「委任販売員は労働者に当たる」ジャノメミシンに是正勧告(連合通信・隔日版などより) | 労働組合ってなにするところ?

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2008年3月から2011年3月まで、労働組合専従として活動しました。
現在は現場に戻って医療労働者の端くれとして働きつつ、労働組合の活動も行なっています。

あまり知られていない労働組合の真の姿(!?)を伝えていきたいと思います。

使用者が時間外労働手当の支払いを免れるため、実際には”経営者と一体”の権限を持つとは言えないような労働者に役職名だけ立派なものを付けて”管理監督者だ”と言い張る「名ばかり管理職」は大きな批判を受け、既にその違法性はよく知られてたものとなっています。(実際に労働現場での是正が徹底しているかとういと、そうとまでは言えないと思いますが)

そして、次に問題として浮上しているのが、使用者が社会保険料の事業主負担や年次有給休暇の付与の義務などを免れるため、実際には直接雇用の労働者と変わりない労働実態にあり、会社の指揮命令を受けているのにも関わらず、契約上は”個人事業主”だから労働者ではないと言い張る「名ばかり事業主」問題です。

この場合、曲がりなりにも契約としては”業務委託契約”や”請負契約”となっているため、労働基準監督署や労働委員会は実態からみて労働者性があると判断して救済しようとしても、裁判所が契約の体裁を重視して救済を取り消してしまうという事例も見られます。

この度、ジャノメミシンの「委任販売員」については労働基準監督署が是正勧告を出しましたが、会社が裁判に訴えた場合はどうなるかわかりませんし、解決までに長い時間が掛かることになってしまいます。

こうした問題に対して、裁判でも勝てるような理論武装をすることも重要ですが、「名ばかり事業主」は脱法行為だという社会的認識を広げ、裁判に持ち込むことが会社のイメージダウンになる状況をつくり、労基署の段階で解決されるようにしていくことも必要なのではないかと思います。


では、ジャノメミシンの委任販売員についての詳細は、「連合通信・隔日版」の記事を引用させていただいてご紹介します。引用部分は青で表記します。



八王子労基署  「委任販売員は労働者に当たる」

ジャノメミシンに是正勧告  会社の実態調査も指示

連合通信・隔日版  2011年2月3日付  No.8421  p5


 ミシン・メーカー「蛇の目ミシン工業」(東京都八王子市)の委任契約で働く販売員について八王子労働基準監督署は1月31日、労働基準法上の労働者に当たるとして、同社に是正勧告を行った。全国の「委任販売員」について調査するよう指導も行った。販売員側は、今回の措置を労働法適用を逃れる「名ばかり事業主」の問題解決につなげたい考えだ。

 労基署に是正を申し立てていたのは、八王子支店などで働いているジャノメミシン直営店ユニオン(派遣ユニオン)の組合員3人。

 ユニオンによると、「委任販売員」は、売上の16%が報酬となる個人事業主扱いだが、朝礼に参加するなど正社員と同じように管理拘束を受けて働き、実態は労働者だった。雇用保険・社会保険に加入できず。残業代や有給休暇もない。少ないときは月収が1万円弱の販売員もいたという。

 「委任販売員」らが2008年11月、ユニオンを結成。賃金支払いや雇用保険の加入などを求めて会社側と交渉を行ったが、会社は一貫して「労働者ではない」と要求を拒絶。これに対し組合は労基署に是正指導を求めていた。

 八王子労基署は、3人の労働者性を認め、未払い賃金の支払いと年休付与などの是正措置を勧告。あわせて、労働条件の明示と全国にいる約200人の「委任販売員」についても同様の実態があるのではないかとして、調査・報告するよう会社を指導した。

 派遣ユニオンの関根秀一郎書記長は、有休や雇用保険の加入など労双方の適用を逃れるため、労働者を「名ばかり事業主」扱いする企業が増えていると指摘。「同様の脱法行為を行う企業に対しても、今回の指導の意義は大きい」と話している。


また、今日の東京新聞にもこの件についての記事が掲載されていたので、一部ご紹介したいと思います。社員と同じ仕事をしていたということが具体的に示されている部分です。



「名ばかり事業主」に待った 「蛇の目ミシン」委任販売員  労基署が是正勧告

東京新聞  2011年2月8日(22面)


(前略)


 個人事業主なら自由に働けるはずだが、実際には毎日午前八時半までに支店に出社。掃除を済ませた後、午前九時からの朝礼に出席しなければならない。営業に出る前には予定などを書いた日報を提出。外回りの最中にも電話連絡を支店に入れる。支店に帰ると、「反省会」と称する報告会が待っている。支店に残って電話や来客の応対をする「店当番」もローテーションで回ってきた。


(中略)


 昨年二月に二回目の申告をした。労基署は今度は労働基準法に違反しているとして、最低保証給の支払いや、有給休暇の取得を認めるよう是正勧告した。

 是正勧告は労基署の行政指導では最も重い。蛇の目ミシンの総務部は「是正勧告の内容を詳しく聞いてから対応を決めたい」としている。

 派遣ユニオンの関根秀一郎書記長は「全国の『名ばかり事業主』に影響が広がる」と話す。

 「名ばかり事業主」は雇用保険や社会保険、残業代などコストを削減したい会社側にとって都合のよい形態だ。違法な日雇い派遣への規制が強まったことに伴い、新たに増加傾向にある。

 同ユニオンによると、同様の形態は訪問販売だけでなく、トラック運動手、学習塾講師、理容師、コンピューターのプログラマー、バイク便などさまざまな業種に拡大しているという。

 関根さんらは「労働基準法など、労働者保護規定を適用させないために業務委託契約や委任契約を結んで働かせている。違法なのだから、当局は厳しく取り締まるべきだ」と訴えている。




こうしたジャノメミシンのようなやり方が、100%違法だと言えるのか、脱法的ではあるが違法とまでは言い切れないのか、裁判所ではまだ判断が確定していないように見受けられます。ですから、地裁では労働者側が勝訴しても高裁で覆されたり、またはその逆になったりといったことが生じているのでしょう。

確実に労働者の権利を守るには立法での是正が不可欠ですが、そのためにもまずは労基署の是正指導や司法判断の実績を積み重ねていく必要があるのだと思います。


それにしても、経営者とは次々と人件費を切り下げるための法の抜け道を探してくるものです。資本主義の原則としては当然の行動なのかもしれませんが、人間は理論に沿ってだけ動くものではありませんし、心身の面での限界もあります。

経営者にはそろそろ、「能力が高く、安い賃金で、一生懸命に働く労働者」などという都合のいい存在はあり得ないし、「安い賃金で、一生懸命に働く労働者」にも限界があるのだということを理解したうえでの企業運営を考えてもらいたいものだと思います。