ファッションにおけるコピー商品がもたらす問題点 4:ファッションを楽しめる世にするために | 伝統技術を現代のライフスタイルに合わせて発信するプロジェクト  ”ARLNATA” アルルナータ ディレクターの独り言

伝統技術を現代のライフスタイルに合わせて発信するプロジェクト  ”ARLNATA” アルルナータ ディレクターの独り言

約11年に渡るヨーロッパの様々なステージのラグジュアリーブランドを経て日本に帰国し、衰退産業とも言われている日本の伝統技術を今の形で発信するためのプロジェクト”ARLNATA”アルルナータを主催しているディレクターの独り言です。
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 前回にファストファッションが出来上がる過程を、まだファストファッション的な存在の無い車の世界で例えて考える事で、現在のプロフェッショナルが抱える問題点を挙げていきました。

<参照:ファッションにおけるコピー商品がもたらす問題点 1:一着の価値が薄れていることの弊害

<参照:ファッションにおけるコピー商品がもたらす問題点 2:カバンだけでなく服も興味深い高級ブランド

<参照:ファッションにおけるコピー商品がもたらす問題点 3:まだファストファッション的存在の無い車の世界



 以前からも言っている様に、何事も楽しむためには勉強(努力)をしなければなりません。それは例えば数学でも同じです。僕は学生の頃数学が苦手でしたし、世の中には数学が苦手だと言う人は多いと思いますが、その逆に数学が得意だ、大好きだ、素晴らしい、美しい、などという人も確実に存在します。でも、数学が好きだという人で数学が出来ない人なんているでしょうか?数学が好きな人は、間違いなく数学が出来る人、もしくは解る様になって来て楽しくなっている状態の人だけです。数学が理解不能な人に“好きだ”という感情が生まれる訳がありません。すなわち勉強を重ねる事によって、知識を深めその分だけ理解が深まる、そして勉強しようという意欲も湧き、さらに理解が深まる、、、、、の循環なのです。これはどんなことでも同じで、それはファッションにも当てはまります。ファッションの場合は着た時にキレイとかカッコいいとかといった要素が重要になりますが、そう感じた瞬間に人はそこに何かしらの理由を求める様になります。初めのうちは例えばこのジャケットは細身のシルエットだから自分に似合う、と思った人が後に色々な店で自分に似合うであろう細身のジャケットをどんどん試していくことで徐々にそれらの差異に気付く様になり、細身のジャケットでもウエストは実は細すぎると気持ち悪い、ウエストの細さというよりも肩幅とウエストのバランスが大事、ウエストの絞り位置がやや高め、袖も釜底が浅く細身で袖山の後ろがなだらかでは無くシャープな丸みの方がいい(これはバックリとした僕のジャケットの好みです)、、、などと徐々に違いが解ってくる様になるのです。これはシルエットに限った話ではなく、生地に関しても調べて行くと色々面白い事が解ってくるし、縫製にしても縫い目や始末の仕方が特別だったり、これは普通のミシンじゃないなとか、これは手でしか縫えないとか、これは時間がかかっている服だなとか、もうそれはたくさんのウンチクがあるものです。そういうことを知っている人が今のファッション(誇りを持って作られているモノに限りますが)を見れば、技術の進歩も相まって作られたものですから、間違いなく楽しめるものになっていると僕は思うのです。


 もちろん一般の人がそこまでのことを知る事は限りなく不可能に近いでしょう。しかし、そういったウンチクを一般の人に伝えて楽しさを共有する事はできるわけです。しかしながら共有できる様な知識を持ったプロの人がいなければ一般の人に伝わる事はまずありません。プロの人自体に知識が無くて、一般の人、つまり大半を占める消費者がその影響を被って楽しめないのであれば、そりゃあ今のファッションが楽しいなどという人が出てくるワケがないでしょう。以前にも書きましたが、ファッションだけに限らず、一般の人はプロの人の意見や考えを大いに参考にします。そのプロが勉強不足だと例え良いモノがあったとしても良いモノとして世に出る事がありません。そうすると、せっかく良いモノを生み出しても結果として評価されず売れなかったからダメなデザインとして片付けられるような世の中がまかり通れば、どうやって次の優秀なデザイナーが育つというのでしょうか。売れなければ意味が無いという人もいますが、今の世の中は売れないからと言ってダメなデザインだと安直に決めつけるには酷な環境になっています。良いデザインであってもあまりにも多くの商品の中に埋もれてしまい、見つけられにくくなっている点、そしてそれを理解してくれる、あるいは理解しようと思いつつ探し出そうという熱意のあるプロや一般消費者が少なくなっている点、これは本当に深刻な状況だと思います。そしてこれはファストファッションの登場によって自動的に引き起こされた結果だと僕は考えており、だからこそ一概に最近のプロはレベルが低くなった!などと責め立てる事は難しいと思うのです。なるべくしてプロの劣化が起きているのだと残念ながら言わざるを得ないのです。だからと言って、プロは今のままでいいのだということには当然の事ながらなるわけでは無いのです。


 コピー商品を作って売る事はファッションで生きる人全てに害を与える事になるでしょう。オリジナルを作っている人達が次への創作活動に進むことの妨げになり、この状況は次の新しいデザイナーが出る芽を摘む事になる事は当然認識しなければなりません。と同時に本来すべきであるプロとしての努力を怠る事で自分のプロフェッショナル性を下げ、それが結果的に業界全体としてのレベルを下げる手助けをしているということも自覚しなければなりません。つまり、今のファッションがつまらないと思う様な空気を自分自身がわざわざ、しかし知らず知らずのうちに作っているという事です。あなたがプロとしてファッションの世界に身をおいていながら今のファッションがつまらないなと思ったならば、一度自分の知識を客観的に分析してみましょう。本当に洋服の善し悪しを自分の尺度ででも語る事が出来るのか。自分の洋服に対する価値観を語れるだけの蓄積があるのか。もし人様に言えない様な程度であると気付いてしまったなら、つまらないとか楽しいとかをプロとして声高に叫ぶレベルにはまだまだいないのではないということではないでしょうか。そして、本当にファッションが楽しいものであってほしい、ワクワクしたいと思うのであれば、もっと世の中の作品に目を向けましょう。細かい所まで興味を持ちましょう。気になることがあれば自分で調べて理解する努力をしましょう。よく売れているから良い商品だとかそうでないから悪いとか他人の価値観に左右されない自分の価値観を持ちましょう。自分は忙しいからそんなことをしている時間が無いなどとはただの言い訳で、こうすることがプロとしての仕事なのです。そしてオリジナルな商品がオリジナルである事を理解し、そしてそれらが素晴らしい作品であるのならそれに値する敬意を示せば、間違いなくそういった姿勢を必要とする人が集まってくるはずです。結局は人と人の繋がりなのです。モノを介しつつも人と人とが尊重し合える様な状況が無ければ、そのモノが発展することなどありえません。モノを評価し発展する機会を設けるのもそれを認めるのも 結局のところ人なのですから。


 これからの世の中、日本のマーケットで元記事にある様な海外のブランドモノがコピーされ堂々と売られる様なことが続けば、ますます日本の若いデザイナーが減って行くだろうし、そうなるとますます海外ブランドのステイタスが高まり(それしかクリエイティブな楽しみを頼る所が無くなってしまうので)、ますますそれらを崇拝する様になりそれらをコピーする事がどんどん加速して行くでしょう。そうなるとコピーを作るためには安価な工賃が必要不可欠になるため日本の製造業者はますます疲弊していきます。日本国内に新たなデザイナーが育つ環境を失った日本のファッションはただひたすら海外の商品とそのコピーを消費するだけのつまらない世界に落ちぶれてしまいます。こんな日本のファッションで良いのでしょうか?こんな将来をみんな期待しているのでしょうか?世界を見ても非常に稀な高い技術と繊細さと独自の視点を持っているというのに?僕はこんな日本のファッションの将来は全くもって見たくありません。可能性が全く無い国であるのならともかく、日本には大いなる可能性が秘められているからです。その可能性を実現させるためにも、プロには自分の行動の社会に対する影響に責任をもつこと、そして一般のファッションを楽しみたい人々も安価なものには何かしら理由がある訳ですから安易に手を出さないなど、今 一人一人が、どうすればいいのか、どうすべきなのかを冷静に考えて、目先の利だけに捕らわれずに中長期的な視野で行動すべき時なのだと思います。“最近のファッションは楽しくなった“とみんなが再び実感できる世の中にするために。




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