●疑問に思うこと  芥子(けし)と罌粟(けし)③・カラシナを育ててみました | 横浜の香り教室 平安の香りと親しむ平安朝香道

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東急電鉄日吉駅3分にある平安の香りを創り楽しむ教室です。平安時代、貴族や「源氏物語」の主人公光源氏がたしなんだ香り創りや楽しみ方をご紹介。(by平安朝香道 朝倉涼香)

●疑問に思うこと

 芥子(けし)と罌粟(けし)③

 カラシナを育ててみました

 

 

 

ご訪問ありがとうございます

平安朝香道の朝倉涼香です

 

 

芥子と罌粟について疑問に思うこと①、②

 

の続きです。

 

 

「源氏物語」には

「生霊(いきりょう)」「死霊(しりょう)」

として「もののけ」が何度も登場します。

 

 

その一つに

「源氏物語」「葵」の巻で

光源氏の正妻の葵上が

もののけに苦しめられます。

 

 

もののけを追い払うために

加持祈祷をするのですが

その時焚かれた物は

芥子(けし)と書かれています。

 

 

でも、芥子(けし)で本当に

もののけを退散させたのでしょうか?

 

芥子粒(ポピーシード)を焚いてみることにしました。

 

焚く前にまず香りを聞いてみると・・

ナッツのような香りがします。

 

焚くとより香ばしく香りが立ちますが

驚くほどの香りはないビックリマーク

 

なのになぜ?

もののけを追い払えるのか?

 

と疑問に思ったのです。

 

 

疑問に思うこと 芥子(けし)と罌粟(けし)①

 

 

疑問に思うこと 芥子(けし)と罌粟(けし)②

 

の二つのブログで疑問点を書いてみました。

 

で、答え探しの旅を始めてみました。

 

まず気になったのは、

 

芥子と罌粟。

 

この二つの語が

芥子の読み方で 全く違うものになってしまうことです。

 

芥子をケシと読めば

一般的にはポピーのことになります。

(漢名では罌粟(おうぞく)とも表記され、モルヒネやアヘン

を抽出する、現代では育成が禁じられている種類のポピーになります)

 

芥子をカイシ(漢名)と読めば

日本には弥生時代に伝来したとされる

加良之(芥・からし・和名)の種子のことです。

 

芥子(ケシ)=罌粟(おうぞく)と芥子(からし)。

これら2種類の植物には

実は何の関連もないことになります。

 

あるとすれば

どちらも種は小さな球状と言う共通点。

そして日本での呼び方が同じになっていて、

とても紛らわしい・・・ということに。

 

ただどちらも

種子を焚いても焼いても

付着したら取ることの出来ない香りだとは

微塵も感じられませんでした。

 

香りはしたのですが、ともに心地よいそれだったのです。

 

そこで改めて2種類の種子について調べ直してみました。

 

[けしについて」

罌粟(オウゾク・けし))はポピーといった方が

わかり易いですね。

ポピーの種はお菓子作りに

まぶしたり混ぜたりして

使われています。

 

あんパンの上にのっているあの粒が

ボピーシード(けし粒・けしの種)です

けしが入っている七味唐辛子もあります。

(種子が発芽しないように加熱処理してあります)

 

ポピーシードは

噛むとナッツの香りがします

焼くと香ばしい香りで

決して刺激臭ではありません。

 

 

[からしについて]

カラシナの種は

マスタードシードと言った方が

イメージできます。

 

カラシにも多くの種類があり

手に入った

 

葉からし菜

レッドアジアンマスタード(赤からし菜?)

ブラウンマスタード

白芥子(シロカラシ・ハクガイシ)

粉からし

 

・分かったこと追加の試み

 

やはりどれを焚いても焼いても

刺激臭はありません

粉からしは

ぬるま湯で溶いて練ると

やっとカラシの辛さのツーンとした

刺激が現れます

 

でもこれを祈禱に使ったとは思われません

参考として

和カラシや洋カラシの成分はシニグリン

白芥子(しろからし・はくがいし)の成分はシナルビン

です。

中国では白芥子(ハクガイシ)と呼び

これを薬用として漢方に使います。

日本では現在真言密教で祈禱に使っています。

白芥子が一番可能性があると思っていたのですが

 

 

日本の古代には、カラシナの種ではなく

葉を食したので

ひょっとすると乾燥した葉なのでは?

と考え

 

その後春まで待ちきれず

葉からし菜の種を

寒さ真只中の1月に蒔きました。

 

育たないかもしれないと思いながら・・・

 

 

 

1月の末

芽が出ました

 

 

その後

か弱いながら成長して

大きくなりきらない葉を収穫。

 

収穫というほどの物ではありませんが

葉の香りは菜の花でした

口にすると

辛~い

アブラナ科ですから当たり前?

 

乾燥させて焚いてみましたが

草の焼けた香りがするだけ

目が痛いとか皮膚に刺激があるとか

付いたら取れない香りだとか

特に何もありませんでした。

 

寒くて寒くて写真が撮れていませんえーん

 

その後観察を怠って

気がついたときには

 

 

 

お花が咲いていました

可憐な菜の花ですね

 

寒かったから葉っぱが大きく成長出来なかったのでしょう

真冬に蒔くなんて~

 

 

 

以上の結果から

 

祈禱に使われたのは

罌粟(けし)の種子でもなく

からし菜の種子でも葉でもない。

 

これらでは、

「もののけ」を退治なんて出来ませんショボーン

 

 

ですが

「源氏物語」の「葵」では

光源氏の正妻葵の上の出産の場に   

愛人である六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)が

生霊(いきりょう)となって現れるのです。

そのために加持祈祷が行なわれ

芥子(けし)が焚かれたのです。

 

その時焚かれた芥子(けし)の香りが

衣に染み付いて洗っても何をしても

消すことができなかったのです。

 

この点はどうなるの?ですよね。

 

この時焚かれた芥子は果して

芥子(カラシナの種子)なのか?

それとも罌粟(けし)なのか?

 

「源氏物語」の原文から可能性を探ると、

罌粟(けし)にります。

 

「源氏物語」は全文ひらがな、漢字まじり文の2説があり、

はっきりしたことはわかりません。

 

それなのに紫式部が「罌粟(けし)」と書いた可能性が髙いのは、

(といってもひらがなでけしと書いたか、

漢字で芥子、もしくは罌粟と書いたかははっきりしませんが)

 

ただ一つはっきり言えることは

当時カラシナは、加良之と表記されていたのです。

平安時代の薬草辞典である本草和名に、

はっきりとそう書かれているのです。

 

紫式部ほどの才媛が、それを知らないはずがなく、

加持祈祷にカラシナの種や葉などがつかわれていたのなら、

はっきりと、「からしな」とか「加良之」と書いたと考えるのが自然です。

 

でも、紫式部はそんな文字は使っていないのです。

 

実際には「けし」、「芥子」、「罌粟」のいずれかの書き方をした、

としか考えられません。

 

ところで・・・、

 

ごく最近ガーデニングをしていて

気付いたことがあります

 

 

植えたはずのない

罌粟(けし)が花開いていたのです

(危険なけしではないのですが)

ポピーと言った方が良いですね。

 

ナガミヒナゲシでした

 

 

 

 

今や雑草として扱われるくらい

どんどん増えているので

ご存じかもしれません

 

花が散るとさっ果(種が出来ます)が見えました

 

 

 

 

最近買った苗の土に

ポピーの種が混じっていたのでは

 

そう考えました

 

それから導き出された答えは

 

平安時代に海外から入ってきた植物と一緒に

罌粟(けし)の種が入って来た

または何かに付着して来た

植えるつもりはなくとも芽が出て

知識を持った者でしたら

それが何なのかわかっていたかもしれません。

それが香りに詳しい僧侶なら・・・

 

(アヘンを採るけしは葉や茎を揉むと

 二度と嗅ぎたくないような、とても嫌な匂いがするそうです)

 

私の小さな経験でも、

お庭で思いがけない種子が発芽し、

茎を伸ばし、花が咲くのですから、

平安時代でも同様のことが起きたことは十分あること。

 

そのため、意図的であったのか

自然にそうなったのかはわかりませんが、

けしが案外身近にあって、

呼び方のまぎらわしさから、

けしもからし菜もはっきりした区別を失い、

からし菜がけしにすり代わっていた

 

このような推理が出来るのです。

 

以上をまとめますと、

私は初めは芥子はケシではなく

漢字の意味通りのカラシ菜の種か

カラシ菜の葉ではと思いましたが

カラシ菜の葉や茎は嫌な香りではありません

 

危険なケシの葉や茎の香りは

実際には確かめられませんが

調べた結果「とても嫌な匂い」だそうですから

こちらが「源氏物語」に登場したケシの可能性が高くなりました。

 

まだまだ、様々に推理できますが

この辺でお終いにしましょう

 

庭に咲いたヒナゲシが答えを出してくれたと

そう思っています。

 

 

様々な想像ができて

とっても楽しい音譜

 

長い時間のお付き合い

ありがとうございました。