テレメンタリー2011「汚名 ~看護師爪切り事件の真相~」の感想 | 労働組合ってなにするところ?

労働組合ってなにするところ?

2008年3月から2011年3月まで、労働組合専従として活動しました。
現在は現場に戻って医療労働者の端くれとして働きつつ、労働組合の活動も行なっています。

あまり知られていない労働組合の真の姿(!?)を伝えていきたいと思います。

テレビ朝日のテレメンタリー2011という番組で、爪ケア事件が取り上げられました。

「汚名 ~看護師爪切り事件の真相~」と銘打ちまして、病院の拙速な記者会見、行政の病院からのみの聞き取りによる虐待認定、過熱する報道、そして逮捕といった経緯を紹介し、30分枠の中に問題点をぎゅっと凝縮して、わかりやすくまとめたという印象を受けました。


映像という点で効果的だと思ったのは、実際に寝たきりのお年寄りの爪の様子を紹介したことです。

身近にお年寄りがいないとなかなか見ることがないであろうと思われる、1センチメートルほど盛り上がった肥厚爪、隣の指に刺さりそうになっている曲がった爪、指に食い込むように曲がった爪などが映し出され、実際にその爪を切っていく様子も映されました。

そして、専門の医師が、お年寄りの爪は処置が必要だが、処置によって毛細血管から出血をしやすいということも述べていました。


また、病院が拙速な記者会見を行なってしまった原因についても振り返られていました。

まずは、院内の人間関係のことが挙げられました。この事件の被告となった上田看護師は別の病棟から看護課長として着任して日が浅く、まだ部下とのコミュニケーションが十分ではなかったということです。そして、部下3人が上田さんの爪ケアを爪を剥がした虐待だと騒ぎ立てた訳ですが、直接爪を剥いだところを目撃した訳ではなく、法廷での証言もあいまいだったそうです。

当時の看護部長は、院長と一緒に看護師が「剥がした」と騒いだ爪を確認し、はがしたのではなくケアだと判断し、院長も「ケアだね」「きれいな爪だね」と確認していたと証言しました。騒いだ看護師達は、フットケアというものを知らないし、本を読んだこともなかったのだろうとも述べていました。

ですが、法人本部が主導して記者会見を行なってしまい、爪を剥ぐという虐待だった発表してしまったそうです。映像の中でも、病院側は実際に剥がすところは目撃されていないし、本人も否定しているという、虐待の根拠があいまいであることを示す発言をしていました。

なのになぜ記者会見を行なったかというと、2004年に京都で看護師による爪剥ぎ事件が起こっていたため、風評被害を防ぐために会見を急いでしまったということでした。


また、取り調べの問題も指摘されました。

長いときには1日8時間を超える取り調べが行なわれ、供述調書にサインをしなければその日が終わらないと追い詰められ、自分の考えとは全く違う供述調書にサインをしてしまった、根負けしてしまったと上田さんは述べていました。

裁判を担当した東弁護士は、上田さんはマインドコントロール状態にあり、この人たちの言うことを聞かなければならないと追い詰められていたと説明しました。

当時の看護部長も、検察と何度も話したが、「自然剥落以外はすべて剥がす行為だ」と言われ、剥がしたのではないと認められなかったと述べています。

上田さんの供述調書は、二審では捜査員の誘導の疑念が拭えないとして証拠採用されませんでした。


事件のことを知った医師や看護師が、このままでは患者さんへの爪ケアが萎縮してしまうと懸念して、支援を行なったことも紹介されました。正当な判決を求める署名は3万筆以上集まったそうです。


そうした支援の広がりや、家族の支えがあり、上田さんは二審で「看護師としての正当な業務行為であった」ことが認められ、無罪を勝ち取りしました。現在は市内の小児科で看護師として働いていらっしゃいます。

ですが、まだ解雇された病院との民事訴訟や、北九州市の虐待認定の取り消しを求めるたたかいなどが続いているそうです。


全体的に見て、重要な問題点はしっかり押さえてありますし、映像も効果的に使われ、しかも30分というコンパクトさなので、この事件について広く伝えていくうえで適切な材料となると思います。ぜひ再放送して、もっと多くの方に観ていただきたいですね。


爪ケア事件についての当ブログの最近のエントリーは以下になりますので、よろしければ合わせてお読みください。


「看護師爪ケア事件・逆転無罪判決の経過と真相」(「医療労働者」より)

http://ameblo.jp/sai-mido/entry-10776009588.html