遅れ馳せながら、2022大河『鎌倉殿の13人』を前作(1979大河『草燃える』)とも比較しながら、総括してみたい。
大いに期待して迎えた本作ではあったけれど、ご都合主義的なストーリー展開には感情移入が難しい回も少なくなかったし、「首チョンパ」のような昭和ギャグに鼻白む面もあるにはあった。それでも、最後まで興味を失わずに見続けられたということは、総じて期待に応えてくれていたということだと理解したい。
とりわけ前半は坂東武者の動静にスポットが当てられており、大いに満足した。
前作では人気女優松坂慶子さん演じる茜(加藤武さんが演じた大庭景親の娘)や滝田栄さん演じるオリジナルキャラ(伊東十郎)まで登場させながら、坂東武者たちにはあまりスポットが当たらなかった印象が強く、不満もあった。だから、今作はワクワクして見た。
英雄然とした上総介広常(佐藤浩市さん)はとても良かったし、大いに話題も呼んだが、前作の傲岸不遜な広常(小松方正さん)もいかにも広常らしかった。おそらく従来の広常像そのものであったろう。
前作の主人公は映画スター石坂浩二さんが演じる源頼朝という建前ではあったものの、実質的には大女優岩下志麻さんが演じる北条政子と、当時まだ無名だった松平健さんの北条義時であったといってよく、じつは本作とあまり変わらなかったのだ。
岩下さん、松平さんのコンビと比較しても、今作の小四郎(小栗旬さん)と政子(小池栄子さん)のコンビは善戦していたと思う。こんな言い方をするのは失礼かも知れないが、小池栄子さんの政子は予想以上に素晴らしかった。
時政(坂東彌十郎さん)に関していえば、前作の金田龍之介さんに分があるように思う。例のギョロッとした目つきの有名な木像にソックリなのはちょっとズルい気もするが、いかにも田舎の成り上がり者、地方の有力者・権力者といった風情を強烈に醸し出していた。金田さんの時政に比べると、坂東さんの時政は無味無臭といった感があって、少し物足りなかった。『草燃える』当時は、地方政界を牛耳るような強烈な個性をもった政治家が多く、お手本に困らなかったということもあるのかも知れない。
時政の後室・牧の方(今作ではりく)は大谷直子さんと宮沢りえさんの新旧女優対決で、どちらも政子の悪女イメージを食ったといってもいいぐらいの熱演ぶりではあったが、宮沢さんには愛するわが子を失った母の懊悩と狂乱ぶりをもっと激しく見せて、政子との対比を際立たせて欲しかったようにも思う。
本作の最大のヒットは大泉洋さんの頼朝だろう。石坂さんを初め、菅原文太さんや中井貴一さんなど、歴代の頼朝俳優と比べても、遜色ないどころか、出色だったとさえ思う。私の中では足利尊氏(1991大河『太平記』)の真田広之さんや徳川家康(1985時代劇『真田太平記』)の中村梅之助さんらとともに、三大幕府の初代将軍トリオとして記憶に刻まれた。
最終回だったろうか、小四郎の口から「執権殿の(野望の犠牲となった)13人」の名前が明かされた。すなわち、梶原景時(中村獅童さん)、阿野全成(新納慎也さん)、比企能員(佐藤二朗さん)、仁田忠常(高岸宏行さん)、源頼家(金子大地さん)、畠山重忠(中川大志さん)、稲毛重成(村上誠基さん)、平賀朝雅(山中崇さん)、和田義盛(横田栄司さん)、源仲章(生田斗真さん)、公暁(寛一郎さん)、源実朝(柿澤勇人さん)、阿野時元(森優作さん)の十三人である。
彼らがそんな宿命を背負った人物として数え上げられていたとは思いもしなかった。
前作では江原真二郎さんが「げじげじ梶原」のイメージを一新して話題になったが、中村獅童さんの景時はより一層クール&スマートに描かれていて、かつての景時像はすっかり消え去ってしまったといえるかも知れない。
前作ではクールなイメージの伊藤孝雄さんがどこか醒めたように演じていた全成。重たい空気の中で場を和ませる新納慎也さんの全成はそれとは真逆で、そのコミカルな存在感は貴重ではあったものの、彼自身の哀しい末路を思えば、その名のとおり悪禅師ぶりを存分に発揮してくれていた方が見ている側は救われたかも知れないとは思う。もっとも、救われない展開こそが今作の真骨頂であるといってしまえばそれまでなのだが……。
前作では名優の佐藤慶さんが演じていた比企能員を、今作では佐藤二朗さんがじつに憎々しげな小悪党として見事に演じきってくれた。それは素晴らしかったのだが、そもそも長く頼朝を支えてきた比企一族の棟梁である彼を欲望まみれの小悪党に、比企尼を残念なお婆ちゃんに仕立て上げた脚本には納得いかない思いもある。
「優しくて力持ち」を地で行くような仁田忠常は演じた高岸さんの人柄と相まって、生き馬の目を抜く鎌倉で一服の清涼剤となったが、その優しさがあったればこそ、鎌倉殿(頼家)と北条の板挟みとなって哀れな末路を辿った。ちなみに頼朝の挙兵時には(数えで)十四歳だったのだ(現代なら中学一年生)!
実母である政子をも拒絶せざるをえなかった悲劇の貴公子頼家を演じた金子大地さんの迫真の演技は素晴らしいの一言に尽き、多くの視聴者の琴線に触れたことだろう。ちなみに前作では当時、アイドルからの脱却を模索していた郷ひろみさんが演じていた。
ミスター坂東武者こと畠山重忠を演じていたのは、前作ではウルトラセブン=モロボシダンの森次晃嗣さんで、いかにも超人らしいキャスティングだったが、今作の中川大志さんは馬を担いで降りる豪傑にしてはいささかイケメンの優男すぎはしなかっただろうか。皆さんはどうお感じになったろう。
前作で御家人の旗頭たる和田義盛を演じていたのは(TBSの超人気番組『水戸黄門』でおなじみの)格さんこと伊吹吾郎さんだった。重忠と並び立つ豪傑キャラにはふさわしいキャスティングだった。一方、ちょっと抜けたところがあって、愛妻家でもあり、今作中屈指の愛されキャラにもなった義盛を演じたのは横田栄司さん。私には評価が困難なキャラの一人だ。私にはよく理解できない人物だったが、こうした家庭的なキャラが受けるのも時代の流れだろうか。不満を募らせる御家人たちに押され、のし上がる北条を相手に無謀にも立ちはだかろうとして、ドン・キホーテさながらに戦いを挑むものの、あえなく義時の術中に嵌まってしまう。そんな単純ではあっても、雄々しく時代の波に立ち向かって、飲み込まれてしまう。そんな凄ノ王のような荒々しい義盛を見てみたかった。
今作で生田斗真さんが演じた源仲章。実朝暗殺の当日に、なぜか義時と入れ替わってしまい、かわりに殺されてしまう悲運の人物だ。謎めいたキャラメイクで期待を持たせてくれたのだから、もう少しスパイスを効かせた展開があってもよかったように思う。ちょっと惜しい気がする登場人物ではあった。
日本史上もっとも高貴な刺客(中大兄皇子は除く)といってもいい公暁を操っていたのは前作・今作ともに三浦平六という解釈であった。平六を演じたのは前作が仮面ライダー=本郷猛こと藤岡弘さん、今作は山本耕史さんだ。高級兵器・公暁を無情にも使い捨てた冷徹な黒幕役だけに、どうしても武闘派のイメージがつきまとう藤岡さんより、知能派の印象が濃い山本平六に軍配が上がりそうだ。
こうして振り返ってみると、あまり良い印象のなかった前作もなかなか捨てたもんじゃないように思われてきた。北条嫌いと、子どもには陰惨すぎる展開が悪印象を残して、低評価につながっていたのかもしれない。
機会があれば、前作もまた見てみたい気がした。