ミラノの高級生地店で気付かされたこと 2:ブランドモノはお金持ちにはどこか物足りない | 伝統技術を現代のライフスタイルに合わせて発信するプロジェクト  ”ARLNATA” アルルナータ ディレクターの独り言

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約11年に渡るヨーロッパの様々なステージのラグジュアリーブランドを経て日本に帰国し、衰退産業とも言われている日本の伝統技術を今の形で発信するためのプロジェクト”ARLNATA”アルルナータを主催しているディレクターの独り言です。
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 前回にミラノの高級生地店で、ブランドものでも何でも買えるお金持ちそうな婦人がおそらくオーダーメイド用の生地を購入しているのを見かけて、なぜ手間もかかるしデザインの幅も比較的狭いオーダーメイドをするのか疑問に思ったということを書きました。


<参照:ミラノの高級生地店で気付かされたこと 1:わかっている人は簡単にお金を使わない


 残念ながらそのご婦人に直接聞く事はしませんでしたが、後に僕にコートを依頼してきたイタリア人の友人と、そのコートにボタンホール開けるために依頼しに行った家の近所のお直し屋さんにその話をすると、なかなか興味深い返事をもらったのです。二人の話を総合するとこう言う事になるのです。


 イタリアには世界各国から観光客が訪れ、特にミラノはブランド物のショッピングが目的の観光客が多いことで有名です。実際高級ブティック店内はイタリア人というよりもむしろ外国人の客の方が多いくらいで(今は中国人とロシア人、そして中東のお金持ちの割合が非常に多いと言います)、まだまだ高級ブランド人気は衰えず相も変わらず繁盛しているかの様に見えますが、地元のイタリア人のお金持ちにはそういったいわゆる高級ブランドに大金を払うことに疑問を持つ人が少しずつ出て来始めているという事なのです。ブランドものが高いのはもちろんブランドとしてのクオリティを維持しているからということもあるのですが、実際の所はそれ以外にも広告費に大きなお金をかけているということや、大量に売って利益をあげるために利益分をおおきく乗せている事も今やみんな知っている事ですし、イタリアブランドであっても昔の様にすべてがmade in Italyではない(made in Italy であってもmade by Italianとは限らない)ことも明らかなので、そんなものにそこまで支払う価値があるのかと疑問視する人は多くなっていると言うのです。以前までブログでも書いて来た様にもちろん高級ブランドの製品は高いだけあって、選りすぐりのデザイナーやパタンナーやその他の多くのプロが集まって作っているのであって、それだけにもちろん興味深い製品も多く存在するのは事実です。時間と人間の労力をかけて作られるものは当然高くなって当たり前なのですが、いくら一概に「高い」と言ってもそれが意味する所がジャケット一着20万円なのか、100万円なのか、色々あるわけです。結局は値段は人が決定したモノで絶対的な価値ではありませんし、時にはその額に果たして払うだけの値打ちがあるのか、妥当な値段が付けられているのか、などということに疑問を持ったとしても何らおかしくはありません。僕自身の考えですが、高級ブランドでも値段に見合っただけの価値がある服と感じられるものもあれば、これはどう考えてもボッタクっているなと思うものも正直たくさんあります。値段に関しては個々人が納得すれば支払えば良いのであって、特に文句をここで言うつもりはありませんが、どちらにしても一着50万円のジャケットの値段を全く気にせず(値札も確認せず)に買える身分の人はそうたくさんいるものでもありませんし、商品の価値そのものではなく“高級ブランドのブティックで買い物をする”というショッピング行為自体にお金を払っている人もいるでしょうが、多くの人は支払う金額に見合った価値の商品を買おうとするものです。やはり価格に対する製品の質への疑問、そして何よりも既製服である以上お金さえあれば誰だって同じものが購入でき、深く考えれば製品としての特別感に欠けるという意味からもブランド商品自体にそこまで満足していない人もイタリアでは増えて来ているのだと言うのです。そんなわけで、自分で生地を選び自分の指定したデザインで自分のサイズで自分のために作られたオリジナルの服に存在する特別感を楽しむ、そんなイタリア人はどうも少なく無い様なのです。


 実際、生地屋さんには僕たちは30分くらいはいたと思いますが、その間に7~8人は店に入って来たと思います。もう一度言いますが、値段的には50ユーロ以下(今で言うと7000円/m以下の生地はほとんど売っていない様な高級店にです。しかも会話の感じからそれらの客はみんな素人さん(テーラーの人ではなく、オーダーメイドを注文をする側)なのです。ほとんどの人は生地屋の店主と顔見知りな対応だったのも印象的でした。ここまでオーダーメイドがミラノには流通している現状はすごく興味深いなと思ったのです。正確には解りかねますが、イタリア人だけで考えてみるとひょっとしたらオーダーメイドと高級ブランドのイタリア人顧客占有率は意外と良い勝負なのかも知れません。日本は最近いわゆる高級ブランドを買う人は減って来ているとは言え、まだまだ人気は根強いと思います。まあ、別にどちらの割合が多いのが優れているだとかということではないのですが、洋服に対する意識と言うか、お金に対する意識と言うか、生き方に対する意識と言うか、こんなところでもまた新たに日本とイタリアのギャップを感じる事ができたので、新鮮に思ったのです。またまた個人的な見解ですが、オーダーメイドを好む人はどこか既製服を馬鹿にして、その欠点はいくらでも意見できますがその良さを知ることはあまりありませんし、逆に既製服のブランド品が好きな人はどこか地味な上に高いイメージがあって取っ付きにくい感じのするオーダーメイドに手を出そうとする人も多くは無い様な気がします。つまり、両方の事に深い見識があって冷静に見ることができる人はそう多くはありません。日本ではオーダーメイドと言うとスーツ以外にはあまりなじみが無い様に思いますが、これからひょっとしたらイタリアの様にスーツ以外でもオーダーメイドが増えるのかもしれませんし、文化的な違い等から増えないかもしれません。今回は特にオチは無いのですが、いずれにせよこれだけ世界が小さくなった中にもまだまだ国が違えば、服に対する考え方や意識、買い物の仕方も違うのだなと、どこかありがたく、そしてほっとした体験をしたのでした。




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