「源氏物語」の蓮池の香り
ご訪問ありがとうございます
平安朝香道の朝倉涼香です
雨が降って
暑さもどこへやら
とても涼しくなりました。
急激な感染者の増加と
激烈な暑さのため
8月のお稽古は
夏休み
といたしましたが
私は
課題の「荷葉」や
その他の薫物を聞きながら
秋の準備をしております。
蓮の花もそろそろ
終わりを迎えることでしょう。
「源氏物語」に登場する
「荷葉」の香りを
あれこれと想像しながら・・・
光源氏が最初に邸とした
二条院にも
後に壮大な邸となる
六条院にも
庭園には、夏になると
青々とした蓮の葉や
蓮の花が風に揺れる様子が
描かれています。
源氏が四十歳の時
(平安時代の四十は老年期)
二人目の正妻(女三宮・十三、四才)
を迎えます
(亡き葵の上は最初の正妻)
正妻同様に暮らしてきた
紫の上の嘆きは計り知れず
次第に床に就く時間が
長くなっていきます。
病気治癒のため
かつて源氏と住んだ
二条院へと移りました。
一時危篤に陥りましたが蘇生
紫の上のご容体を憂慮して
源氏はしばらくの間二条院へ留まります。
池はいと涼しげにて
蓮(はちす)の花の咲きわたれるに
葉はいと青やかにて
露きらきらと玉のやうに見えわたるを
「かれ見たまへ。おのれひとりも涼しげなるかな。」
とのたまふに起き上がりて見出し給へるも
いとめづらしければ、
「かくて見たてまつるこそ夢の心ちすれ。
いみじく、わが身さえ限りとおぼゆるをりをりのありしはや」
と涙を浮けてのたまえば、
みづからもあはれに思して
「消えとまるほどや経べきたまさかに蓮の露のかかるばかりを」
とのたまう。
「契りおかむこの世ならでも蓮葉に玉いる露の心隔つな」
身を起こせるほどに回復した
紫の上は源氏と
歌を交わします。
紫の上は蓮に置く露に
自身の命の儚さを重ねて
歌を詠みます。
それに答えた源氏は
この世だけでなく極楽浄土でも
この蓮の露のように
同じ蓮の上にいましょう
お約束いたします。
お疑いなきように!
涼しげに揺れる蓮を
二人で眺めながら
一時を過ごすのです。
お互いに来し方を懐かしく思い
行く末を案じています。
その不安を
涼やかで清らかな情景と
蓮池から漂う香りとで
払拭してくれているのでは
そう思っております。
平安時代の「荷葉」を聞き
次第に
ご自分の中で温められた
「荷葉」が創れますように
そうなられたら私も嬉しいです
薫物は
急がずゆっくりと
時代に合わなくとも
いつかきっと
ご自身の拠り所となるはずです。