しばりやトーマスの斜陽産業・続 -108ページ目

ハリウッドデビューの被害者たち

※この記事は前ブログの過去記事(2018年12月14日)の再録です

 日本の女優がハリウッドデビュー…この言葉に我々(誰だよ)は何度となく騙されてきた。騙されても騙されても犠牲者は次々と現れた。振り込め詐欺の被害者のように。

 松田聖子が『アルマゲドン』で「私はショッピングに行きたいの!」と叫び、北川景子が『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』にどこに映ってるのかもわからないぐらいの出演だったり、森川美穂が飛行機で渡米するところまで激写されたのに、「カジノの客」という扱いだった『007 ワールド・イズ・ノット・イナフ』とか…

 そんな被害者たちの姿を見ても懲りずにハリウッドデビューを果たす女優たちがまた現れるのだ。そしてあらたな被害者が誕生したぞ!

山崎紘菜、実写映画「モンスターハンター」でハリウッドデビュー!
https://eiga.com/news/20181213/3/

 ポール・W・S・アンダーソンの『モンスターハンター』で山崎紘菜がハリウッドデビュー!山崎といえばTOHOシネマズに映画観に行ったら必ず出てくるあの子で、それ以外に何をしているのか思い出せない女優ですがな。おめでとう。ついに代表作ができたぞ
 ちなみに山崎が演じるのは受付嬢ことハンドラー。モンハンシリーズにはギルドガールズとか受付嬢というキャラがいるけど、ハンドラーってのは今年発売されたPS4の『モンスターハンター:ワールド』に登場する受付嬢らしい。らしいっていうのは、僕はモンハンやったことないのでよく知らない。僕はラブプラスで忙しかったんだよ
 なのでネットで検索したら、悪口いっぱい書かれててすげえ不人気キャラなんだけど…そんな不人気キャラを押し付けるなよ、アンダーソン!!バイオシリーズで中島美嘉やローラを出したりしていて、アンダーソンは日本が大好きなんだな、と思ってたら・・・

>山崎が演じることになったのは、ゲームではステージ、モンスターについてプレイヤーに説明をしてくれるハンドラー(受付嬢)だ。「ハンドラーという役はゲームで実在するキャラクターでファンがたくさんいるので期待を裏切らないように演じられたらと思います」と胸中を吐露

 ファンがたくさんいる受付嬢の中でも不人気キャラを押し付けられちゃったのに健気なコメントをして、かわいそうになってきた。このまま新たな被害者になってしまうのか、「実写になったら意外と可愛かった」と土壇場の逆転ホームランを放つのか、山崎紘菜の明日はどっちだ!?

俺のおかげでヒットした!自画自賛だらけの前田有一

※この記事は前ブログの過去記事(2018年12月13日)

 今年最大の話題作『カメラを止めるな!』のレンタルがついに始まり、この機会にはじめて作品を観た、という人が次々と感想をSNSに書き込んで第二次パンデミックならぬポンデミックというべき状況になっています。

 この作品は一般のファン以外にも評論家やライターの人たちが仕事、利益度外視で「この映画、とにかく面白いから観てくれ!」とSNSなどで情報を拡散して、噂が噂を呼ぶ形で人気が広まっていったことも話題になった。鑑賞済みの人たちがなんとかネタバレを避けようとして苦労しながらSNSに書き込んでいるのはおかしかった。今年は他にも『若おかみは小学生!』なども同様で、「全然メジャーではないけれど、とにかく面白いので観てくれ!」と誰に頼まれたわけでもなく、お金が入るわけでもないのに仕事で映画を観る人たちが無償の愛を捧げていた。それぐらいの魅力があったわけだ。

 ところが世の中には無償の愛なんて捧げたくもない、仕事と金のことだけ考えて映画の話題でバズりたい、と考える人もいる。言うまでもないが自称映画批評家の前田有一のことである。

 


 現在大ヒット中の『ボヘミアン・ラプソディ』の大ヒットを公開当初から予想していたという前田有一は「前田が褒めれば20億円が上積みされるといわれています」などとのたまう。

https://twitter.com/maedayuichi_/status/1069814769593401344

映画批評家 前田有一
‏ @maedayuichi_

映画業界の未来を的確に予言している前田氏でーす
前田が褒めれば20億円が上積みされるといわれています。まさに福の神

>公開当初からこのブームを予測していた映画批評家の前田有一氏


 公開前ではなく公開当初というのもアホらしいが、大体『ボヘミアン・ラプソディ』のブームなんて誰でも予想できるわ!しかも俺が褒めたおかげでヒットしていると言わんばかりの自画自賛。こいつが『ボヘミアン・ラプソディ』がらみでバズり、サイトへのアクセス増加をせこく目論んでいるのはいうまでもないが、前田有一の頭にあるのはブームが予測できる俺はスゴイ批評家だ、というアピールだけ。仕事も何も関係ないけど、面白い映画を観客に観てほしい、という意識はさらさらなく、ただ自画自賛と俺はスゴイというアピールがあるだけなのだ。

 この人ぐらいだよ、「俺のおかげでヒットした」的な意見を拡散する評論家って。

リアル大人の鬼ごっこ『TAG タグ』

※この記事は前ブログの過去記事(2018年12月11日)の再録です



 一年のうち5月の一か月間かけて少年たちは鬼ごっこを楽しんだ。最後に鬼になった者は一年間負け犬呼ばわりされるのだ。彼らは翌年にも同じことをやった。それを…30年間続けた。という事実の実写化『TAG タグ』を観た(AmazonプライムやTSUTAYAで観られます)
 これはウォールストリート・ジャーナルに掲載されたワシントン・スポケーンで鬼ごっこを約30年続けている10人の男たちを取材した記事が元になっている。DVDに収録されたメイキングでは男たちが本気の鬼ごっこを繰り広げる様子が収められている。「タッチ返しは禁止」「鬼か?と尋ねられたら迅速に答えなければならない」と明確なルールがつくられ、一か月にわたって行われるのでいついかなる時も隙は見せられない。

 ゴルフを楽しんでいるところにカートに乗って接近、タッチ!「お前が鬼だ!」
 シャワーを浴びている時にやってきてタッチ!「お前が鬼だぞ!」
 野球の観戦をしているところにマスコットキャラの着ぐるみでやってきてタッチ!「今度はお前だ!」

 この光景はまるで命がけでバカな行為に挑む『ジャッカス』みたい。この人たち、すげえバカ。だけどタッチされた方も想像もしていない手段やタイミングでやってくる鬼にタッチされて爆笑。
 この時点ですでに面白いけど、映画版はこの事実をさらに面白くアレンジしている。鬼ごっこをしていた5人のうち、今は大企業の社長として成功しているキャラハン(『ベイビー・ドライバー』のジョン・ハム)が雑誌のインタビューを受けていると、掃除のおじさんがやってきて、「ターッチ!お前が鬼だぞ!」それは鬼ごっこ仲間のホーガン(演じるは『ハングオーバー!』シリーズの歯科医役でおなじみ、エド・ヘルムズ)だった!この後、キャラハンが部屋のガラスを椅子でたたき割ろうとして失敗するシーン、爆笑。
 二人は他の仲間、マリファナ中毒のチリ(『21ジャンプストリート』『LEGOムービー』のジェイク・ジョンソン)、精神科医のカウンセリングを受けている最中のケヴィン(ハンニバル・ブレス)と団結してジェリーを今度こそ鬼にしようと企む。
 ジェリーは29年間、鬼になったことが一度もない最強の男で、ホーガンたちは節目の年である30年目こそヤツを鬼にして鬼ごっこを終えようというのだ。このジェリー役が『アベンジャーズ』シリーズのホークアイ、ジェレミー・レナー!彼はホーガンたちが迫ってもスローモーションでひょいひょいタッチしてくる手を交わし、パルクールを駆使し二階から飛び降りて逃げ切ってしまう。この飛び降りる場面の撮影で失敗してレナーは両腕を骨折以後はギプスを嵌めたまま撮影したので本編ではCG処理したそうだ。『アベンジャーズ』や『ミッション・インポッシブル』ならまだしも、鬼ごっこ映画で骨折するなよ!レナー、どこで本気出してんだ…

 そんな大人のリアルすぎる鬼ごっこは口の悪すぎるホーガンの妻や鬼ごっこ仲間に入れて欲しいバーの店員らを巻き込んでエスカレート。ジェリーの結婚式を狙って計画を実行するホーガンたちをあざ笑うように罠を張って待ち伏せるジェリー。ただひとり諦めきれないホーガンがマナー違反ギリギリのタッチを迫る。クライマックスにはブラックすぎるキツ目のジョークがあるんですが、思わぬ感動的なオチが待ってるんですよ。
 実在の鬼ごっこをやってる人たちも「30年間鬼ごっこをやり続けることで友情がつながってきた。つながりを保つ手段があるのはいいことだよ」「鬼ごっこは逃げるためじゃなく、顔を合わせるためさ」っていってるし。大人になってもバカができるなんてすばらしい。

 

 

 

2020年12月予定(仮)

2012年12月予定

 

12/12(土) 『アイドル十戒 決戦!定規ババア其の10』 アワーズルーム

12/15(火) 『旧シネマパラダイス』 アワーズルーム

12/23(水) 『キネマサロン肥後橋』 アワーズルーム

12/25(金) 『スーパーヒーロートーク』 モノガタリ紅鶴

12/27(日) 『僕の宗教へようこそ一三五教義 地下ニュースグランプリ2020』 モノガタリ紅鶴

 

人としてのボーダーラインはどこにあるのか『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』

※この記事は前ブログの過去記事(2018年11月26日)の再録です


 メキシコの西武、ミチョアカン州・オカンポで今年6月20日から21日にかけて市長選の立候補者二名が殺害された。7月に大統領選、上下院議員選挙、地方都市の市長選など合わせて3400の選挙が一斉に行われる、メキシコ最大の選挙が控えている。以来立候補者、候補予定者、選対スタッフが相次いで殺害されている。ミチョアカンのケースでは左派・民主革命党の市長候補、フェルナンド・アンゲレス・フアレス氏が殺害された。アンゲレス氏は実業家で政界の経験はほとんどなかったというトランプ米大統領の経歴を彷彿とさせる。彼は街に蔓延る貧困、汚職を見るのに耐えられないという理由で立候補を決意したが…
 検察当局はアンゲレス氏の殺害に地元の公安部長が関わっていた(!)として逮捕に踏み切るが、地元警察官らがこれに抵抗、検察は翌日増援部隊を伴い、威嚇射撃の応酬になるが公安部長と警察官28人を逮捕した。オカンポは麻薬カルテルやギャングに支配されており警察も賄賂を受け取っていたのだろう。
 これはメキシコ中、どこにでもある光景で麻薬カルテルが力をつけすぎて、軍隊も抑えられない。というかカルテルの戦闘部隊に元軍人が雇われていたりする。2016年公開のドキュメント『カルテル・ランド』ではミチョアカンを舞台に犯罪組織ロス・セタスの暴虐から街を守ろうと一人の町医者が立ち上がり、自警団を組織する様子を追う。自警団は武装してロス・セタスとドンパチをかまして次々街を解放、それに合わせて自警団の規模も拡大し、熱狂的な支持を受けてカルテルの暴力に怯える住民から歓迎されるが、中には

「あんたら、良いことをやってるみたいに言ってるけど、ただの無法者の集団じゃねえか!?」

 と冷や水をぶっかける人もいる。マシュー・ハイネマン監督はスペイン語もわからないのに自警団に同行。拡大しすぎた自警団は街の警察官を捕まえてボロ小屋に軟禁して「お前ら、ギャングから賄賂を受け取っているんだろう!」と責める。どんなに否定しても自警団は「殺されたいのか?」と拷問を続けて「賄賂をもらっていた」と告白するまでやめない。暴力に耐えかねて不正を認めるとズドン!さすがに自警団も「ここは撮るな」と告げるが、ハイネマンは一連の様子を隠し撮りする。すごい根性だな!

 

 2015年公開の『皆殺しのバラッド メキシコ麻薬戦争の光と影』はメキシコ、いや世界でもっとも危険な街と言われるシウダー・フアレスを舞台に麻薬カルテルのすさまじい暴力と支配を描く。年間3000人がカルテルによって殺されるこの街では警察も役に立たない。買収されているか、逆らえば報復が待っている。地元警察官リチは未解決の殺人事件のファイルが山積みにされた机の前で頭を抱える。同僚3人は報復を受けた。両親からは警察をやめて他の仕事をしろといわれるが、不況の街には仕事などない。リチは愛する地元の街を救いたいと願うが、何もできない。麻薬カルテルはもっとも力があるし、金もあるので貧しい地元に貢献したりして支持を受けている。女子校生らが無邪気にも「付き合うならギャングがいいわ。カッコいいもの!」と黄色い声を送る。そんな麻薬カルテルやボスたちを称える歌がメキシコで大流行り。ナルコ・コリードというジャンルでアメリカでも売れているのだ。ただし、歌詞が暴力的すぎるのでラジオではかけられない。
 ナルコ・コリードの人気歌手、キンテロは「手にはライフル 肩にはバズーカ 逆らうやつは頭ぶっ飛ばす」と物騒な歌でヒットチャートを駆け抜ける。ライブでバズーカ(多分本物)をかついで歌えば観客は大声援。だが家に帰れば妻と子供が待っていて、貧困の中から抜け出すにはナルコ・コリードしかなかったんだと呟いて観客は胸を打たれる。

 すさまじいばかりの迫力に満ち、渇いた血の匂いのする題材がメキシコ麻薬戦争だ。ドキュメントとして優れているならフィクションでも通用するだろうとして傑作になったのが2015年の『ボーダーライン』だ。アカデミー賞3部門ノミネートした。メキシコの国境線で起きる麻薬戦争に不法な手段で介入する舞台を描いたサスペンスでCIAは国外での活動を禁じられているが彼らは国境を越えてメキシコに潜入し、カルテルの金庫番を襲ってそれを内部の裏切りによって起こったように見せかけたり、おとり捜査で仕掛けたり、人殺しも平気でやるモラルのない捜査を行う。無法の麻薬カルテルとの戦いには、こちらも善悪のボーダーラインを越えなくてはならない!CIAは顧問としてアレハンドロという正体不明のコロンビア人を雇っている。彼の別名は「シカリオ」。スペイン語で殺し屋という意味だ。アレハンドロはかつて検事だったがカルテルの報復で家族を処刑され、殺し屋になった。演じるべニチオ・デル・トロは正気を失った目をぎらつかせて無表情で仕事を遂行する。彼を信頼するCIAのグレイヴァー(ジョシュ・ブローリン)はモラル無き戦いにどう挑むのか?

 アメリカ国内で自爆テロが発生。アメリカ政府はメキシコを名指しで批判。カルテルによって彼らがアメリカに不法入国したとして実力行使を世界中に宣言する。
 CIAのグレイヴァーはカルテル同士の抗争を誘発させるため、最大派閥のボスの娘、イザベルを拉致し、自分たちで救出する。「娘をさらったのは対立しているカルテルの仕業だぞ」というわけ。
 娘を連れた装甲車をメキシコ警察が先導する中、メキシコに入国するグレイヴァーらだが、突如メキシコ警察から銃撃される。自作自演がバレていた!なんとか撃退するも銃撃戦の最中にイザベルが逃亡する。アレハンドロが娘の後を追いかけ、危険なメキシコ国内にこれ以上留まれないグレイヴァーらはアメリカ軍基地に逃げ込む。無事基地に入った彼らにアメリカ政府から作戦の変更があったと知らされる。自爆テロの犯人はメキシコの麻薬カルテルとは無関係だったことが判明し、メキシコ政府から「この落とし前をどうつける」と迫られたのだ。
 アメリカ政府はこの作戦をなかったことにするためイザベルを殺して穴を掘って埋めろと非情の命令を下す。そのころイザベルを捕まえたアレハンドロが娘を連れて帰ると連絡するがグレイヴァーはお前が殺して埋めてくれと依頼。しかし「そういうわけにはいかない」と命令を拒否。父親にも見捨てられ、寄る辺のない娘はアメリカが承認保護プログラムを発動させて救うべきだと。グレイヴァーは「ならば、お前ともども殺すしかない」とヘリで再度メキシコに潜入する。


 人の命を紙よりも薄く扱うメキシコ麻薬戦争を前に「善悪のボーダーライン」を越えた非道の殺し屋、アレハンドロが「人としてのボーダーライン」は越えられないと娘を守ろうとする流れは前作とは違うエモーショナルさがありながら前作に匹敵する緊迫感を生み出した。
『トラフィック』『エスコバル 楽園の掟』と麻薬戦争モノ映画には欠かせないべニチオ・デル・トロの存在感に圧倒されてほしい。