ジェットミサイルとmoana。
世の中には目に見えないなんとかってウイルスが蔓延してて、どうやらそいつは世界規模の有名人。
お洒落マスクを流行らせ、満員電車の乗車率を緩和し、観光地のうざったい人だかりを消した。どんなものにも長所があれば短所ってやつもある。僕やあんたと同じようにね。
そんな話しがなくたって逃げ出してしまいたい事が多いけれど、後ろ向きだろうが何だろうが行動を起こすのは酷くエネルギーを消費する。詰まるところ、逃げ場なんてものは何処にも無い。
安全なのはネットの世界とあの世だけ。肉体ってのはなんとも不便。
そんな体を脱ぎ捨てて、一足先に凄い速度で旅立ったやつもいる。
ウイルスに負けた訳でもなく、息子の大学合格を見届けてジェットミサイルは雲の上に登っていった。人騒がせな煙を撒き散らしてね。
あの迷惑な煙に巻かれたせいで今の僕があるし、最後の最後まで煙が目に沁みて大変だった。
もちろん、煙の被害を受けたのは僕だけではなく、何人もの人があの迷惑な煙を懐かしく思い出したことだろう。
今ではすっかり地下に埋もれて、墓標とは言い難い小洒落たマンションの建つ代々木の一等地。あんなに充満していた迷惑な煙も今では過去の事。
まぁ、過去ってのはいつだって僕らに付きまとう亡霊みたいなものだから、怖がらずに抱きしめるのが一番だ。
亡霊を抱きしめる方法はあの地下で色んな人に教わった。抱きしめ続けて未だに夢の途中。最高の夢だから、一生覚めなくて良いけどね。
散々振り回されて、迷惑もかけられたし喧嘩もしたが、あいつに一番迷惑をかけた後輩は僕だったらしい。無断欠勤に遅刻の嵐。そりゃそうだよな。
地下にいたのは6年程で、長い人生を考えれば一瞬のこと。
飛ぶようにすぎる今の時間とは真逆だったように思える。
ここが自分の居場所だとあんなに自然に思えたのは初めてだったが、どんなものでもいつかは無くなるし、旅立つ時は来るのだろう。
あの地下が無くなる最後の日、「時よ止まれ」とふざけて時計を壊した奴がいた。
壊すまでもなく、あの時計の時間はずれていたけれど。
あの日出会ったおばけが三匹いて、あの地下には何匹ものおばけがいて、最後のおばけが壊した時計。
「時計を壊しても時間は止まらないんだよ」なんて至極当たり前のことを言いながら、あいつは壊れた時計の欠片を拾い集めていた。
言葉の通り時間は過ぎて、能代のジェットさんは雲の上。
本当はもっと早くにジェットミサイルが駆け抜けたことをお知らせするべきだったのだろうけど、あいつが駆け抜けているのも、旅に出ているのも、いつものことな気がしてさ。
どうせ向こうで楽しくやってるだろうから、僕も引き続き迷惑な煙を撒き散らそう。そのやり方はあいつに詳しく教えてもらったよ。
そんな煙を掻き集め、肺に目一杯溜め込んで、盛大に吐き出して完成したのが踊ってばかりの国の最新作、8th Full Album『moana』だ。
このアルバムの録音前、最後のスタジオでジェットミサイル発射の知らせを聞いたものだから、僕のイメージは煙に支配されてしまった。
何はともあれ、無事に発売日を迎えられそうだ。
6月2日にオンセール。
駆け抜ける速度ならジェットミサイルにも負けない頼もしいメンバーと顔面を突き合わせて作った音楽だ。
雲の上まで届かないはずがない。
7月からはツアーも始まる。
どこまでやれるかわからないが、やれることをやるだけ。
待ってろ、小林。
みんなで穴を掘らないか。
基地ってだけで男の子は悶えそうになるのに、それに秘密なんて単語がくっついた日にはもう作るしかないってなるよな。
それは押し入れの中だったり、駐車場のデッドスペースや立ち入り禁止の屋上、近くの林の格好良い形の木の上、海辺の岩陰や橋の下、不法占拠した部室、体育館とプールの隙間の溝、深夜の工事現場と今にも崩れそうな空き家、少年時代の僕はとにかくそんな秘密の場所を探し続けていた。
今では立派な家が建っているけど、当時はまっさらな空き地で、伸び放題の草とブロックに囲まれてるその空き地に一目惚れして、そこに秘密基地を作ろうと試みたことがある。
実際は家が建っているわけだし、日本に空き地なん てものは存在しないだろうけど、とにかく僕らはそこのことを空き地と呼んでいた。
幼なじみで悪友のラッパーと一緒にお揃いのつなぎと足袋靴を買って、中学校に忍び込んで一輪車とスコップとバケツを拝借した。
深夜の住宅街を一輪車に夢を詰め込んで、パトカーに怯えながらその空き地に向かった。
後はひたすら掘った。
隙を見ては深夜に家を抜け出して、どんなに大きな石が出てきても二人で力を合わせて僕らの夢を邪魔するそいつと闘った。
とりあえず大穴を掘って、そこから更に横に掘り進めればお手製の地下室が作れるのではと本気で考えていたんだ。
人間一人がすっぽり隠れるくらいに掘り進んだ頃、その大穴はある日突然姿を消した。
大穴に隠しておいたつなぎや靴やスコップなんかの諸々がビニール袋に詰められて掘り返した土の上に打ち捨てられていた。
まぁ、見知らぬ誰か所有の土地なのだから当たり前なのだけど、そのときは本気で落ち込んだ。
端から見れば穴を掘っているだけだが僕らは夢とロマンを作っていたのだ。それも深夜に地下に向かってね。
今では昔の笑い話しの一つでしかないけれど、僕らはあれから何も変わっていない。
一見無意味な物に熱中している時間は特別だ。それはくだらない程に特別だ。
僕らが音楽に熱中している今も、穴を掘り続けて秘密の場所を探し続けたあの頃と何も変わっていないのだ。
盗んだCDも買ったCDも、それには秘密が詰まっているような気がしたし、僕をこことは違う特別な場所に連れて行ってくれるものだった。
男の子は自分たちだけの秘密の場所を探すし、女の子は秘密の話しが大好きだ。
僕たちは去年の暮れに皆が大好きな秘密を持ち寄って、それに火を着けたり転がしたり、水に混ぜたり空に投げたりしながらあの頃よりも上手に歪で完璧な大穴を作り上げたんだ。
スタジオもライブハウスもCDも、今の僕にはとっておきの秘密基地ってわけ。
思い描いていたものよりも素敵な秘密基地が出来上がったから、皆を招いて遊びたいって思ったんだ。そうしたらいつの間にかツアーに出ていたし、気づけば今日でツアーファイナルだ。
皆で秘密を共有しないか。
いつかはきっと秘密じゃなくなるから、好きなあの子と自分だけの秘密みたいな甘酸っぱさを体験できるのは今しか ないと思うんだ。
これも秘密だけど、今日は下津の29歳の誕生日だよ。
あいつが産まれたってのが事件だから出来れば秘密のままでいてほしかったけど、秘密ってのはいつかバレるから最高なんだよな。
皆で盛大に秘密をバラそう。
その瞬間は派手な程に面白いから、きっと今日は最高の日だ。
あんたの秘密も僕にだけこっそり教えてくれよ。
それでは、秘密基地で会いましょう。
丸刈りのわけと刺激。
地下室が好きだ。
窓がなければ外のことなど気にならないし、ブレーカーを落とせば本当の暗闇が手に入る。
防音の壁よりも分厚い地面にくるまると外の雑音なんか聞こえない。身体の音がうるさいくらい。
世界に自分が一人だけみたいな錯覚。まぁ、錯覚じゃないとパニックだけど。
海に潜るのも似たような気持ちになれるけど、いかんせん健康的すぎる。
あんまり綺麗で心地よいものに囲まれると凄く落ち着かない気持ちになるんだよ。
自分とかけ離れたものはそれがどんなに魅力的でも長くいると辛くなる。
魅力的なほど辛くなる。
なんだか恋に似ているね。
小汚い居酒屋で知らないおっさんの明日の予定でも聞きながら安酒浴びるくらいが丁度いい。
後はひたすら何かの文句をシミだらけの床にばらまいておけば僕の心は平穏だ。
僕の心の平穏のハードルは決して高くないと思うのだけど、美容室はダメだ。
なんなら全てのお洒落空間が苦手だ。かけ離れすぎてんだよな。自分と。
多分に偏見と先入観があるのはよくよく理解してるけど、人の価値観なんてそんなもんだ。
かけ離れすぎてないとこだけを選んで生活してたら髪が伸びて、ジーンズが破けて、たまに肺も破れて、家がなくなったりしてどんどん小汚くなって行った。
主食が松屋でデザートがマクドナルド。ジャンクフードの息継ぎに酒。寝るのは家の布団よりバイト先の床。ゴキブリとネズミは親しい隣人。
人間よりも埃とか下水なんかに親近感を感じてたんだけど、ツケが回ってきたのか生え際が引退しそうな雰囲気を出してきた。
前から30になったら丸刈りで髭三つ編みにビーズ付けた人になるって言ってたから、今年中に丸刈りやるってことで気持ちに折り合いをつけていた。
まずはリーゼントかモヒカンにしようと思ってたんだ。そのはずだったんだ。
明け方のClub Queと黒霧島。不機嫌な下津と酔った谷山。ハサミとバリカン。散らばる髪の毛。人差し指の傷。
材料が揃いすぎて気づいたら眉なしの坊主が二人で肩を組んでいた。
日差しで頭が痛かったり、寒風が首を冷やしたり、水がなんの抵抗もなく頭を通り過ぎたり。
まぁ、楽でいいや。
なんて思えるのも私が歳を取ったせいなのでしょうか。
やっと三十路かよって思ってたし、先の長さに目眩がするよ。
僕の人生は楽しいけど、長すぎると飽きるよね。ずっと自分って壮絶だ。
ほんとに飽きたら死んじゃうから、適度に刺激を求めるのだ。
今は刺激の真っ最中。
音楽と旅。
フェリーに揺られて苫小牧へ。それから札幌でスープカレー。ライブもだけどスープカレー。
とりあえず口の中に刺激をくれ。
刺激も続くと飽きるから、誰か沖縄に僕らのための甘えん坊ハウスを建ててください。
ツアーはまだ前半戦。東京には五体不満足で帰ると思います。
帰るところがある旅はとても落ち着くし、しあわせなことだね。
では、刺激に向かって。