本中毒、映画中毒、仕事中毒、そして...恋愛中毒 -9ページ目

Hくんの事

三島由紀夫の『金閣寺』を読んでいる。

昨年、NHKの100分de名著に取り上げられた時に新潮文庫のそれが増刷され、本屋に平積みになっていたから購入し、そのまま放置してあった。

で、最近、ナイトキャップとして読み始めた。

 

その9章で、主人公が金閣を焼く前に、遊郭に出かけるシーンがある。

その文章を読みながら、大学時代の友人Hくんの事を思い出した。

 

Hくんは、28年ほど前に白血病になり闘病の後、20年ほど前に亡くなった。

 

背が高く体格も良く性格も明るく、そうした死の影とはおおよそ縁遠い男だった。

ルックスも良かったので、黙っていれば、女性にもモテた。

黙っていれば、と言うのがミソで、彼は非常にミーハー的にアニメが好きだった。

飯島真理や、おニャン子クラブや、南野陽子とかが、大好きだった。

まだアニメ文化が社会的認知を得ていない当時、Hくんは困った事にその嗜好を隠さなかった。

彼なりのサービス精神で、会話の中でアニメキャラのセリフの真似を妙に上手にしたり、カラオケでアニメの歌を朗々と歌った。

 

オタクだった僕ら男友達はそれで良かったのだが…

女性とつきあったり、恋人になったりするのはそれではダメだ。

そのルックスに似合わず、Hくんは魔法使いになれる年齢になっても彼女いない歴=年齢で童貞だった。


彼が童貞を捨てようとしたのは、白血病の診断を受けた日の事だ。

出張中に鼻血が止まらなくなった彼は、そのまま出張を切り上げ診察を受けた。

数日後に白血病と言われた。

彼なりにやはり衝撃だった。

午前中に診断を知らされ、それから誰にも言えずに町中を彷徨った。

死の不安に取りつかれた彼は思った。

「このまま童貞では死にきれない…」

 
渋谷から新宿へと風俗を捜し歩きながら、結局、意気地の無さからこの時に彼は童貞を捨てられなかった。
 
なぜ、僕がそんな話を知っているかと言うと…
数年後に彼が本当に童貞を卒業した後に、彼なりの開けっ広げな無邪気さで、その時の事と童貞卒業の事を、嬉しそうに詳しく聞かされたからだ。
 
こいつの話のネタになる女性の側はたまらないなぁ…
 
無邪気ながらデリカシーが無いHくんの話を聞きながら、僕はそう思った。

ロシアの戦争

2/24、ロシアがウクライナ全土に対し大規模なミサイル攻撃を行い、3方向から侵攻した。

 

昨年末よりキナ臭い感じは漂ってきていた。

2/21にはロシアのプーチン大統領が東ウクライナの親ロシア派の人々を守るための軍事行動にサインした。と報道されていたので、東ウクライナに対して侵攻するだろうとは思っていたが、まさかウクライナ全土に侵攻するとは思っていなかった。

 

軍隊の規模としては圧倒的にロシアが優勢だ。

あっという間、5日程度でロシア軍がウクライナ全土を占領してしまい、戦闘は終わるだろうと、最初は思っていた。

プーチンの判断の早さと行動力に、全世界が一杯食わされたと感じた。

北京オリンピック開会式出席のためにプーチンが訪中した時に、習近平と話がついていたのだろう。

 

困った事になったなぁ…

これをお手本にして、同じような事を中国が台湾に対して実施したら世界は泥沼化するなぁ…

などと考えていた。

 

しかし、その予測は外れた。

今現在、ロシア軍はウクライナを攻めあぐね、掌握できずにいる。

世間が考えているよりもロシア軍は士気が低く、ポンコツだった。

国内世論を考慮して、ウクライナ市民を巻き込む可能性がある戦闘は避ける様に、ロシア軍内で通達が出ていたのかも知れない。

それにしても、あまりの軍の不甲斐なさにプーチン自身歯噛みしているだろう。

 

時間が経つうちに、西側諸国に次々と経済制裁を科せられ、ウクライナへは武器が供与され、自国では反戦デモが行われ…

電撃的にウクライナの政治体制を崩壊させ自国の影響下に引き込むという、当初に目論んでいたであろう目標の達成は、現時点で既に不可能となった。

ロシアに残ったのは、今後10年以上続くであろう自国の衰退と戦略的撤退戦を如何に痛みの少ないモノにするか?という課題。

これも今回の侵攻の失敗による、国際的な信用の失墜と、唯一誇れる国力として残っていた軍事力のめっきが剥がれてしまった事で、殆ど無理ゲーになってしまった…

 

で逆に、西側諸国は困惑している。

変に拗れた承認欲求と、残った大量の核兵器を抱え、そして無能をさらけ出したロシアの権威主義政権をどうしたら良いのだろう…と。

誰にとっても、今回のこの状況は予測も準備もできていなかった。

それくらい、今回の軍事行動は大失敗だった。

 

今回の戦争を契機として、国連や各軍事同盟、経済協力圏とかの国際的な政治・経済のシステムや、パワーバランスは大きく組み換えられるだろう。

綺麗事では終わるまい。

 
西側諸国がやらなければならない事は、はっきりしている。
今回の戦争犯罪を追及し、ロシア国内でプーチン達の暗殺や民主革命を煽り、軍事力を使ってでもロシアの現政権を崩壊に追い込む事。
政策実行のタイミングとかが少々デリケートなのだが、今なら圧倒的な国内世論に後押しされた正義を振りかざせるから簡単だろう。
逆にそうしなかったら、次の選挙で負けてしまう。
 

難しいのは中国。

オリンピック開幕の時点で今回の侵攻を知らされており、孤立するロシアの戦時経済をバックアップする密約が出来ていたと報道された。
既に半分くらいロシアの共犯扱いになっている。
米国中心の西側の政治・経済圏への挑戦の一環として、ロシアと上手くやっていこうとしていたのだろうが、意外なババつかみをしてしまった。という感覚になっているのは間違いない。
どうするか…
同じ権威主義覇権国家としてプーチンを助け一緒に捲土重来を期するのか
それともロシア見捨て、独自戦略を練り直すのか…
 
どちらにしても、台湾や尖閣への軍事侵攻は遠のいたのではないかと個人的には少し安心している。
後は、原油・LNGや穀物から始まったいろいろなモノの値上がりが早く収まれば良いのだけど…

■マンガ 坂口尚『石の花』 KADOKAWA (2022/1/20)

 

 

用時があって家の近くのターミナル駅に出かけた時に、家人に『ちはやふる』の新刊を買ってくるよう頼まれた。

家の近くのターミナル駅にある本屋といっても、大した本屋ではないのだが、新刊のマンガはそれなりに売れるのだろう、きちんとおいてある。

で、その『ちはやふる』の横に置いてあったのが、この坂口尚の『石の花』。

僕が学生時代に描かれたマンガで、ほぼ40年ぶりくらいの復刊。

帯の惹句に引かれて大人買い。
 
実は僕は坂口尚のマンガはそれほど好きではない。
内容が妙に詩的だったり、画が抒情的に過ぎるのがどうしても好きになれずに来た。
以下、感想。
 
まず感じるのが、当時の殆どのマンガにみられる、大友克洋の影響。
いや、メビウス→大友克洋→多くのマンガと言えばいいのかも知れない。
本作では特に背景描写。
細いペン(丸ペン?)で主に水平方向に特徴的な稜線を重ねて描き、空間と拡がりを表現する方法。
全体に画が白っぽくなる。
 
大友克洋は徹底した正確なパースとデッサンで、これをやった。
背景だけでなく、登場人物、建物、静物等まで徹底して。
本家メビウスよりもストイックに、そして緻密に。
不思議なもので、パースとデッサンが完璧で描線が人間くさいほど、描かれなかった所まで僕らはつぶさに画を眺め、脳内補完する。
 
一方、本作の坂口尚。
どちらかと言えば、デフォルメやディストーションを好むマンガ家だ。
本作では、上記の技法による画が多くみられるのだが、どうしても大友のそれと比べて見劣りしてしまう。
第二次世界大戦期のユーゴのレジスタンス・内戦を描く本作なので、坂口尚本来の詩的で抒情的な表現を抑え、リアリティを獲得する為のに一定の成功を収めてはいるのだが、やはり物足りないのだ。
 
 
 
全体のストーリーも、練り込みが足りない様な気がする。
いや、多くの登場人物が絡み合うそれは、一定以上の水準にある事は否定しない。
だが…
少年レジスタンスのクリロと少女フィーを無垢なるものとして主人公に据えて、彼らの視点で本作のテーマを描こうとすることにそもそもの無理がある様に、僕には思える。
彼らは状況を十分に理解せず、その波に翻弄される非常に受け身なキャラクターとして描かれる。
それで戦争のドラマを描けるとは思えない。
彼らの話の方をサブとしておいて、二重スパイとなったクリロの兄イヴァンや、ナチスの青年将校マイスナーの物語を軸とした方が、物語にずっと厚みが出ただろう。
実際の所、物語の構成はほぼそうなっている。
そこにクリロとフィーの話が余計に入るから、話が散漫で冗長になってしまっている…
 
 
もう一点、気が付いた。
本作で歴史を語るときのマンガ的な手法や構成が、安彦良和の近代史マンガのそれと、とてもよく似ている事。
ふたりとも元アニメーター 虫プロ出身。
虫プロでもサンライズでも、直接一緒に仕事をした事はないと聞いているが…
安彦は坂口の事を何かのインタビューで語っていたので意識していたのだろうとは思う。
 
ただし、先に述べたように坂口が受け身のキャラに作劇上の視点を置いたのに対し、安彦の視点は主体的に動こうとするキャラに置かれているので作品の印象事態はかなり違うのだが…、