スコットタント 6
スコットタントは静寂に包まれた深い森の中で立ち止まり、眠りの中にいる
みんなに分れを告げた。
・・メジロのムッチ、こまどりのアン、リスのチキとタキ、アライグマのチャブ、
猿のギー、熊のロン・・。みんなの顔を見てさよならは言えないから今言うよ・・。
「みんな、みんな元気で・・」
小さな声が深い森の中へ消えた。
すると”ドクン”と胸が鼓動した。
・・まただ。どうしてだろう?・・。
胸が落ち着くとスコットタントは再び森を歩き出した。
森に入って一時間、木々が減り徐々に明るくなって来た事と、精霊達が
少なくなった事が森の出口に近付いた事を伝えていた。
スコットタントはジョゼフと一度だけ此処まで来た事があった。
森が開けた先には何処までも荒野が続き雪をいただく山々が遥か彼方に
見えていたのを思い出していた。
だが森の出口にさしかかると何やらざわざわと聞こえて来た。
それは沢山の声が混ざり合った様に思えた。
・・何だろう?・・
不思議に思いながら森を出たスコットタントは想像していなかった光景に
立ち止まった。
森の仲間達がみんなそこにいたからだ。
鳥も狐もアライグマも、みんなそこに居る。
「みんな、どうしてここに?」
「メイルから聞いたんだよ」
「黙って行くなんて許さないからね」
「お別れくらい言わせろよ」
口々に皆怒った言い方をしているが顔は笑みを浮かべていた。
「ごめんなさい・・」
スコットタントは俯いて謝るしかなかった。
その時だった、胸の辺りがどくんとして眼から水がこぼれ落ちたのです。
・・これって、もしかして・・涙。・・
それは博士からの最後のプレゼントでした。
博士はスコットタントが人間の様に泣いてみたいと願う気持ちを
叶えてくれていたのです。
・・ありがとう、お父さん。ありがとう・・
スコットタントの中で博士がお父さんになった瞬間でした。
嬉しくて更に大きな涙がスコットタント眼からこぼれ落ちて行きます。
そこへ年老いた雌ヤギのブレがスコットタントに近付いて来ました。
「タントボーイ、何も言わんでええ。それよりタントボーイの暖かな手で
私を抱きしめておくれ」
「はい」そう言ってブレを抱きしめるとブレは耳元で囁きました。
「元気でやりなさい」
「はい。ブレさんも元気で」
止めどなく溢れる涙を拭うと森の仲間達がスコットタントの側に近寄って
来た。
そして肩に乗り、身体を摺り寄せて分れの言葉を言った。
「絶対に忘れないでね」
「忘れないよ」
「また会えるよね」
「うん」
「大好きだよ。タント」
「僕もだよ」
スコットタントは森のみんなと別れの挨拶をした事で、少しだけ
辛い心が軽くなりました。
会えて良かったと心から思いました。
スコットタント 5
朝靄と静寂の中、館の扉が静かに開いた。
スコットタントはジョゼフに告げられた森へと旅をしなければならなかった。
生まれた家を、満ち足りた時を過ごした庭を、喜びに溢れた森を、
そして自分を作ってくれた博士と育ててくれたジョゼフの墓を残して。
スコットタントは澄み切った朝焼けの空を仰ぎ見た。
「この空は今日で最後になるんですね」そう呟いて顔を戻すと目の前に
半眼で口をへの字に曲げたメイルが飛んでいた。
そして見つめ合ったまま五秒後、メイルは腰に手を当てどなった。
「ボーイじゃなくて、スコットタント!。何処に行くの!?」
スコットタントは困った顔で答えた。
「メイル。怒ってる?」
「当たり前でしょ!皆に内緒でこの森を出て行こうとしてるんだから」
「ごめん、遠い森に行かなくちゃいけないんだ」
「遠くって何処?」
「火の山を越えた西の森だよ」
「火の山ってここからうんと、うんと、うんと遠いよ。途中には怖いドラゴンや
悪魔もいるから行っちゃだめだよ!」
メイルの顔がだんだんと悲しみに溢れて行く。
「でもその森でしか僕は暮らせないってジョゼフさんが」
「もう戻って来ないの?」
「うん・・」
スコットタントには嘘をつく機能が無い。
聞かれたら正直に話す事しか出来なかった。
「黙って行くなんて酷いよ・・」
「ごめん」
「メイルも行く!タントと一緒に行く!」
「でもメイルは森から出たら生きてはいけないし」
「・・・・」
我慢していたメイルのつぶらな瞳から大粒の涙がこぼれ落ちていく・・。
「もう、いい!!」
メイルはやり場の無い怒りと悲しみに溢れた顔のままスコットタントの前から
消えた。
「ほんとにごめんねメイル」
本文とは関係ありません。
そう呟くとスコットタントは歩き出した。
刹那さを抱えたまま西の森に向って歩き出した。
二度と戻る事の無い旅路へと・・。
朝靄と静寂の中、館の扉が静かに開いた。
スコットタントはジョゼフに告げられた森へと旅をしなければならなかった。
生まれた家を、満ち足りた時を過ごした庭を、喜びに溢れた森を、
そして自分を作ってくれた博士と育ててくれたジョゼフの墓を残して。
スコットタントは澄み切った朝焼けの空を仰ぎ見た。
「この空は今日で最後になるんですね」そう呟いて顔を戻すと目の前に
半眼で口をへの字に曲げたメイルが飛んでいた。
そして見つめ合ったまま五秒後、メイルは腰に手を当てどなった。
「ボーイじゃなくて、スコットタント!。何処に行くの!?」
スコットタントは困った顔で答えた。
「メイル。怒ってる?」
「当たり前でしょ!皆に内緒でこの森を出て行こうとしてるんだから」
「ごめん、遠い森に行かなくちゃいけないんだ」
「遠くって何処?」
「火の山を越えた西の森だよ」
「火の山ってここからうんと、うんと、うんと遠いよ。途中には怖いドラゴンや
悪魔もいるから行っちゃだめだよ!」
メイルの顔がだんだんと悲しみに溢れて行く。
「でもその森でしか僕は暮らせないってジョゼフさんが」
「もう戻って来ないの?」
「うん・・」
スコットタントには嘘をつく機能が無い。
聞かれたら正直に話す事しか出来なかった。
「黙って行くなんて酷いよ・・」
「ごめん」
「メイルも行く!タントと一緒に行く!」
「でもメイルは森から出たら生きてはいけないし」
「・・・・」
我慢していたメイルのつぶらな瞳から大粒の涙がこぼれ落ちていく・・。
「もう、いい!!」
メイルはやり場の無い怒りと悲しみに溢れた顔のままスコットタントの前から
消えた。
「ほんとにごめんねメイル」
本文とは関係ありません。そう呟くとスコットタントは歩き出した。
刹那さを抱えたまま西の森に向って歩き出した。
二度と戻る事の無い旅路へと・・。
スコットタント 4
ボーイ達は綺麗な花々が咲き誇る庭を横切り、二つの墓石の前に立った。
自然石そままの墓石にはローレン・スコットとジョゼフ・タントの名前が手彫り
で刻まれている。
ボーイは墓石を見つめ一ヶ月ほど前の事を思い出していた・・。
ランプの灯りが揺れる部屋の中でジョゼフは病で明日をも知れぬ身体を
ベッドに横たえていた。傍らには星を光らせたボーイが立っている。
ジョゼフ・タント、八十二才。ラウル・スコット博士の執事をして二十年が過ぎて
いた。
「ボーイ、博士が亡くなって三年が経ったら、お前はここを出て行かなければ
ならいないのだよ」
「でも、ここには博士のお墓が有るし、ジョゼフもまだ・・」
「私は時期にお迎えが来るだろう。そうしたら私を博士の横に埋めておくれ」
「僕は一人になるのですね」
「そうだ。そして人間は森の生き物達の様にお前を受け入れてはくれないだろう」
「どうしてですか?」
「人間は理解出来ない物に恐怖を感じるからだよ」
「僕は何もしていないのにですか?」
「考え方や信じる物が違うと言うだけで人間は争いを繰り返して来たからね」
「僕には分からないです」
「分からなくていいんだ。それで普通なんだよ・・それが普通なんだよ」
「では、ジョゼフがいなくなったら僕はどうすればいいのですか?」
「太陽が昇る方へ行きなさい。そこには神の森と呼ばれる人が来ない深い
森がある。そこでお前の命が尽きるまで森の動物や精霊達と暮らすといい」
「分かりました」
「すまないな。本当は私がお前を連れてそこまで行けたら良かったのだけれど」
「いえ、博士もジョゼフも僕に色んな事を教えてくれました。とっても嬉しかったです」
「ボーイ・・」
ジョゼフの眼から一筋の涙がこぼれるとボーイは指でそっと拭った。
「これは悲しいのですか、嬉しいのですか?」
「お前がいてくれて本当に嬉しいのだよ。たった一人の家族だからね」
「家族・・。僕は人間では無いのにですか?」
「心が繋がっていれば家族なんだよ」
「それなら家族ですね。僕は博士もジョゼフも大好きです」
ジョゼフは笑みを浮かべボーイを見つめた。
「そうだ、お前にも名前を付けてあげなくては」
「ボーイが名前ではないのですか?」
「ボーイは仮の名前なのだよ。博士もそう思って・・ごほ、ごほ・・」
ジョゼフは苦しそうな咳をした。
「もうお身体に触ります。名前は後でいいですから」
「そうだな、今夜ゆっくりと考える事にするよ」
そう言いながらジョゼフは静かに眼を閉じた。
二度と開くことの無い眼を静に閉じた。
ボーイは墓石の前にしゃがみ込み、心で墓石に語り掛けた。
・・今日、博士の娘さんが来ました。だから明日此処を出ます。でもお別れでは
有りません。僕の名前はスコットタントです。お二人からいただきました。これ
でずっと一緒です。三人で家族です。これからもずっとずっと一緒です・・。
その時だった。スコットタントは胸に手を当てた。身体を流れるオイルの流れが
胸の辺りでドクンと大きくなった気がしたからだった。
・・どうしたんだろう?この辺りの調子が悪いのかな・・。
「どうしたのボーイ?」メイルがその様子を見て心配そうに尋ねた。
「もう僕はボーイじゃないんだ」
「え?」
「僕の名前はスコットタントだよ」
「スコットタントって、博士とジョゼフさんの名前だね」
スコットタントは嬉しそうに頷いた。
「ボーイはスコットタントだ!」チキとタキが嬉しそうに名前をいいながらスコット
タントの周りを飛び跳ねた。
「さ、陽が沈むから皆もお家に帰ろう」
「陽が沈むから帰ろう、帰ろう」
チキとタキが元気に家路に向う中メイルはいつもと違うスコットタントに何度も
振り返りながら森の中へ消えた。
彼らを見送ったスコットタントは旅立つ準備をする為に屋敷へと歩き出した。
沈み行く夕陽がアイビーに覆われた館を、庭の花を、精霊達を、そして
スコットタントの身体をオレンジ色に染めていた。
ボーイ達は綺麗な花々が咲き誇る庭を横切り、二つの墓石の前に立った。
自然石そままの墓石にはローレン・スコットとジョゼフ・タントの名前が手彫り
で刻まれている。
ボーイは墓石を見つめ一ヶ月ほど前の事を思い出していた・・。
ランプの灯りが揺れる部屋の中でジョゼフは病で明日をも知れぬ身体を
ベッドに横たえていた。傍らには星を光らせたボーイが立っている。
ジョゼフ・タント、八十二才。ラウル・スコット博士の執事をして二十年が過ぎて
いた。
「ボーイ、博士が亡くなって三年が経ったら、お前はここを出て行かなければ
ならいないのだよ」
「でも、ここには博士のお墓が有るし、ジョゼフもまだ・・」
「私は時期にお迎えが来るだろう。そうしたら私を博士の横に埋めておくれ」
「僕は一人になるのですね」
「そうだ。そして人間は森の生き物達の様にお前を受け入れてはくれないだろう」
「どうしてですか?」
「人間は理解出来ない物に恐怖を感じるからだよ」
「僕は何もしていないのにですか?」
「考え方や信じる物が違うと言うだけで人間は争いを繰り返して来たからね」
「僕には分からないです」
「分からなくていいんだ。それで普通なんだよ・・それが普通なんだよ」
「では、ジョゼフがいなくなったら僕はどうすればいいのですか?」
「太陽が昇る方へ行きなさい。そこには神の森と呼ばれる人が来ない深い
森がある。そこでお前の命が尽きるまで森の動物や精霊達と暮らすといい」
「分かりました」
「すまないな。本当は私がお前を連れてそこまで行けたら良かったのだけれど」
「いえ、博士もジョゼフも僕に色んな事を教えてくれました。とっても嬉しかったです」
「ボーイ・・」
ジョゼフの眼から一筋の涙がこぼれるとボーイは指でそっと拭った。
「これは悲しいのですか、嬉しいのですか?」
「お前がいてくれて本当に嬉しいのだよ。たった一人の家族だからね」
「家族・・。僕は人間では無いのにですか?」
「心が繋がっていれば家族なんだよ」
「それなら家族ですね。僕は博士もジョゼフも大好きです」
ジョゼフは笑みを浮かべボーイを見つめた。
「そうだ、お前にも名前を付けてあげなくては」
「ボーイが名前ではないのですか?」
「ボーイは仮の名前なのだよ。博士もそう思って・・ごほ、ごほ・・」
ジョゼフは苦しそうな咳をした。
「もうお身体に触ります。名前は後でいいですから」
「そうだな、今夜ゆっくりと考える事にするよ」
そう言いながらジョゼフは静かに眼を閉じた。
二度と開くことの無い眼を静に閉じた。
ボーイは墓石の前にしゃがみ込み、心で墓石に語り掛けた。
・・今日、博士の娘さんが来ました。だから明日此処を出ます。でもお別れでは
有りません。僕の名前はスコットタントです。お二人からいただきました。これ
でずっと一緒です。三人で家族です。これからもずっとずっと一緒です・・。
その時だった。スコットタントは胸に手を当てた。身体を流れるオイルの流れが
胸の辺りでドクンと大きくなった気がしたからだった。
・・どうしたんだろう?この辺りの調子が悪いのかな・・。
「どうしたのボーイ?」メイルがその様子を見て心配そうに尋ねた。
「もう僕はボーイじゃないんだ」
「え?」
「僕の名前はスコットタントだよ」
「スコットタントって、博士とジョゼフさんの名前だね」
スコットタントは嬉しそうに頷いた。
「ボーイはスコットタントだ!」チキとタキが嬉しそうに名前をいいながらスコット
タントの周りを飛び跳ねた。
「さ、陽が沈むから皆もお家に帰ろう」
「陽が沈むから帰ろう、帰ろう」
チキとタキが元気に家路に向う中メイルはいつもと違うスコットタントに何度も
振り返りながら森の中へ消えた。
彼らを見送ったスコットタントは旅立つ準備をする為に屋敷へと歩き出した。
沈み行く夕陽がアイビーに覆われた館を、庭の花を、精霊達を、そして
スコットタントの身体をオレンジ色に染めていた。