涼風文庫堂の「文庫おでっせい」  200. | ryofudo777のブログ(文庫おでっせい)

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私が50年間に読んだ文庫(本)たち。
時々、音楽・映画。

<ヘンリー・ミラー、

サド、

トルストイ>

 

634.「愛と笑いの夜」

ヘンリー・ミラー
短編集   吉行淳之介:訳  中田耕治:解説
角川文庫
収録作品
 
1.マドモアゼル・クロード
2.頭蓋骨が洗濯板のアル中の退役軍人
3.ディエップ=ニューヘイヴン経由
4.占星料理の盛合せ
5.初恋
 
 
悪魔のような誠実さ、
混沌たる内部から輝き出す見事な精神の開化。
 
『北回帰線』『セクサス』等の自伝的大長編で知られる
現代最高の作家の一人、ヘンリー・ミラーの中短編小説集。
 
「初恋」「マドモアゼル・クロード」等、
本書に収められた五篇は、
いずれもパリ在住時代の経験にもとづく佳品であり、
デリケートで羞じらい深い魂から生まれた珠玉集である。
 
ここに、ミラーの精神的血縁ともいい得る吉行淳之介の名訳を得て、
意外なほどの均斉感をもった美しい小宇宙が再現された。
                               <ウラスジ>
 
 
……ていうか、
まず、<吉行淳之介:訳>ってことに
驚いてしまいました。
 
確かに、お二人とも ”性の狩人” めいた
共通点はあるかも知れません。
 
また、ミラ―が見せる想念と風景を編み込んだアラベスクのような
筆致は、吉行文学の『湿度の高い』描写と相通じるところが
無きにしも非ず、言えなくもないでしょう。
 
ただ、片や長編作家、片や短編作家という違いは無視できません。
 
しかし、ただ、自分の考えからすると――。
 
こんな私見を差し挟むと、
こんぐらがってしまうかもしれませんが、
私はミラーの作品を、<短編小説>のように読み、
吉行さんの短編を、長編の<章割り>のように
読んでいるところがあるのです。
 
要するに、ミラーは短編を書くように長編を書き、
吉行さんは、後年とくに、長編を書くように短編を書いているっぽい、
と私には受け取れるのです。
 
ややこしくなるので、この辺でやめておきます。
 
 
この作品集で言うと、やはり一発目の『マドモアゼル・クロード』。
 
まず、クロードは娼婦だった、
ということから話をはじめよう。
 
で始まる15ページほどの短編です。
折しも、『マダム クロード』という映画が公開されるようになって、
すわ、これは原作か?という早とちりをした人も多かったのでは(?)。
 
 
映画の方は実在するらしい娼館の女主人を描いたもので、
『エマニュエル夫人』に続く、
ジュスト・ジャカン監督のいわゆる ”ソフト・ポルノ”。
 
そうそう。
次あたりに登場する『O嬢の物語』の監督でもあるな……。
 
 
<閑話休題>
 
これは、最適のヘンリーミラー入門書。
 
いきなり、『北回帰線』や『南回帰線』を読もうとする方には、
ささやかなアドバイスを。
 
 
 
 
 

635.「恋のかけひき」

マルキ・ド・サド
短編集   澁澤龍彦:訳  角川文庫
収録作品
 
1.ファクスランジュ あるいは 野心の罪
2.ロドリグ あるいは呪縛の塔
3.オーギュスチィヌ・ド・ヴィルブランシュ あるいは 恋のかけひき
4.寝取られ男 あるいは 思いがけぬ和解
5.司祭になった夫
6.ロンジュヴィルの奥方 あるいは 仕返しをした女
7.二人分の席
8.プロヴァンス異聞
9.哲学者の先生
10.復讐
11.エミリー・ド・トゥールヴィル あるいは 兄の惨酷
12.司祭と臨終の男との会話
 
 
『悪徳の栄え』や『美徳の不幸』などによって、
長篇作家サドの力量は、だれしも認めるところであるが、
その才能は短篇小説にもおとろえることなく発揮された。
 
本書は、愛する女と結婚するために、
珍奇な方法を使って目的をとげる「恋のかけひき」、
浮気男とその妻とのコミック「寝取られた男」など、
当時の社会風俗を、鋭い風刺をまじえた
軽妙洒脱な筆で描いた作品12篇を収録し、
サドの広い文学的領域を感じさせ、
その全貌を髣髴させる好短篇集である。
                               <ウラスジ>
 
<ウラスジ>とは一味違う、
澁澤龍彦さんのこの短編集に対するコメントがこちらになります。
 
まずはこの文庫の成り立ちから。
 
本書は、サドの短篇集『恋の罪』から二篇、
同じく短篇集『小咄、昔噺、おどけ話』から九篇を選び、
それに独立の短篇『司祭と臨終の男との会話』をつけ加えて、
手ごろな一巻にまとめたものである。
 
<中略>
 
短篇集『恋の罪』の特徴は、すべてその色調が暗く、
陰惨な小説ばかりを意識的に選んであるということであろう。
とくに近親相姦や男色や殺人をテーマとしたものが多い。
 
 
で、表題作は、男嫌いの令嬢の攻略法ですが……。
 
短篇になっても、
サドが登場させる人物は、饒舌極まりない。
 
サド哲学が反映されている作品なら、
司祭と臨終の男との会話』をご一読下さい。
 
 
 
 

636.「民話集 人は何で生きるか」

レフ・トルストイ

短編集   米川正夫:訳  角川文庫

収録作品
 
1.人は何で生きるか
2.愛のあるところには神がある
3.火を消さずにおくと
4.卵ほどの麦つぶ
5.二人の老人
6.ろうそく
7.名づけ子
8.三人の息子
 
 
「人は何で生きるか」は、トルストイが最初に書いた民話である。
 
そこには民話伝説が単純素朴な民族精神を保ちながら、
同時に野卑低俗な手垢を洗い落して、
清澄崇高な気品に充ちた姿で、
現代人の前に立ちあらわれた観がある。
 
トルストイは民話芸術の中に、
ロシアの大愚に近い善良さと、
謙抑の美徳を強調している。
他3篇。
                                <ウラスジ>
 
 
天に戻れない天使の修業。
 
すると、神様は、
『また行って、産婦の魂をぬき取ってきなさい。
すると三つのことばがわかるだろう。
つまり、
人間の中には何があるか、
人間に許されていないのは何か、
人は何で生きるか、
ということだ。
それがわかったら、天へ帰ることができるだろう』
とおっしゃいました。
                       <『人は何で生きるか』より>
 
もう一冊の民話集 
『イヴァンの馬鹿』とともにお読み下さい。
 
2冊あわせても300ページそこそこです。