきは古川下水ポンプ場です。新設で耐震性・津波高潮耐水性を確保したとされる点は大阪市の住之江抽水所事故と比べて安心材料です。しかし、地下30m級の巨大ポンプ場で、堺区の約273haの浸水安全度を担う施設である以上、ここが停止した場合の影響は大きいといえます。

 今回の大阪市住之江抽水所の事故を踏まえるなら、堺市でも「想定津波に耐えられる設計か」だけでなく、想定外の流入、長時間停電、制御盤・燃料設備・換気口・貫通部・吐口側からの逆流、ポンプ全停止時の代替排水能力まで検証すべきです。

 

①住之江抽水所の水没と津波(大阪市)

 横山英幸大阪市長は29日、記者団に「想定を上回る降雨だった」と述べ、復旧には4年300億円かかる見通し。修理できるまでお風呂とトイレは控えるように大阪市が市民に協力を求めた。

 福島第1原発事故の時と同じ、行政は毎度のことながら「想定外」らしい。

 

 

 

 

 

 

 

1. 今回起きたこと

 大阪市の発表では、6月26日午前6時30分ごろ、住之江抽水所の雨水ポンプ6基すべてが水没し、運転不能になりました。住之江抽水所は、大阪市南部の浸水対策を担う「なにわ大放水路」に流入する雨水を排水する施設です。影響地域として、生野区、阿倍野区、平野区、東住吉区、住吉区、住之江区が挙げられています。 

 報道では、ポンプは地下5階に設置されており、大雨で許容量を超える水が一気に流入し、排水作業が追いつかず水没したとされています。  さらに横山市長は、ポンプやエンジンなどの交換が必要で、復旧には数年程度かかる見通しを示し、代替ポンプは使うものの、故障した雨水ポンプより排水能力は低いと説明しています。 

 ここで重要なのは、事故の本質が「単にポンプが止まった」ことではなく、大阪市南部の治水機能を担う基幹施設が、水によって自ら水没し、全6基が同時に機能を失ったという点です。

 

2. 住之江抽水所は、もともと“大阪の低地”を守る要の施設

 住之江抽水所は、なにわ大放水路で集めた雨水を住吉川へ排水する大阪市最大級のポンプ場で、毎秒73立方メートルの排水能力を持つ施設と紹介されています。なにわ大放水路は地下30メートルで流入し、抽水所の最深部は地下40メートルに及ぶ大規模な地下構造物です。 

 大阪市は、上町台地など一部を除く低地が広く、約9割の市域で雨水をポンプによって河川に排水しなければならない都市構造だと説明されています。  つまり、住之江抽水所の事故は、単一施設の故障ではなく、低地都市・大阪の排水依存構造そのものの弱点が露出した事故と見た方がよいです。

 

3. 南海トラフ津波との接点

 大阪市住之江区の防災ページでは、南海トラフ巨大地震時に住之江区では震度5強から6弱、液状化の可能性があり、さらに約5メートルの津波が110分後に到達すると想定されています。 

 また、住之江区の水害ハザードマップ音声読み上げ版では、南海トラフ巨大地震による最大クラスの津波浸水について、防潮堤の沈下や防潮施設の開閉状況を考慮し、満潮時を想定しており、住之江区では最低0.5メートル未満から、最大で5〜10メートル未満の浸水が想定されています。 

 ここが今回事故との接点です。今回の事故では、降雨由来の水が地下深部のポンプ設備を水没させました。一方、南海トラフ津波では、住之江区そのものに大規模な浸水が想定されている。つまり、水の来る方向は違っても、地下に重要設備がある施設へ水が入り込めば、同じくポンプ・電気・制御設備が機能喪失する可能性があるということです。

 

4. 「津波でも起こったのではないか」と言える根拠

 根拠は大きく4つあります。

 第一に、地下深部に主要設備があることです。今回、水没したポンプは地下5階にありました。地下施設は一度浸水すると排水・乾燥・交換に時間がかかり、復旧が長期化しやすい。実際、今回もポンプ・エンジン交換が必要で数年規模の復旧見通しと報じられています。 

 第二に、南海トラフ津波では住之江区全体に浸水が想定されていることです。住之江区では約5メートルの津波到達が想定され、最大クラスでは5〜10メートル未満の浸水も想定されています。  地上部の開口部、搬入口、換気口、配管貫通部、電気室への経路が想定浸水深より低ければ、津波でも地下施設への流入は十分考えられます。

 第三に、大阪市の地震津波対策資料自体が、下水処理場・抽水所について、防潮扉の高さ対策、燃料設備の湛水対策、ポンプ井内水位計の湛水対策、大口径ダクト等の壁貫通部の浸水対策を挙げています。さらに中長期対策として、水中ポンプ化、湛水対応型モータ、防水端子、監視制御設備・自家発電設備の高所配置を明記しています。  これは行政自身が、抽水所や下水道施設にとって「浸水・湛水」が致命的リスクであると認識していることを示します。

 第四に、津波では単なる地表浸水だけでなく、河川・湾・雨水吐・マンホール系統からの水圧や逆流も問題になります。大阪市の津波対策資料は、海・湾・河川等に直結し、津波の水圧を直接受ける可能性がある雨水吐と、その上流のマンホール蓋の飛散防止対策を挙げています。  住之江抽水所は、なにわ大放水路の雨水を住吉川へ排水する施設であり、河川・大阪湾側の水位上昇や水圧の影響を受ける系統にあると考えるのが自然です。 

 

5. 論点は「津波で同じ事故が起こるか」ではなく「水没してはいけない施設が水没した」こと

 住之江抽水所は、豪雨時に地域を浸水から守るための施設であるにもかかわらず、豪雨によって自ら水没し、全ポンプが停止した。ならば、より広域で、より高い外水位と水圧を伴う南海トラフ津波時に、同施設が確実に機能を維持できるのか、改めて検証されなければならない。

 これは信憑性のある問題提起です。特に、住之江区では津波浸水が想定され、抽水所は地下40メートル級の構造物を持ち、今回すでに地下5階のポンプが水没した。これらを合わせると、津波時にも、地上開口部・換気口・搬入口・配管貫通部・電気設備・逆流経路のいずれかから浸水し、排水機能を失うリスクがあると言えます。

 

 行政資料では抽水所の耐水化、湛水対応モータ、防水端子、監視制御設備・自家発電設備の高所配置を対策として掲げている以上、少なくとも“津波時の抽水所水没リスク”は行政計画上も想定されていたリスクです。 

 

結論

 大雨による内水対策の要である住之江抽水所が、想定を超える流入で地下ポンプ6基すべてを水没させたことは、南海トラフ巨大地震時の津波浸水に対しても、同施設の耐水化・止水化・電気設備の高所化が十分かを問う重大な材料である。住之江区では約5メートルの津波到達、最大5〜10メートル未満の浸水が想定されており、地下深部に主要設備を持つ抽水所が津波時にも機能を維持できるかは、市民の避難後の排水・復旧・衛生環境に直結する。

 今回の事故は、南海トラフ津波でも同種の機能喪失が起こり得ることを示す“予行演習のような警告”として検証されるべきである。

⑤次世代モビリティ〈別所温泉の理想と過酷な現実〉

長野県「別所温泉」で直面した電動キックボードの構造的欠陥と運営の不誠実さ

 

1章:問い直される「次世代モビリティ」の正当性

 近年、電動キックボードをはじめとする「特定小型原動機付自転車(以下、特定小型原付)」を取り巻く環境には、強い逆風が吹き荒れています。

 

 手軽な移動手段として普及が進む一方で、市民の憩いの場でのマナー違反や交通違反の多さが露呈。京都の鴨川沿いでは、通行禁止区域への進入を防ぐためにシステム上で強制的に車両を停止させる措置が導入される事態にまで発展しています。さらに2026年6月2日には、東京都北区の大型交差点で軽トラックと衝突した電動キックボードの運転者が死亡する痛ましい事故が発生しました。警視庁が当初、事業者名を「捜査中」として伏せていたことも含め、その安全性や社会的な歪みについて議論が噴出しています。

 

 

 また6月2日、東京都北区王子の「王子交差点」で、電動キックボードと小型軽トラックの衝突事故が発生し、キックボードに乗っていた運転者が死亡した。

電動キックボード利用者が交通事故で死亡。警視庁が「捜査中」と伏せたLUUP、走るべき場所はそこなのか

 

https://www.kk-bestsellers.com/articles/-/4279496/

 

↑BEST T!MESより

 

 都市部での危険性が叫ばれる中、SNSなどでは「1時間にバスが数本しか来ないような、公共交通の空白地帯(反中心市街地や観光地)こそ、このモビリティが活きるのではないか」という声も聞かれます。堺市などでも新たな移動環境の構築を目指すSMIプロジェクトが進んでいますが、果たしてその実用性は本物なのでしょうか。泉北ニュータウン地域での「電動キックボードシェアリング実証実験」

 

 筆者は、2026年1月に放送されたドラマ『探偵さん、リュック開いてますよ』のロケ地としても記憶に新しい、長野県上田市の「別所温泉」を訪れました。今回はこの地でサービスを展開する運営会社のモビリティを実際に利用し、その有用性と課題を検証しました。しかし、そこで目にしたのは、次世代モビリティの理想とはかけ離れた、車両の構造的欠陥と整備不足、地元の人々の冷ややかな視線、そして運営会社のあまりに不誠実な実態でした。

 

 

 

 

2章:構造的欠陥と車両のリアル

 利用手続き自体は、スマートフォンからWEBアプリを開き、警察庁の交通ルール動画を閲覧し、クレジットカード登録を済ませるだけで容易に完結します。しかし、一歩街へ連れ出した瞬間、その手軽さの裏にある致命的なリスクを身体で知ることになりました。

 

構造的な不安定さと走行の恐怖

 「手軽な乗車」というイメージとは裏腹に、実際に走行を始めると激しい不安定さに襲われます。その最大の原因は、わずか25cm程度しかないタイヤの外径と、固着して可動しないフロントサスペンションにありました。

  • 左端走行の困難さ: 法律上、特定小型原付は車道の左側端を走行することが原則ですが、路面の凹凸や傾斜の影響をダイレクトに拾うため、まっすぐバランスを保つことすら容易ではありません。
  • 重心の高さに起因する操縦安定性の悪さ: 自転車が『座って低重心で安定させる乗り物』であるのに対し、電動キックボードは『立って高重心でバランスを取らなければならない乗り物』なので、倒れ始めたときにリカバリーする余裕がほとんどありません。
  • 小さな陥没での転倒リスク: 自転車であれば何の問題もなく通過できるような、アスファルトのわずかな陥没や段差でも、ハンドルを激しく取られ、転倒しかける場面が何度もありました。

 

 

 自動車の交通量が極めて少ない温泉街だからこそ辛うじて走行できましたが、これを交通量の激しい都市部の幹線道路や大型交差点で走らせるには、あまりにリスクが高すぎると言わざるを得ません。日常的な移動手段として活用するには構造的な欠陥を抱えている、というのが率直な感想です。

 

整備不充分な車両たち

 さらに驚くべきは、提供されている車両のメンテナンス状態の劣悪さでした。筆者が貸し出された車両は、クラクションが故障しており、さらに前輪を支える重要保安部品であるフロントフォークは茶色く錆びついていました。車両の安全性を担保すべき事業者が、このような整備不十分な車両を平然と利用者に提供している現状は、重大な事故を引き起こす引き金になりかねず、極めて危険です。

 

運営会社との温度差

 この別所温泉で3時間ほど電動キックボードを試してみましたが、立ち寄った温泉街の店々で、地元の方々から怪訝そうな顔で声をかけられました。「それ、怖くないですか?」「乗ってみてどうですか?」と。

 筆者が「非常に運転しにくく、危険な乗り物ですよ」と率直に伝えると、「ですよね〜」と一様に納得したような返事が返ってきました。また、サービス開始後およそ10か月が経過しているとのことですが、観光客に人気なのかと尋ねると「めったに見ない」と誰もが口を揃えます。次世代モビリティを謳いながら、地元の人々にも観光客にもほとんど利用されていない、それがこの温泉街におけるリアルな現状のようです。

 

 さらに見過ごせないのは、事故の多くが「レンタル車両」で起きている点です。警察庁の資料では、令和7年11月末までに発生した特定小型原付関連事故355件のうち、レンタル車両によるものが307件、全体の86.5%を占めています。飲酒事故についても、ほとんどがレンタルによるものとされています。 これは、所有者が日常的に点検し、乗り慣れている自転車やバイクとは異なり、レンタル型電動キックボードでは「不慣れな利用者」「土地勘のない観光客」「管理状態を確認できない車両」が重なりやすいことを示しています。運営会社が車両管理・利用者教育・トラブル対応を徹底しなければ、地域の足どころか、地域にリスクだけを残す存在になりかねません。

 

3章:システムトラブルと運営の実態

 車両のハードウェア以上に深刻だったのが、ソフトウェア(システム)の不備と、トラブル発生時における運営会社の不誠実な対応でした。

 

旅先での返却トラブルとアプリの罠

 トラブルは返却時に発生しました。WEBアプリ上のマップでは「全く別の宿」の位置にポートが誤設定されており、正規の返却場所である宿の玄関で「返却できない」というエラーが表示されたのです。

 

 刻々と過ぎゆく利用時間。このままでは超過料金が発生してしまうという焦りと、見知らぬ土地で立ち往生する不安。宿のフロントスタッフを巻き込み、システムの権限を持たない彼らと共に、皆で冷や汗を流しながら必死に対応を模索しました。誤った場所まで車両を移動させるという理不尽な対応を強いられ、現場は非常に緊迫した空気となりました。

 本来、楽しみにしていた旅の時間は、何物にも代えがたい貴重なものです。なんの落ち度もない私たちが、システムの不備という運営側の責任によるトラブルのために、必死にレンタル終了操作に追われ、その後の不誠実な対応への釈明にまで時間を奪われる結果となったことは、何よりも不本意であり、やりきれない思いで一杯でした。私たちの精神的な消耗に対する何らかの慰謝の言葉や、利用者目線の誠実な配慮が運営側から欲しかったというのが、偽らざる本音です。

 

担当者との対話とシステムの「不自然な修正」

 トラブルを解消すべく運営会社へ連絡を入れましたが、そこで行われたやり取りは、あまりに不誠実なものでした。

・16時35分:運営会社担当者(マエザワ氏)との通話

状況を説明するも、担当者は「WEBアプリ上のポート位置は正しく宿の玄関に指定されていることを確認した。そのような不具合は起こるはずがない」と、こちらの報告を全否定。謝罪の言葉は一切なかった。

・16時44分:状況の再確認

通話後に念のためWEBアプリを確認したが、やはりポート位置は「別の宿」に誤設定されたままであった。システムの不具合は明らかであり、担当者の主張が事実に反していることがここで証明された。

・17時02分:担当者からのメッセージ

超過分の返金を行う旨の通知が届く。ただし、システム側のミスであったかどうかの説明や謝罪は皆無。

 

 

その後:決定的な違和感

 改めてWEBアプリを確認すると、先ほどまでズレていたポート位置が、何事もなかったかのように正しい宿の玄関へと修正されていた。

 つまり、担当者は電話口で「不具合はない」と嘘をついて利用者を突っぱね、電話を切った後に裏でこっそりシステムを修正したと考えられます。自社のミスを隠蔽し、利用者に非があるかのように仕向けるその姿勢は、インフラを担う企業としてあまりに不誠実と言わざるを得ません。

 

 

企業の杜撰な体質

 公式ホームページの会社説明に使用されている画像にも違和感を覚えました。よく見ると「車内にいるはずのドライバーが、空を握る左手。車外から別の車を運転している」ような不自然なAI生成画像が使われており、このような細部への意識の低さが、車両管理やシステム運用における杜撰さに直結しているのでしょう。

 

結論:地域に拒絶される未来

 宿の管理者によると、過去にも同様のトラブルが繰り返されており、お客様にご迷惑をおかけするサービスをこれ以上請け負うことはできないと判断。すでに旅館組合に対して、この電動キックボードの預かり運営については再考を求めており、組合側も慎重に協議を進めているとのことです。

 筆者が別所温泉で感じた「これは危ない」という直感は、決して感情的な拒否反応ではありません。警察庁の統計が示す飲酒事故率、レンタル車両への事故集中、歩行者・自転車との交錯事故、そして実際に発生している死亡事故。これらを重ね合わせれば、電動キックボードは「未来の乗り物」以前に、地域が受け入れるにはあまりにも安全対策と運営責任が未成熟な乗り物であることが見えてきます。

 「交通難民を救う次世代の足」という大義名分は美しいものです。しかし、一歩間違えれば命を落とす不安定な乗り物であるという自覚の欠如、ずさんな車両管理、そしてトラブルを隠蔽しようとする不誠実な運営体制が続く限り、電動キックボードが地方の救世主になることはありません。都市部での廃止論に続き、期待された観光地からも「迷惑な存在」として見放される未来は、すぐそこまで迫っています。

 
 

 

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