snailは、カタツムリか巻貝か | 特許翻訳 A to Z

特許翻訳 A to Z

1992年5月から、フリーランスで特許翻訳者をしています。

電子メールとの対比で昔ながらの郵便物に使われる、snail mail (smail)という表現。
カタツムリのゆっくりした動きから転じた、レトロニムです。

Googleの画像検索でsnailを検索しても、出てくる画像はカタツムリばかり。

ところがsnail=カタツムリとはかぎらず、たとえば下に示す例では、明らかに不自然です。

 

The method of claim 27, wherein said aquianimal culture is further selected from the group consisting of oysters, clams, snails, scallops, shrimp, crabs, prawns, lobsters, abalone, mussel and krill.
WO97/34489

前記養殖水生動物が、カキ、クラム、カタツムリ、ホタテガイ、エビ、カニ、テナガエビ、ロブスター、アワビ、ムラサキガイ及びクリルからなる群からさらに選択される請求項27記載の方法。
特表2000-506897
 

 

インターネット上を検索すると「水生カタツムリ」という語がわずかに出てくるとはいえ、通常、カタツムリといえば陸生だからです。

どこまでをカタツムリに含めるかはともかく、たとえば『広辞苑 第6版』が「マイマイ目の陸生有肺類巻貝の一群の総称」とし、『大辞林 第3版』では「軟体動物腹足綱のうち陸上にすむ貝類の総称」としているなど、「陸」が明記されています。

ここで、Googleの画像検索でキーワードを

  snail  sea
という2語にしてみると、snail だけのときとは結果がガラリと変わり、ほぼ巻貝だけで埋め尽くされます。


  snail water
ですら、カタツムリも残っているものの、カワニナやタニシと思わしき画像が混じってきます。
英語だと、freshwater snailriver snail ですね。

 



一方、英和辞典でsnailを確認してみると、
  1 巻き貝:マキガイ綱 Gastropoda の軟体動物の総称.
  2 マイマイ,カタツムリ:マイマイ亜綱 Pulmonata の空気呼吸をする数種の陸産巻き貝の総称
としている『ランダムハウス英和大辞典』のように、第一訳に巻き貝をおいている辞書もある一方で、「カタツムリ」だけしか掲載のない辞書も少なからず存在します。

英和辞典は、単語の意味を掲載しているわけではなく、使用頻度の高い「訳語」を掲載したものですから、辞書としては、カタツムリだけでも何ら問題ないと思います。
ただ、辞書的には問題ないということと、それで翻訳してよいかどうかは別問題。

英英辞典でも、Merriam Webster English Dictionaryが
  a gastropod mollusk especially when having an external enclosing spiral shell

同じくWebsterのLearner's Dictionaryですら
  a small animal that lives in a shell that it carries on its back, that moves very slowly, and that can live in water or on land

と定義しています。
かたや国語辞典だと、たとえば三省堂『大辞林 第3版』に、次のような定義があります。

 

 【巻(き)貝】
① 腹足綱に属する軟体動物の総称。多くの種は背に螺旋(らせん)状に巻いた貝殻をもつが,ナメクジやアメフラシのように殻のないものや,カサガイのように殻が笠(かさ)形になっているものもある。種類が多く,世界各地に分布。
② ① のうち,螺旋状に巻いた殻をもつ貝の総称。サザエ・タニシ・カタツムリなど。

 

少なくとも特許翻訳では、安易にカタツムリと翻訳するわけにはいかないでしょう。
「結果として」カタツムリで問題なかったとしても、それはそれ、これはこれ。

むしろ、先に「巻貝」を考えて、それだと矛盾が生じるなどの不都合がある場合に、カタツムリを検討するというくらいで、ちょうどよいかもしれません。
あるいは、殻があってよいようなら、「殻のある腹足類」という訳も考えられます。

いずれにしろ、snail=カタツムリとは限らないということです。
 


インデックスへ