疑問に思うこと 芥子(けし)と罌粟(けし)② | 横浜の香り教室 平安の香りと親しむ平安朝香道

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東急電鉄日吉駅3分にある平安の香りを創り楽しむ教室です。平安時代、貴族や「源氏物語」の主人公光源氏がたしなんだ香り創りや楽しみ方をご紹介。(by平安朝香道 朝倉涼香)

疑問に思うこと

 芥子(けし)と罌粟(けし)②

 

 

ご訪問ありがとうございます

平安朝香道の朝倉涼香です

 

 前回の

芥子と罌粟について疑問に思うこと

 

の続きです。

 

 

「源氏物語」「葵」の巻で

光源氏の正妻の葵上が

もののけに苦しめられます。

 

もののけを追い払うために

祈祷で焚かれた物は

芥子(けし)でした。

 

 

そこで使われた芥子(ケシ)

 

芥子粒を焚いてみました。

 

焚く前もナッツのような香りがします。

 

焚くとより香ばしく香りが立ちますが

驚くほどの香りがないビックリマーク

 

なのになぜ?

と疑問に思ったのです。

 

 

「芥子」

 を国語辞典・広辞苑で引くと

 

①ケシ科の越年草。

西アジア・東南ヨーロッパ原産

高さ1メートル。

葉は白粉を帯びる。

5月頃、白・紅・紅紫・紫などの4弁花を開く。

朔果(さくか)は球形。

未熟の果実の乳液から阿片・モルヒネを制する。

中略

中国 へは7世紀頃に、日本には室町時代には

伝わっていたと言われる。

 

まず

罌粟(学名 Papaver )

としてのケシの解説で始まります。

 

次に

②カラシナの種子。

護摩に焚いた。

③ケシ・カラシナの種子が小さいことから

微小なことに例える

 

このあと⑧まで罌粟に関連した語

の解説が続いています。

 

現在は芥子はケシと読み

カラシは辛子と書いています。

 

ではでは

 

「芥」とは?

 

漢和辞典では

 

 

カイ(漢音)・ケ(呉音)と読み

①からし菜のこと「芥子」かいし・けし

②ごみ。ちり。あくた。「塵芥」

熟語の例として

「芥子」とあり

①からしなの小さい実。

粉末にして香辛料とする。

②けし。

草の名。

未熟な果実の乳液を乾燥させ

阿片をとる。

 

と記述されています。

 

「芥子」と「芥」では

意味の先行順位が入れ代わっています。

 

 

「芥子」を呉音で読むと

 

ケシ

となります。(これは私の考えです)

 

(漢音と呉音は

普段私たち日本人が使っている音

です。

漢音は奈良時代から平安時代初期の音です。

呉音は仏教関係で使用されていました)

 

 

もともと「芥子」は

カイシ・ガイシと読み

中国ではからし菜の種子のことです。

 

からし菜は中央アジア原産で

古代に中国から渡来しました。

 

「本草和名(ほんぞうわみょう・918年)」や

「和名抄(わみょうしょう・932年)」では

「芥」の漢名に和名として

「加良之(からし)」をあげています。

 

 

からし菜の種子を乾燥したものが

芥子(ガイシ)と呼ばれる生薬となり

健胃薬、去痰薬として使用されています。

 

からし菜の粉末をぬるま湯で練ったものを

芥子泥、練り辛子と言い

 

これってお馴染みの練りがらしですね。

 

それが

神経痛、肺炎、リウマチ、捻挫などの治療として

患部に湿布剤として使われていたのだそうです。

 

現在も販売しているのですから

使われているということです。

 

卓上で使う粉の辛子は

表示を見たらターメリックも入っていました。

ターメリックは着色に使われているのでしょう。

チューブは添加物多し。

 

驚くことに

普段私たちが使っているカラシが

生薬として使われているのです。

 

 

からし菜は弥生時代に

日本に伝来しているそうです。

荒れ地や河川敷などで野生化し

現在でも見ることができるのです。

 

 

カラシはアブラナ科ですので

菜の花と良く似ています。

 

私がいつも河川敷で見ていたのは

ひょっとすると菜の花ではなく

からし菜なのかもしれません。

 

 

ここまでくると平安時代の「芥子」は

罌粟(けし)ではなく

からし菜だろうと推測されます。

 

そこで

偶然我が家の書庫でみつけたのが

中村元氏の「仏教植物散策」

   右下矢印

(東洋思想研究の権威であり

比較思想という研究分野の開拓者)

 

芥子のページには

 

仏典などで言う極小物の比喩として

芥子(けし)の語が使われ

その植物はサンスクリット語で

サルシャパと呼ぶ植物(ないしその種子)

いわゆる芥子菜(からしな)のこと

(金沢篤)

 

その編著に著わされています。

 

 

ですが

そこでまた実験です

ケシの種子でなく

カラシナの種子はどうでしょう?

 

イメージとしては刺激的ハッ

 

 

 

 

芥子の種も辛子の種も小さくて良く似ています。

 

罌粟(ボピー)もカラシ菜もごちゃごちゃに

解釈されるのも分からないでもありません。

からし菜の種はまんまるですが

ポピーシードは球状ではなく少しくびれています。

 

 

                                       ボピーシード

 

 

ブルーポピーシード

 

 

 

 

                              葉からし菜       イタリア産    

 

 

 

アジアンマスタード  カナダ産?

 

 

 

 

ブラウンマスタード  インド産

 

現在、日本で流通している和がらしは

ほとんどがカナダ産だそうです。

 

日本原産の和がらし今では輸入に頼っています。

 

昭和30年代頃まで栽培されていましたが

生産コストが上がり

生産者も減少して栽培されなくなり

 国内消費のほぼ全てがカナダ産だそうです。

 

 

辛子の香りはどれも微かです。

あえて言えばブラウンマスタードに

カレーの香りがします。

 

 

からし菜の種も焚いても特に

特徴的な香りがしませんでした。

 

粉末も同じことでした。

 

人肌のお湯で溶いてペースト状に

 

これでカラシの本領発揮メラメラ

 

から~~い

刺激的な香り~

 

焚いてみましたが

空間に漂う香りに刺激性もなく

がっかりショボーン

でした。

 

 

 

でもここで少し反省

なぜか種子にばかり惑わされていたのです。

 

ほとんどの方が

芥子と聞けばイコール麻薬

この語が出ると幻覚が見えそうな

怪しげなイメージをお持ちなのでは?

 

この言葉に惑わされるように

私も「種子」の語に惑わされていたのです。

 

最初から刷り込まれている

「芥子の種(けしのたね)」

これが何もかも誤る元だったのでは

と反省しました。

 

芥子(けし)はカラシナの種ではなく

古来より食していた芥子菜(からしな)の

葉や茎そのものなのではないでしょうか。

 

種を楽しむようになったのは

もっと後のことなのです。

 

からし菜の種をサラダに使っていますが

ピリッとして美味しいです音譜

 

次はこの種を植えて

からし菜の葉と茎で実験しようかな~

試してみようと思っています。

 

梅雨が明け、夏が過ぎ

涼しくなったら蒔いてみようと思います。

 

 

結果は文献に示されているのですが・・・

 

2017年に発刊された岩波文庫の

「源氏物語」の芥子の解釈もからし菜でした。

 

 

室町時代以降現代でも

ケシ=麻薬のイメージが

いつもついて廻るわけです。

 

罌粟も芥子もとんだ迷惑ですね。

 

 

おおよその答えは

六条御息所の衣に染み付いた香りは

カラシ菜及び練りカラシからくる

ツーンと鼻に来る刺激臭

時には涙さえ出ます。

 

そのイメージが祈祷に持ち込まれた。

それがおおよその答えです。

 

中村氏の編著の中にも

インドでは

カラシナは食用としてだけでなく

カラシ油は毎日の沐浴の前に

頭や身体に塗られ

民間ではカラシの種子には

罪の根源を滅ぼす力があると信じられ

こんにちでもまじないや祈祷に使われる

とのことです。

 

 

でも

干したからし菜を焚いて

試したいのです。

 

ミステリアスな部分は

ミステリアスなままに

そうしておく方が良いのかもしれませんが。

 

 

結論はこちらから下差し