突然、親父から電話があって、


俺は一方的に怒鳴られた…。






俺がなかなか迎えに行かなかったからなのか、

妻は、俺の親父に電話して相談したようだった…。





妻は、とても外面が良い。







俺は、どちらかと言えば、


プライベートではぶっきらぼうな方だった。





悔しいやら…、


情けないやら…、

俺の親父は、


そんな俺の言うことを、


全く信用してくれなかった……。





親父に何を言われようと、


俺は迎えに行く気はなかったけど、

生まれてくる子どものことを考えると、

やはり俺が折れるしかないようだ……。






仕方なく、俺は、妻を迎えに行った…。






不本意だったけど…、


やはり仕方なく…、


俺は妻の両親に対し、

妻と子どもが厄介になったことは事実だったから、


ちゃんと詫びを入れた………。





すると、妻の両親は、


わざわざ、子どもを奥の部屋から連れてきて、

その様子を子どもに見せつけるようにしたんだ…。





そんなことをする必要が全くないし、


俺には理解できなかった。




おそらく…、


そうやって、父親の威厳を削いできたんだろう…。





そんなことをして、何の徳があるのか?





もはや、妻の両親には、


シングルマザーの娘と孫の一生を


一手に引き受けた俺に対して、


もっと言うと、


もらってくれてありがとうという気持ちは、


全くないのだろう…。






俺は、さっさと妻と子どもを連れて帰った。





妻は、相変わらず、嫌味タラタラだった…。





俺は、一言だけ言っておいた。



「嫁に出た娘を、


 その都度かんたんに受け入れる実家って

 

 やっぱり変だと思うぞ。」





妻は、



「かんたんに受け入れてるんじゃない。


 そんなことも分からないの?」





俺は、



「お前が子どもを連れて家出して、


 家に帰れって言われたことあるか?」





妻は、



「………。」






いつも簡単に受け入れてるんだよ。


お前の実家は。



結婚して家を出たって意味を、


全く理解できてないんだよ。


お前の両親は。




そう言いたかったけど、言わなかった……。





よく考えれば、そりゃそうだ。



だから、姉妹揃って、すぐに離婚してるんだ。




妻の母親は、結婚するときに、


やはり妻の父親を自分の地元へ


連れ込んだ経緯がある。




妻の姉も二度目の結婚のときは、そうしてる。




つまり、妻の家族にとって、


実家は、いつでも受け入れてくれる場所だから、

結婚して家を出るということに、


何も感じていないんだ。





いろんなことを思いつつ、


それでも生まれてくる子どものことを考えて、

俺は、妻と子どもを連れて、我が家へ帰った。

妻によると、



「私が妊娠中なのに、そんな話をするなんて許せない。」


とか


「子どもが怖がって泣いてた。」


ってことだった。






確かに、時期的にその怪談話は


不適切だったのかもしれない…。



子どもが怖がるのも分かる…。


少し可哀そうなことをしたかもしれない…。





でも、所詮、怪談話だし、


そもそも、何で実家へ帰るんだ?




たったそれだけのことで実家へ帰るか?



何かと因縁をつけて、


ただ実家に帰りたいだけじゃないのか?






俺は、呆れて、馬鹿馬鹿しくなって、


それ以上、話をする気はなくなった…。





そんな状態だったから、


俺は、妻を迎えに行くことは考えていなかったし、


妻にもそう言った。





妻は、


「やっぱり無理。もう無理だよ。」


と言ってきた。




俺は、

「無理って離婚ってこと?妊娠してるのに?
 
 ……。勝手にすれば。」






思い出した!



妻も妻の姉も、


結婚して、


妊娠してから、


すぐに離婚していた。




妻と妻の姉は、


そうやって生きてきた女だった…。





そう、妻と妻の姉は、


子どもができたら、


きっと男は用済みなんだ。




だから、出産後、すぐに離婚をしていたんだろう。




今回の結婚も、きっと同じなんだろう。




俺は、妻と妻の姉のような女について、


こう名付けた。





「カマキリのメス症候群」





オスと交尾をして、


卵を産んだら、


そのオスを食べて栄養にするという…。




子どもができれば、


あとは、金さえ貰えれば、


その男に用はない…。






まさに、妻は、カマキリのメス症候群だ!






いずれにしろ、


俺は、頭を下げて迎えに行くことは、


全く考えていなかったし、

できるもんなら本当に離婚してみろ!


って思っていた……。



玄関、アームロックはないでしょ?



マンションの入口はオートロックなんだし、


そこまですることないんじゃない?





俺は、子ども部屋の窓を外からコツコツ叩いて、


子どもを起こしてドアを開けてもらった…。



「眠いのにゴメンね。


お父さん、少し寝かせて。


一緒に寝ようか?」





そのまま子どもと一緒にベッドに入って、


俺は、すぐに爆睡した…。







そして、起きてみると……、


家に誰もいない………。






しばらく待っても帰ってこない…。





妻の携帯電話もつながらない…。






なんで?






妻の実家に電話したら、


妻の母親が出て、


なぜか怒っていた。






さっぱり意味が分からない…。






なんとか妻と話をさせてもらった。




どうやら、俺が帰宅して、


子どもの部屋で寝ていたことが、


気に入らないらしい…。





確かに、俺は酒を飲むと、寝相が悪い…。



俺の寝相は、部屋中を激しく動き回るようだ…。




俺の寝相が悪くて、


子どもが困っていたところに、


妻が起きてきたらしく、

その様子を見た途端、


妻は子どもを連れて実家へ帰ったようだ…。






さらに話を聞くと、


どうも俺が子どもに怪談話をしたらしい。






思い出した!



そう、俺が小学生の頃に流行っていた

「コインロッカーの赤ちゃん」


っていう怪談話を確かにしていた。





ご存じだろうか?


コインロッカーに赤ちゃんが入っていて、

それを見つけた人が、


「誰がこんなことしたんだ?」


ってセリフがあるんだけど、

その赤ちゃんが、


「お前だー!」

ってセリフで終わる怪談話。




子ども心に、怖かった記憶がある。





そうだ。


俺は、子どもが、


「何かお話しして。」


ってせがんできたから、


「じゃあ、怖い話をしてあげる。 

 

 怖いから一緒に寝よう。」


って流れで話したんだった。






でも、これって、ただの怪談話なんだけど、


子どもに怪談話をすることって、


そんなに許されないことなのか……?

マンションへ引っ越してから


また新しい生活が始まった。





引っ越して間もなく、


俺は、転職した会社で働き始めた。




入社してしばらくは、本社勤務となっていたので、


通勤に時間がかかって、ちょっと苦痛だった…。



バス停まで3分ほど歩き、


駅までバスで行き、


そこからは、電車での通勤。





でも、帰りは早かったので、


一般的な父親の生活ができた。





しばらくして、約束どおり、


勤務先は、近くのオフィスへ移った。




それでも、バスと電車の通勤に変わりはなかった。





まさに、絵に描いたように


一般的なサラリーマンだった。




年収は、平均よりもかなり高かったので、


割とゆとりのあるサラリーマンかも…。





休日は、近所の公園や海辺へ行って、


子どもと一緒に遊んで過ごした。





妻は、出産を控えていたので、


子どもは、いつも俺が遊んであげていた。





俺の血が流れていない子どもだったけど、


妻も安心して、俺に任せていたようだった。




俺も、当たり前のように、


もはや完全に自分の子どもとして接していた。





怒るときは怒ったし、


褒めるときは褒めたし、


遊ぶときは遊んだ。






子どもは、新しい小学校で


早くも友だちができたし、

その友だちを家に連れてきて遊んだり、


近くの公園で遊んでいた。






そうやって、穏やかな日々が流れていた。






そのころ、俺は、


俺を引き抜いてくれた上司から、

他にも優秀な人材を探すように


密かに頼まれていたので、

前の会社の部下にモーションを掛けていた。





ある日、その中の一人と飲みに行って、


直接話をしたことがあった。




その男は、俺が声をかけることを待っていてくれたようで、


スムーズに話がまとまった。




そのまま、その男の家へ


遊び(飲み直し)に行くことになった。


もう、かなり遅い時間になっていたから、


そのまま泊まることになるので、

妻に電話をしたら……。





「女と一緒なんじゃないの?」


と、あからさまに疑いを持たれていた…。




すかさず、部下だった男に電話を代わって、


事情を説明してもらい、


ようやく誤解が解けた…。




「始発で帰るから。」


「帰ってくるの、遅くていいから。」


「子どもと遊ぶから、始発で帰るよ。」






翌朝、始発で帰ると、


玄関にアームロックが掛けられていた………。




これじゃ、入れないじゃん!

風邪でも花粉症でも、


新婚旅行中になるってだけで憂鬱……。





薬局で買った薬を飲んで、


気分を取り直して、再び運転。





海岸沿いのドライブで、


海を見ながらの新婚旅行。





途中で海に寄ったり、


オルゴール館へ行ったり、


早い桜を見たり、

他にもいろんなところに寄って、


道中を楽しみながら、ようやく旅館に到着。






………。





全て妻に任せていたけど、予想に反して、

見た感じ、ちょっとショボイかも……。





でも、まあ、温泉は良かった。



料理も良かった。



かなりゆったり過ごせた。





お土産も買ったし、


さあ、次の温泉地へ移動だ。






今度は、山の中をドライブだ。





かなり有名な温泉地だから、


平日でも道が混んでいた…。



それでもスムーズに旅館へ到着。




この温泉地は、


まだ妻がシングルマザーだった頃に、


妻の子どもを連れて一緒に来たことがあった。





夫婦二人で来るのも、また良いもんだ。





この旅館は、


見た感じ、まあまあ良かったから安心した。





温泉は最高だった。



料理も最高だった。





結局、一泊追加したくらい良かった。





旅館に泊まりながらも、


日中は、やっぱり色んなところに寄って楽しんだ。






妻が事前にリサーチしてくれたから、


それなりに楽しめた。





湖に行った。


船に乗った。


もはや、オルゴール館は定番になっていた。


記念に、自動演奏のかわいいオルゴールを買った。



他にも地元の名産品をいくつか土産に買った。






俺の人生で、


あれほどゆったりと過ごしたことはなかった。




本当に最高の新婚旅行だった。





まあ、ちょっとケンカになったけども、


やっぱり新婚旅行のパワーだ。


すぐに仲直りさせてくれた。






少なくとも、


海外旅行に3回は行けるほど、


たくさん金を使った。




それでも高かったとは、


全く思えない新婚旅行だった。






その旅行中は、


シングルマザーとの結婚ってことを、


全く意識することがなかった。





妻の両親に子どもを見てもらったから、


できた新婚旅行だった。




そのときほど妻の両親に感謝したことはなかった。






もっとも、


そのときが妻の両親への


最後の感謝になったんだけど………。