日本とイタリアの間に共通するものは、文化や政治・経済、そして軍事的な面で、アメリカ合衆国の影響を非常に強く受けている(あるいは、受けすぎている)という点です。
特にカルチャーの面では、アメリカの「文化的植民地」と言ってもいいくらい、アメリカ化が進んでいます。
その理由が、両国がともに、第二次大戦後、アメリカの占領を受けた、というところからきているのは言うまでもありません。
その間、日本とイタリアの国民を「親米化」するため、様々な国家的キャンペーンが行われてきました。
その結果、両国は巨大なスポンジのように、アメリカナイズされたライフスタイルや、価値観、政治と経済のシステムを、吸収させられてきました。
しかし、日本人やイタリア人が、憧れをもって、一生懸命まねしようとしているアメリカのイメージは、張子の虎のような、表面的なものです。
「自由の国」という表向きの顔の裏側に、どれだけの「暗黒面」が隠されているかにもまた、考えを及ぼさなくてはいけません。
アメリカにおける、人種間の偏見と不平等は、その社会の中に入って生活してみればわかることですが、いまだに根深いものです。
さらには、市場経済の行き過ぎた自由化に伴った、あまりにも大きすぎる経済格差、そして、そこから来る犯罪の増加と、社会の不安定化、そして思想・信条の自由に対する実質的な抑圧などといった、アメリカ合衆国が抱えているマイナス面を考えに入れず、盲目的にアメリカ型の社会を目指すのは非常に危険です。
日本人はそこにきちんと目を向けなければいけません。
現在日本政府が目指している「TPP」参加についても私は反対です。
たとえば、アメリカには、誰でも入れる、公的な健康保険制度がありません。
ですから、保険会社が販売する健康保険に入るお金がない人は、病気になったり事故に遭ったりした時に、あまりに高額な治療費を払わなければならないため、ろくに医者にもかかれないという現実があります。
このようなアメリカのシステムを「保険市場の自由化」という名目で、日本も受け入れなくてはいけない危険性が、そこにはあります。
政府は「国益を守るべき分野は守る」と言っているようですが、現在の日本政府とアメリカ政府の力関係を考えれば、そんな約束は空手形になってしまう可能性のほうが、ずっと大きいでしょう。
そして、アメリカ型の「何でも民営化・自由化すれば良い」という考え方に追従していった果てには、何があるでしょうか。
たとえば、消防の民営化が進められつつあるアメリカでは、家が火事になっても「消防会社」と契約していなかったため、火を消してもらえず、家と財産を失ってしまったというような、信じがたい事態が、もうすでに起きています。
こうしたことがこのままエスカレートすれば、いずれはSF映画のように、警察まで民営化されて、「契約者」以外は、強盗に襲われ、近くに警官がいるのに助けてもらえない、という社会になってくる可能性だってあります。
いささか話が大きくなり過ぎたかもしれませんが、アメリカが推し進めている「新自由主義」と「グローバリゼーション」の行く末にあるものは、「自由競争」に勝ったものにはパラダイス、負けたものには地獄が待っている、という世界であることは確かです。
そして、一般市民の、圧倒的多数が「敗者」の側に回る仕組みになっている、ということを、決して忘れてはなりません。
今、これを読んでいるあなたが、ごく少数の「勝者」になれる保証は、どこにもないということを、考えてみてください。
また、アメリカの歴史をつぶさに眺めていれば、それが常に「戦争の歴史」であったことについても考えておくべきです。
世界各地でアメリカは「正義と自由と豊かさ」をもたらすという名目で、直接的な軍事行動や、間接的な紛争への介入を行ってきました。
その結果はどうなっているでしょうか。
その土地の多数派を占める人々に「正義と自由と豊かさ」がもたらされた例がどれだけあるでしょう。
1960年代以降を見れば、はっきり言って、ほぼ皆無だと言っても良いのが現実です。
ベルリンの壁が崩壊した後、アメリカ合衆国の価値観や、政治・経済・社会のシステムが、世界の「唯一の規範」のようになってしまいました。
そしてアメリカ自身も、自ら作り出した基準や規範を「グローバルスタンダード」と呼んで、世界の国々に、それを追従することを求めています。
でも、アメリカ合衆国という国と向き合う時、はっきりさせておかなければならないのは、彼らの行動基準は、建前はともかく、どこまでも「自国の利益の追求」だということです。
「TPP」にしても、表向きは貿易の障壁を撤廃して、お互いの国の経済活動を活発にするということを看板にしてはいますが、アメリカがそれを強力に推し進める背景にあるのは、南米やアジア、オセアニア各国の経済を、アメリカが自由にコントロールしやすくする、という目的です。
極端な言い方をすれば、それらの国を、アメリカの経済的な「植民地状態」に置こうと企んでいる、ということです。
そしてその一番のターゲットは、他でもない、日本だと思われます。
現在、日本の政府や財界が急速に進めている、経済・社会システムのアメリカ化に対して、日本の大衆は、きちんと考えることなく、ただただ流れに身を任せて、追従しようとしているように、私には見えます。
その果てに何が起きるか。
このまま漫然と進んでいけば、後の世代を生きる人々に「あの頃の日本人は、本当にバカだった」と言われかねないところに、今、日本はきているのです。
中国当局 焼身自殺情報提供者に巨額賞金
石原新党結成で政界再編となるか
★【青山繁晴】メタハイの環境負荷と、沖縄の平和教育★
今回は、メタンハイドレート開発に伴う環境破壊の懸念に答えると共に、沖縄県出身者の方々が受けてきた「平和教育」の質問に答えていきます。
★【表現者スペシャル】政治・文化から見る『戦後日本』★
パネリスト:
桶谷秀昭(文芸評論家)
佐藤健志(作家・評論家)
佐藤洋二郎(作家)
富岡幸一郎(文芸評論家・関東学院大学教授)
寺脇研(映画評論家・京都造形芸術大学教授)
西部邁(評論家)
松原好之(作家・神奈川歯科大学客員教授・「進学塾ビッグバン」主宰者)
司会:水島総