たんと 4 | 尾川永次のブログ

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小説、ポエム、旅日記などなど徒然なるままに行きたいと思っています

                スコットタント 4

ボーイ達は綺麗な花々が咲き誇る庭を横切り、二つの墓石の前に立った。
自然石そままの墓石にはローレン・スコットとジョゼフ・タントの名前が手彫り
で刻まれている。
ボーイは墓石を見つめ一ヶ月ほど前の事を思い出していた・・。

ランプの灯りが揺れる部屋の中でジョゼフは病で明日をも知れぬ身体を
ベッドに横たえていた。傍らには星を光らせたボーイが立っている。
ジョゼフ・タント、八十二才。ラウル・スコット博士の執事をして二十年が過ぎて
いた。
「ボーイ、博士が亡くなって三年が経ったら、お前はここを出て行かなければ
 ならいないのだよ」
「でも、ここには博士のお墓が有るし、ジョゼフもまだ・・」
「私は時期にお迎えが来るだろう。そうしたら私を博士の横に埋めておくれ」
「僕は一人になるのですね」
「そうだ。そして人間は森の生き物達の様にお前を受け入れてはくれないだろう」
「どうしてですか?」
「人間は理解出来ない物に恐怖を感じるからだよ」
「僕は何もしていないのにですか?」
「考え方や信じる物が違うと言うだけで人間は争いを繰り返して来たからね」
「僕には分からないです」
「分からなくていいんだ。それで普通なんだよ・・それが普通なんだよ」
「では、ジョゼフがいなくなったら僕はどうすればいいのですか?」
「太陽が昇る方へ行きなさい。そこには神の森と呼ばれる人が来ない深い
 森がある。そこでお前の命が尽きるまで森の動物や精霊達と暮らすといい」
「分かりました」
「すまないな。本当は私がお前を連れてそこまで行けたら良かったのだけれど」
「いえ、博士もジョゼフも僕に色んな事を教えてくれました。とっても嬉しかったです」
「ボーイ・・」
ジョゼフの眼から一筋の涙がこぼれるとボーイは指でそっと拭った。
「これは悲しいのですか、嬉しいのですか?」
「お前がいてくれて本当に嬉しいのだよ。たった一人の家族だからね」
「家族・・。僕は人間では無いのにですか?」
「心が繋がっていれば家族なんだよ」
「それなら家族ですね。僕は博士もジョゼフも大好きです」
ジョゼフは笑みを浮かべボーイを見つめた。
「そうだ、お前にも名前を付けてあげなくては」
「ボーイが名前ではないのですか?」
「ボーイは仮の名前なのだよ。博士もそう思って・・ごほ、ごほ・・」
ジョゼフは苦しそうな咳をした。
「もうお身体に触ります。名前は後でいいですから」
「そうだな、今夜ゆっくりと考える事にするよ」
そう言いながらジョゼフは静かに眼を閉じた。
二度と開くことの無い眼を静に閉じた。
ボーイは墓石の前にしゃがみ込み、心で墓石に語り掛けた。
・・今日、博士の娘さんが来ました。だから明日此処を出ます。でもお別れでは
 有りません。僕の名前はスコットタントです。お二人からいただきました。これ
 でずっと一緒です。三人で家族です。これからもずっとずっと一緒です・・。
その時だった。スコットタントは胸に手を当てた。身体を流れるオイルの流れが
胸の辺りでドクンと大きくなった気がしたからだった。
・・どうしたんだろう?この辺りの調子が悪いのかな・・。
「どうしたのボーイ?」メイルがその様子を見て心配そうに尋ねた。
「もう僕はボーイじゃないんだ」
「え?」
「僕の名前はスコットタントだよ」
「スコットタントって、博士とジョゼフさんの名前だね」
スコットタントは嬉しそうに頷いた。
「ボーイはスコットタントだ!」チキとタキが嬉しそうに名前をいいながらスコット
タントの周りを飛び跳ねた。
「さ、陽が沈むから皆もお家に帰ろう」
「陽が沈むから帰ろう、帰ろう」
チキとタキが元気に家路に向う中メイルはいつもと違うスコットタントに何度も
振り返りながら森の中へ消えた。
彼らを見送ったスコットタントは旅立つ準備をする為に屋敷へと歩き出した。
沈み行く夕陽がアイビーに覆われた館を、庭の花を、精霊達を、そして
スコットタントの身体をオレンジ色に染めていた。