電車を乗り継ぎ、かつて暮らした町に僕は降り立った。本屋の前を通りがかったが、メールの件があったため立ち寄らなかった。
僕と妹が生まれ育った町並みに大きな変化はなく、亜里砂の面影があちらこちらに浮かぶ。
誰かの誕生日にはよく訪れた回転寿司、小さい頃はとても豪華な中華料理店だと信じ込んでいたラーメン屋。家族で訪れたことはなかったが、中学生だった僕の胃袋を満たした牛丼屋。
僕は店先を覗き、看板を見上げ、小さな交差点で立ち止まっては、家族が欠けることなく揃っていた頃の風景をなぞった。
けれどその間、僕はずっとメールのことを考え続けていた。
携帯を取り出し、僕は公園のベンチに腰を下ろした。そして、読み返す。
煙草に火をつけ空を見上げた。8月の空に白い雲が浮かび、一片の外連味(けれんみ)もない青がどこまでも広がっていた。吐き出した煙が風に運ばれ、雲の白に溶け込んでゆく。

手の込んだいたずらか。
がしかし、僕の周りにそんな悪質な人間がいるとは考えられない。そもそも、妹の存在を知らぬ人が大半だし、その名を知る人は皆無だ。
それに、すでに失われてしまったアリのメールアドレスなど誰が知ろう。
考えはまた、すでになぞった堂々巡りを始める。
ようやく決めた文面を、煙草をくゆらせながら返信する。それはとても短いものだ。
〈遅くなって申し訳ないね。今、どこにいる?〉
折り返しのメールは、すぐに僕の携帯を鳴らした。
〈返事遅ッ! (◎`ε´◎ ) まだ家だけど、おにいちゃんはどこにいるの?〉
おそろしいほど早く、返事は僕の携帯を震わせた。目にもとまらぬほどのスピードでメールを打つ亜里砂の指先に、舌を巻いたことがあるのを思い出した。
二本目の煙草に火をつけた僕は考えに考え抜いて、事実を送った。嘘なら見破れる返事を。
〈いつもの公園だよ〉
再び、またたくまにメールが着信する。
〈そこまで来てるんなら、なんで家に帰ってこないの? また本でも読んでる? それとも、ひとり寂しくブランコでも漕いでるの? このクソ暑い日にご苦労なこった o(@.@)o〉

嘘を見破るはずのメールが、あっさりと真実を証明した。
公園はいくつかあるし、そのすべてを僕たち家族は訪れた。家から最も近い区立○○公園。僕と亜里砂はここを、いつもの公園と呼んでいた。それも、二人だけに通じる言葉として。
それにもうひとつ、明確なメッセージ。
ブランコのある公園は……ここだけだ。
亜里砂はいる。以前の家にいる。僕は弾かれるようにベンチから立ち上がり、走り出した。
点滅する大通りの信号を駆け抜け、小さな通りに入る。息を切らせながら静かな住宅地をひた走った。射貫くような日差しに汗が首筋を伝う。ショルダーバッグがひどく邪魔だ。袈裟にかけ直したバッグを後ろに回し、走った。
僕らの家だったところはすぐそこだ。
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