無関心が人を殺す『コレクティブ 国家の嘘』
2015年10月30日。東欧ルーマニアの首都、ブカレストのライブハウス、コレクティブで行われたロックバンドのライブ中、ボーカルがMC中に「何か燃えているぞ」天井の一部が燃えだし、「演出じゃないぞ」という一言で観客はそわそわし始めるが、動かない。消火器を要求する声の直後、爆発とともに火は一瞬にして燃え広がり、白煙がライブハウスを包んだ。「早く外へ出るんだ」逃げ惑う観客、照明が落ちたのか、真っ暗になったところでカメラが切れる。
天井の配線の不調が原因だという火災事故で27名が死亡、180人が負傷した。が、この事件が悲惨極まりない結果となるのはその後だ。病院に担ぎ込まれ、一命を取り留めたはずの入院患者たちは治療中に次々亡くなっていった。4か月間で死者37名。助かったはずの命なのに、一体、なぜ?
スポーツ紙ガゼタ・スポルトゥリロルはこの一件を不審に思い、独自の調査を開始する。ガゼタ紙が暴いたのはルーマニアを覆う製薬会社、病院関係者、そして政府関係者との癒着の構図であった。
第93回アカデミー賞にて長編ドキュメンタリー、国際長編映画にノミネートした本作は癒着を暴こうとするガゼタ紙と、腐敗のシステムを一掃しようとする若き大臣、ヴラド・ヴォイクレスクの戦いを追う。
ガゼタ紙の記者カタリン、トロンタンは入院先で亡くなった患者の多くが細菌感染により亡くなった事実を掴む。病院では火傷治療のための設備が十分ではなく(病院なのに)適切な治療が施されていなかったのでは?
内部告発者からの情報がガゼタ紙にもたらされる。「病院に入荷される消毒液の成分は薄められている」「現場ではさらにそれを希釈して使用している」「その消毒液はすべて製薬会社へキシ・ファーマのものだ」
効果が1/10以下に薄められた消毒液で手術用メスの殺菌がされており、それが患者の感染症の原因につながったのだ。ガゼタ紙のスクープはルーマニア全土を駆け巡り、大変な騒ぎに。保健相は会見を開くが、ガゼタ紙の質問に「治験では国内に出回っている製品の95%が問題ないレベルだ」と回答。逆にガゼタ紙の告発はデタラメ扱いされてしまう。
ところが更なる内部告発がもたらされる。
「薄められた消毒液を現場でさらに希釈している事実はSRI(ルーマニア情報庁、同国の諜報機関。アメリカにおけるCIAやイギリスのSIS) に報告されている」
知っていながら見て見ぬふりをしていた。これは製薬会社、病院、政府による癒着なのではないか?
続報によりルーマニア国民の間で怒りが巻き起こる。「無関心は人を殺す」キャンペーンだ。デモが各地で派生し総バッシングを受けた内閣は崩壊。保健相の大臣、首相らが辞任に追いやられる。薄められた消毒液で莫大な利益を上げていたへキシ・ファーマにも捜査のメス(多分薄められた消毒液は使われてない)が入る。社長のダン・A・コンドレアがトンネル会社をつくったりして資金洗浄していることなどが発覚する・もはや言い逃れもできない状態だが、コンドレア社長は謎の自殺を遂げる。「すべてを暴露しようとしたコンドレアはマフィアに消されたのだ」などといった真偽不明の情報がネットに書き込まれるが真相は闇の中に葬られるのか?
辞任した保健相の代わりに新しくヴラド・ヴォイクレスが就任する。彼は金融業の人間で、与党とは関係のない無党派だったために選ばれる。大臣も初経験だという彼は線の細いインテリ然の外見で、事件の解明に尽力するというが、「こんなヒョロヒョロのインテリに何ができるんだ?」とだれもが疑問視。だがヴォイクレスクは保健相のオフィスをオープンにし、誰でも見られるようにする。ガゼタ紙の記者と本作の監督アレクサンダー・ナナウのカメラは保健相に入り、両者の会議を全部録画するのだ。画期的すぎるでしょ!
ブカレストの病院勤務者からの内部告発がもたらされる。それは崩壊した医療現場の現実だった。火傷患者に適切な治療が施されていないために患部にウジが湧いているという衝撃的な映像で、告発者である麻酔医は病院として機能していない、閉鎖した方がいいと進言するがヴォイクレスクは明るみにする前に記者にリークするのはいかがなものかというが、告発者は「上司に言っても何も変わらない」とうなだれる。その患者は結局亡くなってしまう。
杜撰な治療で患者が亡くなる中、製薬会社は効果のない薬を売りつけ、病院理事長は資金横領、政府関係者で収賄で肥え太る。人が死のうが死ぬまいがおかまいなしだ。
これはルーマニアだけの話ではない。日本でも起きていることだ。崩壊した医療現場でコロナへの適切な対応ができず、現場の人間がその場しのぎの対応を迫られ、激務に追われ体調を崩す中で医療現場の崩壊を招いた政治家は責任を誰かに押し付け知らんぷり。
癒着を明らかにしようとするヴォイクレスクとガゼタ紙は権力の壁の存在をひしひしと感じる。右派系の大臣や記者、コメンテイターから難癖に近い利権を追求され記者たちは謎の脅迫を受ける。
それでも正義の鉄槌が下されるだろうという淡い希望は粉々に打ち砕かれる。首相の辞職を受けて行われた総選挙では政権与党である社会民主党が圧勝するのだ!若者の投票率が低かったことが原因で、ルーマニアでは長年与党による腐敗が横行しており国民自体が政治に不審を抱いているというか、興味がないようでその辺も日本に似ている。コロナ禍であれだけ医療現場を崩壊させていた維新の会が大阪では圧勝してんだから「無関心が人を殺す」というのは事実だとしか思えない。投票にいかないとどうなるのか、日本の未来をまざまざと見せつけられた気分。これは外国の話ではないのだ。
2021年11月予定
11月予定
11月13日(土)
『アイドル十戒 レザレクション其の十』
場所:アワーズルーム
開場:18:30
出演:竹内義和 しばりやトーマス
料金:1500円(drink代別)
アイドルさえいなければこんなに悩むことがなかった男たちの物語、復活。
11月17日(水)
『旧シネマパラダイス』
場所:アワーズルーム
開場:19:30 開演20:00
料金:¥1000(1drink付)
司会:しばりやトーマス
TVの深夜番組みたいな懐かし映画企画。
今月はウォシャウスキー姉妹のデビュー作、美女たちのクライムサスペンス『バウンド』(1996)
11月20日(土)
『大阪おもしろマップ』
場所:なんば紅鶴
開場:19:30 開演20:00
料金:¥1300(1drink付)
出演:射導送水(さばラジオ)
B・カシワギ(青春あるでひど)
縛りやトーマス
11月24日(水)
『キネマサロン肥後橋』
場所:アワーズルーム
開場:19:00
料金:¥1000(1drink付)
司会:しばりやトーマス
カルトを研究する若人の会。今月は実録シリーズ第三弾、『仁義なき戦い 代理戦争』
知らん仏より知っとる鬼の方がマシじゃけの
『スーパーヒーロートーク』
場所:なんば紅鶴
料金:¥1000(1drink別)
開場:19:30
出演:にしね・ザ・タイガー ソエジマ隊員 しばりやトーマス
『僕の宗教へようこそ第一四四教義~まんがタイム白鯨』
場所:なんば白鯨
開場:18:30 開演19:00
料金:¥1500(1drink付)
出演:しばりやトーマス アシスタント・トモ
銃の扱いには気を付けよう
兄弟が多すぎて誰が誰だかよくわからないことでおなじみの俳優アレック・ボールドウィンが新作映画『Rust』の撮影中に小道具の銃から発射された弾が実弾で、撮影監督が死亡、監督が負傷する事故を起こしていたことがわかった。
ニューメキシコで撮影されていた映画は西部劇で、本番前にリハーサル時に助監督から銃を渡され「コールドガン(実弾が入ってない銃)だ」と説明され、カメラに向けて引き金を引く場面の撮影をしたところ、銃から実弾が発射されたという。誤射による役者の死亡事故というとブルース・リーの息子ブランドン・リーの事故死を思い出すが、なぜこのような事故が起きたのか?
複数の報道によると映画『Rust』の現場はかなりの低予算現場で、予算は700万ドル(約7億円)、撮影期間はわずか21日。金以上に時間の余裕がなく、相当にタイトなスケジュールだったことも誤射の悲劇を招いたといえる。
この映画で武器小道具担当のハンナ・リードは24歳で、その年齢が示す通り経験が浅く、彼女の父親セル・リードは『トゥームストーン』『クイック&デッド』を始めとする西部劇映画やイーストウッド、タランティーノの作品で武器管理を担当したベテランだが娘のハンナはニコラス・ケイジの映画でスタッフをやってこれが二度目という新人。直前になって急遽現場入りし、前にやったケイジの現場でも仕事ぶりが雑で注意されていたと言われている。
さらにリードからプロップをボールドウィンに渡した助監督デイブ・ホールズ(『ゾンビーバー』他)もブランク(空砲)なのかどうかを確認せず渡していたようなので、現場スタッフのずさんな管理が問題だったのではないか。
ハリウッド映画の現場ではこと銃器に関しては厳しいチェックが課せられ、俳優に渡す前にスタッフでチェック、俳優相手に実弾が入ってないことのチェックをさせたうえで初めて手渡され、さらに「人に銃口を向けない」「撮影まで引き金に指をかけない」といった注意がされて安全管理が徹底されるのだが、経験の浅いスタッフを抱える低予算の現場でそういった危険を避けるための何重にもわたるチェックがなされていなかったのだろう。
人の命は金では買えんのやで!安全をけちるとロクなことがないし、そもそも撮影現場で実弾、ましてや実弾が発射される銃器など使わなくてもよいではないか。全部CGにしなさい。発達した技術は安全のために使った方がいい。
ボールドウィンがレギュラー出演しているミッションインポッシブルシリーズはどうなるの?
正義感って何?『空白』
映画配給会社のスターサンズは『新聞記者』(2019)『パンケーキを毒見する』(2021)など、社会問題をテーマにしつつエンターテイメント性を取り込んだ、最近の邦画ではありえないタイプの作品を送り出しているが、そんなスターサンズの最新作『空白』はいかなる作品か。
漁師の添田充(古田新太)は気性の激しい頑固者で船に若者、野木龍馬(藤原季節)を乗せているが仕事ぶりが悪いと文句だらけ。亡き父が漁師だった龍馬は充の態度に不満を持つ。充は妻と離婚し、シングルファーザーとして中学生の娘、花音(伊藤蒼)を育てているが、娘相手にも威圧的で、別居中の妻・翔子(田畑智子)が買い与えたスマホを「中学生にはまだ早い」と庭に投げ捨てるような人間だ。
花音は近所のスーパーマーケット・アオヤギでマニキュアを万引きしたと疑われ、店長の青柳直人(松坂桃李)に捕まえられるが、その場を逃げ出し、青柳に追いかけられた挙句、車に撥ねられて亡くなってしまう。
この車に撥ねられるシーンがえげつなくて、まず車道に飛び出したところを通りがかった乗用車に跳ね飛ばされ、対向車線まで飛んでいき、よろよろと立ち上がったところを突っ込んできたダンプに擂り潰される!容赦ない突然死に観客は一瞬にして凍り付く。
充は娘が万引きなどするわけないと思い、葬儀に謝罪にやってきた青柳を痴漢でもしようとしたのではないかと責め立てる。この光景はテレビで繰り返し流されてしまい、充の周囲には心無い世間からのバッシングが集中する。
一方、青柳も過去に痴漢行為で逮捕されたことがあるなど、身に覚えのない抗議がテレビ、ネットなどに流布し突然通行人にカメラを向けられたりと生活は一変する。母親にちゃんと説明した方がいいと諭されたので、テレビの取材を受けることになるが、取材終了後に気のゆるみから愛想笑いを浮かべたところだけが切り取られ、無責任なテレビコメンテイターから「反省の色がない」などと責め立てられてしまう。
この『空白』で描かれるのはそれぞれの正義感に押しつぶされる人間模様だ。充は自分の正義を信じ切っていて、娘の万引きを疑わず、クラスでいじめられていて万引きを強要されたのだと言い張るが、内向的で友達もいない花音に対する学友の印象は「よく知らない」「話したこともない」という残酷極まりないアンケート結果が提示。死の前日に充に何かを相談しようとしていたのをいじめの相談に違いないと言い張る充。しかし翔子から三者面談に父ではなく母に来てほしいという相談だと聞かされ、娘のことを愛していたと口ではいいながら何も知らない。さらに娘の部屋からは大量のマニキュアが出てきて、充の振り上げた正義感の拳は下ろしどころが見つからない。
青柳はパート従業員の草加部麻子(寺島しのぶ)にあなたは間違ってない、自分が正しいと思ったら戦わなきゃと言われ、自ら作った青柳の無実を訴えるチラシを店の前で撒いたりする人なのだが、麻子のまっすぐな正義感に青柳は追いつめられる。彼女のいうことはいちいち正しいのだが、言われれば言われるほど青柳は困惑するばかり。
この寺島しのぶが演じるおせっかいな正義感おばちゃんは本当にグロテスクで、終盤に松坂桃李に対するある行為なんて、グロテスクここに極まれり!といったところで、強烈すぎるいい演技だ(逆の意味で!)。
いじめの事実も見つからず青柳を追い詰める事しかできない充、謝罪のしようもなく土下座するしかない青柳、まったく救いのない状況に閉じ込められる二人。
創作の背景には書店での万引きを咎められ、通報された警官から逃げた少年が電車に撥ねられて亡くなった事件がある。この事件も万引きを咎め警察に通報した書店が心無い世間の声に苛まれ、店を閉めることになった。そうすると今度は書店側に同情する声が寄せられたのだ。テレビでは街頭インタビューでどこの何者かわからない人々が「たかが万引きぐらいで騒ぎすぎ」と書店側を激しく非難する内容を繰り返し、批判を煽っていたとも言われかねないが、世間の声もテレビも反省の色なく、そんなことはとっとと忘れて皇族の結婚騒動やエミューの脱走をネタにしているのだから正義感って何?と言わざるを得ない。
ラストでは救いのない状況に追い込まれた二人にわずかながら光明が差し込むのだが、安易に許しの結末を描きたくないという意図は理解した。世間の正義感って何?と延々と問い続ける必要があるからだ。
こういった世間に問いかける意義のある作品を作っている河村光庸プロデューサーが『鬼滅の刃』『シン・エヴァンゲリオン』に対する難癖つけてたのもちょっと残念ですね。その正義感、間違ってるよ!
犬が修斗する映画『ジョン・ウィック:パラベラム』
※これは前ブログの過去記事(2019年10月10日)の再録です

キアヌ・リーブスの大ヒットシリーズ『マトリックス』(今年で公開20周年!)でキアヌのダブル・スタントを担当したチャド・スタエルスキとコンビを組んで制作された『ジョン・ウィック』シリーズ最新作『ジョン・ウィック:パラベラム』はかつての仲間や恩人に見捨てられ、孤立無援となったジョン(キアヌ)が自身のルーツを追い求めながら血なまぐさい世界から解き放たれて自由になりたいという願いのために世界中を旅するサバイバル・ロードムービーだ。
ジョンは愛する妻のために殺し屋稼業を引退しようとするが、手練れを失いたくない組織から正体不明の殺し屋ババ・ヤガを殺せば引退を認めるといわれる。組織はジョンを失うぐらいならいっそ死んでしまえばいいと思っていたが、予想を裏切りジョンはババ・ヤガをしとめる。しかし正体がわからないババ・ヤガの居所を突き止めるためにイタリアン・マフィアの組織の力を借り、その際「どんな仕事でも一度だけ引き受ける」という誓約をしながら、それを守らず引退したので家を爆破されてしまう。そして殺し屋専門のコンチネンタル・ホテルの掟を破りイタリアン・マフィアのボスをホテル内で殺したためにホテルを出禁になり、1400万ドルの賞金をかけられ世界中の殺し屋に命を狙われる。世界中が敵!
ジョンは自由になろうとしただけなのに、周囲の人間がそれを許さず「お願いだから、かまわないでくれ!」とジョンがいえばいうほど争いを招き入れ、戦火が拡大する。爽快感よりも死の匂いが付きまとう戦いを彩るのがシリーズ用に考案された「ガン・フー(銃+カンフー)」、「ナイ・フー(ナイフ+カンフー)」「カー・フー(車+カンフー)」といった格闘術。ついに今回は馬を使った「マー・フー(馬+カンフー)」「ドッグ・フー(犬+カンフー)」が登場、特にドッグ・フーは誰も見たことがない衝撃のアクションであると断言できる。
まず犬に命令すると相手の腕に噛みつく。そして加えたまま人間を床に投げたおす。とどめは急所に噛みついてジ・エンド。これって打・投・極だから佐山サトルが考えた修斗じゃないか!犬が修斗する映画・・・僕は初めて見た!タイガーマスクに宣伝してほしかった。
拡大化する物語はついにライバルの殺し屋まで生み出した。それがジョンを倒して殺し屋No.1の地位を狙うゼロ。演じるは『ジェヴォーダンの獣』『クライングフリーマン』のマーク・ダカスコス。本当は真田広之が出演する予定だったが、真田が張り切りすぎて撮影前にケガをしてしまった代役らしい(真田、何してんの!)
ダカスコスは微妙なイントネーションの日本語を操る殺し屋で、普段はNYでカウンターのある寿司屋の板前をしている。殺し屋兼寿司板前の部下として忍者の末裔を雇ってる(そのうちのひとりがヤヤン・ルヒアン)んだけど、店のBGMがきゃりーぱみゅぱみゅの「にんじゃりばんばん」という日本人でもやらんようなベタなギャグをやっていて、なんだこれくしょんと思った。誰が教えたんだよ。
つらい物語の中でも笑いを忘れないチャド・スタエルスキとキアヌのメッセージ、しかと受け止めたぜ。ジョンの人生に犬が必要なように。この争いが次なる争いを生む物語にも笑いが必要だった。
ちなみにダカスコスの寿司屋のカウンターには猫がいて、食べ物の店に動物置くなよ!と一瞬思うが、動物園前の居酒屋、かんむり屋にも猫が常時いるので別におかしくはなかった。さすがキアヌ、日本のラーメン好きなことはある。かんむり屋までチェックしていたとは・・・(してません)





