「公益事業」におけるストライキ | 労働組合ってなにするところ?

労働組合ってなにするところ?

2008年3月から2011年3月まで、労働組合専従として活動しました。
現在は現場に戻って医療労働者の端くれとして働きつつ、労働組合の活動も行なっています。

あまり知られていない労働組合の真の姿(!?)を伝えていきたいと思います。

今年も春闘の時期がやってきました。

日本医労連は1月19、20日に中央委員会を開催し、2011年春闘方針と産別統一要求を確定しました。それを受けて、埼玉医労連も1月30日に中央委員会を開催します。さらに単位組合となる当組合では2月16日に中央委員会を開催し、2011年春闘の方針と要求を確定します。


埼玉医労連の中央委員会では、ストライキ権確立の投票も同時に行ないます。

ストライキ権を確立するには、「組合員又は組合員の直接無記名投票により選挙された代議員の直接無記名投票の過半数による決定」(労働組合法第5条2項8号が必要になりますので、各加盟単位組合の代表者が集まる中央委員会において、中央委員の投票を行なうのです。(ちなみに当組合では、組合員全員を対象としたストライキ権確立投票を行ないます)


ストライキについては、過去「基本のキホン」でまとめを書いています。


ストライキについて勉強しました1

http://ameblo.jp/sai-mido/entry-10202898286.html


ストライキについて勉強しました2

http://ameblo.jp/sai-mido/entry-10203937857.html




上記2つのエントリーの中でも書きましたが、医療は「公益事業」に該当しますので、ストライキを行なう10日前までに都道府県知事と労働委員会に予告通知を提出することが必要となります。今話題の日本航空の労働組合も「運輸事業」として「公益事業」に該当するので同様でしょう。

こうした法律上の定めがあることは、「公益事業」だからといってストライキ権を行使することに抑制的であるべきだということを意味してはいません。ストライキに関する権利は、「公益事業」に従事する労働者に対しても保障されています。ですが、「公益事業」においてストライキ権が行使された場合、国民生活に重大な影響を及ぼす可能性があるので、事前にストライキが行なわれることを行政機関が把握し、備えておく必要があります。そのために予告通知が義務付けられているのです。

言い換えれば、国及び地方自治体は憲法に定められた国民の基本的人権を保障する義務を負っていますので、労働者の労働基本権の保障と国民の社会権や自由の保障を両立させるため、「公益事業」におけるストライキ権の確立について把握しておく必要があるということです。


余談ですが、公共交通機関でもストライキが行なわれていた時代を反映して、ストライキのために公共交通機関が動かず、自宅以外の場所で宿泊をせざるを得なくなった労働者がその自宅以外の場所と会社の通勤の間に事故にあって負傷した場合、それは通勤災害として認められることになっているそうです。(労災給付の学習会でうかがいました)


なお、「公益事業」の労働組合としてもストライキ権の行使についてその影響を受ける国民の理解を得ることが重要ですので、自主的にストライキの予定についての周知を行なったり、最低限の必要な業務を行なうための保安要員の配置を行なったりします。こうしたことは特に法律上の義務付けがある訳ではありませんが、労働組合に対する攻撃を防ぐためにも必要な配慮だと思います。

ちなみに、これも余談ですが、医療機能評価ではストライキを行なう際の保安要員の配置を取り決めた「保安協定」を労使で締結しているかどうかもチェックされるそうです。


ただし、「公益事業」におけるストライキ権の行使については、特別に「緊急調整」という制度が設けられています。

これは労働関係調整法に基づくもので、「事件が公益事業に関するものであるため、又はその規模が大きいため若しくは特別の性質の事業に関するものであるために、争議行為により当該業務が停止されるときは国民経済の運行を著しく阻害し、又は国民の日常生活を著しく危くする」(労働関係調整法第35条の2)場合に、内閣総理大臣が決定します。内閣総理大臣が緊急調整の決定をした場合、その理由も含めて決定が公表され、中央労働委員会と関係当事者に通知され、中央労働委員会は最優先でこの争議の解決に努めなければならなくなります。また、緊急調整の決定が公表されてから50日間は争議行為を行なうことはできなくなります。

ですが、過去にこの「緊急調整」が行なわれたケースは一つしかないようです(昭和27年の石炭争議だそうですが、これが唯一のものかどうかは確実な情報がないのでわかりません)。つまり、よほどの緊急事態にならない限りは、国による争議行為の制限は行なわれないということでしょう。


当組合では、少なくとも年に2回は普通にストライキをやっています。保安要員も配置していますので、患者さんや利用者さんからのクレームは今のところありません。そういう労働組合は日本ではもはや珍しい存在なのでしょう。

日本において普通にストライキが行なわれるような状況になるのは、労働組合組織率がせめて今の倍くらいになる時かもしれませんね。


2011.1.24追記  ご指摘いただき、赤字の部分を訂正しました。

 また、公益事業の争議についての予告義務は、労働委員会が争議行為が行なわれる前に調整活動を行なうことを可能にするためにも設けられているということを教えていただきました。ありがとうございました。