涼風文庫堂の「文庫おでっせい」470 | ryofudo777のブログ(文庫おでっせい)

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私が50年間に読んだ文庫(本)たち。
時々、音楽・映画。

<キース・ローマー>

 
 

1417「多元宇宙の帝国」

キース・ローマー
長編   矢野徹:訳  早川文庫
 
 
ストックホルムの路上で、
突如拉致されたブライオン・ベイヤードは、
次元を越えて、
無数の平行宇宙の中心に位置する<帝国>へと連れさられた。
 
MC転移機を用いて各次元を統治し、
無敵とも見える<帝国>も、
じつは暗い島国・2の無謀な侵略に悩んでいた。
 
そして、
<帝国>の上層部がベイヤードに見せた
暗い島国・2の独裁者の写真は、
ベイヤードに瓜ふたつだった!
 
脅し混じりで説得されたベイヤードは、
異次元世界の独裁者になるべく、
おくり出されたが――
 
屈指のエンターテインメント作家ローマーが、
アメリカSFにはなばなしくデビューした、
処女長篇。
 
                        <ウラスジ>
 
 
”多元宇宙” の案内人、
キース・ローマーの処女長編であり、
彼の代表作でもあります。
 
 
ではこのブログにおける初登場の場面へと ”転移” 。
 
 
 
次に、
この作品における、
<ガジェット/ギミック>を仄めかす会話
 
「これはネット内で動かされている偵察機械だ。
 ネットというのは、
 すべての同時に存在している
 現実のマトリックスを構成する
 選択可能ラインの複合体という意味だ」
 
「われわれの推進力は、
 マクソーニ・ロッシーニ界発生機(MC転移機)だが、
 それはいわゆる通常エントロピーに
 垂直といえる力を作り出す」
 
「わが帝国は、
 この発明がなされたゼロ・ゼロ・Aラインの政府なんだ」
 
…………
 
こういった、
SFの世界を構築する設定および用語――
 
よく言えば ”想像が創造した産物” 、
悪く言えば ”エセ論理的風に装飾された品物”
は、殆んどが
”講釈師、見てきたような嘘をつき”
の部門ですから、
話半分で読書を進めてゆくのが肝心です。
 
その内、身近なものとの関連性が見えてきますから、
そこで<置き換え作業>を行なえばよろしいかと。
 
マトリックス = 数列(フィボナッチ数列的なやつ)
         あと、数学の授業の時に黒板に書かれたもの。
エントロピー = 熱量(ジュールだったっけ?)
         ピンチョンの作品に、
         これで人が焼け死ぬってのがあった。
 
 
要は、
となりの次元に存在する世界から
転移装置(MC転移機)を使って
戦争を仕掛けられてる、ってことのようです。
 
”転移機” ――
 
……なぜか ”反復横跳び” のイメージが……。
 
 
<余談>
翻訳事情があったのか、
同じ主人公、同じ世界を扱いながら
この一作目の『多元宇宙の帝国』(1962)は、
続編でもある『多元宇宙SOS』(1965)より、
だいぶ遅れて訳出されています。
 
『多元宇宙SOS』 1971年/昭和46年・訳出
『多元宇宙の帝国』 1978年/昭和53年・訳出
 
訳者は同じ、矢野徹 老。
 
訳語の選択に苦労したことを
『多元宇宙SOS』のあとがきで触れておられます。
 
 
 
 
 
 

1418「多元宇宙SOS」

キース・ローマー
長編   矢野徹:訳  早川文庫
 
 
ブライオン・ベイヤードが現在住んでいるゼロゼロ世界とは、
この地球とほんの少し違う世界、
無数の平行宇宙の中心に位置し、
MC転移機を用いて各次元を統治する、
<帝国>の世界である――
 
ある夜、
帝国情報局の中を歩き回る
火のように燃えた奇怪な人影を発見した彼は、
その後を追い意識を失う……。
 
目覚めた彼を待ち受けていたものは、
人類討伐をもくろむ異次元のゴリラ達の侵略によって
すべての生命が消え失せた、変わり果てた都市の姿だった。
 
彼は敵の次元転移機を奪い、
ただ一人未知の時空へと出発した。
 
愛する美しい平和な世界を、
醜く残酷な死の手から再びとりもどすために!
 
                        <ウラスジ>
 
こっちが続編。
 
ベイヤード (主人公)
リヒトホーフェン ”マンフレッド”
バーブロ (恋人から奥方に昇格)
 
なんかは引き続き登場。
 
ヘルマン・ゲーリング(むろんこの世界ではナチ党員でなない)
は、どうだったっけ?
 
………
 
にも拘わらず、最初の方で 
”おさらい” をする会話に遭遇します。
 
 
「位相網ネットとは?」
「交互に並列する世界ワールドラインの連続体。
 同時に共存する現実の行列マトリックス……」
「帝国インペリウムとは?」
「MC発生機ジェネレーターが開発された
 ゼロ・ゼロ・Aラインを統括する政府」
「MCは何の略だ?」
「マクソーニ・コッシーニ……
 一八九三年にそれを発明した連中……」
「MC効果はどのように使われている?」
「位相網転移機ネット・シャトルの動力として使われる推進法」
 
………
 
昭和46年(1971年)、
先にこの作品を読んだ連中はこの
”知ってて当然”
(開いてて当然! サンチェーン)
みたいなやり取りを、どう読んだんでしょう。
 
とにかく、
話が進むにつれ、
「猿の惑星」っぽいシーンが出てきたり、
「オズの魔法使い」が歪んだ状況で登場したり……。
 
平行世界モノはエンディングに向けて、
”閉じていく” 傾向にあるので、
密度とともに、混乱・騒擾・諧謔が
深まってゆきます。
 
このシリーズも例に洩れず……。
 
<余談>
矢野徹さんのあとがきから。
 
 
読者の中には転移機という訳語に面くわれて、
航時機ではないのかといわれる方がおありかもしれない。
 
訳者も最初にそのように錯覚していたのだが、
時間旅行は最後になって出てくるだけだ。
 
転移機とは並行して存在している他の世界、
パラレル・ワールドに移るための乗り物なのだ。
 
航時機=タイムマシン
 
ってことを知ったのはこの作品ではなく、
次に紹介する作品でした。
 
<追記>
今のところ、
ローマーはこれら三作品で ”読み止め” になっています。
 
『前世再生機』
『多元宇宙の王子』 混線次元シリーズ①
『混線次元大騒動』 混線次元シリーズ
『突撃! かぶと虫部隊』
 
は機会があったら読んでみたい、です。
 
最後に『世界のSF文学:総解説』から。
 
著者のキース・ローマー (Keith Laumer、1925~)は
常に水準以上の作品を量産する作家として定評がある。
 
 
これ、結構な誉め言葉です。