風神 あ~る・ベルンハルトJrの「夜更けのラプソディ」 -138ページ目

辛い出来事さえ、ほろ苦い思い出に変えてくれる時の魔法。
触れられそうもないトゲトゲの茨が、あらあら不思議、ビターチョコに変わるとき。

見つめるのが辛いなら、それはまだまだ、時間が足りない証拠。

対峙しても痛みを感じなくなるときは必ずやってくる。
それは忘却ではなく、苦しみや悲しみを、君がそっと葬り去りえた証。それが、時の贈り物。

本当に辛いときは、誰も助けてはくれないよ。
それはね、安易に助けを求めちゃダメ、同病の人と傷の舐め合いをしちゃダメだっていう、神様からの教え。

辛い時期に近づいてくる人間を、あまり信用しない方がいいかもね。もしもそれが、宗教がらみだったりしたら、その人、金輪際近づけない方がいい。

仏陀やイエスも、まだまだ魂のレベルが低かった頃の教えだと思う。彼らは今も、魂の進化を続けているはずさ。
だから今、地上に降りて彼らが教えを説いたら、きっと、もっと、素晴らしいものになるだろう。
そう考えれば、新興宗教なんて犬のうんこだ。

だから、どんなに辛くても、一人で乗り切る勇気を持とうね。
そして君が水底を蹴って上昇し始めたとき、どん底を本当に心配していたのは誰だかが分かる。

しんどかったよって、がんばったよって口にする必要はない。
ただ無言で、親指立てて片頬で微笑んでみるんだ。
そんな日は、絶対来る。

さ、初恋に胸をときめかせた頃に戻ってみようか。これもまた、時の贈り物さ。
怖いものなんて何もなくて、その人の動きだけを、その目で、その耳で、その髪で、その背中で、その肌で追いかけた、まるでデューク東郷、そう、ゴルゴ30だった頃に……。

さ、さ、僕が連れて行ってあげよう。
君がまだ強くて、無茶で、危なっかしくて、可憐な眼差しをした、天使のような……悪魔だった頃に( 艸`*)ププッ




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〝あしたのジョー〟の中で、白木葉子がこんな台詞を吐いた。

「あした」……と言っているわね、しきりに……
「素晴らしい明日」は、今日という日をきれい事だけ……お体裁だけ整えて過ごしていては永久にやってこないわ。
血にまみれ、汗や泥にまみれ、傷だらけになって……しかも他人には変人扱いにされる今日という日があってこそ……
明日は……ほ……ほんとうのあしたは……!



ぐしゃぐしゃの日があってもいいさ。どろどろの日があってもいい。叩きのめされ、踏み潰される今日があってもいいんだ。
テンカウントが鳴る前に立ち上がって、ファイティングポーズをとろう。戦う力が残っていなくても、立っているのがやっとでも、ファイティングポーズをとろう。

そんなパンチ効いてないよなんて仕草は必要ない。それは効いちまったよの表明だから。
フラフラでもいいさ、目の焦点が定まってなくたっていい。
あごを引いて、両手構えて、相手を見るんだ。                     
戦う姿勢を示すんだ。

生きていればこそ、明日はやってくる!





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君に友達はいる? あはは、そりゃいるよねぇ。
でも、ほんとうに友達だろうか?

君の価値観をねじ曲げようとしていないかい?
何かを押しつけようとはしていないかい?

僕もね、グラフィックのデザイン学校に通ってた多感な頃は、友達がほしいと思った時期がある。
孤独だと感じたことがある。
心の中にすきま風がたくさん吹いてきて、押し入れに寝てたことがある。狭くて暗くて安心した。

君にとって、友達の尺度はどんなものだろう。
一緒に食事をしてくれる人?
他愛もない話につきあってくれる人?

僕はね、価値観を共有できること。笑いのツボが近いこと。
慎重に慎重に二つに切ったケーキが、それでもうまく等分できなくて、大きい方を相手にあげようとする人。
僕にとって、これは大切。
大きい方が欲しいからじゃないよ。
僕も必ず、そうするからさ。

僕は人と集まって戯れることは好きじゃない。
いらぬ気を遣うぐらいなら、ひとりでいたほうがいい。
でも、魂の出会いなら、したい。

君の友達、心優しい人であったらいいね。
人の陰口なんてたたかない、まっすぐな人だといいね。
笑顔の目尻に、冷たい目を潜ませている人であって欲しくはない。
微妙に歪んだ口元を笑顔で隠す人であって欲しくはない。

そんな友達は、君が思ってもいないところにいるはずだよ。
賑やかな人の影に隠れて、君を温かい眼差しで見てるはずさ。




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〝人生とは、役者が舞台に上がるようなものである〟
もうあちこちで書いてきたきたことなんだけど、どこかで仕入れたわけでもなく、それに見かけたことはないから、ま、僕独自の言い方なんだけどね。
んでもって、舞台に上がってることを忘れちゃってるのが、人間なんだね。何で忘れるかは知らないんだけど、その方が都合が良かったのかもしれないね。何せ、魂は不滅だということさえ忘れちゃうんだからね。
でもね、舞台を降りたら思い出すんだね。楽屋に帰ると、おぉ、懐かしい顔ぶれが揃ってるじゃないの。そうそう、今生で絆を紡いだ大切な人たちだね。その人たちはあの世でも仲良しだったんだ。
「遅かったじゃないの、やっと還ってきたんかい」なぁんて言われたりして。

これと同じようなことを、僕たちはやってるんだよ。
え? 知らないって?
知ってるでしょ。仕事でやってるでしょうに。
マックのおねいさんだって、スーパーのレジのおばちゃまだって、見知らぬ人に普段からあんな声や笑顔出してるわけじゃないことぐらい分かるよねぇ。
おばちゃまの日常は、きっとこんな感じだよ。
「ほらほら、たかし! 早よう起きらんね! 今何時やと思うとっと?! かあさんな起こしたからね、学校遅刻しても知らんからね! ほぉらぁ、てれってれしとらんと起きらんね! 寝過ぎであんたん目は腐ってきとっとよ!」とかやってるわけだね。

スーパーのレジなんかで、ここはいったいどういう教育をしてるんだ! とか怒鳴ってるおっちゃんとかいたりするけど、客の役にはまりすぎだね。売る方も買う方も役回りだってことをすっかり忘れちゃってる。客は王将で(餃子じゃないよ)店員は歩だとでも思ってるらしい。
おっちゃん、おっちゃん、ケンタッキーのおねいさんがオフの時に、偉そうにしたって相手にしてくれないよ。舞台を降りちゃってるんだから、無視されるか、はぁ⤴? って言われちゃうよ。はぁ⤴⤴⤴⤴⤴⤴⤴⤴⤴⤴⤴⤴⤴⤴⤴⤴⤴⤴⤴⤴⤴⤴⤴? って( 艸`*)ププッ
もっと優しく生きましょうよ。

競争のないところにサービスはない。そう言ったのは誰だか忘れちゃったけど、その通りだね。
お客様のためとか、還元セールとか、いろいろ言うけど、そうじゃないんだよね。勝ち残るため、我が社のためなんだね。
たとえば、スーパーにしろ、コンビニにしろ、ファーストフードにしろ、宅配便にしろ、カラオケボックスにしろ、一社独占だったら……利益を落とすようなセールも、集客のためのあらゆる営業努力も、捨て去る可能性が高いだろうね。

そうそう、競争のないところにサービスはないの証があるよ。人件費や設備費、CM料金なんかのすべての費用に、一定の利潤を加えて電気料金を決定する、総括原価方式とかで儲けてる東電ね。ま、東電だけじゃないけど、原発騒ぎを起こしていまだ苦しむ人がいるけど悠々とやってる東電、何とかしたいね(`Д´) ムキー

はッ! 話がずれてきてるヾ(;´▽`A``アセアセ
閑話休題←君、意味知ってた? 話を戻すとき文章で使うんだよ。それはさておき、とかいった感じだよ。読めた? 君は読めたの? かんわきゅうだいって言うんだよ。

さて、あの世の話です。
人は寝てるとき、あの世に行ってます( 艸`*)ププッ。
ノンレム睡眠の時だね。脳が完全に休んでます。とはいえ、大脳は寝てるけど、脳の司令塔〝脳幹〟は起きてます。なんたって、自律神経を動かしてるから、休んだら死んじゃうからね。
この時、体は起きていて、寝返りを打ったりするんだ。

ノンレム睡眠? レム睡眠がRapid Eye Movementラピッド・アイ・ムーブメントね。寝てて目玉がぐりぐり動いてる状態だね。夢を見るのはこのときだよ。これは浅い眠り。体が休んでて大脳が起きてる。だから、ノンレム睡眠はその逆で深い眠りだね。
居眠りはね、短時間だけどノンレム睡眠なんだよ。だから頭がすっきりするんだね。居眠りほど心地いいものはないよね。
電車で居眠りしててさ、体がガクッてなったことない? 恥ずかしいよねぇ。

はッ! ぜんっぜん話が進まなかった┐( ̄ヘ ̄)┌
お後は、ここ、バミっといてね~2でお会いしましょう。
え? バミる? 役者修行中のお友達がいたら訊いてみるといいよ。じゃね~o(>▽<)o ウキャキャ~

PS 僕が書きたいことはいろいろあるけれど、そのうちのひとつは、ルールとマナーは守りましょう。人として恥ずかしくない行動をとりましょう。いらぬトゲや毒を吐くのはやめましょう。あんたが傷つくようにきっと人も傷つくからってことかな?
君のために代弁してみた(*~ρ~)ノ(ToTw)ナデナデ

平気で人を傷つけるようなやつは、わしが、わしが、許さんぞぉ~~~~~~~~~~~~~~~! 死んでまえ~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!
うっしゃぁ!
あかん、脳みその血管ボロボロになってまう(ノ△・




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いると思う?
実はね、この世に、すごい人なんていないんだよ。
ちょっとすごいかもっ! て人は、いるかもしれないけれどね。
たとえば、ハンマー投げて、すごく叫んで、3センチぐらい記録を伸ばす室伏選手とか。

でもね、みんな子供なんだ。
ちょっと前まで子供だったし、人なんて死ぬまで子供なんだ。
だから、怖じける必要なんてないよ。抜きん出て特別な人なんていないんだよ。
だって、みんなが特別な人なんだから。
一人一人が、大切な大切な、特別な人だから。

ほら、小さくなっちゃダメだよ。
胸を張ろう。
誰かが何かを言ったとしても、気にすることはないさ。
アドバイス以外は忘れてしまえよ。
君は君だから。
誰も真似できない、君だから。

そんな君を愛する人は大勢いるよ。
そうそう、やっと理解してきたね。
僕はその一人だ。



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夏休みの時期も終わるというのに、なんと、この曲をアップしたいがためにブログを書くという無謀ヾ(;´▽`A``アセアセ

PCが変になってしまいましてね。リカバリしたら全部パーになりました。今もちょっと調子が悪いのですが。
リカバリしますか? って出たのは初めてのことでびっくりしました。

今まで撮りためたデジカメ写真も、そう、お花の写真も蝶の写真もてんとう虫の写真も、オフ会の写真も全部パーですよ。一度しか会ってないネット友人の顔は、きっと忘れます(ノ△・。)
メールもメルアドも(メアドじゃなくてメルアドという人はおじちゃんおばちゃんだそうです)
それがどうした(`Д´) ムキー

そればかりか、オフィスも……
書きためたものすべてがパー……小説も、ポエムも、ぼやきも……

そこで探しましたよ~
ワードと互換性のあるフリーソフト、と、ググりました。
出てきました!
オープンオフィス?
これはいけるのか?

おそるおそるインストール……
出た! 何だろこれ?

お! なんと! ワードが読めて、何とか書き込みができます。
天の助け!
同じ文章を二度書くなんて不可能なので、助かりましたぁ。

さて、あ~夏休み。当方ほぼ休みなく働いております。

今日ですね、万引き君が発生したのです。
ま、珍しいことじゃないです。一昨日も捕まえましたのでね。


さてさて、今日は裏でこもって作業をしておりましたら、ギャーだのウォーだの奇声が……
耳を澄ますと、なんと私の名を呼ぶ切羽詰まった声が……

すわ、喧嘩かよぉ~~~~~~~~~~~~~~~って飛び出したら。
○○さん、そっち! って指さす同僚君が……

ぱっと振り向くと血相変えた男が一人脱兎のごとく走る! その男と正対した私。
「うりゃぁ! なんじゃおまえ!」 ひるむ男! 突進して追い詰める私!
「すみません! すみません!」
「すみませんじゃ分からん!」
の、「ん」を言い終わる前に、ん? 「ら」だったかも……私の右手はその男の首に巻き付く。

「出ぅわします、出ぅわします!」

何を出すんじゃ! なめとんのか、こりゃあ~~~~~~~~~~~~~~~~!
対応するこっちも、支離滅裂……

こっちこい、うりゃあ!
首を絞めながらぐいぐい押す。ところが狭い狭い。
どけこりゃあ! 荷物に怒鳴る私。

同僚君。私に頼らんといてね。その前に、ちょっと腰を痛めたんだから。

そして、万引き君は囚われの身に。

「おなかがすいて死にそうなのです」
私にそう訴えてくれたら、残り少ない持ち金から工面して、何か買ってあげただろうに。
もう少し、人という生き物を、信じてみたら、きっとそのうち当たりが出る。
でも、おなかがすいて死にそうな人が万引きするケースは、ほとんどないだろうなぁ。
だから私は、明日も戦うのだ┐( ̄ヘ ̄)┌

何年か前も使ったけど、ユーチューブにある「あー夏休み」これが一番いいです。
コメント入れたかったけど、なぜだかログイン不能に(ノ△・。)

立て! 立つんだジョー!
ふ、深い。深すぎるぜ、丹下のおっちゃん……




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額に衝撃が来た。焦点を結び始めた視界に、自分の手の甲が見えた。指を動かしてみる。握っているのは黒い輪っか。
頭を起こして顔を離す。熊?! ビクリとする。けど、違う。
覚醒していく意識はその実体を捉えた。目玉に見えたのはメーターで輪郭に見えたのはハンドルだ。鳴海は顔を上げて前方を見つめた。そこに広がるのは白い世界だった。視線を動かすとルームミラーが見えた。
アウトバックの中だ。
どこだここは?!
右を見た。左を見た。そしてインパネの中央のデジタル時計を見た。
8:38
8時38分……8時38分……。

娘のすみれは死んだ。妻の早紀は意識不明。
いや、助かったと医師が……いや、会ったんだ。確かに会った。
今日は何曜日だろう?
すみれは死んだ。
病院、病院……いつ、病院から戻ったんだ?

お葬式……すみれのお葬式……。
あげてはいない。

ここはどこだ? 鳴海はハンドルにもたれかかるように外の景色を眺めた。振り返ると右後方に山が見える。ということは、職場の近くだ。
ギアチェンジした鳴海は右ハンドルを切り、車をUターンさせた。
今日は何日だ。インパネを見ても。外気温と燃費と時間しか分からない。

赤信号で並んだミニキャブの助手席の男に、ウィンドウを下ろして声を掛ける。
「すみません! 今日は何曜日ですか?!」
気づいた男がウィンドウを下ろした。
「あ?」
「すみません、今日は何曜日ですか?」
「今日かい? 今日は土曜だよ」
「えーと、2月の……」
「18日だよ。寝ぼけちまったか」気のよさそうな中年の男は、うひゃっと笑い、雪は止んで昼から晴れるよ、と付け加えた。
「どうもありがとう」
気が逸(はや)る。けれど、焦ってはいけない。車間距離を保て。急ブレーキになる状況はアウトだ。弱いブレーキを繰り返す。落ち着け落ち着け。
鳴海は自分に言い聞かせながらアウトバックを操った。

たどり着いた家の駐車場には、早紀の4WD車が止まっていた。
また、早紀とすみれが倒れている。悪夢だ。夢は再び、心を砕くのか。
金槌、金槌、はたして金槌で車のガラスが割れるだろうか。
そうだ。コンビニの袋にコインを入れて、スナップを効かせてぶつけると割れると聞いたことがある。しかし、今それは手元にない。工具箱は玄関の靴箱の中だ。
鳴海はアウトバックを出て、走り出した。
と、そのときだった。玄関のドアが開いた。

「たっくんがねー」
「ほらほら、ちゃんと前を見なさい」
ちらつく雪の中を走るすみれが、こちらに気がついた。
「パパだー!」立ち止まり、正対したすみれの顔の前を白い息が舞う。
「パパが帰ってきたー!」足踏みをしながら、両手が激しく振られる。
「あら、どうしたの?」玄関の鍵を閉めて振り返った妻の顔の前もまた、白い息が舞う。「忘れ物?」
目覚めたら病院のベッドか、それとも隼の中か。
鳴海は大股で歩み寄り、すみれを抱き上げた。暖かな、しなやかな体だった。夢でもいい。もう一度すみれを抱きしめることができた。後でもう一度、夢から覚める前にもう一度、すみれを抱き上げることはできるだろうか。

「今、マフラーを確認するからな」
「マフラー?」
「雪が詰まってたら大変だから」すみれを降ろし、頭を撫でた。
「あら、そのためにわざわざ帰ってきたの?」
「ああ」
「それはごめんなさいね」
マフラー。すみれが首に巻いたマフラーを掴み左右に揺すっている。
「すみれ、そのマフラーとは違うマフラーのことだよ」
「違うマフラー?」
「うん。違うマフラーのことだ」

鳴海は雪から覗く小枝を拾い、ひとつかみの雪を持って車の後ろに回り、潜り込んだ。
案の定、吹雪いた雪がマフラーを塞いでいた。左手で掴んだ雪を、鳴海は顔全体になすりつけた。
冷たかった。何度も何度も顔を擦った。
夢から覚める気配はなかったし、夢を見ているあやふや感もなかった。

「よし、いいぞ!」
「詰まってた?」
「ああ、危ないところだった」小枝を投げ捨てた。
「ありがとう。それより車いつぶつけたの?」妻が指さす先に、左のバンパー付近が損傷したアウトバックが見えた。
「さっき、ちょっと居眠りをしてね」
「居眠り運転って、そっちの方が危ないわよー」
「ちょっとの間だろうけど、長い夢を見た」
これもまた、長い夢の続きか。すみれは足に抱きつき、足踏みをしながら〝となりのトトロ〟の歌を歌い始めた。

歩こう 歩こう 私は元気ぃー 歩くの大好きー どんどん行こう♪
「パパも歩いてー」すみれに言われて、鳴海も足踏みを始める。

坂道、トンネル、草っぱら、1本橋に、でこぼこジャリ道
「パパも歌って―」
くもの巣くぐって くだりみち♪

「あ、そうだわ、実家から電話があったのよ」
「どっちの実家?」
「あたしの実家」
「で、何だって?」
「で、いつまで足踏みしてるつもり?」
すみれはとっくに足から離れていた。
いねむり……パパがいねむり……じっか。すみれがブツブツと復唱している。この子はこうやって言葉を獲得してきた。
「じっかって、何?」
「すみれにとっては、この家が実家になるんだよ」
「おぉー」
分かったのか分かっていないのか、それでも大きく頷いている。

「本家のおばあちゃんがね、もう体がいうことをきかなくなってきたから、今年は靖国に行きたいって言ってるらしいの。で、東京で暮らしたことのあるあたしたちに白羽の矢が立ったらしんだけど。もちろん、連れて行って欲しいってことで」
「靖国神社か」
「そう。おばあちゃんのお兄さんが特攻で亡くなったのよ」
「もしかして……亡くなったお兄さんって、杉浦って姓?」
「ううん。姓が途切れるからって、おばあさん婿さんをとったからそのまま土田って名前だけど、誰? 杉浦って」
「しりゃは? しりゃはのや?」
「し・ら・は・の矢だよ」鳴海はすみれの頭を撫でた。
しらはのや……しらはの、や……。
「何?」
「今夜教えてあげるよ」
「おぉー」

「いや、いいんだ」
鳴海は取り出した手帳を開いた。
「今年の8月15日は……水曜日か、じゃあその前後で夏休みをもらおう」
「悪いわね」
「ま、たまには東京見物もいいだろう。すみれは東京を知らないし」閉じた手帳をジャケットの内ポケットにしまった。
「とうきょー?」
「うん、すみれ、今年の夏は東京に遊びに行こう。靖国神社も行こう」
「うん!」すみれが嬉しそうに頷いた。
「あなた、遅刻じゃないの?!」
「ま、いいさ。ちょっと事故ったからって言い訳しよう」

とうきょーにお遊び……ママとパパととうきょー……やすくにじんじゃ……やすくに、じんじゃ……おばあちゃん。
「すみれのおばあちゃん?」
「違うわよ。うーん、説明するのはややこしいわね。お兄さんが特攻に行ったおばあちゃんよ」
「それは、余計ややこしいだろ」

ややこしい……とっこう……とっこう……とっこう……とっこうにいったおにいさん。

とっこう……とっこう……とっこう。

ちらん……。

知覧?! 今の話の中で知覧など出てこなかったのではないか。出てくるはずはない。すみれはお下げを振りながら、舞い落ちてくる雪を掴もうとしていた。

とうきょーにお出かけ。ママとパパとすみれがとうきょーにお出かけ。やすくにじんじゃ。

動きを止めたすみれは背中を見せて、まるで仁王立ちするように空を見上げた。

ぐらまん……ぐらまん……ぐらまん……。

とっこう……とっこう……とっこう……はやぶさ。

はやぶさ……。
さくら……さくら。

そう、さくら。八重桜だった。
鳴海は跪き、肩を掴んで振り向かせた。きょとんとした顔のすみれ。その小さな体を抱きしめた。うきゃきゃーと身をよじるすみれの左の耳たぶを引っ張った。けっして耳クソには見えなかったけれど、耳の穴のそばにそれはあった。
「パパが耳を引っ張るぅ」
「今夜、夢の話をしてあげよう。すみれとママに」
「パパ、おひげが痛ぁい」
鳴海はあごを触った。
「あ、そり忘れてる!」
シェーバーが壊れたため、間に合わせで安いひげそりを買ったんだった。スーパーに入っている家電量販店で、明日あらためてシェーバーを買おうと思っていた。いつもと手順が違ったから、そり忘れた。

ルームミラーの中で車が小さくなっていく。ウインカーを点滅させたその車は左に折れてゆく。鳴海はミラーに向かって左手を挙げた。
またお会いしたいです、か。鳴海はぼやける景色にハンカチを当てた。

病院で造影検査を受けてみたって、自分の体に精子など存在しないのだ。鳴海にはそう思えた。

だから、これでいいんだ。

靖国詣での後、その足で妻とすみれを知覧に連れて行ってやろう。八月のまばゆい日差しの差す鹿児島に。
そして、杉浦という名前を探してみよう。隼を追いかけた、色黒で小柄な中村佐智という名前も。

フロントガラスの向こうには、雪をまとった真っ白な世界と、雪国特有の縦型の信号機が見える。その先に、空から差す無数の天使の梯子が広がっていた。
遠くにそびえる雪山に延びる轍(わだち)の跡を追い、鳴海は軽くアクセルを踏みこんだ。


─FIN─




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juju 「また明日」

警戒警報もなく、いきなり空襲警報が鳴った。佐智は空を仰いだ。
特攻機を掩護(えんご)する飛行隊員たちが掩体壕(えんたいごう)に走る。しかし、すでに無理だと判断した様子で、宙をにらんだまま動きを止めた。邀撃(ようげき)は諦めたようだ。

「佐智! 早よう逃げんと!」遠くから呼ばわる声に撃たれるように、佐智は走り出した。
日本軍の飛行機とは違う、腹に響く熊ん蜂のような音。米軍の艦載機だ。佐智は防空壕のある方へまっしぐらに走った。
音が近い。走りながら見上げると、ずんぐりむっくりとした機体の群れ。グラマン(F6Fヘルキャット)だ。
キーンという耳障りな音がしてくる。急上昇の音とは明らかに違う、急降下音だ。
足がついていかず前のめりに倒れて、額を思いきりぶつけた。地面に手を突き、膝を突き、起き上がった。走った。恐怖で膝に力が入らない。

掩体壕(えんたいごう)で特攻機の偽装を外していた整備兵が、こっちへ逃げてこいとばかり、腕招きをする。
4メートルほどの土塁をコの字型に積んだ掩体壕。空襲から戦闘機を守るためのその掩体壕は、まさに、杉浦さんの隼の偽装を外してあげた場所だった。

「走れ、走れ!」整備兵の声が励ます。
足がもつれて、また転んだ。耳をつんざくほどの轟音。近すぎる。立ち上がったが、足が萎えたように言うことをきかない。
「やっせん!」
腿を両手で叩いて足を踏み出したが、もう走れなかった。足が、動かない。
バリバリバリッ、機銃の音が迫る。
伏せてはいけないことなど知っている。標的が大きくなるからだ。それでも佐智は、恐怖で体を縮めるように伏せた。
「伏せちゃダメだ! 走れ走れ走れ!」整備兵の悲鳴に近い声がする。

杉浦さんは言った。佐智、スカートが捌ける時代がもうじき戻ってくるよ、と。
もんぺじゃなくて、またスカートが捌ける時代がね。
僕の母は体を悪くして、僕以降に子供を産むことはなかった。だから佐智を、とても可愛く思う。

右前方からすさまじい土煙が迫ってきた。機銃掃射だ。

佐智、誰の命にも時間の制限がある。その時間がいつ訪れても悔いの無いように、これからも精一杯生きなさい。僕の分まで。

グラマンを操縦する米兵の顔が見えた。顔を真っ赤にした赤鬼。
「佐智はもうだめです!」
胴体が勝手に弾む。背中一面を、熱い衝撃が通り過ぎた。
「迎えに、来て……」弱い呼吸に合わせて、鼻先で土埃が舞った。


               ☀☀☀


「すみれの様子はどうですか? 寂しがっていませんか?」
「おまえだってまだ回復していないんだから、焦ることはない。心を穏やかに治療に専念しなさい。今は回復することが一番大事だ」
「そうね……」
納得はしていないだろう。しかし、すみれの様子など伝えようもない。早紀は窓の外に顔を向けた。
「こんなことがなければ、今日はスーパーで遊ぶ日だったのにね」誰にともなく、呟くように、早紀が口にした。
「ああ」
「来週は行けるのかしら?」
言葉に詰まる。今はまだ真実は語れない。けれど、これ以上、嘘はつきたくなかった。せめて治療が終わるまでは 早紀の心を潰してはならない。

しかしこれは、言葉にしていなくても、いや、していないからこその立派な嘘。
それも、優しさの欠片もない、残酷な嘘。
早紀はきっと、すみれの死も知らずに発した自らの言葉を、悲しみと共にきっと反芻するだろう。己を咎めるように、幾度も幾度も。
思い浮かべたスーパーでの風景も、来週はいけるのかしら、の言葉も、彼女をナイフのように切り刻む。

すみれは斎場に搬送された。明日は焼かれて小さな骨片になる。


               ☀☀☀


特攻機がおよそ110機、掩護(えんご)の戦闘機が60機、しかし特攻機の何機かは、機体のトラブルで引き返した。悪天候により多くの特攻機が進発基地に戻ることは珍しくなかったが、今日は天候に恵まれた。

第二次総攻撃の最終日。各地の飛行場から陸海軍の特攻機が集まってきていた。相当消耗したのか、あるいは温存か、海軍の神風には零戦が見あたらない。

特攻の機種は様々だ。2枚プロペラに下駄履きの九七式もあれば、隼もある。三式戦闘機〝飛燕(ひえん)〟、百式司偵(百式司令部偵察機)ともに隼の速度を超えている。さらに、最高速度624km/hという四式戦闘機〝疾風〟は実用化された日本製戦闘機の中では最速だった。隼より100m/hも速い。

隼の前方を、車輪を突き出したまま飛んでいる飛行機が見える。九九襲(九十九式襲撃機)だ。パイロットと偵察員の二人乗りの九九襲には、律儀に二人が乗っている。
九九襲は優れた機体ではあったが、すでに時代に置き去りにされた下駄履きの飛行機だったため、特攻の主力機となった。

隼の機首と回るプロペラの先に、白い雲を散らす青い海が広がっている。やがて水平線の彼方に島影が見え隠れする。直接護衛機のパイロットが大きな仕草で前方を指さす。あれが沖縄か。
突入路を開く間接支援機はすでに先行している。
護衛の戦闘機がスピードを上げて飛び去っていく。先行の戦闘機が撃墜できなかった迎撃機が向かってきたのだ。
はるか先で、戦闘機が舞い乱れる。迎撃機の群れと護衛の戦闘機の空中戦だ。
そうだ。なぜ杉浦は護衛のパイロットを選ばず特攻を選んだのだろう。これなら特攻を志願せずとも得意の空中戦ができるはずだが。

掩護(えんご)機が撃墜できなかったグラマンが数機飛んでくる。その後を掩護機が追う。こっちは重い爆弾を積んでいて動きが鈍い。黒煙と炎を上げて撃墜されていく特攻機も見える。
「こいつら」つぶやきが聞こえた。ふっと辺りを見まわし、それが杉浦の口から出たものだと気づく。
この男、もの静かな割に血の気は多いようだ。操縦桿を引き、隼は上昇を始めた。
「おあいにくさま。この隼はちゃんと撃てるんだよ」
またつぶやきだ。特攻機は、武装と防弾板を取り外した機も多かった。
重い機体に引っ張られるように急旋回した隼は、上昇してくるグラマンめがけて降下した。血流が、体にかかるGでままならないことが分かる。
カタカタカタカタッ!
機銃が立て続けに撃ち出される。すれ違いざま2機のグラマンは黒煙を上げた。
250キロ爆弾を抱えてグラマンとやり合うとは、やはりこの男、優れたパイロットだ。

沖縄本島に近づくにつれ、雲の狭間から見える敵艦船の多さに驚かされる。もちろんお互いの高射砲や機関砲の射程外を維持してはいるのだろうが、海を埋め尽くすかのようだ。
外側を守るように配置されているのはレーダーを積んだピケット艦だ。現在のイージス艦にあたる。迎撃機の飛んでくる速さから見て、とうの昔に特攻機は捕捉されている。だからこそ、あれほど早くグラマンが飛んできたのだ。
杉浦はそれを分かっているだろうか。頭の片隅で鳴海は思った。まるで多重人格者のようでもあった。

ピケット艦に向け、急降下で特攻を仕掛ける戦闘機が見える。まだだ。隼は先を目指した。血が騒ぐのか、機体トラブルで飛行は無理だと諦めたのか、護衛機でありながら、特攻を仕掛ける機も見えた。
やがてひときわ大きい艦船が前方に近づいてきた。

友軍機のパイロットに左手を挙げる。鳴海の仕草に応えるように、男は右手で握り拳を振り上げた。昨夜、初めて会話を交わした青年だった。
〝海軍の町〟長崎は、圧倒的に海軍志願者が多いのだという。そんな中、みんなと同じは好かん、と、陸軍を志願した男だった。教えてもらった不思議な指遊びは覚えきれなかった。

出ん出らりゅうば 出て来るばってん
出ん出られんけん 出て来んけん

来ん来られんけん 来られられんけん
来―ん 来ん

出ようとして出られるならば、出て行くけれど、出ようとしても出られないから、出て行かないよ。
行こうとしても行けないから、行くことはできないから、行かない、行かない。

戦闘機の狭い操縦席は、まさに、出ん出られんけん 出て来んけん、だな。出た時は五体が整合性を持たない。砕けた頭蓋の上を千切れた足が飛んでも、おかしくはないのだ。

『中尉殿、不思議なことに長崎には大規模な空襲がなかとです。そのうち大きいのがドカンとやってくるんじゃなかとって、母が心配しちょりました。早うアメリカなんぞ、やっつけてきよってって』
一時帰省の折り、特攻に志願したことを、母親には告げなかったそうだ。我が子を特攻で死なせてまで、戦争に勝ちたい母親などいないだろう。
『福岡の大刀洗に向かう汽車に乗ったとき、駅のホームの端っこまで母は追いかけてきよったとです。何も言わなかったけれど、目に涙を一杯溜めて。母は気がついていたのかもしれません。今度生まれ変わるなら、戦争のなか時代がよか』
三角兵舎の中で、彼は静かに語った。

高度を下げつつ右に旋回する。右の翼の先に海。左の翼の先に空。鳴海は風防天蓋(ふうぼうてんがい)を閉めた。
もってくれよ隼。左手でスロットレバーを絞り、足の間の操縦桿を必死に押さえ、敵艦に目標をセットする。狙うはもちろん空母。その空母は円運動を始めている。隼のもろい機体に注意をはらいながら急降下に入った。

急降下は45度から50度。しかし浮き加減になる隼は、せいぜいが30度ぐらいの緩慢な降下になる。鳴海はタブと呼ばれる昇降舵で機首が下がるように修正しながら、海面めがけて真っ逆さまに最大角度で突っ込んでいった。ガソリンの匂いがぷんと鼻を突く。
ダメだ足りない! 突入角度が緩い!
これ以上機体を空に晒しておくわけにはいかない。早く海面に到達しなければ。
海面すれすれを飛び、敵艦の土手っ腹に突入する。これは出撃前から杉浦が考えていた突入方法のようだった。砲門が多く並ぶ横から突入するとは何という無謀さだろう。

再び機体を戻した隼は背面飛行に入った。空と海が逆転する。そのまま一度遠ざかる。
操縦桿を引く。頭上の海が徐々に目の前に移っていく。機体は落下するように機首を海に向けて突っ込んでいく。スロットルを開き速度が乗ったところで緩める。
体全体に強いGがかかる。視界の大半が海になる。黒々とした煙の塊が空に散り、遅れて音が響いてくる。敵艦からの迎撃が始まった。

通称ポムポム砲と呼ばれる多連装の高射機関砲。雨あられとはこのことだろう、避けることなど出来ない。左上空で黒い煙が上がった。翼の付け根から炎を上げて友軍機が錐もみで墜ちていく。
ろくな操縦技術を学ぶ間もなく、精神を鍛える時間すらなく特攻に行かされた学徒だろう。彼らに比べ飛行機乗りは選ばれし人間だ。100人いても2人と存在しえない運動能力をもち、肉体的にも精神的にも常人の域を超えている。しかし、彼らは学業の途中でかり出された学生だ。

なんと哀れな。
特攻に来ながら、敵艦に近づくことすら出来ずただ撃ち落とされて死んでいく男たち。友もいただろう。心ひそかに思いを寄せる人もいただろう。恋文のひとつも書いただろうか。恋する人のその手に触れただろうか。父母は泣くだろうに。
指揮を執る者たちは、火の粉の及ばぬ所にいる。毎夜飲んだくれている上官もいると聞く。

Gに耐えながら操縦桿を引き絞った。速度およそ600km/h、隼はこれをオーバーすれば翼がもぎ取られる恐れがある。足踏桿のベダルを操作しながら隼にブレーキを掛ける。視界の上方から敵空母が降りてくる。

しまった! 操作が遅すぎたか! 海面が思いの外近くに迫ってきた。250キロ爆弾は、杉浦の操縦技術をも狂わせたか。鳴海は歯を食いしばりながらいっぱいっぱいの操縦桿をさらに引いた。ここまで来て海に突入して死ぬなどまっぴらだ。
上だ隼! 上昇しろ! 上昇してくれ隼! 鳴海は声を張り上げた。

やがて隼は海面スレスレを這うように水平飛行に移った。海面からおよそ3メートル。高度計の針はマイナスを示して役に立たない。プロペラの風圧で海面に水しぶきが上がり眼前を覆った。

もう少しだ、もう少しで砲撃から逃れられる距離に近づく。右に左に砲弾の水柱が上がる。隼が右に流れる。と間もなく左に曲がる。スラロームを描きながら隼は確実に空母に近づいていく。
隼を正面から射止めるのは難しいはずだ。薄い翼にスリムなボディ。遠くから見れば横棒の真ん中に小さい丸を描いた程度にしか見えないだろう。なるほど、杉浦はこれを狙っていたのか。

空も海も青かった。ただ、前方で波飛沫をあげながら進む空母だけが、異様な生き物に見えた。砲撃の及ばない距離まで近づいた時、鳴海は風防天蓋を開けた。猛烈な風が操縦席に巻き起こる。
これにより若干スピードは落ちる。爆弾を落とすより遅い戦闘機が激突しても、思ったほどの破壊力は生まないから、できればスピードが欲しい。それでも最後の新鮮な空気を吸おうと、鳴海は思った。
艦上を逃げ惑う敵兵たち。彼らに恨みはない。戦争などなければ分かり合えたかもしれない若者たち。
灰色の敵空母の横っ腹が、眼前いっぱいに広がった。



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$あ~る・ベルンハルトJrの「夜更けのラプソディ」






キミガタメ 歌:Suara
作詞:須谷尚子/作曲:下川直哉/編曲:衣笠道雄

君の瞳に映る私は何色ですか
赤深き望むなら渡そう陽の光を

悲しみが溢れ瞼閉じました 零れた雫は心に沁みゆく
行き渡る波は弱く交えます 届けしゆりかご 眠りを誘う

夢に懐かしい面影を探す
手を伸ばし強く抱きしめたくなる ha...

君の瞳に映る私は何色ですか
藍深き望むなら渡そう高き空を

喜びが溢れ廻り合いました 零れ落つる笑みは別れを隠す
人はいつしか朽ち果てるけれど
唄となり語り継がれていくでしょう ha...

君の瞳に映る私は何色ですか
緑深き望むなら渡そうこの大地を

脆く儚げなモノよ…
強く美しきモノよ…
在るがまま…ha...

君の瞳に映る私は何色ですか
安らぎ覚えたならそこに私はいる
君の瞳に映る私は何色ですか
裏深き望むなら渡そうこの想いを
渡そうこのすべてを…

「広島と長崎に想像を絶する爆弾が落ちる。戦闘員でもない多くの尊い命が一瞬で失われる。その数は30万人を超えた。それは原子爆弾と呼ばれる悪魔の兵器だ」
「げんし、ばくだん……そいも、見たとですか」
「日本の歴史に残っている。この戦争は、もっと早く終わらせるべきだった。せめてあと一年早く終わっていれば、200万人は助かっただろうに」端正な顔に、苦渋に満ちた表情を浮かべた。

「悲しいかなあまり知られていない、東京大空襲も教えておこう」
「3月の」
「そう、先月10日の大空襲だ」
「みんなに、忘れらるっとですか」
「いかに原爆の衝撃が大きかったかと言うことになるだろう。米軍は市民を殺すことを目的に東京大空襲を行った。方法は火の壁を作って市民を閉じこめることだった」
「火の壁に閉じこめられたとですか」
「偶発的かもしれないが、まさに火の壁を作った。
江東区、墨田区、台東区にまたがる40㎢の周囲にナパーム製高性能焼夷弾を投下して、逃げ場を失った何十万人もの人びとの頭上に焼夷弾を雨あられと降らせた。延焼効果を高めるために、風の強い日を狙ったものだった」
「そいはひどか。グラマンの機銃掃射よりひどかことです」

「浅草、本所、深川に、要は下町と呼ばれる人口が密集している地区だけど、そこに超低空で飛来したB29が325機だ。爆弾はM 69という焼夷弾が48,194発、1800トンが投下された。
その第一弾は0:08だった。人々が寝静まる頃だ。空襲警報が発令されたのは遅れて0:15、それからおよそ2時間半にわたって波状絨毯爆撃が続いた」
「2時間半もですか」

「東京大空襲は、あらかじめ計画された無差別集団殺戮だったんだよ。それも区域内にいる市民をすべて焼き殺すために綿密に立てられた殺人計画だった。
通常の作戦であれば、工場などの生産設備や、電力、水道、通信施設などのインフラを狙い定めて破壊する。これであれば市民の被害が少なくてすむからだ」
「いんふらっち、何ですか」
「なんと言えばいいんだろう? たとえば道路もそうだ。要するに基盤、土台になるものだね。いま言ったけど、電気もそうだし、水道もそうだ。
しかし、米軍が使った焼夷弾は日本家屋に火災を発生させるために新たに開発したものだった」

「その、いんふらじゃのうて、家を焼くためですか」
「そうだ。その日は風が強かった。折からの風速30メートルの強風に乗って、炎は一気に広がった。炎から逃げ惑う市民には超低空飛行のB-29から機銃掃射が浴びせられ、隅田川に逃げ延びた人たちも、焼夷弾の炎で焼き殺された。犠牲者の屍は炭化し、熱でおなかが炸裂して胎児が露出した妊婦もいた」
「なんちゅうことを……」
「そうだよ佐智。酷いことだ。東京大空襲は、広島、長崎に落とされた原爆の惨事と並んで、人類史上最大の虐殺だったんだ」
「やっぱり鬼畜米英やったとですね」
「いや、アメリカだ。この戦争で、これほどの残虐非道を行ったのは米軍をおいて他にないだろう。東京の人たちは、一瞬ではなく、逃げ惑い、機銃掃射に体を蜂の巣にされ、炎に焼かれ、水を求め、死んでいった」
「言葉ん出んです」
「アメリカ人はこれを真摯に受け止め、反省しなければならない。それならきっと、日本人は赦す。時代だったんだと」
「時代……」
「佐智、時代には逆らえないものだ。君だって、まだきれいでいたいだろうに、そんなもんぺを穿いている。それが、時代だ」
「もんぺは確かに動きやすかですけど、おしゃれじゃなかです」

「しかし、立ち直った日本は凄い国になっている。ビルヂンングが建ち並び、家の中に小さいキネマがある」
「家ん中にキネマですか?!」
「うん、テレビジョンという奴だ。色が付いている。それから手のひらに収まるような大きさの電話で話が出来る。それを持ち歩いている」
「そん電話の線は、どげんすっとですか?」
「無線だ。それをみんな持っている。蛍光灯という灯りはまるで昼間のようだ。佐智の苦手な洗濯も機械がやってくれる」
「機械が手洗いすっとですか?!」
「いや、洗濯石けんを入れた水が回るんだよ」
「水が勝手に回っとですか! タライん中でですか?!」
「ま、そんなところだ。飯も火を使わなくても炊ける。話せばきりがない。でも、失われ美徳も多い。日本人は品格を失った。それは誇りを捨てたに等しい。道徳観も失い、治安も悪くなっていた。
人々は挨拶を交わすわけでもなく、俯き加減に行き交う。それも能面のような無表情さで。
笑うのも微笑むのも限られた人たちの中だけだ。己大事さで人々は助け合うことを忘れた。親が子を殺し、子が親を殺す。あんな国のために、この時代の若者たちは命を捨てるのだろうかと、暗い気持ちになる」
「そがん国になるとですか……」

「これは覚えておいて欲しい。この戦争の後に〘東京裁判〙という無謀な裁きが行われる。正式には極東国際軍事裁判だ」
「東京……裁判ですか?」
「そうだ。戦勝国が負けた国を裁く場に、中立国がいないというあり得ない裁判だ。彼らは『人道に反する罪』として軍人を裁いた。しかし、非人道的な殺戮を行ったのは米軍だ。
あれが戦後日本の悲しい出発点になる。倒幕から開国の明治以来、日本が行ってきたすべてが悪であるいう決めつけと自己嫌悪、これは日本人に植えこまれてしまったもっとも悪い傷だと言ってもいい」
「日本は裁かるっとですね……」
「あれは裁きではない。日本人としての自信と誇りを失ってはならない。佐智、君が長く生きたら伝えて欲しい。日本に浴びせられる批判の多くは、捏造なんだと」
「はい、わかりもした。日本人はみんな優しかです」
「そうだ、それこそが日本人の本質なんだよ」

「死んだら終わりですよね」
「佐智、昨日の話を聞いてなかったのか? 僕は未来を見てきたんだよ」
「夢ですよね」
「そう、長い長い夢。でも、僕の想像だけであんなものは作り出せない。だからきっと未来だ」



               ☀★☀


「いよいよ明日になりもした。行かんで欲しかです」
「佐智、無理な注文をするな。僕は飛ぶよ。運命は変わらないから」右の手のひらをひらひらと落下させた。
それは特攻を意味するのか、逆らえない運命を示すのか、分からなかった。

「あ!」それは唐突だった。
「こんな所にホクロがあるんだね」杉浦が顔を寄せて耳たぶを引っ張った。
「あぁ、こいですか? さっちゃん、耳んクゾが付いとぉって、こまんか頃よくからかわれもした」
耳の穴のそばにホクロがある。佐智は杉浦の引っ張った左耳を触った。耳が熱を持った。

「か……かごんま(鹿児島)には、泣こかい、飛ぼかいってありもす。こまんか男ん子らが高い所から飛んだりすっとに、腕を前後に振りながらすっとです」
「何で耳を押さえてるの?」
「そがんことは、よかとです。話ん途中です」
「あら、怒っちゃった?」
「怒ってません。かごんまには……あの、聞いとりますか?」
「さっきから、ずっと聞いてるよ。かごんまが2回出てきた」
どうもこのひとは、熱を出した一昨日辺りからときどき人格が変わるような気がする。でも、この砕けた感じも好きだが。

「で?」
「泣こかい、飛ぼかい、泣こよかひっ飛べっ! ちゅうて飛ぶとです。男ん子なら、泣くぐらいなら飛べっちゅうことです。
でも、杉浦さんには飛ばんで欲しかです。でも……でも、飛ぶのが運命なら、勇ましく飛んで欲しかです」
「うん、多分何気なく飛ぶよ、未来を信じてね。勇ましいかどうかは謎だけど」

姉と弟に挟まれて育った佐智には、兄という感覚が想像の域を出なかったけれど、あの人と接して、年の離れた兄がいたらこんな感じなのだろうかと思った。
小さい頃に近所に住む吾一君が好きだった。一緒にいるだけで嬉しかった。そばにいなくてもいつも視線の先に吾一君を捜した。今にして思えばあれが初恋だったのかもしれない。それが今は坊主頭で唐芋(からいも=サツマイモ)のような顔をしてボソボソとしゃべる変な子になった。でも、あの頃は大好きだった。

人は恋などという存在に気づく前に人を恋する。好きという感情は勝手に育つものだ。自分があの人に寄せる感情は、存在しなかった兄への慕情に近いのかもしれない。


               ☀☀☀


「葬儀と告別式は斎場で執り行うことでよろしいですね」葬儀社の男の声に、鳴海は力なく頷いた。
「では明朝の搬送で手配します。ご心労でしょうけれど、わたくしどもも心を込めて、お子様をお送りさせていただきます」

会社への連絡を忘れていたことを思い出し、鳴海は階下に降りた。待合には午後の診察を受けるひとたちがたくさん座っていた。
売店近くの公衆電話で会社への報告を終え、正面玄関から外に出た。
すみれの死を知った後か知る前か、妻はここを通るだろう。しかし、すみれが通ることはない。吸ったタバコは、ひどいめまいを誘った。

すみれの葬儀をすませ、妻にすみれの死を伝え、後遺症が残らないことを確認できたとき、妻に別れを告げよう。
3人で暮らしたあの家で、これから2人で暮らしていくことは早紀とて辛いことだろう。それに何より再び子が生まれることはないだろうから、彼女の傷が癒されることもない。もとの赤の他人に戻って、それぞれの人生をやり直そう。

すみれはなぜが焼き鳥の皮が大好きだった。塩でもタレでも美味しそうに食べた。
父親に似て酒飲みになるなあ。早紀の両親が笑いながら口にしていた。人の気も知らないとはこのことだ。鳴海のほほえみは頬の筋肉をわずかに動かすだけで終わった。

すみれに罪はなかった。健気で愛おしい存在だった。しかしそれが苦悩の種であり、時として疎ましく悩ましく狂おしかった。そのすみれが、二人を繋ぎ止めるという役割を果たしていたことに鳴海はあらためて気がついた。

雲の切れ間から無数の薄日が筋状に差していた。
天使の梯子……。
すみれはやがて、あれを登るのだろうか。遠く遠く空の彼方まで。


               ☀☀☀


「来ましたか」鈴木軍曹の背後に立った佐智は小声で尋ねた。
「来ましたよ。えーと……」
「杉浦中尉です」
「はい、杉浦中尉殿は、確かに受信しました」
やった。やっぱりあの人は敵艦にたどり着いた。
「ちょっと待ってください」礼子から渡された形見の万年筆と腕時計を、佐智は胸に抱いた。
チェスト行け! キバレキバレ!……口の中で念じる。
「お願いします!」

「われ、これより突入す。その直後、連絡が途絶えました」
あの人は見事に散った。佐智はしゃがみ込み、唇を噛みしめた。涙は床にぽとぽとと落ちた。
「ここで泣いちゃダメよ」励ます礼子の声に佐智は頷いた。特攻兵たちに涙は見せてはならない。
うんの声が嗚咽になった。

明日ここを訪ねても、もうあの人はいない。ご苦労様とあげる片手と、目尻にしわを寄せる優しげな笑顔に接することは出来ない。遠い沖縄の海に散ったのだから。
わたしは生きよう、彼のために。間違った選択をしたとしてもそれは時代のせいだ。未来があると言ったあの人の夢を信じて、わたしは生きよう。

『人ん思いは川ん水じゃ。川ん流れは人ん誠意じゃ。海はもうひとりの、あるいは大勢の人ん心じゃ。
すべての川は海に注いどっ。人ん思いもそいとおんなじじゃ。叶うごとするには思えばよか。思いに銭はいらん。
じゃっどん、思いが過ぎて濁ったもんを流すっとはダメじゃ。漉(こ)して漉して、きれいになった水、要は穢(けがれ)んなか思いじゃ、それを流せばよか。そうすれば思いは通じっとじゃ』
死んだじいいちゃんが笑いながら言っていた。

帰りのトラックに乗った途端、みんな声をあげて泣き出した。今日は特別に悲しかった。でも、本当に深い悲しみは、一夜が過ぎた、明日の朝日が連れてくる。

町が近づいてきた。特攻兵士の前で涙を見せてはならないことと、この知覧に特攻基地があることは親兄弟にも口外してはならないことだった。
「涙を拭いて、さ、歌おう。〝空から轟沈〟がよかね? あ! 昨日教えてもろうた〝同期の桜〟にすっが。さ、みんな、泣かんで、歌おう!」

貴様と俺とは同期の桜
離れ離れに散ろうとも
花の都の靖国神社
春の梢(こずえ)に咲いて会おう





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$あ~る・ベルンハルトJrの「夜更けのラプソディ」-天使の梯子

胸の奥底には、さまざまな思いを抱えていたのだろうけれど、知覧にくる特攻兵士たちは、みな心優しかった。己の死を覚悟したゆえか、澄んだ川面を吹き渡る風のように、清涼な空気を運んできた。

「先に無線室に行ってもよか?」洗濯物を干す手を止め、中村佐智は横を向いた。
杉浦中尉が飛び立ってから2時間あまりが過ぎた。順調に飛んでいれば、もう到着してもいい頃だった。佐智はずっと時間ばかりを気にしていた。

「もう、そげんな時間になったとね」肩の辺りで頬を拭った鳥浜礼子に、佐智はあごを引くように頷いた。
出撃した後、担当した特攻兵たちの消息を訪ねるのはいつものことだった。

「あん人は、さっちゃんをわっぜぇ(すごく)可愛がっとった。さっちゃんな鈍かから、気がつかんかったかもしれんけど」頬に笑いを浮かべた。
「さっちゃんに、あん人から形見の頼まれもんあっとよ。僕が死んだら渡してくれっちゅうて。
みんながあいをください、こいが欲しかですっちゅうて言うとるときに、さっちゃんな、何も言い出せんかったとやろ? こん2つは先約があるからっちゅうて、杉浦さんな誰にも渡さんかったとよ」
「ほんのこっ(ほんとう)に?」

いただけるのなら何かひとつでもと思ったが、それは喉元から先へは、形となって表現されることはなかった。
何も言わなくとも、これあげるよと差し出してくれる兵士たちも多かったから、それを期待する気持ちもあったのだが、あの人は何も言わなかった。
「さ、あたしがそいをとってくる間に、はよ行き。中尉殿はきっと、成功されるじゃろ」


               ☀☀☀


昭和20年3月27日早朝、佐智たち18人の女学生は、夜も明けきらぬうちに電話で学校に集められ、事情も知らされず知覧飛行場に向かった。佐智は知覧高等女学校の三年生に進級する寸前の春、15歳だった。
その日は正門からではなく、飛行場を迂回するように、松や檜、竹林の中を進み、飛行場の奥に着いた。そこに並んでいたのが、敵機から姿を隠すようにひっそりと建っている半地下式の三角兵舎だった。それはまるで、崩れて屋根だけが残った粗末な家のようにも見えた。その屋根には偽装の杉の幼木が被せられていた。

そこで将校の訓辞があった。
「知覧飛行場は特攻基地となった。今日からみなさんには、特攻兵士たちの身のまわりのお世話をしてもらいます」

特攻のことは新聞で読んで知っていたが、この知覧飛行場が特攻基地になるなどとは、誰しも考えてもみなかった。息を呑み、お互いに顔を見合わせた。それぞれが驚きの表情を浮かべていた。
半地下に屋根を付けただけの、けっして広くはない三角兵舎に、特攻するまでの数日間を16人が暮らした。そのひとつの兵舎を、それぞれ3,4人が担当して、掃除、洗濯、ご飯運びなどの世話をした。
特攻兵たちの寝具は、わら布団に毛布だけの粗末なものだった。これがお国のために命を捧げる人たちの最後の暮らしとは、と、申し訳なささえ感じた。
軍人でも軍属でもなかったが、佐智たちは、自らを「なでしこ部隊」と名づけた。

到着してくる特攻兵士たちは皆若かった。そんな中、杉浦中尉は物事をよく知っている、成熟した人だった。

途中、熱で寝込んだせいもあり、あの人とは10日ほど接した。洗濯や掃除や身の回りの世話が終わった午後には、いろんな話をした。質問と言ってもいいのかもしれない。
「奥様はおられるのですか? 父母様はご健在ですか?」
「いややもめだよ。父も母も健在だ」白い歯を見せて笑った。
「ないごて(なんで)ご結婚されんかったとですか」
「悲しむ人を増やしたくないからさ」
目尻にしわを寄せたその目は、冗談を言っているようには思えなかった。
「ご実家はどこですか」
「東京だよ。実家は幸い無事だったが、先月空襲を受けた」
3月10日未明、東京の3分の1を焼き尽くし、10万人以上の死者を出した東京大空襲が起こった。


               ☀★☀


「あたしは体んこまんか(小さい)せいもあって、重か物も持てんとです。洗濯しとっても腕ん力が続かんとです。だから足で踏んどったです。そしたら兵隊さんの服を足で踏んだらいかんっちゅうてガラレ……あ、分からんですね。怒られっしまいもした」
「だから?」
「みんなの足を引っ張っとる気がして」
「人にはそれぞれ、持ち分持ち味というものがある。佐智さん、君の笑顔は辺り一面を染める菜の花のようだよ。僕は野に咲く菜の花がこの世で一番好きだ。佐智さんだって好きな物があるだろう?」

「はい、本を読むのは好きです。童話も小説も詩集も」
「そうか、好きになるというのは、それだけで才能の萌芽(ほうが)だ。僕はちっちゃい頃から飛行機が大好きだった。だから飛行機乗りになった」手折った草をクルクルと指で回しながら宙に曲線を描いた。
「才能ですか?」
「そう、心の琴線(きんせん)に触れない物を、人は好きになったりはしない。持って生まれた何かが共鳴するんだよ。裏を返せば人を形づくる根本にかかわることでは、異質の人間同士は心底からは共鳴しえない。
だから、親が結婚相手を連れてきたらよく話をしてみることだ。駄目だと思ったら、構うことはないから断ってしまえ。わたしには分不相応でございます、とね」


               ☀★☀


「杉浦中尉さんは、死ぬのが怖くなかですか」
「中尉なんていらないよ。杉浦でいい。官位も何もかも脱ぎ捨てれば、世の中はもっと棲みやすくなる。そして質問の答えは、死ぬのが怖くない人間なんていない」
「やっぱり、怖かですよね」
「ああ、怖いさ。戦闘に出ればいつ死んでもおかしくはない。空中戦で死ぬのは自分の力不足だ。しかし特攻は、力量にかかわらず、必ず死ぬ」
ふっと息を吐き、空を見上げるその横顔は、まるで答えを求める哲学者のようだった。

「人間死んだらおしまいですよね。目の前が真っ暗闇になって、お墓に埋めらるっとですよね。そいも、ひとりぼっちで。夜んお墓は怖かです。死んだら、あげなところに埋めらるっとですよね」
「佐智さん、君に答えが与えられることを願うよ。その前に、ひとつ教えておこう。この戦争は負けるよ」
「ないごてですか?! 兵隊さんが、そいも杉浦さんが、何でそげんなことを!」
「僕は知ってるからだよ」
「負くることを知っとるって言うとですか?」
「知ってるよ。だって僕は、隼の中で長い長い夢を見たんだ。この戦争が負けるということは軍本部だって分かっている。ただ、講話を有利にするために最後の抵抗をしているのさ」そう言って苦い笑いを浮かべた。
それはとても不思議で、理解できない言葉だった。


               ☀★☀


「特攻兵たちが死守しようとした沖縄は、無残な戦場になる。いや、彼らが守ろうとしたのは沖縄ではなく、ましてや日本でもなく、もっともっと小さいものだったのかもしれない。でも、結果として残るであろうものは、もっともっと大きいものだ。日本と日本民族の未来だ。
誰もが喜び勇んで特攻に来たわけでもないだろう。嫌々ながらの人もいるはずだ。断れない空気に押されてね」
「みんなが志願じゃなかったとですか」
「特攻の初期はそうだったろう。けれどここまで来ると、それでは間に合わない。学徒は特にそうだろう。時代は、戦争は、彼らの希望も夢も意思さえも、戦車のキャタビラのように踏み潰していく」

「あん人たちは、そがんして来たとですか……それなのに、笑うて出撃して。それなのに、日本は負けて、滅びるとですか」
「いや、滅びはしない。日露戦争を知っているね」
「はい。ニッポン勝った、ニッポン勝った、ロシア負けたーちゅうて歌うたそうです」

「あの日露戦争でロシアに勝ち、有色人種を救った。あれがなければ、有色人種は世界の奴隷であり続けただろう」
「世界の奴隷?……」
「そうだ。世界の陸地のほとんどは白人が支配している。有色人種は白人の植民地支配を受けていたわけだ。彼らは有色人種など豚や馬と同じで、我々白人に飼育されているのが当然などと公言してはばからなかった。
そこに、あろうことか数少ない有色人種の独立国家日本が、強大なロシア帝国に戦いを挑んだんだ。
最終的にはアメリカの仲介を受けた形ではあったけれど、勝った。これが有色人種に勇気を与え、全世界の植民地による独立運動に繋がっていった」

「そがんことじゃったとですか。ないごて日露戦争は起こったとですか」
「当時、ヨーロッパをはじめとする列強が、世界を植民地支配するのは当たり前のことだった。朝鮮半島を支配していた韓王国も危険にさらされていた。軍事力も経済力も遅れていた韓王国が保たれていたのは、清大国(中国)の属国だったからだ。
その清大国も、白人勢力に多くの領土を浸食され、半植民地と言ってもいい状態になっていった。
日本に最も近い朝鮮半島をフランスやロシアやドイツ、いずれにせよ白人の植民地にされてしまったら、日本の独立が危険な状態に陥り、やがて植民地化される恐れがある。
特にロシアは不凍港を求めて南下政策をとっていた。それが実現したら喉元に匕首(あいくち)を突きつけられるに等しい。
何で日本がそこまで強くなったのかといえば、運がよかったからだ。日本の植民地化を狙っていた列強が睨み合いをしている間に、富国強兵を行ったからだよ」


               ☀★☀


「佐智さん、この戦争が、大国が小国を武力と金銭で支配する、領土拡張と資源獲得の最後の戦いになるはずだ」
「やっぱり、負くっとですね……」
「残念ながらね。でも、この特攻は誇りにこそ思え、非難されるべき事ではない」
「誰が非難をすっとですか」
「自らがだよ」
「自ら?」
「切腹を命じられたら自ら腹を切る、それが日本の武士だった。自分が自分に罰を下すなんて国家は、世界広しといえども日本しか存在しない。だからいつか必ず、特攻に関しても腹を切る。小さな非難を大きく受け止め過ぎてね。
ただ忘れないで欲しいのは、特攻は無謀な行為だけれど、われわれ日本民族だからこそできうる行動だということだ。死中に活を求める、という言葉がある。身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ、という言葉もある。
しかし、滅私奉公の心は、危険を生むことがある。今まさにそうだ。もしも時間が残されているなら、この話しもしよう。
日本には天皇があり神道があり武士道がある。揺るぎないその伝統のうえに異教の仏の教えを受け入れ、キリストさえ受け入れたしなやかな民族だ。しなやかさは強さだ。だからこそ、この戦いに負けたぐらいで誇りを失ってはならない」

「我々は亜細亜の雄、日本人として誇りを持って飛び立つ、それだけは覚えておいて欲しい。大和民族を意のままに支配することなど何人(なんびと)たりとも出来ない。
勝てないと分かっている戦いに、亜細亜でただ一国立ち上がったのが日本だ。その意地を見せるのが僕たちの役割さ、民族の誇りと己の命をかけてね」

「ただし、美化してはいけない。佐智さんは、もう理解したね」
「佐智でよかです」
「あ、そうか。じゃあ佐智。ここに来ている特攻隊員の多くが学徒だ。学業を途中で放棄されられて招集された学生たちだ。僕たちとは根本的に違う。
将来の日本のために彼らを殺してはならない。死ぬのは僕たち軍人だけで充分だ。しかし軍部はそれをいとわない。これは作戦としては恥ずべき事だ」
「はい、確かに皆さん若かとです。わたしたちみんな、実のお兄さんのごたるって」
「うん。ここに集まった人たちは、ひとりの人間ではなく、もはや一個の爆弾に過ぎないのだ」
「爆弾……」
「もっと正確に言えば、爆弾を抱えた人間だ。それはそれとして、僕が見てきた未来の話をしよう」



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