四十三年前、1979大河『草燃える』が始まるとき、ピンポイントで見たい大河が始まると、本当に大きな期待で胸を膨らませた。もし年をとったいま見たら、同じ感想を抱くかどうかは分からないが、当時は子どもだったせいか、「政子の言い訳日記」といった趣の内容に感じられて、ひどくがっかりした。期待は失望に変わった。だから、いつの日か同じ舞台を扱った大河をもう一度、見てみたいと強く願っていた。

 四十年、待ったのだ。それが九日には叶おうとしている。

 

 二十一世紀になって、視聴率こそ下降気味の大河だが、近くを振り返ってみれば、2012大河『平清盛』はどこぞの県知事にケチをつけられはしたものの、山本耕史さんが演じる悪左府頼長の活躍や、松田翔太さんが演じる後白河法皇大天狗っぷりも楽しめたし、十分におもしろかった。唯一の不安は主人公平清盛の貫禄不足だったが、それも杞憂に終わる松山ケンイチさんの熱演ぶりだった。

 もう一つ見てみたかったのが”らしい”龍馬だった。『平清盛』の二年前、2010大河『龍馬伝』では福山雅治さんが演じる大柄で茫洋とした”らしい”龍馬や、香川照之さんが演じるエネルギッシュな弥太郎が縦横に活躍し、龍馬の生き方に深く関わってくる田中泯さんの吉田東洋や、大森南朋さんの武市半平太もイメージどおりで、大いに満足した。

 

 今回の2022大河『鎌倉殿の13人』も前評判は上々のようだ。四十年前の大河には登場しなかった八重姫比企尼上総介広常も描かれるらしい。期待するなという方が無理というものだろう。何といっても四十年も待ったのだ。もう一度、四十年待つのはちょっと勘弁してほしい。でも、三谷さんだ。きっと期待に応えてくれるに違いない。

 心から、九日が待ち遠しい。

 

 

 例えば鬼平といえば、二代目中村吉右衛門だ、いや、俺は初代松本白鸚だといった具合に、同じ英雄豪傑の演者であっても、思い浮かべる役者さんは人それぞれだろう。時代や世代によっても、ずいぶんと違いがありそうだ。

 今回は、私なりに思い浮かべる、歴史上の英雄豪傑たちのハマり役を考えてみたい。

 

 まずは戦国の三英傑から。

 1965大河『太閤記』の高橋幸治さんや、1973大河『国盗り物語』の高橋英樹さんに、1983大河『徳川家康』の役所広司さんなど、数々の名優が織田信長を演じてきた。なかでも現代の「型破りな信長」像を決定づけたのは高橋英樹さんの信長ではないだろうか。

 高橋さんの信長は非常に印象深く、多くの人の心に残った信長だったように思うが、個人的には少し豪快すぎる気もして、もっと繊細で、神経質な信長を見てみたい気もする。その点で2020大河『麒麟がくる』で染谷将太さんが演じた信長はユニークで、面白かった。これからも様々な信長が見られることを期待したい。

 

 秀吉といえば、1996大河『秀吉』で主役を見事に務めた竹中直人さんを思い浮かべる人が多いだろうし、実際に素晴らしかったが、個人的には1965大河『太閤記』の緒形拳さんを上げたい。とはいっても、私自身『太閤記』は見ておらず、写真ぐらいでしか知らない。それでも、私が緒形さんの秀吉を上げるのは、1978大河『黄金の日日』で再び緒形さんが秀吉を演じているからだ。彼の、とろけるような笑顔を見たら、司馬遼太郎さんが「人蕩し」と表現した秀吉を演じられるのは緒形さんをおいて他にはいないと思われてならない。

 

 三英傑、最後の一人、徳川家康といえば、1983大河『徳川家康』の滝田栄さんや、1987大河『独眼竜政宗』、2000大河『葵 徳川三代』などで演じた津川雅彦さんの印象が強そうだが、日本のドラマ史上もっとも豪華なキャストといっていい、東京放送(TBS)が創立30周年記念番組として制作した『関ヶ原』(1981)。この作品で演じた森繁久彌さんの家康は圧巻かつ完璧だった。全編に炸裂する森繁節は見る者を圧倒し、大いに感銘を受けたが、それは非常に演劇的で、あくまでも森繁家康であったように思う。

 もっとも家康らしさを感じさせてくれたのは『真田太平記』(1985、NHK)の中村梅之助さんだろうか。もしも若かりし頃の中村さんが青年時代の家康を演じていたならと思うと、残念でならない。そう思わせるほどに、中村さんの家康は家康らしく、素晴らしかった。

 

 森繁家康を向こうにまわして、『関ヶ原』で主役の石田三成を演じきったのが加藤剛さんだ。この作品の贅沢なところはわずか数分のエピソードにも銀幕の大スターを惜しげなく、配しているところだろう。

 ドラマ終盤、いわゆる島津の退き口で島津義弘を演じたのは大友柳太朗さんだ。西軍が壊滅し、退路を絶たれる中、「前ン方、敵中ば突破する」、「それしかなか。それに決めた」。島津維新入道義弘)が決然と言い放つ場面は何度見ても体中が震えてしまう。

 

 戦国大河と並んで人気の幕末大河

 1977大河『花神』で、主役級の高杉晋作を好演したのは新進気鋭の若手俳優・中村雅俊さんだった。その大柄で茫洋とした佇まいはどこか坂本龍馬を思わせた。中村さんの龍馬をいつの日にか見てみたいと長い間、夢想していたが、2010大河『龍馬伝』の福山雅治さんを見て、満足してしまった。それほどまでに福山龍馬には説得力があった。

 その『龍馬伝』で高杉を演じた伊勢谷友介さんの、凄みのある演技も印象深く、忘れ難いが、伊勢谷さんといえば、2015大河『花燃ゆ』での吉田松陰だろう。1990大河『翔ぶが如く』で西郷隆盛を演じた西田敏行さんもソックリだといわれたが、それにも増して伊勢谷さんの寅次郎(松陰)はその迫真の演技も含め、まさに生き写しであった。

 

 一方、『花神』で地味な主役を務めたのは中村梅之助さんだ。「火吹きダルマ」といわれた大村益次郎がまるで現代に蘇ったかのような熱演ぶりだった。そこに中村さんの、演技にかける誠実さと情熱が伺われる。もう一度、あの演技を見てみたいものだ。

 来年、2022大河『鎌倉殿の13人』ではどんな演技が見られるのだろう。三谷脚本に加え、芸達者も多く、期待するなという方が無理というものだ。正月九日を楽しみに待ちたい。

 

 

 ナショナル劇場(TBS)の『水戸黄門』や『大岡越前』、『江戸を斬る』が好きだったことは前に書いた。にも関わらず、『南町奉行事件帖 怒れ!求馬』や、その後継番組らしき『大江戸を駈ける!』は見たことがなかった。その頃には、すっかり地上波のドラマやバラエティにはうんざりしてしまっていたし、いまだケーブルテレビには加入していなかったからだ。

 それにしても、求馬シリーズは3シーズン全35話しか制作されなかったようだ。私自身も見ていなかったわけだが、世の趨勢として、時代劇が下火となり、まことに残念なことだが、番組の企画を実現するだけでも容易ではなかったのだろう。

 

 そこで、もし求馬シリーズをリメイクするとしたら、じぶんならばどんな設定にするかを妄想してみた。主人公はもちろん根岸求馬だ。准主人公として、「爺ちゃん」こと、根岸肥前守鎮衛)も忘れてはいけない。時代設定を文化七年(1810)とすると、肥前は七十四歳、兄の榮太郎二十歳ということになるが、細かいことは気にしない。ホームドラマ要素を出すなら、二人の姉と弟の篤五郎を登場させてもいいかもしれない。

 根岸家の当主はあくまでも爺ちゃんの肥前で、彼は数寄屋橋内にある南の役宅に住んでいる。オリジナル求馬では死んだことになっていた父・九郎兵衛衛粛)は健在で五十歳になるが、肥前が現役(町奉行)なので、いまだに部屋住で家来からは「若殿様」と呼ばれる身分だ。この頃、先手弓頭になったばかりで、駿河台にある根岸家の拝領屋敷にいたようだ。部下からは肥前同様「御頭」と呼ばれている。悴の榮太郎や求馬は、父のいる駿河台に住んでいたと考えたい。で、求馬は小うるさい両親から逃れるため、駿河台の屋敷を飛び出し、祖父のいる南の役宅に転がり込み、根岸家の家臣(たとえば、取次役)という建前で祖父の仕事を手伝っているという設定ではどうだろうか。

 

 求馬の住まいは根岸家の家来になっているという建前だから、根岸家の家族が住む「」ではなく、家来たちが暮らす長屋(たとえば、給人長屋)に一人暮らしだが、駿河台にいる息子夫婦や孫たちと別居して寂しい肥前はしきりに用事を言い立てて、求馬を自室に呼びつける(という設定)。ちなみに南の役宅平面図こちら

 肥前の公用人宮下貢右衛門高木良右衛門の二人だ。もっとも、根岸家はもともと家禄百五十俵貧乏旗本だから、譜代の家臣がいたとは思われない。せいぜい渡り用人に、中間・小者を二、三人と下男下女を抱えるだけで精一杯だったろう。それが肥前の昇進で家禄は五百石(後に千石)まで増え、さらには足高二千五百俵を追加でもらっていたから、家計に余裕はあったはずだ。町奉行の公用を果たすために必要な公用人には、渉外能力が高く、町方の実務にも通じた人材を八方に求め、肥前が隠退するまでの条件で雇用したはずだ。貢右衛門は肥前が勘定奉行だった頃からの公用人だ。よほど気があったか、有用な人材だったのだろう。

 

 彼らは、本来なら内与力といって、裁判にも関与する役割を兼ねるのがふつうだったが、ちょうどこの頃(寛政八~文化八年)は肥前の前々任者である坂部能登守広吉)の進達により、内与力が廃止され、そのかわりに町奉行吟味物調役というポストが短期間ではあるが、置かれていた。

 南の調役は久須美権兵衛(後の佐渡守)と高木幸次郎の二人だ。いずれも御目見得以下御家人出身者で、権兵衛は裁判を得意とし、後に公事方勘定奉行にまで出世している。一方の幸次郎は、同じ役人仲間からは忌み嫌われた徒目付から転役となった人物だけに、口は悪いが正義感を秘めたツンデレ系ライバル、もしくは意地の悪い上司といった役どころでどうだろうか(求馬は肥前の孫だから、根岸家の「若様」には違いないが、一方で肥前の取次役という設定なら、調役は立派な上司ともいえる)。で、権兵衛は求馬や肥前の相談役軍師といった感じでどうだろう。

 

 オリジナル求馬では南組同心だった姉崎真吾は、主に事件の捜査を担当する臨時廻り同心として登場してもらおう。岡っ引の為吉には引き続き真吾の手先として働いてもらう。また、悪の黒幕には定番だが、将軍家斉の愛妾・お美代の方の養父・中野碩翁清茂)か、若年寄(後に側用人を経て老中)の水野出羽守忠成)あたりだろうか。

 この他にも、ヒロインや若手の番方同心などには主要キャストを配したいところだ。こんな妄想に耽りながら、秋の夜は更けていく。