しばりやトーマスの斜陽産業・続 -23ページ目

5分に一度騙される『エッジ・オブ・トゥモロー』

 トム・クルーズ主演の映画『オール・ユー・ニード・イズ・キル』(2014)の原題はEdge of Tomorrowなんだけど、今回ご紹介する映画『エッジ・オブ・トゥモロー』はそれとは何の関係もありません。桜坂洋の原作とも一切無関係です(ややこしい)。こちらは2021年公開の作品。主演は『イップ・マン 序章』で葉問と対立する拳法家、金山找役のルイス・ファン

 

 1.5トンの破壊力を持ち、30m以上の跳躍を可能にし、銃弾や爆弾の衝撃にすら耐えられるパワードスーツ<パワー>を開発した科学者。VRによる遠隔操作を可能にしているため、これを扱えるオペレーターを探すことに。

 腕利きのSP、ロン・ウェイ(ルイス・ファン)はタトゥーを首に入れたテロリスト集団から要人を守るが、その報復として妻は爆殺、一人娘は大けがを負い病に侵される。このショックでPTSDを発症したロンは修理屋に転職するが、娘の治療費にすら事欠く貧しい生活に。

 ある日バーで酔客に襲われそうになった女性、エイミー(シャン・イー・イー)を助けたロンは娘の治療費を持つ代わりにエイミーから仕事を紹介される。それは<パワー>のオペレーターだった。

 オペレーターのテストとはVR空間でテロリストを倒し人質を救うというものだったが、テスト中に<パワー>を狙うテロリストたちの襲撃を受ける。ロンはただ一人テロリストに立ち向かい、エイミーらを救おうとするのだが・・・

 

 

 冒頭で近未来的描写があり、パワードスーツが大活躍するのでまさに『オール・ユー・ニード・イズ・キル』的な物語が展開するのかと思いきや、パワードスーツは冒頭にしか出てこず、活躍するシーンもありません!なんで出した!?

 パッケージに書いてあるストーリー説明は全くのデタラメというには恐れ入りました。SF映画ですらなかった!

 前半に出てくる敵と後半に出てくる敵は全然関係ないので、ストーリー上につながりもないし、ガッカリ感がすごい。しかしルイス・ファンと悪党たちの総合格闘技的ファイトはハードバイオレンスで見ごたえがある。

 

 ちなみに本作の原題は『神兵特攻 VR Fighter』なのでこちらの方を邦題にすればよかったのに・・・なぜかというと、後半、テスト中に襲われたロンは傷つきながらもテロリストと戦い、最後はテロリストのボスと一緒に爆弾で吹っ飛び、エイミーに娘を託して死んでいくのですが、テロリストとの戦いは全部VR空間での出来事だった!という無茶苦茶なオチでオペレーターとして採用されたロンはどこぞの戦場にパワードスーツと共に駆り出される・・・という続編を匂わすラスト。きっと続編ではパワードスーツが活躍するんでしょうね。

『オール・ユー・ニード・イズ・キル』も続編制作に前向きだというし、制作、公開されれば便乗してVR Fighter2にも期待!

 

 

 

 

 

この世とあの世に終わりはない『ビートルジュース ビートルジュース』

 ティム・バートン監督の出世作の36年ぶりの続編。相当前の作品ということもあり、現代では『ビートルジュース』といえば映画よりもUSJのアトラクション・ショーの方で記憶している人も多いだろう。しかしUSJのショーは映画の内容と違うのであちらのイメージが強い人は今回続編をやるというので、見直したりすると違和感に苛まれるだろう。

 

 さて今回は正当な続編なので前回に出てきたキャラクター&役者は一部を除き続投。ディーツ一家の一人娘で唯一幽霊と対話する能力を持つリディア(ウィノナ・ライダー)は今やオカルト番組のホストとして活躍中。しかし娘のアストリッド(ジェナ・オルテガ)は母をインチキ霊媒呼ばわりし、父親のリチャード(サンディアゴ・カブレラ)がアマゾンを冒険中に事故死したことで距離を置かれている。

 

 ジェナ・オルテガは『アダムス・ファミリー』のスピンオフ・ドラマ『ウェンズデー』に主演してバートンのお気に入り女優として人気爆発中。ライダーにオルテガ、バートンの新旧ミューズによる共演作というだけでワクワク。

 

 リディアの継母デリア(キャサリン・オハラ)の夫チャールズ(前作とは違う役者が演じている)が亡くなり、その葬儀のため、あの忌まわしきコネチカット州の邸宅に一家そろって集まることに。おりしもハロウィンが迫るころ、リディアについてきた番組プロデューサーのローリー(ジャスティン・セロー)は空気も読まずプロポーズ。アストリッドは地元の少年ジェレミー(アーサー・コンティ)に』ハロウィンの夜一緒に過ごそうと誘われるのだった。

 

 一方、死後の世界ではビートルジュース(マイケル・キートン)が未だにリディアのことを諦めず復活を目論んでいるが霊界刑事のウルフ・ジャクソン(ウィレム・デフォー)はビートルジュースの元妻ドロレス(モニカ・ベルッチ)が復讐のために脱獄していることを告げる。

 アストリッドはジェレミーの正体が幽霊で、自分にも母親と同じ霊媒の能力が備わっていることを知り、ジェレミーが現世に戻るための復活の儀式を手伝うよう頼まれる。死後の世界で父親リチャードに会わせることと見返りに協力するが、ジェレミーは凶悪な親殺しのサイコパスで、アストリッドの魂と引き換えに現世に蘇るつもりなのだ。娘を助けるためにリディアは仕方なく二度と会いたくない者の名を3回繰り返すのだった

「ビートルジュース、ビートルジュース、ビートルジュース・・・」

 

 

 バートンが前作・本作で描いたのは現世とつながっている死後の世界だ。死は終わりではなく延々と続く。いじめられっ子で学校の勉強についていけなかったバートンはこの世よりもあの世に興味を抱いた。この世が退屈でたまらないリディアはバートンの生き写しである。その娘のアストリッドも学校ではキモイオタク呼ばわりされて居場所ナシ!この世の生き物なんてみんな最低のロクデナシ!

 

 それに比べてあの世の幽霊たちはみんな楽しそうだ。ソウル・トレインに乗ってあの世まで一直線!バートンと黄金コンビを組むダニー・エルフマンは『チャーリーとチョコレート工場』ばりにバラエティ豊かな音楽でノリまくり!

 最後にはデリアも(ものすごいマヌケな理由で)死んでしまうけど、この世に帰ってこようとしないであの世で暮らしてハッピーエンド!前作ではたった十数分しか出てこなかったビートルジュースの出番も増えて、前作を上回るドタバタ、アクション、サスペンスが展開され36年のブランクを取り戻す大暴れっぷり!

 こんな死後の世界なら早く経験したい!そうそう、前作冒頭にもあったジオラマの空撮は今回も登場!これがなきゃビートルジュースじゃない!

 

 吹き替え版は前作でビートルジュース役を演じ、芸能人吹き替えの最高峰と絶賛された西川のりお師匠がチョイ役で登場!関西テレビ10月5日深夜10月5日(土) 深夜 2:00 - 4:00に吹き替え版放送されるのでみんな永久保存だ!

 

 

 

 

 

 

 

「正義の裁き」の危険性『はかなき一生:イザベラ・ナルドニちゃん殺害事件』

 2008年3月29日、ブラジル・サンパウロの警察に緊急通報が入る。

「家に強盗が入って子供を窓から投げ捨てた。すぐに来てくれ」

 後にブラジル中を震撼させることになるイザベラ・ナルドニちゃん殺害事件の幕開けだ。

 

 ネットフリックスで配信中のドキュメント『はかなき一生:イザベラ・ナルドニちゃん殺害事件』は同事件のあらまし、ブラジル全土を巻き込んで起こった国民の狂騒、その後を検証した作品だ。

 

 5歳のイザベラ・ナルドニちゃんは父親アレッシャンドレ・ナルドニとその妻でイザベラちゃんには継母にあたるアンナ・カロリーナ・ジャトバー、二人の弟、5人でサンパウロ市内の中流階層向けのマンション6階で暮らしていた。

 電話した父親アレッシャンドレによると夜に家族で買い物に行き、車で眠っていたイザベラちゃんを抱えて帰宅、ベッドに寝かせた。その後家にいた「謎の男」と争いになり男がイザベラちゃんを窓の外に投げ捨て姿を消した・・・

 このマンションにはブラジル中で多発する子供の転落事故防止のためネットが備え付けられていたが、そのネットは切り裂かれていた。通報を受け病院に運ばれたイザベラちゃんはすでに手の施しようがない状態ですぐに亡くなった。

 警察の捜査が始まり、わかってきたのは事件当日の夫妻の不可解な言動、父親が存在を主張する強盗犯の目撃証言がまったくなかったことだ。

 科学捜査班は車と部屋に残された血痕、イザベラちゃんの遺体から複数の瑕、首を絞められた跡を発見する。こうして夫妻はかわいそうな被害者遺族から卑劣で凶悪な加害者として警察にマークされる。

 

 この流れにマスコミが乗り、連日連夜報道合戦が繰り広げられ一般市民らも「イザベラに正義を」のシュプレヒコールとともに夫妻を犯人と決めつけるようになる。夫妻は凄腕の弁護士を雇ったり、テレビインタビューを受けて疑惑を晴らそうとするがことごとく裏目に出続ける。

 そんな中、自宅マンション付近の防犯カメラを唯一避けて現場に近づけるルートの存在が明かされる。「強盗犯」はこのルートを使いマンションに侵入したのでは?

 そして現場に近い工事現場の出入り口が壊され何者かが侵入した後があった。当直の作業員が正体不明の人間を目撃したという証言をし、にわかに「強盗犯」の存在がクローズアップされる。しかし警察で取り調べを受けた作業員はそれまでの証言を翻し出入り口は壊されていない、「何者か」も見ていない、と言い出した。

 

 夫妻を犯人と断定しはじめていた警察が都合の悪いことを口にする作業員に圧力をかけて証言を撤回させたのではないか?疑惑が高まる中、ついに夫妻は殺人犯として逮捕される。

 警察の見立ては

・マンション地下駐車場車内でイザベラちゃんは「お仕置き」と称した暴力を受け(額の傷、および車内に血痕)

・父親に抱えられ6階の部屋まで連れていかれ、床に投げ捨てられる(体中の傷痕、骨折)

・首を絞められ失神

・その後、防止ネットを切り裂かれて、その穴から投げ捨てられる(この時のショックで死亡)

 というもの。

 

事件は陪審員制度で裁かれることになった。夫妻は首尾一貫して無罪を主張。しかし父親が主張する「強盗犯」の目撃証言もなく、毎日のようにテレビで事件が取り上げられ、世間は「夫妻に正義の裁きを」の声一色に染め上げられていた。これで陪審員に「世間の雑音に影響されることなく」判断しろって難しくない?ほぼ公開処刑ではないか。

 一方の警察側も膨大な時間をかけて捜査したにも関わらず、提示できたのは状況証拠ばかりで決定的な動かぬ証拠は一つも出せなかった。自白を決め手にしようとしたらしいが夫妻は最後まで無実を叫んでいた

 

 5日間にわたった裁判は裁判所の周囲を群集が取り囲み、警察は彼らのために簡易トイレまで設置。イザベラちゃんの顔写真入りシャツを着た国民がその瞬間を待ちわびるイベントと化していた。

 そうして出た判決は父親に禁固31年、継母に禁固26年(ブラジルは死刑制度がなく殺人でも最長30年の禁固刑)という重いものだった。判決の瞬間は部屋に設置されたスピーカーで外の群衆にリアルタイムで知らされ(もちろん、裁判所の配慮である)、大騒ぎの群衆は花火を打ち上げ喝采を挙げた。

 

 物的証拠は何もなく、状況証拠だけで一貫して無実を叫ぶ被告に「悪には正義の鉄槌をくだされるべき」という安っぽいヒロイズムに酔った人々が極刑を下したように見える判決は異常に見える。

 

 この一件はつい最近無罪判決が出た袴田事件に似ている。一貫して無罪を叫ぶ被告の人権を無視し、警察はあらゆる可能性を考慮せず、「こいつが犯人に違いない」と決めつけ、不都合な証拠は無理やり握りつぶす。わずかな証拠はすべて警察の都合のいいように解釈する。捜査を担当した警察の人間や検察側の人間が出演しているのだが、もう初めから犯人と決めつけているようにしか見えない。

 さらにそんな警察に踊らされたマスメディアが拍車をかける。口では5歳の可哀そうな被害者を気遣うフリをしながら一方的な正義と言う名のリンチを楽しむように口角泡を飛ばす。疑わしきは罰せずの理論は日本でも守られてるとはいいがたいのでブラジルも似たようなものか。

 

 この事件にブラジル中が狂奔したのは夫妻が中流家庭の人間だったことも影響したはず。ブラジルで落下防止ネットが張られているようなマンションに住めるのは中流以上らしい。貧しい人々が羨む暮らしをする中流家庭の転落(文字通りの)ぶりを攻撃することで普段の憂さを晴らした・・・と言うのは穿ち過ぎか。

 

 事件の顛末はどうなったかというと、なぜか夫妻はすでに自宅受刑と言う形に切り替わり、すでに出所している。これもまた「やっぱり中流や金持ちは優遇されている!」と低所得層の怒りを買う事態に陥っている。

 夫妻は事件直後、捜査中、禁固刑の間、出所した現在に至るまで無実を主張し続けている。では真犯人は?今も不明のまま。だからこのドキュメントはオチがついていない何を言いたいのかわからないと不満を述べる意見が多くネットに上がっているけど、劇映画じゃないんだから都合のいいオチが付くとは限らないじゃないか。袴田事件だってそうだよ。もう真犯人なんて捕まらないだろう。だからって文句を言うのは間違い。オチがつけられなければならない、という考えは「だったらあいつが犯人だ!そうに違いない!」という安易な考えに結び付く危険性がある。

 

 誰もが正義の裁きに酔いしれた群衆に陥る可能性があることを示唆した本作は良質なドキュメンタリーと言える・・・かもしれない。

絶対成功させます『パーフェクト・ドライバー/成功確率100%の女』

廃車処理業を営むペッカン産業は裏ではどんなワケアリの荷物も必ず送り届ける「特送」の仕事を請け負っていた。「特送」きっての腕利きドライバー、チャン・ウナ(パク・ソダム)は特A級ライセンスレベルのドライビング・テクニックを駆使する「成功確率100%」の女配送員。ウナは上司のペク社長(キム・ウィソン)に6:4のギャラを5:5にしろとせがんで煙たがられるが、ペク社長もウナの腕前を認めている。

 ある日、5:5のギャラで請け負った仕事はある男を港まで運ぶ闇の仕事。依頼人は元プロ野球選手のキム・ドゥシク(ヨン・ウジン)。彼は賭博ブローカーとして韓国プロ野球界の八百長、違法賭博に関わっており、おりしも選手の告発で賭博の実態が明らかにされようとしていた。キムは違法賭博で得た300億ウォンを手に息子のソウォン(チョン・ヒョンジュン)とともに海外への逃亡を図る。しかし賭博を仕切っている悪徳警官チョ・ギョンピル(ソン・セビョク)に身柄を拘束されてしまう。ソウォンだけはなんとかして逃がそうと、300億ウォンを隠した貸金庫の鍵を預けウナの車に乗せる。ウナとソウォンを逃がすため、追手の車の前に飛び出したキムは轢き殺される

 面倒ごとに巻き込まれるのを嫌うウナはソウォンをどこかに預けて仕事から手を引こうとするが、引き取り手もないソウォンの境遇に同情し、なんとか逃がしてやろうとする。ギョンピルは警察の捜査網を駆使してウナに殺人・誘拐の容疑をかけ追い詰める。だがそんな彼の前に現れたのは国家情報院(韓国大統領直属の秘密警察)の職員、ハン・ミヨン(ヨム・ヘラン)。ミヨンはウナが脱北者であることを告げ、脱北者の犯罪は情報院の責任問題になるとしてウナの逮捕に協力する。ギョンピルは情報院に出しゃばられる前にウナとソウォンを捕まえ金を手に入れようと躍起になり、ヤクザ者の力を借りることに。果たしてウナは追跡を交わし依頼を成功させることができるか。

 

 ストーリーは『グロリア』(1980)と『トランスポーター』(2003)の合体といったところで、韓国映画によくある「ハリウッドの美味しいとこどり」企画だ。だがただの安易なパクリに収まってないあたりパワフルさが韓国映画の面白さだ。

 すさまじいのがカーチェイス場面で、180℃ターンで反対車線に逃げ切ったり、やっと車一台が通り抜けられる幅を爆走、貨物列車の目前で踏切を渡って追手を振り切るといったカースタントはハリウッド顔負け!

 パク・ソダム演じるウナのぶっきらぼうながらキュートさを感じる演技もたまらない。ワルどもと格闘も演じ、屈強な男の負けず劣らずのアクションも見どころ。ギョンピルを演じるソン・セビョクは血も涙もない極悪非道の男で、拷問相手の腱を切り落としたり、任務に失敗した部下を容赦なく殺したりとやたらと暴力的で、陰惨な表現が多いのも韓国映画らしい。子供の目の前で父親を殺すなよ!

 

 中庸なアクション映画は最近ではハリウッドから来ることがほとんどなく、韓国が今やその立場を担っているのだなあと納得した。

 

 

この映画に出てた二人が『パーフェクト・ドライバー』にも出てます

武士道はフランスにあった『サムライ』

 日本の映画館ではサムライが現代にタイプスリップする映画が大ヒット中。なのでサムライ映画を取り上げよう。と言っても邦画ではなく、フランスのサムライですが・・・先日亡くなったアラン・ドロン主演の『サムライ』だ。

 

 ドロン演じるジェフ・コステロは殺し屋。殺風景な必要最低限のモノしか置かれていない部屋の中、ベッドに寝そべってタバコをふかせる。鳥かごから聞こえるカナリヤの鳴き声だけがBGM。薄暗い照明なので一瞬モノクロの映画なのかと思うが、れっきとしてカラー映画で、これぞ文字通りのフィルム・ノワールといったところ。

 

 プロの中のプロといったジェフはトレンチコートにソフト帽のスタイルで「仕事」にでかける。彼の仕事は完璧だ。まず完全なアリバイを作成する。コールガールのジャーヌ(演じるのは当時のドロン夫人、ナタリー)とポーカー賭博場の客にアリバイを依頼。さらにメトロを乗り継いで駅から出ると路駐の車を奪う。ポケットには大量の鍵束。いくつめかでエンジンがかかり、走り出す。自動車整備工場に飛び込むと中にいる老修理工は無言でナンバープレートをつけかえる。ぶっきらぼうに手を出すジェフに拳銃を渡し、謝礼を渡したジェフは走り去る。

 一連の流れはスマートなんて言葉で言い表せないほど痺れる。佇まいと立ち振る舞いだけで「一流の男」を見せつけるドロン。よっぽど凄腕なのだな・・・と思わらせるが、肝心の「仕事」の場面はなんともいえない。

 

 ナイトクラブの支配人、マルテの始末を依頼されたジェフは普通にクラブの客として入り、支配人室のマルテを銃殺。忍び込むなんてレベルじゃないので中の人間に顔を見られまくるジェフ。さらに支配人室を出る時ピアニストのヴァレリー(カティ・ロジェ)とは完全に目が合ってしまう!

 殺人の捜査に着手する警部(フランソワ・ペリエ)はローラー作戦で数百人の容疑者を挙げ、賭博場にいたジェフも重要参考人として連行される。どこが一流だよ!すぐに捕まってるし!

 

 集められた容疑者はだだっ広い部屋でナイトクラブの人間の前に通され面通し。マジックミラー越しとかではないのだ。殺し屋から知れない人をいくら警官の集団に守られてるからといってあんな雑な面通しでいいのか。

 そしてジェフは警部に「コイツ怪しい」ということで目をつけられる。だってあからさまに目立ってるから(笑)。しかしナイトクラブの従業員らは「この男です」と名指しするものもいれば、「確信がもてない」と言い出す者も。結構人間の記憶力はあいまいである。完全に目と目があっていたピアニストのヴァレリーはなぜか「この男ではない」と言い、呼び出されたジャーヌもアリバイを証言したため結局ジェフは放免されるが尾行をつけられる。その尾行をメトロを乗り継いでまくと、殺しの依頼を仲介した男(ジャック・ルロワ)から残りの報酬を受け取ろうとするが、銃弾を撃ち込まれ辛くも逃げ出す。

 

 ジェフはナイトクラブの従業員の中にマルテ殺しの依頼人がいるのでは?と疑い、再びナイトクラブを訪れヴァレリーに接近。仕事がはけた彼女の家に向かい、「俺の事を言わなかったのは誰かをかばっているからだろう?」と聞かれたヴァレリーは「2時間後に電話して」とだけ言い残す。

 そのころジェフこそマルテ殺しの主犯とにらむ警察はアパートに盗聴器をしかけていた。さらにジャーヌに「本当のことを言わなければ偽証罪で君を牢屋に入れる」「タチの悪い警察は私のように紳士ではない」と脅しをかけるが(フランス映画の警察ってこんな感じで嫌味な態度を取るんだよね)、本気でジェフに惚れて始めていたジャーヌは証言撤回を拒否して警部を追い返す。

 

 帰宅したジェフはカナリヤの鳴き声が違うことに気づき、部屋の盗聴器をあっさり解除。先日の殺し屋が自宅で待ち伏せており、「新たな殺しの依頼」を持ってくるが隙を見て仲介人を叩き伏せ、殺しの依頼人の正体を突き止めようとする。依頼人のアジトを聞き出すと集団でやってきた警察の尾行をメトロの移動でまき、いつものように自動車を盗み、修理工で付け替えるが、老修理工は「あんたとの仕事はこれで最後だ」と。ジャーヌにも最後の別れを告げたジェフは仲介人が漏らした邸宅へ。

 

 仲介人が暴露した邸宅で殺しの依頼人で思しきギャングのボス、レイを始末するが彼の部屋はヴァレリーの部屋とつながっていた。ヴァレリーこそがマルテ殺しの「依頼人」なのでは?

 ジェフは最後の「仕事」を全うする。ターゲットはピアニストのヴァレリーだ。ナイトクラブに向かい、バーテンダーの男がジェフに怯えるのを見てマルテ殺しの依頼人が彼であることを悟るが、彼を無視したジェフはヴァレリーに近づき、拳銃を抜く・・・

 

 この映画のタイトルはなぜ『サムライ』なのか?冒頭に

 

「侍ほど深い孤独の中にいる者はない。おそらくそれは密林の虎以上だ ――『武士道』より」

 

と言ったキャプションがつくが、これは新渡戸稲造の『武士道』からの引用ではない。監督・脚本のジャン=ピエール・メルヴィルがドロン演じる殺し屋の孤独な生きざまを日本のサムライに準えたというところだろう。ジェフは独特の美学を持った男として描かれ、この人物の「美学」を追った映画だ。

 ストーリーは辻褄があっているようであってなく、ジェフをはじめ登場人物の背景が全く描かれない。映画の中で語られるべき最低限の説明が不足しており、ところどころにぽっかりと開いたすき間を観客の想像力で補っていくタイプの映画なので、ぼんやりと見ていたらわけがわからなくなるだろう。一見、つまらない映画に見えてしまうもの。ジェフはすぐに警察に尾行されたりと一流の殺し屋として欠陥だらけに見えるし。

 

 痺れるほどカッコいい、色気のある男-アラン・ドロンを主役にし、独特の映像美のみで語らんとするメルヴィルの手腕がさえわたっている。これを日本でやろうとしたら必要でもないモノローグを大量に入れて全部セリフで説明しようとするだろう。それはもう映画ではない。

 映画が映画であった時代の一本が『サムライ』なのだった。