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明日を見つめて~神崎美里の告白⑦

瞼を開くと真っ直ぐに陽が目に差し込み、眩しさに思わず手で光を遮る。遮った手はその光によって輪郭部分を明るく映し、僅かな赤みを帯びていた。
視線をテーブルに戻すと、氷が溶けて汗を掻いたグラスが目に付く。その汗が脚を滴って台の部分に溜まり、その丸の形を縁取ってテーブルに張り付き、手を伸ばしてグラスを持ち上げると、溜まった水滴たちは耐え切れずにポタポタと垂れ落ちて弾け、テーブルに細かく点在して残った。
もう片方の手で脇に置かれていた布巾を寄せて点在された水滴を拭き上げ、同時にその布巾の上にグラスを置き、台に溜まった汗も綺麗に拭い取ってから、もう温くなってしまったハーブティの残りを一気に飲み干し、そうして先ほどまでの昔話を綺麗さっぱりと洗い流してしまった。


あの事をきっかけに<私は自分が強くなった>とは思ってはいない。その証拠にあの後私は理想と現実のギャップに打ちのめされ、早々に部屋を引き払い、一度は実家へと逃げ帰ったのだから。
それに多分・・・・・今も同じ目に遭ったらきっと同じ行動をすると思う。そういう事も含めると結局の処、私は何も変わってもいないし、気持ちや感覚はほとんどあの頃のままだ。


空になったグラスに視線を向けると表面に付いていた水滴の汗は無くなっていて、日差しの延長線を辿ったテーブルの上には半透明に透かしたグラスの影が映っている。
周りを見渡すともうすでにお客の大半は入れ替わっていて、長い時間居座っているのは私とテーブルの上でノートパソコンを開いて画面とにらめっこをしているビジネスマンの何人かだけで、お店の雰囲気もモーニングのメニューからランチのメニューへそろそろ変わろうかという感じの流れが見てとれる。時計を見ると時間は間もなく11時になろうかというくらいで、そういった時間や全体の雰囲気の変化、そして長居した事への申し訳なさも併せて席を立ち、会計と共に『ごちそうさま』という挨拶も添えてオープンカフェを出た。


通りに出て道なりに歩いて品川の駅に向かう途中・・・・・並びにあるお店のウィンドウに映った自分の姿を見る。着ている服や化粧など年齢による変化はあるものの、顔も身体もそして立ち止まって姿見をする時の立ち方や癖もまったく変わっていない。
私はたまたま運が良かった人なだけで、特別な何かがあった訳でもなんでもない。1度目の上京は失敗に終わったけど、2度目の時はきちんと両親に自分の気持ちをぶつけてトコトン話し合いの場を持ち、その結果快く送り出してもらえたし、アルバイトでもいくつか転々と変わりはしたものの仲間に恵まれて本当に楽しく働かせてもらった。又その中で今の仕事に繋がるきっかけになる出会いも経験した。別に全てが順調にいった訳でもないけど、それでもあの時の苦しみを考えたらはるかに幸せだといつも感じられる。これから先、何が起こるのか?又、何が待ち受けているのか?そう考えたらきっと不安でいっぱいになるかも知れないけど、それでも今の自分なら乗り越えられる、立ち向かっていける・・・・漠然とだけどそんな気がする。


第一京浜を挟んだ向こう側に品川駅が見え、通りに出て右手を上げるとすぐに1台のタクシーが私の前で止まり、静かに乗車のドアが開いた。タクシーの中に滑り込むように乗るとすかさず優しい女性運転手の声が私の耳に入ってきた。


『お客様、行き先はどちらまででしょうか?』


私は芝浦のインターに程近いスタジオの名前を告げると、彼女がルームミラー越しに了解の意を含めた笑みを作り、それから静かにタクシーを走らせ始めた。後ろの席から見えるドライバー証には、それほど歳がいっていない・・・・私より10くらい上の感じの彼女の真っ直ぐな顔写真が載っていて、私は<この人もきっと何かしら今の厳しい現実と戦っている私と同じような女性なのかもなぁ>なんて勝手な想像をして、共闘しているような・・・そんな気持ちをひとり抱いていた。タクシーはビルの間をスムーズに抜けて目的の場所へ向けて軽快に走り続けている。
ふとラジオから古く懐かしい感じのメロディと歌声が聴こえてきて私はしばらくの間、目を閉じて時の流れの中でゆっくりとその聴こえてくる曲に耳を澄ませた。


=10 years (歌詞抜粋より)=


「大きくなったら どんな大人になるの」 周りの人にいつも聞かれたけれど
時の速さについてゆけずに 夢だけが両手からこぼれおちたよ


あれから10年も この先10年も


行きづまり うずくまり かけずりまわり
この街に この朝に この掌に
大切なものは何か 今もみつけられないよ



明日を見つめて~神崎美里の告白
≪完≫

明日を見つめて~神崎美里の告白⑥

今までの重苦しい空気や『奴』の存在から受けるプレッシャーにやられ、立ち上がれないでいた自分が嘘のようにスッと立ち上がって思い切りドアを開けた。
視界は眩い光にやられたままで白く、少しぼやけ気味になってはいるが、それでも視線の先に『奴』の姿が僅かに見てとれていた。
『奴』は驚きと共にこちらを振り返り、私の姿を見つけて立ち尽くしているようだった。
どのくらいの間だったのだろうか・・・・・・・・私は左手で包丁を持ったままジッと『奴』に狙いを定め、片や『奴』といえば、まさかの私の行動に驚き、その場に呆然と立ち尽くしている。多分、ハッキリとは見えなかったが、包丁を持った私の姿に顔を引きつらせ、そして足が震えて動けないでいたのだろう。
そのあとの事をハッキリと覚えていないけど、その時の感覚が身体にしっかりと残っていて、私が起こしたアクションはこうだった・・・・・(と、思う。)


無意識下の中で『奴』に狙いを定めた私は突如として走り出し、『奴』はそれに伴って何歩か後ろに後ずさり、そのスピードの差によって一気に私は『奴』との距離を縮めた。そして飛び込むような疾走感の中で、包丁を持った左腕を大きく振りかぶる様に高く上げ一気に振り落とした。
・・・・・・・・・・私の感覚が鈍っていたのだろうか?それとも躊躇いがあったのだろうか?
私が振り落とした包丁は『奴』を捉えたはしたものの、切っ先で腕に一本の切り傷を与えた程度で終わってしまった。


ストップモーションのような曖昧な感覚に襲われつつも二人の間に奇妙な間合いが存在していて、私の一撃によって出来た傷口から鮮血が溢れ出し、その血が次々と地面へと滴り落ちていく。その様子に私も・・・そして切られた『奴』までも目を奪われていた。私は瞬発的なアクションに興奮していて息継は荒く、肩をつかって大きく呼吸を繰り返していた。
そのままの状態でどのくらいの時間が過ぎたのだろうか?異様に長く感じられたが、多分1分にも満たない短い間だったと思う。そのストップモーションから徐々に身体が解放されていこうとする中で、まず最初に『奴』の身体が小刻みに震え始め、その異変にあわせて私も次の動きに備えるべく、『奴』の様子に注視した。


「ぅぅぅぅぅ‥‥‥」と小さな呻き声を上げ、身体の震えが段々と大きくなってゆく。その震えの大きさによって先ほどまで続いていた、あの金縛りにでもあっていたかの様な感覚から『奴』も解放されていくのが目に見えてわかる。
もう一度「ぅぅぅぅぅぅぅ・・・・・・・」と呻き声を上げる。
1度目よりも大きく・・・・長く。
私の身体に緊張が走る。『奴』の様子に注視してはいたが、正直・・・どう対処して良いのか分からなかった。再現映像では<彼女の一撃を受けた相手はそのまま走り去るように逃げていった>という内容で全てが終わり、次のアクションはなかった。
それでも抵抗の姿勢を保ち続けなければ私がやられてしまう・・・・・私は持っていた包丁を両手に持ち直し、その切っ先の狙いを真っ直ぐに『奴』へと定めてジッと睨み付けた。


しかし・・・・・・・事は呆気なく終わりを告げる。
『奴』がジリジリと2、3歩後退り、その動きに対し私は包丁を持つ手にグッと力を込めた。
どう動いてくるのか?・・・ただそれだけに集中し、向こうの出方を待つ。
「ジリジリジリ・・・・・」また『奴』が後退りをする・・・・・・・そして次の瞬間!?
素早く踵を返して私に背を向けて走り出し、足音はあっと言う間に遠くへと離れ、その場に静寂だけが残された。玄関前の薄暗がりに取り残された私は今さっきまで確かにいた『奴』の位置に視線を落とすと共に、ゆっくりと膝から地面にへたり込む。そして耳を済ませてみたが、『奴』が戻ってくるような気配も無く、またそんな足音ももう聞こえてこない事に安堵し、包丁を握り締めていた手の力を緩めた。
全てが終わったという実感は無かったが、地面に点々と垂れ落ちた『奴』の赤い血糊が<反撃を実行したという証>として残っていた。



≪続く≫

明日を見つめて~神崎美里の告白⑤

ストーカーへの反撃を決意してから約1週間が経った。
私は番組の時の再現映像を思い出して何度も練習を重ねていた・・・・そして反撃の決行日。


夜、眠りに就く時に包丁を抱え込むように持って布団に入り、ストーカーが現れて玄関口で『トン・・・・・トン・・・・・・』と2回ノックするのを合図に、布団から静かに抜け出して玄関口まで移動する。僅かな音も立てられないので、床のどの部分で音が鳴るかを何度もチェックをした上で、一番最適なルートを搾り出し、そのラインに沿って息を殺しつつ歩を進め、気付かれずに無事玄関へ到着。・・・・・・・一枚を隔てた向こう側に『奴』がいる。それを強く感じると身体が震え、その震えによって持っている包丁まで伝わり、持っているナイフの刀身を見ると、僅かに差し込んでくる月明かりによって自分の手元や刀身が震えている様が見て取れた。
僅かな隔たりの向こうから相手の息遣いが聞こえてきそうだが、気配だけでそれ以外の物音は一切聞こえてこない。ジッと・・・・ただジッとその場に立ち、それだけでプレッシャーを掛けてくる。1分1秒がとてつもなく長く感じられる。


不意に『トン・・・・・トン・・・・・・・』ともう一度ノックをしてきて『ビクッ!!!!!』と身体が跳ね上がる。
その衝動に物音がしなかったか?向こうに気づかれてしまっただろうか?辺りやドアの向こう側に注意を向けながらドアから廊下・・・その向こうに見える自分が抜け出してきた部屋へとゆっくりと見渡す。周りにもドアの向こう側の気配にも何ら変わりは無く、静かで重苦しい空気がぞのまま残っている状態が続いていた。
時の流れが遅く・・・・・長く・・・・・・・・とても重く感じる・・・・・・・・・・・・
初めの頃は3分から長くて5分ほどだったのが徐々に長くなり、ここ最近では10分、時に15分くらい居るのが当たり前になってきていた。そして今日、こうしてドア一枚隔てた向こう側と近距離で対峙し、それが余計に重く私に圧し掛かっているような錯覚を覚える。


『奴』の行動は追い込む事が主体と成っており、私に対して決定的な何かを強要してはいないようであるのは、おもむろに感じてはいた。例えるならば・・・・・・まるで『恋愛ゲーム等による擬似体感や妄想思考』の延長上で、たまたま私がその標的になってしまったような、何とも曖昧で理解し難い性質の悪い性癖(悪癖)があった。たまたま面白半分ではじめた悪ふざけが妙にハマって、それがドンドンとエスカレートし、そして戻るべき道を見失っていった結果に今に至ってしまった。情を込めて言うなら『可哀相な人だ』・・・・でもそれも今日が最後。
もう一度手に持った包丁に視線を落とす。
いつの間にか身体の震えは止まり、先ほどと変わりなく差し込んでくる月明かりが包丁の刀身に当たって白く輝き、その反射した眩い光に視界が白さを増していきそうななる。


っ!!!!・・・・・・・・・・・『奴』の気配が動き出した。
ドアの前にあった気配が、徐々に静かな足音と共にこの場から遠ざかっていく。私は意を決し立ち上がろうと足に力を込めるが・・・・ここに来て臆病になったのか、再び身体が小刻みに震えだして込めている筈の力がそのまま抜けていく感じで立ち上がれない。
『立って・・・・・立って・・・・・・私の足』強く目を閉じて呪文のように唱えるが駄目だ。
諦めかけ、そして無念の想いで身体中の力を抜き、そしてゆっくりと瞼を開けると・・・・先ほどの刀身に反射した強く眩い光がそのまま目の中に飛び込んできて、私の意識【ここでいう意識とは恐怖から沸き起こった臆病という部分の自意識及び弱さを感じる感情や性格を指す】を奪い去ると同時に次の行動へと追い立てた。


≪続く≫

明日を見つめて~神崎美里の告白④

~再現VTRより~
女優を目指して東京に上京し、小さな劇団の貧乏女優から始めたもののなかなか思うように演技が上達せず、またそれと平行して良い役にも恵まれなかった。もちろん生活のためにバイトの掛け持ちをしつつ、時間の許す限り劇団の稽古に参加。朝から晩まで、昼も夜も関係無く、夢に向かってただひたすらに走り続けていた。そんな『全身全霊/全力疾走』の毎日の日々に突如襲ってきたのが、見知らぬ他人によるストーカー行為だった。


下着が盗まれ、悪戯電話が掛かってきて、時には郵便物の中身まで覗かれ、そして今の私のように夜の真夜中に玄関口に現れるにまで至った・・・・再現映像を元に彼女の口から順を追って当時のことが告白されていく。
そのストーカー行為によってバイトはおろか劇団の稽古にまで行けなくなり、部屋に閉じこもり、心も閉ざし、そして『死にたい』とそれが口癖になっていった。エスカレートしていくばかりでストーカー行為は終わりが見えず、遂には命の危険を本気で感じるようになったが、もうすでに身も心も疲弊し、自らの死を考え始めていたという。
それでも・・・・生きる望みを捨てなかったのは『夢』があったからだ。と彼女は力強く言った。


『私は女優に・・・本物の女優になるの。だからここで死ぬ訳にはいかない。だから絶対に・・・・絶対に殺されてたまるか』


ここで夢を諦めたくない。それに見知らぬ赤の他人に私の夢への道を邪魔されているのが心の底から悔しい・・・沸々と湧き上がる夢に生きるエネルギーとストーカーへの憎悪が自分を奮い立たせ、反撃の狼煙を上げる決意をする。
用意と練習に4日間を要し、そして5日目に行動を起こし、遂にストーカー撃退に成功し、夢への道をまた歩くことが出来るようになった。それは生への執念と女優魂が炸裂した瞬間で、これを機に目覚しく演技が変わり、出演する舞台の数とキャリアを積み上げ、映画への出演も声を掛けられるまでになる。また映画でも舞台でも難しい演じ甲斐のある役にも抜擢されるようにもなった。


・・・・・・・・・再現映像が終わると同時に『本当の意味での私の原点です』と泣き腫らした目を輝かせて言い、その彼女の姿を最後まで目を反らさずに見ていた私の目にもまた涙が溢れ、今にも流れ落ちそうになっていた。
その後も現在に至るまでいくつもの困難や試練が彼女を襲い、その度に一つずつ乗り越えてきたエピソードを再現映像を交えて振り返っていたが、感情を露わにして泣いたのは『ストーカー行為』の時だけだった。


感涙と共に番組を見終わった私の中でとても力強いエネルギーというか、決意が溢れんばかりになっているのを無意識に感じ、そして『私にも出来るかな?』そう心の中で呟いた。
答えはどちらともつかなかったが、それでも彼女のように行動を起こさなければ何も変わらないんだ・・・と言い聞かせている自分がいた。
見様見真似かも知れない・・・それに本当に命の危険が伴い、下手をすれば殺されるかも知れない・・・・・色んな不安要素が私の前に立ち塞がってきたけど『でもこのままでいるのはもう嫌だ』その結論に至った瞬間に、私の反撃への思考と行動が始まった。


≪続く≫


明日を見つめて~神崎美里の告白③

限界に近かった。
毎日ではないにしろ・・・それでも身も心も追い詰められ、そんなのはお構いなしに私へのストーキングは続いた。もしかしたら盗聴もされているんじゃないかと思い、出来るだけ部屋では無言もしくは音楽やテレビを流して自分の声が盗まれないようにした。
鬱屈する日々の悩みをどうしてもバイトの同僚にも打ち明けられなかった。疑っている訳ではなかったけど、それでも打ち明けた瞬間、余計酷い目に遭うんじゃないか?もしかしたらバイトの同僚にまでその危険が及ぶんじゃないか?そう考えるととても心の中のモノを吐露する事が出来なかった。


しかし、『このままではいけない』・・・何か行動を起こさないとこのままズルズル相手の思うままに削られていく。でも一体どうしたらいいんだろうか?決定的な反撃の方法が見つからない。それでも朝になり、新しい一日が始まり、そして日々の終わりに夜が訪れ・・・その終わりの最後に『奴』が現れる。感覚が麻痺してはいないものの、『奴』のストーキングが日常の当たり前になりつつあった。
そんなある日のこと・・・いつものようにバイトを終え、帰宅してすぐにテレビを点ける。自分の中で自然とテレビかオーディオに手が行く。無意識に守りに入っている自分の本能はやはり生きる方を向いているんだと感じられるのだがしかし、それは『こうしないと自分を保つ事が出来ない』という弱さの裏返しなのかも知れない。


テレビはちょうど著名人の人生を何人かのゲストと共に過去に振り返り、現在へと徐々に時間を進めていく番組で、生い立ちから学生時代、成人して社会(芸能界)へ。幾多の試練を乗り越えて、今の自分となっていく様をスタジオや視聴者と共感していくそんな内容になっていて・・・・まさに『人に歴史あり』といった具合で、時折見ていた番組の一つだった。
3畳間で着替えながら、リビングのテレビから溢れ出る会話を一つずつ耳で拾っていく。今日のゲストは映画にも多数出られている有名女優で、司会のお笑いタレントが『綺麗』とか『美しい』などと彼女を褒めちぎりつつ、少しずつ彼女の歴史(時間)を進めている。


少し厚手のTシャツの上にスエットを羽織り、下は動きやすい裾周りがゆったりとしたスパッツ(部屋着)に着替えてテレビを見ると、ベージュ色の身体のラインが綺麗に浮かび上がるデザインのワンピースにシースルーに近い薄手のシルクの羽織りを自然と身に纏っていて、自然とこぼれる笑顔も含めた全てが同じ女性の自分から見てもとても素敵だと素直に感じられる。・・・・・と同時に『彼女のような人はきっと今の私の様な目に遭ったことなんて無いんだろうなぁ』なんて言葉が心の中に浮かんできた。


その言葉が届いたのか!?芸能界へ入る前の10代の終わりから20代初めの時代に差し掛かった所で、彼女が目を強く瞑って『そこは・・・その時間は今でも思い出したくも無いくらい辛かった』と吐露したのだ。そして・・・その言葉を受けた司会のお笑いタレントも言いづらいのか、少し間をおいてから神妙な顔をし、そして普段のキャラからは想像も出来ないくらいに真面目に言葉を選んで進行を再開した。

『この時期にストーカー行為に悩まされていたって本当ですか?』・・・・・・・私は一瞬言葉を疑った。
彼女は強く閉じた瞼をゆっくりと開いた。そこには大粒の涙が今にもこぼれそうになっていて、その涙に感化されたのか?私まで涙が溢れ始めていた。それから再現映像を交え、涙混じりに当時のことを語る彼女の声を聞くのが本当に辛く・・・でももしかしたら彼女は今の私の代わりに私の心の中の思いを全て吐き出していてくれているのかもと思うと、その言葉や再現映像の彼女の思い出から目も耳も背けられなかった。


≪続く≫