風神 あ~る・ベルンハルトJrの「夜更けのラプソディ」 -109ページ目

電車を乗り継ぎ、かつて暮らした町に僕は降り立った。本屋の前を通りがかったが、メールの件があったため立ち寄らなかった。

僕と妹が生まれ育った町並みに大きな変化はなく、亜里砂の面影があちらこちらに浮かぶ。

誰かの誕生日にはよく訪れた回転寿司、小さい頃はとても豪華な中華料理店だと信じ込んでいたラーメン屋。家族で訪れたことはなかったが、中学生だった僕の胃袋を満たした牛丼屋。

僕は店先を覗き、看板を見上げ、小さな交差点で立ち止まっては、家族が欠けることなく揃っていた頃の風景をなぞった。
けれどその間、僕はずっとメールのことを考え続けていた。

携帯を取り出し、僕は公園のベンチに腰を下ろした。そして、読み返す。

煙草に火をつけ空を見上げた。8月の空に白い雲が浮かび、一片の外連味(けれんみ)もない青がどこまでも広がっていた。吐き出した煙が風に運ばれ、雲の白に溶け込んでゆく。

手の込んだいたずらか。

がしかし、僕の周りにそんな悪質な人間がいるとは考えられない。そもそも、妹の存在を知らぬ人が大半だし、その名を知る人は皆無だ。

それに、すでに失われてしまったアリのメールアドレスなど誰が知ろう。
考えはまた、すでになぞった堂々巡りを始める。

ようやく決めた文面を、煙草をくゆらせながら返信する。それはとても短いものだ。

〈遅くなって申し訳ないね。今、どこにいる?〉
折り返しのメールは、すぐに僕の携帯を鳴らした。

〈返事遅ッ! (◎`ε´◎ ) まだ家だけど、おにいちゃんはどこにいるの?〉

おそろしいほど早く、返事は僕の携帯を震わせた。目にもとまらぬほどのスピードでメールを打つ亜里砂の指先に、舌を巻いたことがあるのを思い出した。

二本目の煙草に火をつけた僕は考えに考え抜いて、事実を送った。嘘なら見破れる返事を。

〈いつもの公園だよ〉
再び、またたくまにメールが着信する。

〈そこまで来てるんなら、なんで家に帰ってこないの? また本でも読んでる? それとも、ひとり寂しくブランコでも漕いでるの? このクソ暑い日にご苦労なこった o(@.@)o〉



嘘を見破るはずのメールが、あっさりと真実を証明した。

公園はいくつかあるし、そのすべてを僕たち家族は訪れた。家から最も近い区立○○公園。僕と亜里砂はここを、いつもの公園と呼んでいた。それも、二人だけに通じる言葉として。

それにもうひとつ、明確なメッセージ。
ブランコのある公園は……ここだけだ。

亜里砂はいる。以前の家にいる。僕は弾かれるようにベンチから立ち上がり、走り出した。

点滅する大通りの信号を駆け抜け、小さな通りに入る。息を切らせながら静かな住宅地をひた走った。射貫くような日差しに汗が首筋を伝う。ショルダーバッグがひどく邪魔だ。袈裟にかけ直したバッグを後ろに回し、走った。

僕らの家だったところはすぐそこだ。


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「今日はどこかへ出かけるの?」階下に降りると、朝食の準備をする母が台所から振り返る。

「特に用事はないけど、ちょっとぶらっとしてくる。ごめんね、朝ご飯は帰ってから昼飯で食べるよ」
「うん、いいのよ。お父さんも食欲がないっていうから、これは夕飯の下ごしらえよ」

夕飯は何? とは訊けなかった。アリも僕も大好きだったものに決まっているから。

「遠くまで出かけるの?」
「いや、特には決めてないよ」

出かける先は、かつて住んでいた町の本屋、とは口にしなかった。すぐに読めそうな軽めの文庫本でも買って、僕らが幼かった頃に、家族でよく遊んだ公園でアリに語りかけよう。



「何かおなかに入れて行きなさいよ。トーストでも焼く? すぐにできるわよ」こめかみの汗を手の甲で押さえた母は、少し疲れた笑いを見せた。

「いや、僕も食欲ないし」
「そ」母は小さく呟き、缶コーヒーだけじゃダメよ、とまな板に向かった。

誰の悲しみが一番癒えていないのだろう。父だろうか、それともやはり、この人だろうか。襟元の後れ毛あたりに汗をにじませたその横顔を、僕は少しだけ見つめた。

今夜はきっと陰膳が並ぶ。どこかに出かけたわけでもないけれど、妹が旅先で飢えないように、無事に戻ってきますようにと。

「父さんは?」
「散歩してくるって、さっき出かけたわ」

今日が亜里沙の誕生日だということを、母はもちろん父だって知っている。けれど誰もが忘れたように振る舞う。

傷つけ合わぬように。それでも、忘れぬように。それぞれが言葉もなくこの日を祝い、心の内で深く弔う。

テーブルに乗る陰膳にしたって、誰も何も言わない。「多く作り過ぎちゃったから」母がぽそりと口にするだけだ。



家を出たとたんに、8月の日差しが襲ってくる。今日も暑くなりそうだ。
日陰を選んで歩き、私鉄の駅が近づいたとき、尻ポケットの携帯がメールの着信を知らせた。

アドレスが表示される。

arisa.263@……

〈おにいちゃん('-'*)オハヨ♪ お誕生日プレゼントはなにかな? 奮発してね (´0ノ`*)ホッホッホ!!〉

これはいったい、なんだ……。


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大学生ともなると、多くの友人たちがアパートを借りるなどして独立しているのだけれど、僕は両親のそばを離れられずにいる。僕がこの家から出て行くことは、二人にとってさらなる悲しみになるだろうと推察できるから。

夏の日差しを透かすレースのカーテンが、風をはらんで揺れる日曜の朝。
両手を上げて伸びをひとつした僕は、ベッドを抜け出した。



僕は妹を〝アリ〟と呼び、アリは僕を〝おにいちゃん〟と呼んだ。

着替えをすませた僕は自分の部屋を出て、薄暗い廊下を歩き4畳半の部屋へと向かう。

紺のブレザーに青いネクタイ、首元にはバーバリーチェックのマフラーを巻いたアリは、書棚の上で少し首をかしげて笑っている。

ショートヘアのアリがヘアスタイルを変えることも、成長することも、6年前のあの日からない。
もちろん、化粧を覚えることもない。
僕たち家族の日常は、あの日を境に奪われてしまった。

父も母も寡黙になり、それに気づけば饒舌になる。僕たちは、普通、ということを失ってしまった。

今日はアリの19歳の誕生日。生きていれば女子大生になっていただろう彼女が、この世に出現した日。

在りし日の部屋を再現した場所に、僕の点した線香の香りがゆっくりと満ちる。
記憶が上書きをくり返すうち、アリがやがて線香の香りに変わってゆく日がくるのかもしれないと、僕は恐れを抱く。



双方の祖父母の援助で買った小さな建て売りの一戸建てだったけれど、あの家とあの町に絶えきれなくなった父母は、小さな中古の一戸建てを買って引っ越した。

あの町が、僕たち家族を忘れるように、僕たちもまた、確かにそばで生きていたアリの温もりを、忘れてゆくのだろうか。


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夕暮れ時のスーパーは、夕飯の買い物客たちで混雑していた。顔の横をかすめるカートの波を縫って、僕らは歩いた。
                                          「パパが早く帰ってきたらぁ、おにいちゃんも一緒に、お風呂に入ろ」繋いだ手を君が大きく振る。僕はうん、と答える。君のちっちゃくて柔らかい手を握りながら。

そして思う。君はまた、100鈞で買ってもらったアヒルやじょうろや水鉄砲を持ってお風呂ではしゃぐのだろうなあって。

「ママ、ゆぅにゅう」繋いだ手を離し、ピンクと白のボーダーTシャツに半ズボンの君は、サンダル履きの足をつま先立ちにしてチルド飲料の棚を指さす。そう、君は牛乳と言っている。

「もう買ったわよ」母の声に、君は嬉しそうに、「おにいちゃーん」と一声上げて僕の前を通り過ぎ、意味不明な方向へと走り去る。

おにいちゃんは、ここなんだけど……。

なぜそうなのか、理由を知りたいと思うほど、僕の見る夢はいつもこのシーンだった。君は3歳ぐらいなのだろうか。だとすると、僕は5歳ということになる。

夢の続きの君は、小さなフォークを手に口をもぐもぐさせる。その口元は決まってソースやなにやらで汚れていた。
そして僕を見てにっこりと笑う。

それからわずか10年とちょっとしか、君は生きなかった。



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僕の働く街は歓楽街である。かといって、僕がいかがわしい仕事をしているというわけでは、もちろんない。

店舗がいくつかあるのだけれど、そのすべてが歩いていける距離にある。その店舗間での異動もある。
僕が最近異動した先は、もっとも客層が悪いといわれる店である。

〝腐った街に、腐った奴らがやってくる!〟
そんな表現がよく似合う一角。

酔客が嬌声を上げ、男よりも男らしいおかまや、頭を振ったら脳みそがカランコロンと音を立てそうなホストや、それと同程度のキャバクラ嬢が歩き、ぼったくりバーの客引きや黒人のキャッチがうろつく街。

何というか、やくざ者が優しい人にさえ見える街。



僕が一番長くいた店は、妙な客は排除する、という方針を伝統的に貫いてきた。
だから僕も、驚くほどたくさんの武勇伝を持っている。そう、実力行使に出るのだから。

けれど、異動した店舗は、ちょっと様相が違っていた。そのせいで、僕ははっきりとしたスタンスを取れずにいる。

だから僕にできることは、良いものを探すこと。腐った奴らが後から後からやってきて、物を盗み、会計の札を投げ、大声を上げていても、良いものを探すこと。目も耳も閉じずに良いものを探すこと。

すると、自分の目線と行動が変わり、そこに、光が見えたりもするんだ。闇に光が差すときもね。

嫌がっていたり、投げやりになったりしていると、ろくなことが起こらないって、そう教えてくれたのは君の天使たちじゃなかったっけ?


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足首をほぐすように、グラウンドにつま先を当ててこね回す者、大きく屈伸をする者、首や肩を回す者。

スターターの声がかかったのだろう、一斉に前に進み両手をつき、クラウチングスタートの体制に入る選手たち。

水を打ったような静寂が競技場を包み、若い娘は無意識に、両手を胸の前で組んだ。

やがてスターターの右手がゆっくりと挙がり、選手たちの腰も揃って上がる。
息を凝らして見つめる我が身の鼓動が聞こえてきそうで、娘は気を失いそうだった。

娘が、組んだ手をギュッと握ったのを合図のように、スターターピストルから白煙が上がり、選手たちが一斉に飛び出す。
号砲の音は遅れて鼓膜を震わせた。

「あれよ、あれよ、あん人よ!」そういわれても分かるはずもない娘は、必死で目を凝らす。

グラウンドに筋肉が躍動する。スタンドに爆発的な声援が沸き起こる。



「ほら、ほら、出た!」
一団をするすると抜け出す青年がいた。

「あん人?」
「そうよ、そうよ! あん人よ!」

まるで草原を走る野生動物のようなしなやかな走りをする青年に娘は魅入った。
その青年はひたすらゴールに向かって走り続ける。

周りの声にかき消されたけれど、娘は小さな小さな声を上げた。
「きばれ! きばれ!」

娘の声援を背に受けたかのように、後続の選手たちとの差をみるみると広げて青年はゴールを駆け抜けた。

「あん人が、あたしの許嫁(いいなづけ)? 優勝したあん人が?」
「そうよ! あん人よ!」

県大会の競技場で、まだ見ぬ婚約者の走る姿を前のめりで見つめた娘と、華麗なるデビューを果たした青年は、のちに僕の父と母になる。

この話を、嬉しそうにしてくれた母の顔を、僕はいまだに憶えている。

そして、あの世で再会した父と母は、この日のことを話題にしただろうかと、ふと思ったりする。


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ひとつ増えて恐縮至極 (゚ー゚;
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朝方は冷たくて強い風が吹いていたけど、日差しは暖かくなりました。
北海道方面はまだまだ注意が必要なのかな?
お住まいの皆様方、お気をつけくださいね。

最近みなさんのブログにお邪魔すると見かけるようになったのが「blogram」のバナー。
これ、何だろう?



意味も分からすポチポチしてるけど、何だろう?
ということで、登録してみた。
けど、まだ中途半端なので、次のブログ辺りで表示できるかなあ……

最初はブログランキングなんて登録してなくて、果たして自分のブログはランキングなどという恐れ多いものに値するのだろうかと、びびりながら「ブログ村」に登録してみた。
初登場は確か28位だったと記憶している。

そのあと、だいぶ遅れて「人気ブログランキング」に登録してみた。

最初は何だったろう? 「心の詩」あたりのジャンルだったのかな?
それから、たま~に書く(笑)短編小説に変えたんだけど。

「ブログ村」の短編小説ジャンルでは最高位3位までしか行ったことがない。
僕のブログに「人気ブログランキング」しか表示されないのは、そのせいではない(笑)

たぶん、「ブログ村」は表示できないんじゃないかなあ……
ま、いいや。
皆様、良い一日を。


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君の人生は誰のものでもなくて、君だけのもの。主役は君をおいてほかにない。
なのに君は時々脇役になってたりしない?

誰に従属する必要もないんだ。好きなものは好き、嫌いなものは嫌いでいいんだ。
嫌いな人を好きになる必要はない。嫌いなんだと、その気持ちを素直に認めるだけでいいんだ。それ以上何も考えなくていいんだ。
ふぅ~んって右から左へ流せばいいんだ。

思考っていろんなものをのべつ幕無し流し続けるから、気を止めちゃいけない。流すんだ。

誰に合わせようなんて考える必要はない。どうぞお先になんて考えなくてもいい。嫌なことばかりを引き受ける必要もない。
もちろん、人としてその心構えは必要だけれどね。
だってこれはわがままに生きろと言っている訳じゃないから。

何か美味しいものを食べたとき、ああ、これを食べさせてあげたいなあって思う人がいる。何かを切り分けるとき、少しだけ大きい方を分けてあげたい人がいる。



美しい景色、心惹かれる綺麗なもの見たとき、ああ、これを一緒に見たかったなあって思う人がいる。
君が何かを譲るとしたら、その人にだけでいい。それは君の心が喜ぶことだから。

自分を大切に。ほかの誰よりも、自分を大切に。
そして主役の君の横に、僕が時々登場するんだ。

僕は楽しそうに笑ったり、時に苦笑したり、つまらなさそうな顔をしたり、道を外れたことに時々激怒したりする。
そう、直角男だから。
もうカクカクしてるから。

君が必要だと思えば、僕はいつも君のそばにいることを忘れないように。
主演女優の横にいる名バイプレイヤーとしてね。

スガ シカオ / 夜空のムコウ


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鉄棒の棒は、その名の通りやけに鉄臭かった。
僕たちは手のひらに鼻を近づけてくんくんした。

まごうことなき鉄棒が醸し出す鉄の匂いだと納得した後は、喉が渇いたなあと顔を上げた。
その先には、日差しに照らされる校庭が広がっていた。



体育やクラブの後に飲む水は命だった。
僕たちは狂ったように水場に走り、蛇口に噛みつくんじゃないかという勢いで水を飲んだ。

喉の渇きが癒えれば、後は腹を満たすことだった。
かあちゃんは、何を作ってるかなあ、晩ご飯は何だろう……。



放課後の校庭に吹く風は少しの汗のにおいと自由の香りがした。
あの頃夢見た未来は、今ここにある。

満足がいくとかいかないとか、許せるとか許せないとかなんて、論じる方がおかしい気もする。
だって、自分が選んだ未来なんだから。

様々な苦悩とか、涙とか、怒りとか、喜びとか、笑いとか、すべてを飲み込んで、あの頃の未来はここにあるのだから。

よく生きたなって、自分の手を見たりする。
頑張ったなって、ふって笑いながら。

僕は、苦しくたって、まっすぐ生きてきた自負がある。
そう、世間で言えば、上手く曲がれない愚か者なのだろうけど。
だから少し、他の人より扱いにくいかもしれない。

そんな恐ろしく不器用な僕の思いは届くだろうか。
ぶきっちょな僕の、精一杯の LOVE SONG は君の胸に届くだろうか……。

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久保田利伸/LA・LA・LA LOVE SONG


怒りに震える日もあれば、悲しみに打ちひしがれる日もある。
絶望という言葉が、憎らしいほど似合う日がある。
心の扉を叩く音に恐怖を覚え、耳を塞ぎたくなる日もある。

地球なんて、この世界なんて、消えてなくなってしまえばいいのにとさえ、思う日もある。



君が望むことと、決して望んではいなかったこと。それは、長い冬と、春の陽だまりを行き来する空蝉(うつせみ)。
けれど、終わる気配をみせない悪い夢。

不安は絶えず湧き起こり、それを無理に閉じ込めようとして君の心はいっぱいいっぱいになる。
嵐のような現実と、枕を抱く束の間に得る、心の安らぎ。

何て悲しいことだろう、わずかな眠りのひとときだけが不安から逃れる唯一の時間だとは。

そんなとき、君の天使たちは顔色を変えている。慌ただしく動く翼で、空気が震える。

〝扉を開けなければ、不安と恐怖はどんどん大きくなっていくわ。迷わず開けなさい。そこには何もないことを、わたしたちが必ず見せてあげる〟

〝周りに同調したらダメよ。問題を解決するのは穏やかな心なのよ。怒っていたり、悲しんでいたり、焦っていたり、くよくよしていたら余計に悪いことが起こるわ。
何が起こってもあなたはあなたらしく超然としていなさい。同調したら波動が下がるのよ〟




そんなときにでも、前に向かって走れという、誰かの声がする。
みんな明確な何かを求め、定めた方向に向かってひたすら走っているのだという大いなる誤解が、追い詰められるような焦燥感を産む。

君の天使たちは訴えている。

〝ときには停滞も必要なのよ。それは回答を導く時間であり成長の時間なのよ。
すべての問題には答えが用意されているわ。あなたが回答できない問題なんて出されないのよ〟

〝あなたが苦しい時は、もっと苦しむ人たちに向けて祈ってごらんなさい〟

〝不安と恐怖の悪魔のペアは、愛の剣(つるぎ)で打ち倒せばいいのよ。
いつも口元に微笑みを浮かべなさい。苦しいときほどそうしなさい。やがて道が開けるわ。それも、早くに〟




君はもう走りたくはないことを、僕は知っている。
けれど世の中には、普通に歩きたくても叶わない人もいることを思ってみよう。

そう、僕の母親がそうだった。

そして、その人たちに祈ってみよう。哀れむのではなく、祈ってみよう。

問題には、必ず答えが準備されているんだ。
その答えはすでに君の中にあることを、天使たちは教えようとしている。

知ったかぶりで君をその場に縛り付けようとする人の言葉を、真っ向から否定しようとしている。

天使たちはいつも君のそばにいて、ほら、ほらって、何かを指さしている。君が見るべき何かを。進むべきどこかを。

それは君が誰かに言われたり、脅迫的に目指しているものとは、きっと違っている。

〝ほらほら、あれを見て! 心騒がせないであれを見て!〟

天使たちは声を上げている。



〝あなたはすべての問題の答えを知っているのよ。だから焦らないで、パニックにならないで、それ以上苦しまないで。心穏やかでいて〟

あらぬ方ばかり見ている君に、どうか届きますようにと。

君は孤独ではないのだと、すべては過ぎ去るのだと、天使たちは諦めることなく、君に伝え続けている。


君の天使たち」2013


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