突然、妻が出て行って、

妻の母親から離婚通告があって、

子どものお見舞いにも来なかった……。





俺は…、



やり場のない怒り。


先行きが見えない不安。


子どもの病気の心配。



頭がいっぱいになって、

全く寝つけなかった……。








そういえば、

子どもが入院したから、

すぐに子どもの保険証が必要になって、

子どもの名前を決めなきゃならなかった。



いくつか考えてあった候補の中から、

俺は、直感で決めた。





俺は、初めて出生届を役所へ出した。





シングルマザーとの結婚だったから、

俺は、妻の連れ子を養子縁組していた。




だから、子どもの出生届のときには、

俺と子どもの続柄を、

「第二子」と思って提出した。






妻が家を出て行った翌日。



役所から電話があった。





どうやら、出生届に記載ミスがあるらしい。



子どもは、

俺と妻の「第二子」ではなく、

「第一子」になるらしい。




妻にとっては、二人目の子ども。



俺にとっては、初めての子ども。


でも、養子縁組してたから、

俺にとっても、二人目の子ども。




ところが、戸籍上では、

父親や母親のどちらかが違えば、

その両者にとっての第一子となるようだ。


なるほど。勉強になった。




でも、妻の姉は、

同じ経験をしていたわけだから、

妻は知っていても

おかしくないんじゃないか?


という、素朴な疑問はあった…。






結局、訂正が必要だったから、

役所へ行かなきゃならないんだけど、

提出したときの印鑑じゃなければ、

訂正できないとのことで、

その印鑑は、妻が持ったまま、

家を出てしまっていた……。







すぐにでも、妻から、

印鑑を返してもらわなくちゃならない。





でも、妻とは、連絡が取れない………。



妻が突然、メモだけを残して

家を出て行ったこの日、

妻は、赤ちゃんのお見舞いに

結局、来なかったんだけど、

妻の母親は、その電話で、

赤ちゃんの様子を聞いてもこなかった…。






離婚話をする前に、

まずは、赤ちゃんじゃないのか?






やっぱり、俺には、

妻の母親の思考が理解できなかった…。





妻の母親が聞こうとしないのであれば、

赤ちゃんの母親である

妻が気になるはずじゃないのか?




親であれば、


自分の耳で聞きたくなるはずだろう。






せめて赤ちゃんの様子だけでも聞いてくれとか

頼んででも聞くんじゃないのか?







病院に電話で聞こうとしても、

入院患者の病状なんか

電話では教えてくれないはずだ…。






妻や妻の母親は、

赤ちゃんの病状を

気にならないんだろうか…?







「とにかく、離婚をさせます。」




それだけで済む話だろうか…?







この時点での俺は、

離婚をする気なんか全くなかった…。





ただただ、妻や妻の母親に、

全く気にもかけもらえない赤ちゃんのことが

不憫で可哀相だった…。


とにかく、赤ちゃんの身体が、

一番心配な時期だったんだ…。







そんなときに、離婚の話なんか

考えられるはずもない。







赤ちゃんが、そんな状態にも関わらず、

突然、離婚話をしてくるような

妻や妻の母親のことを、

考える必要なんか全くないだろう…。







そもそも、妻の母親が、

「離婚を認める。」

なんて言ってくること自体、

おかしいことだろう!





やっぱり、理解不能な人種だ………。



夜の22時過ぎにかかってきた、

妻の母親からの電話の内容は、





「娘と話しまして、

 今まで時間がかかりました。

 娘は、あなたと離婚したいというので、

 私たちは、それを認めました。

 今後は、離婚の方向で話を進めますんで。

 じゃあ、そうゆうことで。

 

 ガチャッ。」






これだけだった……。





俺は、妻の母親から、

一方的に話をされ、

一方的に電話を切られた…。



全く何も言う暇すら無かった…。






俺としては、


もしかしたら、妻は、

マタニティブルーなんじゃないか?


って、考えていたほどだった。






でも、それはないと分かった。






もし、妻がマタニティーブルーだったとしたら、

妻の母親が気づくはずだろう。



いつもと違う様子であれば、

そんな状態で決められることじゃないだろう。






妻がマタニティブルーだとしたら、

妻の母親が取るべき対応としては、


「娘が精神的に参っているようで、

 今は、情緒不安定だから、

 ご迷惑をお掛けしないようにするために、

 しばらく、私たちに預からせて下さい。」


とでも言ってくるだろう。






しかし、妻の母親は、

半日も妻と話した結果、

俺との離婚を認めた

なんて言ってきたんだ。





妻の母親が一方的に、


離婚話を持ち出してきた以上、

妻がマタニティーブルーだとは考えられない。






少なくとも、


マタニティブルーじゃないはずだ。





それでも、


妻がマタニティーブルーだとしたら、

妻の母親は、


親として失格だというより他にない。




もしかしたら、


これまでの妻の母親の言動からして、

理解できない人種だから、


有り得るのだろうか…?






いや、やっぱり、それはないだろう…。

どう考えてもおかしいだろう…。







こうやって、妻と妻の母親は、


俺に離婚を突きつけてきたんだ……。




俺は、赤ちゃんが髄膜炎で入院している


病院へ向かった。




妻と一緒に搾乳して、


冷凍しておいた母乳を持って行った。


その量は、ほんの数滴分だけだったけど、

それでも、少しだけでも、


赤ちゃんに飲ませあげたかったんだ。




俺の両親も、赤ちゃんが心配で、


一緒に行くことになった。






かすかだったけど、

妻がお見舞いにくらいは、


来ているんじゃないか?

って、思っていた俺の予想は…、


見事に外れた……。






決められた面会時間、


赤ちゃんと一緒にいた。



でも、どうしても、


突然妻が出て行った事実が


頭から消えなかった。



しかも、全く理由も分からない


わけ分からない状態だったから、

どうしようもなく


不安な気持ちだった…。





俺は、そんな気持ちが、


赤ちゃんに伝わってしまったら、

髄膜炎の症状が悪化するんじゃないか?

って、妙な考えも出てきていた…。






1回目の面会時間が終わろうとしていたけど、


結局、妻は現れなかった…。








2回目の面会時間が来たから、


再び、俺は、赤ちゃんの面会に行った。








やはり、妻は、来なかった……。







何で赤ちゃんの面会に来てあげないんだ?




赤ちゃんが、たった一人で、


髄膜炎と闘っているのに、

母親がお見舞いに来ないなんて、


どう考えても、おかしいだろ!

許されないことだろ!







俺は、妻が、メモ用紙なんかに書き残して、

入院中の赤ちゃんのお見舞いにも来なくて、

突然、家を出て行った妻が理解できなかったし、

とにかく許せなかった。






2回目の面会時間が終わるころ、


俺は、看護師さんへ話をした。



「明日、先生に大切な話があるって


 伝えておいて下さい。」







妻は、赤ちゃんのお見舞いに来なかったんだ…。



そうなれば、ちゃんと医者には、


事情を話さなければならない……。






俺は、翌日、医者に話す内容を考えながら、


自宅に帰った。









そして、22時過ぎのことだった……。









妻の母親から、自宅に電話があった………。



「申し訳ありませんが、実家へ帰らせて頂きます。」





たったそれだけ書かれた


小さなメモ用紙が、

誰もいないリビングにある


テーブルの上に

ただ置かれていただけだった………。






俺は、我が目を疑った。





つい10分前に、


電話で話したばかりだ。




もう少ししたら、


髄膜炎で入院している


赤ちゃんのお見舞いへ


一緒に行くことになっていた。




搾乳した母乳は、


冷凍庫に入れたままだった。





難産の後に、


赤ちゃんが髄膜炎で入院して、

疲れているから、


休ませていただけだった。




田舎からは、俺の両親が、


赤ちゃんのお見舞いに来ていた。




俺の母親と妻の母親に、


妻のサポートを頼んだばかりだった。







いったい何が起こったのか…、


さっぱり分からなかった……。







俺の両親も、


言葉が出なかったようだ…。







気を取り直した俺は、


すぐに、妻の携帯電話へ連絡したけど、

電源が切られているようだった…。



メールを入れたけど、


やはり返信は来なかった…。






妻が、実家へ帰った?




妻の車は駐車場に置いたままだ。





どうやって帰ったんだ?





妻の実家までタクシーで帰るとなると、


相当な金額になるはずだ。



その時間のバスの本数は、


かなり少ない。





どうやって帰ったんだ?









俺は、妻の実家へ電話をしてみた。





誰も出ない……。






そういえば、妻の両親が帰るとき、

何やら怪しげな会話と


怪しげなサインを出していた…。




なるほど…。





妻の実家もグルになって、


計画的な行動なのか……。








とにかく、赤ちゃんの面会時間が


終わってしまうから、

俺は、一人で赤ちゃんの面会へ向かった………。