ごまめが歯ぎしりをやめる日 -8ページ目

ごまめが歯ぎしりをやめる日

くだらない事をうだうだと書ける今日という日に、心から感謝。

完走した日の夜、


レース中から痛かった右目は、物が二重に見えるほどのダメージを受けていて「大丈夫か」と自分でも不安になったのだが、ひと晩寝て起きれば、元に戻ってひと安心。(結構な眼精疲労だったようだ。肩の凝りが目にきたのかもしれないが)



あと、レース中から痛かったのは手首。

基本走っている間は、リラックス目的で瞬間的に両手を下げることはあっても、ほとんどの時間で手は「上げた」状態になるので、ずっと力が入っていた手首の凝りから来る痛みというのも、2日ぐらい残って厄介だった。



太ももや足首はいつものことなのでいいとして、

雨の寒い中で100kmも走ると、普段のフルマラソンでは痛みが出ない場所に、いろんな疲れがたまるものだ。でも幸い、頭痛が出なかったので(レース中も頭痛が出たらいろんな意味で危険なので、すぐやめようとは思っていたが、風邪も引かずに帰ってこれて良かった)、回復もフルマラソンのときより少し遅い程度で済んだ。




故障持ちで、スピードも後から走り始めた嫁にもはるかに劣るほどの非力っぷりだが、

根性だけは身体と関係ない部分なので、それを生かせる方向性という意味では、ウルトラに進んだのは間違いでなかったと思う。



長い距離に挑む勇気そのものが「勝利」。完走すれば「大勝利」。


タイムも順位も重視されないし、私のような人間でもゴールテープが切れる。


これがウルトラマラソンの魅力だろうか。




走行距離:100.2km


立ち寄ったトイレの回数:4回


服装:長袖ウエア(KAPPA、ニューバランス)、タイツ(cw-x)+短パン(アシックス)、ソックス(RxL SOCKS TRR-30G


摂取したドリンク:水、ヴァームウォーター、オレンジジュース、コーラ、アミノサプリ、ホットココア、ホットコーヒー


摂取したフード:エネルギーゼリー、吉田うどん、きのこの山、クリームパン、梅干、グミ(カンロ ピュレグミ



あと5km。されど5km。



このレース、全ての距離部門に共通して待ち受ける、最後の上り坂。


モンスターと呼ぶ人がいる。ラスボスと呼ぶ人がいる。

坂ではなく「壁」と呼ぶ人もいる。


しかし、3kmに渡るこの最後の坂を克服しない限り、富士北麓公園のゴールにはたどり着けない。



・・・なんとか気持ちで走ってきたが、ここで脚が止まってしまう。



昨年もそうだった。ここを走りきれなかった。

今年だとなおさら、傾斜がきつく見える。



歩くペースも、周りより遅い。普段は街中でもスタスタ早歩きの私なのに、歩くことすらままならなくなってきている。



キロ10分以上かかっている。まだ貯金は十分あるが、先が長い。険しい。

雨も強くなり、身体が冷える。左脚は痛みからしびれに変わってきた。両膝もかなり痛む。

さらに雨で、ウエアでこすれた皮膚の痛みも沁みて感じるようになる。肩、胸、太もものつけ根もおそらく内出血しているだろう。



それでも一歩一歩、いくしかない。少しずつでもゴールに近づいている。

ゴールすれば、全ての痛みから解放されるのだから。



この雨の中、沿道で応援してくれる人もたくさんいた。本当にありがたかった。



「あと2.5kmです!!」



声が聞こえた。ということは、あと500mで上りが終わる。



もう傾斜に抵抗できる体力も気力もなかった。

とにかく歩くのみ。あと少し。あと少し。いちばん厳しく、つらく、孤独を感じる時間だった。







でも、いつか終わりはやってくる。


遠くに看板が見えた。




「FINISHまで あと2km」




道がフラットになり、先を見れば下りに変わっている。


もう苦しめるものはない。あとは力を抜いて、しっかり足を地に着けて走るだけ。

路面には大きな水溜りもあった。1つ踏むだけでもシューズに水がたくさん入ってきたが、もう少しの辛抱だ。



残り1km。


去年と同じく、少しずつ声援が大きくなる。

ようやく、いよいよ、富士北麓公園の中へ。





・・・スタートからのことを、いろいろと思い出す。



早朝の山中湖を走っている時、とても今の自分を想像することはできなかった。


それでもコツコツと距離を積み重ねて、帰ってこれた。






100kmという距離を、あと少しで完走しようとしている自分がいる。






「ラストです!」


「あとちょっと!」


「お疲れさま!」


「お帰りなさい!」





たくさんの声が飛んできた。

場内のアナウンスでも、自分の名前が呼ばれた。






・・・今日も、サングラスの下で泣いた。



・・・今日は泣いてもいいや。それぐらいのことをやってきたんだから。








100km通過。







チャレンジ富士五湖・100kmの部の走行距離は 「100.2km」である。



あと200m。


もう大丈夫。感慨に耽りながら、達成感を思い切り噛みしめて、最後の直線。





思えば去年は、団子状態の中をゴールしたので

フィニッシュテープを切ることができなかった。







今年は・・・












ごまめが歯ぎしりをやめる日-ふじ5
















「大願成就」


約7年走ってきて、

はじめてフィニッシュテープを切る経験ができた。





12時間59分29秒。


1時間と31秒の貯金を残し、100.2km完走。






「俺はやった やってやった やったよ」


今日1日の疲れが、しばし吹き飛ぶ達成感。




すべてはこの瞬間のため。



楽しんで走ろうと思ったけれど、楽しくもなんともなかった。



でも、走り終えた後に、最高の楽しみが待っていた。





背中にはタオル。胸には完走メダル。



ゴールで待っていてくれた、嫁のもとへ・・・



・・・その途中、背中のタオルを地面に落とす。(去年も同じタイミングで落とした)






やった・・・やった・・・・・


泣きながら、しばらく「やった」しか言えなかった。







・・・しばらく「やった」を連呼した後、嫁に言ったのは





「今日の晩ごはん、ホットコーヒーとアイスでいい」


↑自分でもなぜこんなことを言ったのかよく分からない。





たしかに、胃はかなり痛めつけられていた。


ゴール後の豚汁も辞退(自分がもらって嫁が食す)したほどで、

間違っても「腹減った」などという感覚は微塵もなく、とにかく冷えた身体をどうにかしたい一心だった。



会場内のエイドでホットコーヒー(ミルク・砂糖多め)を飲み、

雨の降りしきる会場を後にする。



その後の記憶は断片的だが、


嫁が運転する車の中で熟睡していたのと、途中立ち寄ったSAのトイレで身体の震えが止まらなかったのと、晩ごはんがアイスに近い抹茶プリンだったことが主なハイライトだったか。




100kmという距離を走った後の、達成感と解放感。


今回の、何よりの収穫と自信だった。





・・・しかし、月曜日も仕事である。


余韻に浸る間もなく、帰宅後お風呂を経由し、すぐさま布団に入ったのであった。





月曜日は満足に自力で立ち上がれない中、それでも出勤。


火曜日はまだ手すりなしでは階段を登れない。


水曜日はようやく普通のフォームで歩くことができて、


木曜日は青信号が点滅している横断歩道を思わず走った。








金曜日、次のウルトラをどこで走ろうか、考え始めた。



これがいわゆる「中毒」というやつなのだろうか。



復路の西湖。ゴールまであと25kmあまり。

(75km走ってきたというより、残り距離のことばかりが気になるもので)



80kmで10時間なら、あと20kmを4時間でいい。

ここが一応の安全圏と考えて、とりあえず先の5kmをしっかり走った。



西湖の南側は、前半と後半でまるっきり表情が変わる。

前半は湖面が見えず、森の中を走っているような感じだが、

後半は湖に沿って、リアス式のごとく入り組んだつづら折りの道を進む。



気づけば80km。一度も歩くことなく、80km。

タイムも10時間を切ってこれた。ゴールがうっすらと見えたような気がした。


でも油断はできない。あと20km、無事に走れる保証などどこにもないのだから。



81,2km。西湖公民館の第4関門。


雨の中、エイドで頑張ってくれているボランティアの男の子達が「頑張って下さい!」と大きな声で、拍手とともに送り出してくれた。


嬉しかった。ここまできたら、エイドでのサポートや沿道の声援、何ひとつ無駄にするものかと、再び気合いが入った。



後半のつづら折り。どこまでも続くガードレール沿いの道。

アップダウンはなく、風も今年は弱かったが、

直線距離だとかなり先が見えている中をクネクネと走っていくのは精神的につらい。



雨も少しずつ強くなってきた。それでも走るしかない。

歩くと身体が一気に冷えてしまうのが怖い、という思いもあって、ここはもう走りきるしかないという開き直りもあったのだが。



・・・加えて前を行くランナーは、みんな歩いていない。こういうのも励みになる。自分が苦しい時は、他の人も苦しい。



西湖の端が見えた。トンネルの向こうに、河口湖が見える。

去年と同じ景色でも、何か重みが違う。ここまでたどり着いた。でもまだ終わりじゃない。



再び西浜小学校のエイドへ。

ホットココアを2杯頂く。胃も結構疲れてきているのか、食べ物に手は出ない。



エイドを後にし、最後の湖は、復路の河口湖。

ただし湖畔の距離としては3分の1ほどで、そのまま富士吉田市内へと入っていく。



ここも、去年はあっという間だったはずなのに、今年はやけに長い。だんだん脚が言う事を聞かなくなって来た。


雨も強くなり、サングラスの中に入ってくる。視界は曇り、はっきりしない。加えて右目が痛み出す。



解放されたければ、ゴールすればいい。不思議とこの日はポジティブな気持ちを通せている。

時間的にも、100kmを完走できる大きなチャンスを迎えているのだから、絶対フイにはできない。



でも、苦しい。歩きたい。

そんなタイミングで、赤信号がくる。これもある意味ラッキーだったか。



このレースの特徴的な点として「交通規制がない」ことが挙げられる。



ランナーは原則的に歩道あるいは側道を走らなければならない。

信号も遵守が原則となる。対面信号が赤の場合は停止しなければならず、ここでのタイムロスも計測に含まれる。



ウルトラを走り慣れた人に、赤信号の小休止をマイナスと捉える人はきわめて少ない。

特に後半の赤信号はかえってホッとすることも多く、ストレッチや屈伸で一息入れるのにちょうどいい時間と考えればいいのだ。長くてせいぜい1分。



信号だから止まっている。自分の意思で止まっているのではない。

こうした理由付けで小休止できたのも、運といえば運かもしれない。



そして、95.1km。

河口湖ステラシアター。最後の関門。もう残すはゴールのみ。



オレンジジュースをグイと飲み干し、さあ行こうと思ったまでは良かったのだが、

目の前には最後にして最大の難所、約3km続く急勾配の坂。




・・・今年も、脚が前に出なかった。



河口湖を抜け、西湖までの道のりは、ひたすら登りが続く。

その途中にあるのが、51.6km地点にある西浜小学校のエイド。



着替えや食料等の荷物を置ける場所ではあるが、

69.8km地点の本栖湖エイドだけでいいと判断して、ここでは給水のみ。

無駄に長居する必要もなければ、先を急いだほうがいい。

顆粒のサプリメントを水で流し込んでリスタート。



3番目の砦となる西湖は、復路に比べれば往路はまだ淡々と走れる。

歩道のない場所も徐々に増え、対向車が続くと多少窮屈になるが、

ここまで来ると集団もバラけてほぼ縦1列になって走るのでそれほど

影響はない。



順調に往路の西湖もクリアし、野鳥の森公園へとつながる登り坂へ。

72kmの去年よりもはるかにキツく感じる上に、長くも感じる。


ちらほら歩くランナーもいたが、ここで歩いてては完走が厳しくなる。

野鳥の森公園・・・で待っている「吉田うどん」目指して、無心で走る。



ダラダラとした山道を走り、人だかり、そして駐車中の観光バスが見えたら

そこが別名「うどんエイド」と呼ばれる、野鳥の森公園。


この先、青木ヶ原樹海~精進湖~R139~本栖湖を折り返し、

再び降りてきた道を登ってこの場まで帰ってくる中盤の踏ん張りどころを控え、

エネルギー補給に欠かせない腹ごしらえの場なのだ。


吉田うどん(具なし。七味を少々)を勢いよくすすり上げ、ホットココアで

ひと息ついて、それでも長居はせず3分程度でエイドを後にする。



スタート時に持っていた、塩タブレット以外のサプリメントがここで尽きた。

(ザバスのゼリーバー3本、NI2本、アミノバイタルプロ1本)

しかし気温も低く、それほど消耗もないのでこのまま本栖湖までいけそうだ。



青木ヶ原樹海を眼下に見下ろしながら、連続する陸橋を一気に下る。

(私のような高所恐怖症の人間には少々つらい区間だが)



最も外周の短い精進湖へ。

それでも長かった。去年の2倍ぐらい長く感じた。

このあたりから、少し雨が落ち始める。



そして、長い長いR139(富士パノラマライン)の地獄道。

下り基調とはいえ、本栖湖から戻ってきたランナーとの交差が絶えない。


どちらも歩道を走るので、前に歩いているランナーがいると追い越しが難しくなる。

加えて木の枝がせせり出る場所も多く、前のランナーのはね返りで枝が身体を

直撃することも少なくない。


まだ参加者の少なかった頃は、それほど気にならない状況だったとは思うのだが、

今や3000人以上が同じコースを走る盛況ぶり。これもまた試練である。



雨が少しずつ強くなっていく中、やっとの思いで本栖の交差点へ。

これもこのコースの名物、階段つきの地下道をくぐって本栖湖へと一直線。



69.8km、本栖湖県営駐車場の関門を通過。

なんとか歩かずにここまで来れた。貯金も徐々に積み上げ、ここは少しゆっくりできる。



先回りしていた嫁と合流する。(雨の中、応援する側も大変だ)


両脚にエアーサロンパスを思いっきりぶっかけられながら、

ここでウエアを着替える。


今回は雨の有無にかかわらず冷えると予想して、長袖を2着用意した。

「雨が降っても重くならない」と店員さんに勧められたニューバランスの

ウエアにスイッチ。いよいよ本降りになってきたので、上からビニール袋で

作ったポンチョをかぶせる。


復路用の補給食やサプリメントもポケットに入れて、

軽くストレッチをしていたら、普段同じ場所で練習しているクラブの方と出会う。


・・・疲れで少し朦朧としていたので、はっきり会話できたかどうか分からないが、

頑張りましょうと言葉を交わし、本栖湖を後にする。



ゴールまであと30kmあまり。距離は未知だが、コースは既知だ。


正直、まだ完走は半信半疑であり、余裕もそれほどない。

でも幸い、両脚に感じる痛みはまだ少ない。

去年の夏頃から痛み始めた左足の裏も、ソックスとテーピングのおかげで

なんとか持ちこたえている。



帰りのR139、精進湖、青木ヶ原、再び野鳥の森公園・・・

雨に打たれながらも歩かずに走り続け、気持ちで帰ってきた。

エイドで食べるレモン味のグミが、疲れを癒してくれる。



80km(残り20km)通過で、残り4時間あれば大丈夫。

なんとか目処を立てるべく、復路の西湖へと入っていった。



見渡す限りの、曇り空。

富士山を眺めながら走るというこの大会の醍醐味は、今年は叶いそうにない。

ならばレースに集中しよう。



今回のペース設定は、7:00/km。

70kmあたりまで、10kmを1時間10分前後でいくのが理想と考えていた。



おそらく周りのランナーもそのくらい・・・と思っていたら、

138号線へと降りていく下り坂で、抜かれる抜かれる・・・


気がつけば大集団の最後尾まで後退。後ろにはもう数十人ほどしかいない。

時計を見れば7分少し/kmなので、自分が遅いわけではない。



周りが速い理由はいくつかあるとは思うが、

最初の関門となる27.6km地点の制限時間が、3時間45分という

少々シビアな設定であることも関係している。


無論、キロ7分でも十分間に合うのだが、

途中の給水やトイレ、不測の事態等を考えて、さらには

最初から少しでも貯金を作っておきたいという気持ちも分かる。



忍野八海を抜け、長い長いファナック通りを進む。

まず目指すは山中湖。まだ見えないのか山中湖・・・


さっそく心が折れそうになっていた、その時。







「見えた!!」







先には携帯のカメラを取り出し、同じ方角に向けるランナーたちが。



私も同じように目をやると、



富士山が顔を出していた!!





嬉しかった。きれいに見えた白富士。

あきらめていたものが叶うと、俄然、気持ちが高まる。



早朝、湖畔をひた走り、難所の1つ、ママの森のアップダウンも抜け、

長い長い山中湖をぐるり1周。



最初の関門も残り30分で無事通過。


昨年走った72kmと、今年の100kmとの違いは

この序盤、山中湖1周を含む28kmがあるかないかだけ。

ここが終われば、あとはゴールまで経験済みのコース。



山中湖は、なんとかやり過ごせばいい。

貯金を作る場所は、ここではない。



なんとかここまで、思惑通りに進んでいる。



マイペースを保って富士吉田に戻ってきた。


8時にスタートした72kmの選手とも合流する場所だが、

数名ほどしかいない・・・この時点でポジションはかなり後ろのようだ。

ただ10km70分前後で30kmまで走れているので、気にすることはない。



スタート前からの胃もたれが依然、不安のタネではあるが・・・

名物のおにぎりも食べられなかった。



でも、応援に来ていた小さな女の子からもらったチョコレートを口に含み、

エイドでホットコーヒーを飲んだら、少し食欲が出てきた。



何がどう転ぶか分からない。


レース中の食べ物についてうるさく言う人もいるけれど、

その場で食べたいもの、飲みたいものを口にするのがいちばんいい。

イコール好きなものだから、身体にも、気分的にも良い作用となる。

(似たようなことを、この前の「さんま御殿」で女医が言ってたけれど)



胃のモヤモヤがスッと下りていった気がして、

唯一の不安が河口湖の手前で消えた。



河口湖大橋を渡り、40kmを通過。


順調に、自然に、無理せず、フラットな河口湖畔を走る。

適度な疲労感。いちばん走れている状況かもしれない。



往路は北側半分を走る河口湖。その終わりに差し掛かったあたりが

半分の50km。


5時間46分で通過。予定より少し速いが、無理はしていない。

まだまだゴールは見えないけれど、少し手ごたえが出てきた。



「いけるかも」という思いと「(脚が)壊れませんように」という思いの

両方を持ちながら、西湖~精進湖~本栖湖の折り返しを目指す。