ミラノの高級生地店で気付かされたこと 1:わかっている人は簡単にお金を使わない | 伝統技術を現代のライフスタイルに合わせて発信するプロジェクト  ”ARLNATA” アルルナータ ディレクターの独り言

伝統技術を現代のライフスタイルに合わせて発信するプロジェクト  ”ARLNATA” アルルナータ ディレクターの独り言

約11年に渡るヨーロッパの様々なステージのラグジュアリーブランドを経て日本に帰国し、衰退産業とも言われている日本の伝統技術を今の形で発信するためのプロジェクト”ARLNATA”アルルナータを主催しているディレクターの独り言です。
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 最近イタリア人の友人にコートを作ってほしいと依頼されて、本来そこまで縫製に自信が無いのと、実際裏地を付けてまで縫製した経験が少ないため当初はあまり乗り気ではなかったのですが、数少ない友人から強く頼まれたので結局引き受ける事にしました。デザインは彼が外の店で見て気に入った、ある高級ブランドから若干彼好みに変更したものでした。初めはコピーかよ、、と正直思ったのですが、ファッションには(正確にはブランドには)ほとんど興味が無い彼が気に入ったって言う事はおそらくシンプルなものなんだろうなと実物の商品を見る前は思っていたのですが、実際店に行って見てみるとこれがすごく考えられていた構造で自分も欲しくなったくらいの素晴らしいコートだったので、これならコピーしがいがあるということで(構造や仕立てを勉強するという意味で)、やや乗り気で引き受ける事になったのです。やはりStyle.comなどの写真だけだと限界があるな、実物を見ないとその良さが解らないことも頻繁にあるのだろうなと改めて思わされた瞬間でした 。


 パターンの作成からシーチング(フィッティング用の安い布地)での3回の仮縫い(フィッティング)を経て本番の生地で裏地も付けて縫製まで行いました。また彼の選んだ生地がLoro Piana社製のメートル220ユーロもする超高級カシミアウールで、毛並みが立っているため生地を半分に折って左右のパーツを一度に裁断するという事が出来ず、一パーツずつ個別に裁断し、アイロンで風合いを潰さないよう非常に注意を払いながら作り上げなければならず、思っていたよりも5倍くらい辛い思いをしながら先週金曜にようやく納品する事が出来ました。こうやって一人で最初から全部の過程を経験すると、いかに一着の服を丁寧につくるということが大変かということが身にしみて味わえましたし、それぞれの分野にプロがいてそれらが各々のベストを尽くすという方法がとてもありがたく、そして何よりも効率が良いとつくづく感じました。ですので、この様な服をどこかの店が大量生産して一枚10000円程度で売られてはどうしようも出来ないよなあ、などと色々考えさせられるきっかけにもなりました。


 今回の言いたい事はそういうことではなく、生地を買いに行った時にふと気付いたことを書こうと思ったのです。生地屋は街の中心の高級住宅街にあるお店で、基本的にはメンズのスーツ地が扱っている店なのですが、ハイソサイエティーな場所柄もあってか高級素材ばかりを扱う店なのです。僕の友人はそんな中でも特に高級な220ユーロ/mの生地を大阪のおっちゃん・おばちゃんかのごとく値段交渉し、結局3mで500ユーロまで下げて手に入れました。そんな値切りの最中、二人のとても上品な婦人が入店し、何やらコートの生地を探しているようでした。一人はすらっとスタイルも良く年齢は45歳前後位かと見受けられるご婦人で腕にはFENDIの新作バッグを提げており、経済的な余裕がある事は瞬時に理解できました。日本の様にお金がなくてカバンだけブランドものを買うというのはイタリアではあまり見かけないからですし、着ているものだけではなく振る舞いからして雰囲気が違います。しかし、ここで僕が疑問に思ったのは、生地屋に生地を買いにくるという事は、自分で何かを縫いたいから買いに来たのか、そうでなければ買った生地でオーダーメイドの服を仕立てるということしか考えられません。そう思うとバッグでFENDIを買う様なご婦人は、それこそFENDIだ何だの数ある高級ブランドの店で自分の好きなものをそれこそ金にモノを言わせて購入すれば済むだけなのに、なぜにオーダーメイドで服を仕立てようと思うのだろうか? と思ったことなのです。デザインという意味で言えば、そういった高級ブランド店の方が選択肢はかなり広がるのにです。


 次回に続きます。




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