社会医療法人の公益性と職場問題【連載第6回】
本シリーズはこちら
社会医療法人の公益性と職場問題【連載第6回】
「先に指導、後から指示」は、医療だったのか
――Y主任、医師の指示、包括指示、
そして診療報酬――
【イントロ】
Tは入職後約3年間、栄養指導の対象患者について、医師から、「この患者に、このような内容で栄養指導してください」という具体的な指示を先に受け、その指示に従って患者を選ぶという方法ではなく、管理栄養士側が電子カルテから対象になりそうな患者を探すという方法で仕事をしてきたという。
現場では患者を探して選び出すことを「ピックアップ」と呼んでいた。Tの申告では、約3年間、患者ごとの医師の具体的な指示を事前に受け、その指示に基づいて患者を選定した経験は一度もなかった。
そしてTが、
まず医師の指示を確認する。
予約を入れる。
その後に患者へ栄養指導する。
という順番で仕事をしようとすると、Y主任から「非効率」という趣旨で叱責されたという。
なぜ「医師の指示を先に確認すること」が重要なのか。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
1 管理栄養士と医師の関係
管理栄養士は栄養について高度な専門知識を持つ。しかし医師とは役割が違う。栄養士法第5条の5は、管理栄養士が傷病者に対して療養のため必要な栄養指導を行うに当たっては、「主治の医師の指導を受けなければならない」と定めている。
Tが問題にしているのは、管理栄養士が専門性を発揮してはいけないということではない。
その患者について療養上の栄養指導が必要であるという医学的判断と、それを受けて管理栄養士が栄養の専門職として介入することの関係である。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
2 Tが経験した業務フロー
Tが約3年間経験したという流れは概ねこうだった。
管理栄養士が電子カルテを見る。
栄養指導の対象になりそうな患者をピックアップする。
患者のところへ行く。
栄養指導する。
その後に栄養指導依頼を入力する。
予約表を作る。
実施内容を記録する。
算定処理へ進む。
つまり、医師から個別の指示で患者のところへ行くのではなく、管理栄養士が先に患者へ介入し、その後に依頼等が整えられるという順序だったとTは説明している。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
3 Tが行おうとした順番
Tが適切だと考えた流れは違う。
まず、
医師が必要性を判断する。
患者ごとの指示を出す。
管理栄養士がその指示を確認する。
予約する。
栄養指導する。
実施した内容を記録する。
この順序なら、患者への介入の医学的根拠が先に存在する。
Tが医師の指示にこだわるのは事務処理上の好みではない。自分が患者へ専門的介入をする根拠を確認したいからである。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
4 「非効率」と叱責したのはY主任
医師指示なく栄養指導の介入を指導したのはY主任。
Tによれば、医師の指示を先に確認し、予約してから患者へ栄養指導しようとしたところ、その方法では非効率だという趣旨でY主任から叱責された。
Tは、件数を確保するには従来のピックアップ方式の方が効率的だという趣旨だったと受け止めている。
ここでTには、医療上の根拠を先に確認することより、件数や効率が優先されているのではないかという疑問が生じた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
5 「後から入力したから無指示」と推測しているのではない
依頼入力が栄養指導後だったとしても、実施前に口頭で医師から指示を受けていた可能性は一般論としてあり得る。
したがって、依頼入力が後だったという事実だけで、医師の指示が一切なかったとは断定できない。
しかしTの問題提起は入力時刻だけから推測したものではない。T自身が約3年間その業務を行い、患者ごとの医師の具体的な指示を先に受け、それに基づいて患者を選んだ経験がなかったと申告している。
だから法人が、「事前の医師による指示は存在した」と説明するのであれば、記録で確認させてほしいと再三求めている。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
6 診療報酬上も「医師の指示」が必要
令和8年度の通常の外来栄養食事指導料については、管理栄養士が医師の指示に基づいて指導することが明記されている。
さらに管理栄養士への指示事項については、その患者ごとに適切なものとし、熱量・栄養素量、病態に応じた食事形態などについて医師が必要と認める事項の具体的な指示を含むことが求められている。
入院栄養食事指導料についても医師の指示に基づくことが要件とされ、外来栄養食事指導料の留意事項のうち、患者ごとの具体的指示に関する規定などが準用される。
だから問題は、
「包括指示という名前の仕組みがあります」だけでは終わらない。その中身が、患者ごとに適切な具体的指示という算定上の取扱いを満たしているのか。
そこが問われる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
7 「包括指示」とは何か
医療では、すべての場面で医師が一つ一つ細かな行為をその都度口頭で指示するとは限らない。一定の条件を定め、「この条件に該当する患者については、この方針で対応する」という形で多職種が動く仕組みはあり得る。
したがって本稿は、包括指示という仕組み自体が違法だとは書かない。
問題は、その実体である。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
8 「包括指示があります」で終わるのか
仮に法人が、「包括指示があるから管理栄養士が患者をピックアップしてよい」と説明するのであれば、
誰が包括指示を出したのか。
いつ出したのか。
文書はあるのか。
対象患者の条件は何か。
どの期間有効なのか。
患者ごとの具体的な医師指示はどのように担保されているのか。
患者へ栄養指導する前に担当医師はその患者への介入を把握していたのか。
を示すことができるはずである。
「包括指示」という名称だけで、管理栄養士が先に患者を選び、先に指導し、後から依頼を整えることまで自動的に正当化されるわけではないというのがTの疑問である。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
9 別院クリニックでは「改善の余地」
ここで同じ法人内の別院クリニックで行われていた外来栄養指導が問題になる。
Tによれば、別院クリニックの外来患者を対象とする栄養指導でも、包括的な医師の指示を前提とする運用を強いられた。
この運用についてO部長は2026年8月7日の回答書で、
不備があり、「改善の余地がある」
との趣旨の回答をしたという。
一方、総合病院の入院患者に対する包括的指示の運用については、「適切である」という趣旨の説明が繰り返されているとTはいう。
では何が違うのか。
別院クリニックでは何が不足していたのか。
入院患者では何が満たされているのか。
患者ごとの具体的指示はどこに記録されているのか。
同じ法人が、一方は「改善の余地」。一方は「適切」。と評価するなら、その違いを客観的資料で説明できるはずである。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
10 2026年8月12日現在も、Tは根拠を求めている
Tによれば、2026年8月12日現在も、M課長、Y主任、M主任らへ、
現在の入院栄養指導を適切と判断する根拠。
診療報酬上の算定要件との関係。
患者ごとの具体的な医師指示がどこにあるのか。
を示すよう求めた。
しかしTの面談記録では、具体的な資料が示されないまま、「適切」という趣旨の回答が繰り返されただけである。そしてM課長の、「会社の決まりを変えるのは大変です」という趣旨の発言へつながった。
Tには、適切かどうかを客観的に検証することより、現在の仕組みを維持することが先になっているように見えた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
11 Tが求めているのは「私を信じて」ではない
Tは、「私は絶対に正しいから、私の言う通りにしてください」と求めているわけではない。
自分にも分からない。
だから厚生労働省の通知を示してほしい。
医師指示の文書を示してほしい。
電子カルテ上の記録を示してほしい。
法人の正式なルールを示してほしい。
と求めている。
つまりTの要求は、「私を信じてほしい」ではなく、「客観的な根拠を示してほしい」。
その一点である。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
12 記録を調べればかなりのことが分かる
法人には、
医師の診療録。
医師指示の内容。
指示日時。
栄養指導依頼の入力日時。
入力者。
予約表作成日時。
栄養指導実施日時。
栄養指導記録。
電子カルテの更新履歴。
算定日時。
レセプト請求記録。
が存在するはずである。
これらを時系列に並べれば、
医師の指示。
管理栄養士による患者選定。
予約。
栄養指導。
記録。
算定。
請求。
の順序を確認できる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
13 一症例ではなく、部署全体を調べる
仮に一人の職員が医師の依頼入力を忘れ、後から入力したという一件だけなら、個人的な事務ミスとして説明できる可能性もある。
しかしTが訴えているのは、
約3年間その方法で仕事をしてきた。
管理栄養士側が患者をピックアップする業務フローだった。
医師指示を先に確認しようとするとY主任から叱責された
という問題である。
ならば、一症例ではなく一定期間の複数症例について、
医師指示日時。
依頼日時。
栄養指導日時。
記録日時。
算定日時。
を調べる必要がある。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
14 法人は2024年から問題を知らされていた
Tは2024年8月22日に法人との面談。9月13日に回答面談。
Tによれば、この段階ですでに、
管理栄養士側で患者をピックアップしていること。
医師の患者ごとの具体的指示を事前に確認していないこと。
指導後に依頼や予約を整えること。
T個人だけではなく職場の運用であること。
を伝え、調査を求めた。
法人は遅くとも2024年にはこれら厚生労働省の定める栄養指導の手順に対する問題提起を受けていたことになる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
15 別院では改善、入院は適切――その根拠は
法人とのやり取りを単純化すれば、こうなる。
T:包括的な指示の運用は本当に算定要件を満たしているのか。
法人:別院クリニックでは改善の余地がある。一方、入院については適切である。
T:では、その違いを客観的な資料で説明してほしい。
法人:「適切」だの一点張り。この最後の問いへの十分な回答が、Tにはまだ示されていないという。
ここに、前編で何度も現れた構造が再び見える。
「結論はある。根拠が見えない。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
16 「違反」と断定する前に調査する
現時点で、「法人が違法な診療報酬請求をしている」と断定することはできない。
実際の医師指示。
電子カルテ。
算定データ。
レセプト請求。
を確認する必要がある。
一方で、現行の通常の栄養食事指導料では医師の指示が必要で、外来の指示事項については患者ごとに適切な具体的指示を含むことが求められ、入院についてもその取扱いが準用されている。
Tは約3年間、そのような事前の患者ごとの具体的指示を受けて患者を選定した経験がなかったと申告している。法人へ根拠を求めても十分な資料が示されないという。
別院クリニックの類似運用には、法人側から「改善の余地」が示されたという。だからこそ、算定要件とコンプライアンス上の疑義として正式な調査を求めることには理由がある。
必要なのは断罪ではない。記録による検証である。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
17 そして再び「患者に申し訳ない」
Tは患者の前に立つ管理栄養士である。
患者は、自分の病気を理解し、医師と連携した上で栄養指導してくれていると信じているだろう。
そのT自身が、
この指示で本当にいいのか。
指導前に医師は判断しているのか。
この時間でよいのか。
この記録でよいのか。
この算定でよいのか。
という疑問を持ったまま患者へ接する。
それはTにとって大きな職業倫理上の苦痛だった。Tは、「患者さんに申し訳ない」という思いを抱えている。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
18 六つの問題をつなぐもの
第1回。未払い賃金。
第2回。患者カルテ、職場会議、ポッキー事件、「優しさ」という説明、ハラスメント委員会、傷病休暇、栄養指導件数。
第3回。患者給食、患者負担、ポッキー事件、焼肉事件、衛生管理。
第4回。法人回答、相談窓口、謝罪、ハラスメント対応、ガバナンス。
第5回。約10分の栄養指導と30分記録、診療報酬。
第6回。医師の指示、包括指示、診療報酬。
一つ一つは別の問題である。しかしTの記録を通して見ると、共通する構造が見えてくる。
- Tが管理職へ報告する。
- 「確認した」
- 「注意した」
- 「適切である」
- 「ハラスメントではない」
- 「今後徹底する」
という結論が返る。
しかし、
- なぜ起きたのか。
- 誰が責任を負っているのか。
- 何を調査したのか。
- 調査結果は何だったのか。
- 根拠資料は何か。
- Tが受けた精神的負担について、その後どのような職場改善をしたのかは十分に示されない。
- 問題だったとTが考える行為について、全く謝罪がない。
- 問題が長期化する。
- Tのストレスが増す。
- 患者や職場のために問題を指摘しているはずのT自身が、声を上げることによってさらに精神的負担を抱える。
これが、Tが経験したという一連の構造である。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
19 公益性は、何によって示されるのか
社会医療法人には、公的な運営に関する制度上の要件があり、一定の医療保健業について法人税上の非課税措置も設けられている。
しかし、「税制上の措置を受けているのだから、一件の職場問題も許されない」というのが本稿の主張ではない。
公益性は、問題が一度も起きないことだけで証明されるものではない。むしろ、問題が起きた後に、その組織がどう振る舞うか。そこに表れるのではないだろうか。
- 未払い賃金が判明した。→ならば同じ勤務をしていた職員を調べる。
- 患者情報の扱いが問題になった。→ならば事実確認を行い、患者情報を扱う職員へ是正を徹底する。
- 患者給食の喫食が判明した。→ならば喫食だけでなく、食材管理、衛生区域、動線、休憩区域まで検証する。
- 職員が管理職の発言によって強い精神的苦痛を訴えた。→ハラスメントに該当しないと判断したとしても、職場環境上改善すべき点がないかを調べる。
- 診療報酬の算定に疑義が示された。→ならば電子カルテと算定・請求記録を調べる。
- 管理職の対応そのものに疑問が示された。→ならば、その管理職とは別の立場から検証する。そして結果を説明する。
問題がないことを前提に職員を説得するのではなく、問題があるかどうかを記録から調査する。
その姿勢こそが、公益性を掲げる組織に求められるのではないだろうか。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【公的資料】
- 「栄養士法」第5条の5
管理栄養士が傷病者に療養のため必要な栄養指導を行う際、「主治の医師の指導を受けなければならない」と定めている。 - 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について」
- 厚生労働省「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(医科点数表)」
外来栄養食事指導料について、医師の指示に基づくことに加え、管理栄養士への指示事項は患者ごとに適切なものとし、必要な栄養素量や食事形態等について医師が必要と認める具体的な指示を含むことを定めている。 - 同通知「入院栄養食事指導料」
入院栄養食事指導についても医師の指示に基づくことが必要で、外来栄養食事指導料の留意事項の一部が準用される。 - 「医療法」第1条の4第2項
医療者側の指示・運用とは別に、患者への適切な説明と理解という観点を確認する資料。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【前編エピローグ】
⚫️Tを傷つけた二つのもの
Tを精神的に追い詰めたと本人が認識しているものは、大きく二つに分けられる。
一つは、自分自身が職員として受けたと感じる扱いである。
- 未払い賃金。
- サービス残業を容認・要求するように受け取れるY主任の発言。
- 職場環境について話すよう指定された職場会議に、他職員より著しく低い割合しか参加できず、7か月連続で参加できなかったこと。
- 問題を指摘しても、根本原因や調査結果が十分に示されないこと。
- 問題だったとTが考える行為について、十分な説明や謝罪がないこと。
そしてポッキー事件では、M課長へ衛生上の問題を報告しても十分な対応が得られないと感じ、上位者であるH部長代理へ相談した。
その際、M課長が強く対応しなかったのは「部下への優しさ」によるものという趣旨の説明を受けたという。Tには、「問題を指摘する自分には、優しさが足りない」と言われたように聞こえた。
Tはこの件を法人のハラスメント委員会へ報告したが、「ハラスメントには当たらない」との結論を知らされた。しかしTが求めていたのは、名称としてハラスメントに当たるかどうかだけではない。
なぜ自分がここまで傷ついたのか。その職場環境を組織としてどう改善するのか。そこまで考えてほしいということだった。
もう一つは、管理栄養士として、患者に誠実でありたいという職業倫理に関わる苦痛だった。
- 患者のカルテが揶揄の材料になる。
- 患者のために用意された給食を検食ではない職員が食べる。
- 衛生管理上特別な取扱いが必要な場所に、食べかけの私物食品が置かれる。
- 件数を増やすため、患者一人への栄養指導時間を短縮するよう求められる。
- 実際とは異なる時間が電子カルテへ記録される。
- 栄養指導が費用の発生する医療であることを患者へ知らせたいと考えても、その必要はないという趣旨の認識を示される。
- 医師の具体的な指示を先に確認しようとすると、「非効率」という趣旨で叱責される。
Tは、「自分が黙ることで、患者に対して不誠実だと感じる医療の運用に加担することにならないか」という葛藤を抱えた。
だから、黙っていても苦しい。声を上げても苦しい。その状態が続いたという。
Tは、こうした職場上の出来事と、その後の法人・管理職の対応が重なる中で精神的負担を募らせ、心療内科へ通院し、傷病休暇に至ったと説明している。
本稿は、個々の出来事とTの傷病との医学的因果関係を独自に認定するものではない。しかし、人の健康を守るはずの病院で働く職員が、心療内科へ通院するに至った。その職場で起きた出来事と対応をストレス要因として訴え。その経過は、組織として重く受け止めるべきではないだろうか。
⚫️法人自身が掲げる「人権」と「心柱」
ここで、この社会医療法人自身の理念に立ち返りたい。
法人は、「私たちが見失ってはいけないことは『職員を含めすべての人々の人権を守ること』。」と理念に掲げている。
さらに、事業には大切な「心柱」が必要であり、それが、「ともすれば弱気になりそうな私たちの心を叱咤激励するように働いてくれる」とも述べている。
ならば、その理念を今回の出来事にも当てはめる必要があるのではないか。
- 未払い賃金を訴えた職員の権利はどう守られたのか。
- 患者情報や衛生管理に疑問を呈した職員の声はどう扱われたのか。
- 精神的苦痛を訴えた職員に対して、「ハラスメントではない」という結論の先に、どのような職場改善が行われたのか。
- 患者に誠実な医療をしたいと訴える専門職の声は、どう受け止められたのか。
これらも、「職員を含めすべての人々の人権を守る」と記された法人が掲げる理念の中で検証されるべき問題ではないだろうか。
⚫️職員からの進言も「叱咤激励」ではないのか
法人は、自らの理念を、組織を目標へ導く「心柱」と表現している。ならば、法人にとって耳の痛い問題を指摘する職員の声もまた、組織を正しい方向へ戻すための「叱咤激励」になり得るのではないか。
- 未払い賃金があります。
- 患者情報の扱いがおかしいのではないですか。
- 衛生管理を確認してください。
- 患者給食を職員が食べてよいのでしょうか。
- 実際の栄養指導時間とカルテ記録が違います。
- 患者に費用が発生することを知らせた方がよいのではないですか。
- 医師の具体的な指示を確認してから患者へ介入すべきではないですか。
Tは、こうした疑問を繰り返し法人へ伝えてきた。その声を、
- 厄介な指摘。
- 細かすぎる要求。
- 職場の和を乱すもの。
として遠ざけるのか。
それとも、法人自身が掲げる理念に照らし、自らの運営を見直すための声として受け止めるのか。そこに法人の掲げる理念が本当に生きているかどうかが表れるのではないだろうか。
⚫️人を治す病院が、職員を病ませる場所にならないために
病院は、本来、人の病気を治し、健康を守る場所である。だからこそ、そこで働く職員が、職場で起きた出来事と、その後の対応によって精神的負担を増したと訴え、心療内科へ通院し、傷病休暇に至ったという経過は重い。
本稿は、「この病院がTの病気を医学的に引き起こした」と断定するものではない。
しかし、人を治療する病院が、職員から「この職場での出来事と対応が自分を病ませた」と訴えられている。
その声を軽く扱ってよいはずはない。そして、何を進言しても十分に聞いてもらえないと職員が感じ続けているのであれば、理念に掲げる「叱咤激励」という言葉も空虚になってしまう。
組織への進言を聞くことができなければ、理念が組織を叱咤激励することもできない。
Tが求めているのは、この法人を壊すことではない、Tが求めていることは単純である。
- 職員が安心して働けること。
- 働いた時間には賃金が支払われること。
- 患者情報を大切に扱うこと。
- 患者のための食事と衛生管理を適切に扱うこと。
- 患者一人一人に必要な時間を使って栄養指導すること。
- 栄養指導が費用の発生する医療であることを患者に分かるよう伝えること。
- 電子カルテには実際に行った医療を正確に残すこと。
- 医師と管理栄養士が、患者ごとの医学的根拠を確認できる手順で連携すること。
そして問題があったなら、
- 調査する。
- 説明する。
- 必要なら謝罪する。
- 是正する。
- 再発させない。
それだけである。
社会医療法人だから、一件の問題も起こしてはいけないわけではない。むしろ問われるのは、問題が起きたとき、それを直す力を持っているか。
内部から上がった声を、厄介なものとして処理するのか。それとも、自らを正すための「叱咤激励」として受け止めるのか。法人自身が掲げる、「職員を含めすべての人々の人権を守ること」という理念。そして、組織を目標へ導くという「心柱」。
前編6回で問うてきたのは、その理念が、現場で本当に機能していたのかということでもある。
- 患者に誠実でありたいと声を上げた医療職を、その組織はどう扱ったのか。
- 公益性を認められた社会医療法人は、その声にどう向き合ったのか。
- その答えを示すのは、理念集に書かれた言葉ではない。
前編で問うたのは、公益性を認められた社会医療法人の内部で、何が起きていたのか。今後後編で問うのは、そこで声を上げた職員を守るはずの仕組みは、本当に機能していたのか。
そしてシリーズ全体を通じて問い続けたいことは一つである。患者や職員からの声を、組織にとって都合の悪いものとして退けるのか。それとも、その声を組織改善に生かし、患者にも職員にも誠実な、公益性にふさわしい社会医療法人へ変わることができるのか。
【後編 労働組合と団体交渉編】として改めて検証する。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【公的資料】
- 「栄養士法」第5条の5
管理栄養士が傷病者に療養のため必要な栄養指導を行う際、「主治の医師の指導を受けなければならない」と定めている。 - 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について」
- 厚生労働省「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(医科点数表)」
外来栄養食事指導料について、医師の指示に基づくことに加え、管理栄養士への指示事項は患者ごとに適切なものとし、必要な栄養素量や食事形態等について医師が必要と認める具体的な指示を含むことを定めている。 - 同通知「入院栄養食事指導料」
入院栄養食事指導についても医師の指示に基づくことが必要で、外来栄養食事指導料の留意事項の一部が準用される。 - 「医療法」第1条の4第2項
医療者側の指示・運用とは別に、患者への適切な説明と理解という観点を確認する資料。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【資料について】
本稿では、法令・制度については厚生労働省、個人情報保護委員会等の公的資料を参照しています。個別の職場内出来事については、Tが保有する文書、写真、電子メール、勤務記録、録音、電子カルテで確認した内容、法人への申入書、法人からの回答書等に基づいています。公的資料から直接確認できない個別の事実については、Tの申告・記録に基づくものであることが分かるよう本文中で区別しています。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【取材・お問い合わせについて】
本連載は、現時点でTが保有する文書、写真、勤務記録、録音、電子カルテで確認した内容、法人へ提出した申入書、法人からの回答書等に基づいて問題を提起するものです。
法人側の見解を確認できていない事項については、Tの申告・記録に基づく内容であることが分かるよう記載しています。
本稿は、Tの傷病と個別の職場上の出来事との医学的因果関係を独自に確定するものではありません。Tが、職場上の出来事とその後の法人・管理職による対応をストレス要因として訴え、心療内科への通院、傷病休暇に至った経緯を記載しています。
未確認事項について、犯罪、カルテ改竄、不正請求、ハラスメント、隠蔽その他の違法行為が確定したものとして断定するものではありません。
関係資料については、患者および職員の個人情報、診療情報その他の機微な情報を保護したうえで、必要性と相当性を確認し、可能な範囲で提示します。
当該社会医療法人から具体的な説明、反論または資料の提示があった場合には、その内容を確認し、必要に応じて記事を追記・訂正します。
本連載の目的は、特定の個人を攻撃することではありません。問題の事実関係を検証し、職員が安心して働き、患者が安心して医療を受けられ、法人自身が公益的な立場にふさわしい、より健全な組織になることを求めるものです。
メディア関係者、医療・労務・法律関係者からの取材およびお問い合わせを受け付けています。
notohantou2024(アットマーク)gmail.com
社会医療法人の公益性と職場問題【連載第5回】
本シリーズはこちら
社会医療法人の公益性と職場問題【連載第5回】
<患者のための30分は、なぜ10分にされたのか>
――YA元主任の「件数」と
電子カルテの30分記録――
【イントロ】
Tが最も「患者に申し訳ない」と感じている問題の一つが、栄養指導時間である。
Tによれば、YA元主任から、栄養指導件数を増やすため、患者一人当たりの栄養指導時間を約10分へ短縮するよう求められた。
そしてTは、その運用の中でさらに不可解な事例を確認したという。
実際に患者へ栄養指導した時間は約10分。しかし電子カルテには「30分」と記録されていた。さらに栄養指導料が算定・計上されていた。
患者は、この栄養指導が診療報酬の対象となる医療であり、自分自身にも医療費の負担が生じ得ることを、どこまで理解していたのだろうか。
なぜ10分が30分になったのか。そして、患者に何を説明した上で行われていたのか。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
1 栄養指導は「食べ過ぎないでください」と言う仕事ではない
管理栄養士の栄養指導を、「野菜を食べましょう」「塩分を控えましょう」という簡単な助言だと思う人もいるかもしれない。
実際には、病状、検査値、薬剤、体重、普段の食生活、仕事の時間、家族構成、調理環境、経済状況、患者本人の理解度などを確認する。患者の生活は一人一人違う。
したがって、「同じ病名だから同じ話を30分する」という仕事ではない。
ChatGTPにて生成したイメージ画像
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
2 患者と話す時間以外にも仕事がある
患者と話す前にはカルテを読む。
検査値を確認する。
医師や看護師の記録を読む。
指導内容を考える。
指導後には電子カルテへ記録し、必要なら他職種へ情報を伝える。
したがって、「栄養指導1件30分」といっても、管理栄養士の仕事全体が30分で済むわけではない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
3 「件数を増やすための手法」
Tによれば、件数を増やすためにその栄養指導時間を約10分へ短縮するよう求めたのが、YA元主任だった。
さらに患者への栄養指導の事前説明について、「事前に説明する必要はない」という認識を示した※のは、Y主任だった。
※※2026年8月12日の面談で、Y主任の発言では明確に診療報酬の算定を優先に栄養指導する患者の選定をTに強要した録音より
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
4 患者のために10分で済んだのか、件数のために10分にしたのか
患者によっては結果的に短時間で指導が終わることもあり得る。それは、患者の状態を見た結果、10分で済んだという話である。
一方、件数を増やしたいから最初から10分程度で終えるのであれば、判断基準が違う。患者ではなく、「一日に何件できるか」という数値が基準になる。
Tが問題にしているのは後者である。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
5 そもそも「診療報酬」とは何か
日本の保険診療では、診療行為等について点数が定められ、その点数をもとに医療費が計算される。患者は自己負担分を支払い、そのほかは医療保険等から医療機関へ支払われる。
栄養食事指導にも診療報酬上の項目がある。つまり、一定の要件を満たす栄養指導を実施し、算定・請求が認められれば、医療機関の収入につながる。これは悪いことではない。医療機関が適切な医療の対価として診療報酬を受け取ることは、医療提供を続けるために必要である。
問題は、病院は患者に必要な医療を提供した。その結果として診療報酬を得るのか。それとも、※診療報酬として算定できる件数を増やすことを優先に、患者への医療を組み立てるのか、という順番である。
※2026年8月12日の面談で、Y主任の発言では明確に診療報酬の算定を優先に栄養指導する患者の選定をTに強要した録音より
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
6 現在の栄養食事指導の算定ルール
令和8年度の通常の外来栄養食事指導料では、管理栄養士が医師の指示に基づき、初回は概ね30分以上、2回目以降は概ね20分以上の栄養指導を行う取扱いが示されている。入院栄養食事指導料についても、医師の指示に基づき、初回概ね30分以上、2回目概ね20分以上とされている。
一方で、栄養食事指導には区分によって異なる取扱いもあるため、「どのような栄養指導でも30分未満なら必ず算定できない」と一律に断定することはできない。
なお、問題となった出来事は2024年であり、当時の算定要件との最終的な適合性については、当時の診療報酬通知と実際の症例記録を照合する必要がある。本稿で現在の令和8年度の通知を紹介するのは、現在の制度を読者に理解してもらうためである。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
7 実際は約10分、電子カルテには30分
Tは、実際には約10分だった栄養指導について、電子カルテには「30分」と記録され、栄養指導料が算定・計上されている事例を確認したという。
この問題は三つに分けると分かりやすい。
第一に、実際に患者へ行った医療。第二に、電子カルテへ記録した内容。第三に、診療報酬として処理した内容。
本来、この三つは整合している必要がある。
ChatGTPにて生成したイメージ画像
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
8 電子カルテは単なる請求用メモではない
電子カルテは、患者にどのような診療を行ったかを残す医療記録である。
だから、実際には約10分だったものについて、最初から30分と入力したということがあったのであれば、診療報酬以前に、診療記録として事実に即しているのかという問題が生じる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
9 「カルテ改竄」とは断定しない
ここは慎重に区別する。本稿は、一度10分と正しく記録し、後から30分に書き換えたという証拠まで確認しているわけではない。したがって「カルテ改竄」と断定しない。
Tが問題にしているのは、実際には約10分だったにもかかわらず、最初から事実と異なる30分という内容を入力した可能性である。これは後から書き換えたかどうかとは別の問題である。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
10 「算定」と「請求」は同じではない
医療機関内部で「この患者には栄養食事指導料を算定する」という処理が行われたことと、最終的に診療報酬明細書、いわゆる「レセプト」として保険者へ請求され、支払われたことは厳密には同じではない。
Tが確認しているのは算定・計上までだという。したがって本稿は、「約10分を30分と記録したから不正請求が確定した」とは書かない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
11 患者は「栄養指導にも費用がかかる」と知っているのか
ここでTがもう一つ疑問を持ったのが、患者への説明だった。
レントゲン撮影や採血であれば、多くの患者は「これは検査であり、医療費がかかる」と理解しやすい。しかし栄養指導はどうだろうか。
管理栄養士がベッドサイドへ来て、「普段はどんな食事をしていますか」「塩分を少し減らしましょう」などと話をする。患者によっては、「入院中に管理栄養士が無料で相談に乗ってくれている」くらいに受け止めていても不思議ではないとTは感じていた。
しかし実際には、一定の要件を満たせば診療報酬として算定される医療である。患者自身にも、加入する医療保険や負担割合等に応じた自己負担が生じ得る。診療報酬としてはおよそ2,600円である。
だからTは、栄養指導を始める前に、「これは栄養食事指導という保険診療で、医療費が発生するものです」という趣旨を患者へ伝えた方が誠実ではないかと考えた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
12 Y主任は「説明するな」と言ったわけではない
ここも事実関係を正確に書く必要がある。
Tによれば、Y主任から「患者へ費用のことを説明してはいけない」と明確に禁止されたわけではない。
一方で、Tが事前に患者へ知らせる必要性について話した際、Y主任は、そのような事前説明をする必要はないという趣旨の認識だったとTは受け止めている。
そこでTには素朴な疑問が生じた。説明してはいけないわけではない。それなら、知らせてもよいのではないか。
患者が何を受けるのかを理解した上で、「お願いします」と受ける方が、患者に対して誠実ではないのか。反対に、患者が内容を聞いた上で質問したり、「今回は希望しません」という意思を示したりする機会があってもよいのではないか。
Tはそう考えた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
13 医療者側に「指示」があることと、患者が理解していることは別問題
この問題は、次回扱う「包括的な医師の指示」ともつながる。
法人が、「医師の包括的な指示があるから、この方法で栄養指導を行っている」と説明したとしても、それはまず医療者側の業務運用や算定要件に関する話である。
一方で、患者本人が、なぜ自分に栄養指導が行われるのか、どのような医療なのか、費用が発生するのかを理解しているかどうかは、別の問題である。
Tが危惧したのは、
患者が栄養指導の意味や費用を十分理解していないまま、
医療者側が対象患者を選び、
栄養指導を行い、
診療報酬を算定する運用
になれば、
患者自身が考えたり意思を示したりする機会が減るのではないかということだった。
本稿は、栄養指導を行うたびに具体的な自己負担額を事前に説明しなければ違法であると主張するものではない。
Tが問うているのは、もっと基本的なことである。
患者が何を受けるのかよく分からないまま医療が進むことと、
内容と費用が発生することを理解した上で医療を受けること。
患者中心の医療として、どちらがより誠実なのか、という問いである。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
14 患者自身も、公的医療保険も費用を負担する
ここでもTが「患者に申し訳ない」と感じる理由がある。
診療報酬は、病院内だけで完結する数字ではない。保険診療の費用は、患者側の自己負担と医療保険制度による給付によって支えられる。
つまり、栄養指導1件を算定するということは、単に院内の実績表へ「1件」と数字が増えるだけではない。患者本人と、公的な医療保険制度がその医療費を負担することにつながる。
だからTにとって、もし算定要件を満たさない行為が診療報酬として処理されていたなら、という疑問は、単に「法人の売上計上が正しいか」という問題ではない。
さらに、患者自身が栄養指導を医療として十分理解していないまま算定されていたのだとすれば、Tにはより強い違和感があった。
患者と社会が支える公的医療保険制度に対して、自分の仕事は誠実なのか、という問題だからである。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
15 調べる方法はある
法人内部には、栄養指導を行った日時、電子カルテへ入力した日時、入力者、更新履歴、算定日時、会計データ、レセプト請求、取消し、返戻、再請求といった情報が残っているはずである。
それを時系列に並べれば、実際に何をしたのか、何と記録したのか、何を算定したのか、何を実際に請求したのかを検証できる。
患者への説明方法についても、
法人として統一した説明ルールがあったのか、
患者向け資料は存在したのか、
実際にどのような説明をしていたのか
を確認することはできる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
16 2024年8月14日、Tはすでに法人へ知らせていた
Tは2024年8月14日、栄養指導時間や実施方法、診療報酬算定等に関する改善を旧労働組合と打ち合わせした。
また同年8月22日に法人との面談、同じく9月13日に回答面談が行われた。
Tは、実際は約10分の栄養指導にも関わらず、
電子カルテには30分と記載、
YA元主任による時間短縮指示、
栄養指導料の算定・計上について説明し、調査を求めたという。
法人は遅くとも2024年の段階で問題提起を受けていたことになる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
17 その後、朝礼で「30分行うように」
Tの記録では、その後の朝礼で、栄養指導は30分行うようにとの趣旨の指示が出された。今後の運用を適正化すること自体は望ましい。
しかしTの疑問は、
では、なぜ変更したのか。
従来の約10分運用に問題があったのか。
問題があったなら過去を調べたのか。
約10分を30分と記録した症例が他にもなかったか。
算定状況を確認したのか。
実際に請求されていた場合、必要な訂正や返還を検討したのか、
ということである。
Tによれば、こうした具体的な調査結果は示されていない。これから正しくする。それは必要である。
しかし、過去に何があったのかを調べることとは別である。
Tが求めているのは、未来の改善と過去の検証の両方なのである。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
18 「患者に申し訳ない」
患者は、自分のために管理栄養士が専門的な時間を使ってくれていると考えるだろう。管理栄養士は患者の生活に踏み込み、何を食べていますか、どんな生活をしていますか、家族はどうですか、と尋ねる。患者は信頼して答える。
その裏側で、件数を増やすために時間を短縮する。実際とは異なる時間を記録する。患者がそれを費用の発生する医療だと十分に理解しているか分からないまま算定する。
もし、そのような運用になっていたとすれば、Tは、「自分は患者さんに対して誠実な仕事できていると言えるのか」という葛藤を抱く。
Tが事前に知らせたいと考えたのは、患者を怖がらせたいからでも、栄養指導を断らせたいからでもない。
患者自身に、自分がどのような医療を受けているのか知ってほしい。
そして理解した上で受けてほしい。それがTの考える患者への誠意だった。
さらに、その医療費は患者自身と公的医療保険制度によって支えられる。Tが「患者さんに申し訳ない」と感じる理由は、ここにある。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
19 社会医療法人だからこそ
「病院は利益を出してはいけない」という話ではない。病院が安定して経営されなければ、医療を継続できない。診療報酬を適切に算定することは必要である。
しかし、患者に必要な医療を行った。その結果として診療報酬を得ることと、診療報酬の件数を増やす。そのために患者への時間を短縮することは同じではない。
さらに、患者へ何をするのか十分に知らせ、その理解を得ながら医療を行うことと、医療者側のルールや包括的な指示だけで手続きを進めることも同じではない。
社会医療法人には、公益性を前提とした制度上の位置づけがある。だからこそ問われるのは、何件算定したかだけではない。
その一件一件について、患者に必要な医療だったのか、
実際に必要な時間をかけたのか、
正確に記録したのか、
適切に算定したのか、
そして、患者本人に対して誠実な説明をしていたのか。
そこまで含めて検証する必要があるのではないだろうか。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【エピローグ】
ここまで見てきたのは、患者に実際に何分栄養指導したのか、電子カルテに何分と記録したのか、診療報酬として何を算定したのか、そして患者自身は、その栄養指導が費用の発生する医療であることを理解していたのか、という問題だった。
しかし、もう一つ根本的な問いが残る。そもそも、その患者に栄養指導をするという医師の指示は、指導前にどのような形で存在していたのか。
法人は「包括的な医師の指示」による運用を説明している。しかし、医療者側に「包括指示」が存在することと、患者がその医療の意味を理解し、自分の意思を示せることは別問題である。
そしてTは約3年間、管理栄養士が先に患者を選ぶ。先に栄養指導する。その後に依頼や予約を整える、という運用の中で働いてきたと説明している。
医師の患者ごとの具体的な指示を先に確認しようとしたTを、「非効率」という趣旨で叱責したのはY主任だった。
最終回では、「医師が指示したことになっている」ことと、「その患者について実際に医師が具体的に指示していたこと」は同じなのか。そして、医療者側の効率と、患者中心の医療のどちらが優先されていたのかを検証する。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【公的資料】
- 厚生労働省「令和6年度診療報酬改定について」
2024年に起きた栄養指導時間・算定問題を検討する際に、当時適用されていた診療報酬制度を確認するための資料。 - 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について」及び「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について」
現行制度における外来・入院栄養食事指導料の要件確認に使用。 - 同通知「外来栄養食事指導料」
通常の外来栄養食事指導について、医師の指示に基づき、初回概ね30分以上、2回目以降概ね20分以上とされている。 - 同通知「入院栄養食事指導料」
入院栄養食事指導についても、医師の指示に基づくこと、初回概ね30分以上、2回目概ね20分以上であること等を確認するために使用。 - 「医療法」第1条の4第2項
医療の担い手が、医療を提供する際に適切な説明を行い、患者の理解を得るよう努めることを定めている。患者への事前説明をめぐるTの問題提起を考える際の公的な基礎資料。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【資料について】
本稿では、法令・制度については厚生労働省、個人情報保護委員会等の公的資料を参照しています。個別の職場内出来事については、Tが保有する文書、写真、電子メール、勤務記録、録音、電子カルテで確認した内容、法人への申入書、法人からの回答書等に基づいています。公的資料から直接確認できない個別の事実については、Tの申告・記録に基づくものであることが分かるよう本文中で区別しています。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【取材・お問い合わせについて】
本連載は、現時点でTが保有する文書、写真、勤務記録、録音、電子カルテで確認した内容、法人へ提出した申入書、法人からの回答書等に基づいて問題を提起するものです。
法人側の見解を確認できていない事項については、Tの申告・記録に基づく内容であることが分かるよう記載しています。
本稿は、Tの傷病と個別の職場上の出来事との医学的因果関係を独自に確定するものではありません。Tが、職場上の出来事とその後の法人・管理職による対応をストレス要因として訴え、心療内科への通院、傷病休暇に至った経緯を記載しています。
未確認事項について、犯罪、カルテ改竄、不正請求、ハラスメント、隠蔽その他の違法行為が確定したものとして断定するものではありません。
関係資料については、患者および職員の個人情報、診療情報その他の機微な情報を保護したうえで、必要性と相当性を確認し、可能な範囲で提示します。
当該社会医療法人から具体的な説明、反論または資料の提示があった場合には、その内容を確認し、必要に応じて記事を追記・訂正します。
本連載の目的は、特定の個人を攻撃することではありません。問題の事実関係を検証し、職員が安心して働き、患者が安心して医療を受けられ、法人自身が公益的な立場にふさわしい、より健全な組織になることを求めるものです。
メディア関係者、医療・労務・法律関係者からの取材およびお問い合わせを受け付けています。
notohantou2024(アットマーク)gmail.com
社会医療法人の公益性と職場問題【連載第4回】
本シリーズはこちら
社会医療法人の公益性と職場問題【連載第4回】
<問題を知らせても、なぜ変わらなかったのか>
――「優しさ」「ハラスメントではない」、
そして「殿様の火の用心」――
【イントロ】
「確認した」
「注意した」
「周知するよう指示した」
「適切に運用している」
こうした言葉は、一見すると法人が問題へ対応したことを示している。
しかし、少し具体的に聞くとどうなるだろう。
誰が確認したのか。
誰に注意したのか。
何を注意したのか。
誰に周知したのか。
いつ終わったのか。
なぜ適切なのか。
その根拠資料は何か。
Tが法人対応に不信を強めたのは、結論は返ってくるが、その結論に至った事実と検証過程が見えないという状態が繰り返されたからである。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
1 法人の「管理者へ注意した」
焼肉事件について法人は、「管理者へ注意した」と回答した。Tは、
誰が。
誰に。
何を。
どのように。
注意したのかを尋ねた。
例えば、「焼肉を食べるのはやめてください」とだけ注意したのであれば、管理責任の問題までは扱っていない。
一方、「禁止ルールを徹底できず、自らも喫食した管理責任について注意した」のであれば意味が違う。だからTは具体化を求めた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
2 法人の「確認した」
大量調理施設衛生管理マニュアルを確認した。喫食しないことを再確認した。
しかし、
管理職が自分でマニュアルを読んだだけなのか。
職員へ説明したのか。
実際の区域や動線を点検したのか。
職員が理解したことを確認したのか。
では意味が違う。
Tにとって「確認した」という結論だけでは、実際の改善内容が分からない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
3 法人の「周知するよう指示した」
法人は、「再度全職員へ周知するよう指示した」とも回答した。では、
周知は終わったのか。
誰が実施したのか。
誰を対象にしたのか。
どの文書で行ったのか。
完了を誰が確認したのか。
ここでTが用いた表現が、「殿様の火の用心」である。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
4 「殿様の火の用心」とは何か
殿様が、「火事を起こすな。火の用心をせよ」と命令する。
家老も同じ言葉を下へ伝える。
奉行も下へ伝える。
末端の火消しまで、「火の用心するように」と言う。
全員、「指示しました」と報告できる。
しかし、
実際に火元を見回ったか。
消火設備は使えるか。
誰が責任者か。
夜間巡回をしたか。
火が消えていることを確認したか。
という具体的な行動がなければ火災は防げない。
これがTの言う「殿様の火の用心」である。指示したことと、管理できたことは同じではない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
5 「今後」の前に「なぜ起きたか」
Tは再発防止に反対しているわけではない。これから正しくすることは当然必要である。しかし、
今後気をつけます。
今後給食の残りは食べません。
今後栄養指導は30分行います。
と未来だけを変えても、過去に何が起きたのかは消えない。
焼肉事件なら、
いつから喫食していたのか。
なぜ禁止ルールが守られなかったのか。
管理者はいつ把握したのか。
なぜ止めなかったのか。
未払い賃金なら、
なぜ法人通達が職員へ伝わらなかったのか。
なぜ勤怠管理で発見できなかったのか。
Tが求めているのは、根本原因の検証である。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
6 謝罪は何のためなのか
Tが謝罪を求めることについて、「頭を下げさせたいだけではないか」という見方もあり得る。
しかしTは謝罪をそのように捉えていない。
問題があった。
組織がその問題を認識する。
当事者へ説明する。
必要なら謝罪する。
何を改めるか決める。
同じことを繰り返さない。
謝罪は、その是正過程の一つだという。
例えばY主任のサービス残業を容認するように受け取れる発言。Tによれば労働組合からも問題性の指摘があった。それでも現在までY主任本人から謝罪はない。
では法人は、あの発言は適切だったと判断しているのか。それとも不適切だったと判断しているのか。
そこが曖昧なまま同じ管理職の下で働くことは、Tにとって大きな負担だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
7 ポッキー事件――上司へ相談すると「優しさ」
法人の問題処理に対するTの不信を象徴するもう一つの例が、ポッキー事件後のH部長代理とのやり取りである。
Tは衛生上疑問のある状態について、まずM課長へ改善を求めた。十分な対応が得られないと感じたため、その上司に当たるH部長代理へ相談した。
そこでTは、M課長が現場の部下へ強く対応しなかったのは「部下への優しさ」によるものという趣旨の説明を受けたという。
Tには、問題へ対応しないことが「優しさ」なら、改善を求める自分には「優しさがない」と評価されたように感じられた。
この解釈はT自身の受け止めである。
しかし、その受け止めによってTが強い精神的負担を感じたことは、この問題を考えるうえで重要である。
実際に栄養管理科の事務所に共用机に放置された菓子
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
8 ハラスメント委員会の結論で、問題は終わったのか
Tはこの出来事を法人のハラスメント委員会へ報告した。その後、「ハラスメントには当たらない」との結論を知らされたという。
ここでもTが求めているのは、「必ずハラスメントと認定してください」という結論だけではない。
なぜ衛生上の問題への不対応が「優しさ」と説明されたのか。
問題を指摘した職員が、その結果として自らの人格を否定されたような苦痛を感じる対応になったことをどう評価したのか。
管理職として適切なコミュニケーションだったのか。
Tの精神的負担を踏まえ、職場環境上どのような改善を行ったのか。
という検証である。
「ハラスメントではない」という判定と、「管理上問題がなかった」という判定は同義ではない。仮にハラスメントに該当しないとしても、職場環境改善の必要性まで消えるわけではない。Tがこの件を問題にし続ける理由はそこにある。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
9 一次的な問題に「二次的ストレス」が重なる
Tにとって、
未払い賃金。
患者カルテの揶揄。
ポッキー事件。
焼肉事件。
などは一次的なストレスだった。
しかし、その後、
返事が来ない。
回答が抽象的。
根拠を尋ねても示されない。
何を調査したか分からない。
謝罪がない。
上位管理職へ相談すると、自分自身の人格を否定されたように感じる。
ハラスメント委員会へ訴えても、その苦痛がどのように職場改善へ反映されたのか分からない。
という対応が重なる。
Tは、問題そのものによるストレスに、問題処理をめぐる二次的なストレスが重なったと説明している。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
10 なぜO部長が相談窓口なのか
Tは当初、職場環境改善についてS元法人技術部長へ相談していた。その人物が急逝した後、O部長が対応を引き継いだ。
しかしその後、Tが改善を求める問題の中に、
O部長自身の回答内容。
O部長自身の問題評価。
O部長が行った調査や対応。
が含まれるようになった。
そこでTは別の上位者を相談窓口にしてほしいと申し入れた。
Tの主張は、「O部長が自分の希望する答えをくれないから嫌だ」ではない。O部長自身の対応が検証対象になっているのに、その本人が検証の窓口と回答者を兼ねることが適切なのかという中立性の問題である。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
11 抗議文への回答で、T自身の落ち度が先に書かれる
TがO部長への不信を強めた理由の一つに、Y主任への抗議に対する回答書がある。
Tによれば、回答の冒頭に、その抗議内容とは直接関係しないT側の過去の問題が記載された。その後にTが抗議した内容への回答が続いた。
Tには、「問題を指摘しているT自身にも問題があります」という印象を先に与えることで、Tの問題提起そのものの信用性を下げようとしているように感じられた。
仮にTに別の問題があるなら、それは別途検証すればよい。
Tに別の問題があるかどうかと、Y主任の発言が適切だったかどうかは、別問題である。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
12 2026年8月12日、「会社の決まりを変えるのは大変です」
Tは入院患者への栄養指導について、包括的な医師の指示による現在の運用が、診療報酬上本当に適切なのか。その根拠を文書で示してほしい。と法人へ求めている。
2026年8月12日の面談記録によれば、M課長から、「会社の決まりを変えるのは大変です」との趣旨の返答があった。しかしTが尋ねていたのは、「自分の希望に合わせて会社のルールを変えてほしい」という話ではない。
現在の会社のルールが、法令や診療報酬上の要件に適合しているのか確認したいという話である。
本来は、
外部の法令・算定要件を確認する。
それに適合する社内ルールを作る。
という順序ではないのか。
適切なら根拠を示せばよい。
適切でないなら、変更が大変かどうかとは別に、是正を検討する必要がある。
ChatGTPにて生成したイメージ画像
8月12日面談文字起こしと不当労働行為に該当する管理職M課長の発言
【Y主任】
[00:08] そこは私たちが代行でやっているんですね。
【T】
[00:12] おかしくないですか。
【Y主任】
[00:12]一応、代行でやっていることで、その代行をするために、栄養管理の必要性ありていう包括的な指示を最初にもらっているんです。
【T】
[00:20] じゃあ、患者さんは、栄養指導が必要かどうか、別に先生に言われたわけでもないのに、勝手に私たちが栄養指導に行って、栄養指導を受けられて。それによっていったら、費用もかかるじゃないですか。そこに関しては、患者さんに不親切なところはないんですか。
【Y主任】
[00:50] なので、包括的に指示をもらっているということを、私たち勝手にやっているのではなくて、医師が指示をしていて、そして私たちは、その代行で指示を立てたりとか、いろいろして、全部、医師の代行でやっているんです。その代行でするために、包括的な指示をもらっているんです。分かりますか。
【T】
[01:14] 分かりますけど、例えば、もし包括的な医師の指示で、レントゲン撮っていいよってなって、勝手に取るみたいな感じ。
【Y主任】
[01:23] レントゲンの事は言われてもあれですが。
【T】
[01:27] でも、診療の行為じゃないですか。だから、きちんと先生が「この人は栄養指導が必要です」。でもこの人は、それこそ98歳とかだし、これから退院する先が施設とかだし、家族さんが家で調理するとか、本人が調理するとか、その、98歳で栄養状態は心配だけれども、その本人さんに何か改善が必要ですよ、というところではない」というふうに、こうやって言ってはったとしても、栄養管理の必要性が「あり」になっていたら、私たちは、先生から「そういう患者さんで、栄養指導をさせてもらっていいですよ」というふうな指示をもらっているので、あの栄養指導しました、でも構わないということですか。
【M課長】
[02:23] なんで、さっきも、法人のルールがそういうふうになっているので、それを、あのー、覆すとか、「いや、そうじゃないよ」っていうのであれば、なかなかそれって、すごい労力やと思うんですよね。昔から、どういうふうに決めていって、「こういうやり方でやってください。間違いないです」って言われているのに、「いや、それが違うでしょう」っていうたって、今度どうしましょうってなると思うんですよ。なので、あのー、※我々は法人から雇われて、そういうふうに決められたルールのもとでやっているんで、それに対してどうのこうのって言って、あのー疑問を投げかけるのはまあいいですけど、それに従わないというのは、ちょっと違うんじゃないかなと思うんですよ。
※不当労働行為に該当する管理職M課長の発言
【T】
[03:04] 私は従わないとは言っていなくて、すごくその部分が疑問に思っていますし、実際、患者さんに費用の説明を、費用がかかることじゃないですか。それはどういうふうに、なんかこう、説明とか。
【M課長】
[03:24] 患者さんに栄養指導をするということは、いいことやと思うんですよ。やっぱり、すべての患者さんに栄養指導をしてあげるというのが、やっぱ患者さんの健康面も考えて、※退院も早く、早められると思うので。
※栄養指導は退院後の食事管理に関するので実施有無で退院が早まることはない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
13 「適切です」では、なぜ適切なのか分からない
Tによれば、O部長、M課長、Y主任、M主任らから、現在の入院患者に対する栄養指導は適切であるとの趣旨の説明が繰り返されている。
しかしTが求めているのは結論ではない。根拠である。
厚生労働省のどの通知か。
診療報酬のどの算定要件か。
患者ごとの医師指示はどこに記録されているのか。
法人の正式な運用文書は何か。
Tは、「私が正しいと認めてください」と求めているのではない。客観的資料を示して、自分自身でも確認させてほしいと求めている。
「適切です」と繰り返すだけでは、適切である理由は分からない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
14 これを「不誠実」と感じる理由
ここまでの出来事を一つずつ見れば、
単なる説明不足。
担当者間の行き違い。
言葉の選び方。
と説明できるものもあるかもしれない。しかし、
未払い賃金。
患者情報。
衛生管理。
患者給食。
ハラスメント相談。
栄養指導。
医師指示。
と、分野の異なる問題について繰り返し、結論は示されるが、根拠が示されない。
今後の対応は語られるが、過去の原因が十分に検証されない。
誰が何を調べたのかが分からない。
問題となった管理職本人からの十分な説明や謝罪がない。
という状態が続いているのであれば、Tがこれを単なる説明不足ではなく、組織として不誠実な問題処理が続いていると受け止めるに至った経緯には理由がある。
本稿が「法人は不誠実だ」と一方的に断定するのではない。読者には、ここまでの具体的なやり取りから判断してほしい。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
15 現場だけの問題なら、法人が是正できる
もし問題が現場の一部管理職だけにあったとする。
法人本部が調査する。
必要な指導をする。
相談窓口を変更する。
再発防止策を作る。
結果を説明する。
必要なら謝罪する。
そうすれば、「現場で問題は起きたが、法人のガバナンスは機能した」と評価する余地がある。
しかし法人本部まで問題が伝わった後も、
根拠が示されない。
調査内容が分からない。
責任主体が曖昧。
調査対象となり得る人物が窓口を続ける。
という状態なら、問題は栄養管理科だけではなくなる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
16 社会医療法人の公益性は、問題が起きた後に試される
社会医療法人には制度上、「公的な運営に関する要件」が設けられている。
ここで重要なのは、「この職場問題があるから、直ちに社会医療法人認定要件への違反が確定する」と短絡することではない。
むしろ問いたいのは組織としての姿勢である。社会医療法人だからミスを起こしてはならないのではない。
ミスや疑義が生じたとき、公益性を掲げる法人としてどのように向き合うのか。そこが問われる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【エピローグ】
Tが法人に求めていることを短く言えば、
問題があれば調べてほしい。
間違いがあれば認めてほしい。
必要なら謝ってほしい。
直してほしい。
そして、なぜそう判断したのか説明してほしい。ということである。
しかし、その「説明されない」という問題は、次に扱う栄養指導ではさらに重大な意味を持つ。
なぜならそこには、患者に実際に行った医療、電子カルテに残された記録、患者自身の負担、そして公的医療保険から支払われる診療報酬が関わってくるからである。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【公的資料】
- 厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」
相談体制、事実関係の確認、相談者への配慮、再発防止等に関する制度理解の参考に使用。 - 厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」
ハラスメントに該当するか微妙な場合も含め、相談へ適切に対応する必要があることなどを確認するために使用。 - 厚生労働省「社会医療法人の認定について」
「公的な運営に関する要件」を含む社会医療法人制度の確認に使用。 - 厚生労働省「社会医療法人の認定について」(医政局長通知)
社会医療法人の税制上の位置づけについて確認。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【資料について】
本稿では、法令・制度については厚生労働省、個人情報保護委員会等の公的資料を参照しています。個別の職場内出来事については、Tが保有する文書、写真、電子メール、勤務記録、録音、電子カルテで確認した内容、法人への申入書、法人からの回答書等に基づいています。公的資料から直接確認できない個別の事実については、Tの申告・記録に基づくものであることが分かるよう本文中で区別しています。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【取材・お問い合わせについて】
本連載は、現時点でTが保有する文書、写真、勤務記録、録音、電子カルテで確認した内容、法人へ提出した申入書、法人からの回答書等に基づいて問題を提起するものです。
法人側の見解を確認できていない事項については、Tの申告・記録に基づく内容であることが分かるよう記載しています。
本稿は、Tの傷病と個別の職場上の出来事との医学的因果関係を独自に確定するものではありません。Tが、職場上の出来事とその後の法人・管理職による対応をストレス要因として訴え、心療内科への通院、傷病休暇に至った経緯を記載しています。
未確認事項について、犯罪、カルテ改竄、不正請求、ハラスメント、隠蔽その他の違法行為が確定したものとして断定するものではありません。
関係資料については、患者および職員の個人情報、診療情報その他の機微な情報を保護したうえで、必要性と相当性を確認し、可能な範囲で提示します。
当該社会医療法人から具体的な説明、反論または資料の提示があった場合には、その内容を確認し、必要に応じて記事を追記・訂正します。
本連載の目的は、特定の個人を攻撃することではありません。問題の事実関係を検証し、職員が安心して働き、患者が安心して医療を受けられ、法人自身が公益的な立場にふさわしい、より健全な組織になることを求めるものです。
メディア関係者、医療・労務・法律関係者からの取材およびお問い合わせを受け付けています。
notohantou2024(アットマーク)gmail.com






