サンメリにて
年末から降り続いた雪がサンメリの街をおおっていた。
細かいパウダースノーはさらさらと木々の間をすべりおち、
厚い雲の間から差し込まれるうすい太陽の光の筋の中で
きらきらと輝いた。
新年からいく日もたったというのに、サンメリ城の中は
いまだクリスマスの飾りつけがいたるところに残されており
人々は休暇ボケと休み明けの仕事の少なさとあいまって
ぼんやりと怠惰な時間をすごしていた。
執事のモンブランは、よろよろといつも以上に足元
おぼつかなく廊下を行ったり来たりしていた。
彼の老眼鏡が行方不明なのである。
メードが声をかけた。
「庭の雪だるまに、それらしきモノがありましたよ」
「なんですと」
モンブランはよたよたと城を出ると雪に足を取られながら中庭に
急いだ。そこにはでかい雪だるまがふてぶてしい表情を浮かべて
たたずんでいた。そしてそれはまさに探し求めていた
老眼鏡をかけていた。
「じいの…じいの老眼鏡をこんなところに…
こんなことをするのは、あいつしかいねえ……」
モンブランは来た道を戻りながら、
数か月前から城にひきとった親戚のおバカな少年の名を叫んだ。
もんしろちょうの飛翔
すべてを終えたマリウスとフランソワは、草原に立って沈み行く夕日を
眺めていた。二人の腰ぐらいまである細く長い草に夕日の光が反射して
光っていた。草原のすべての草がそのように光っていたため、
小金色の絨毯が一面に広がっているかのようだった。
そしてそれはとても美しかった。
「きれいだね」
と、フランソワ。フランソワの横顔は、
夕日の光で濃い陰影を刻んでいる。
「フェリゼは大丈夫かな」
二人の後ろでは、岩場に腰を下ろし、呆けたようにポカンと口を開けて
脱力気味のフェリゼがいた。呆け気味のフェリゼを心配しながらも、フ
ランソワはフェリゼが失恋して一緒に帰れるので不謹慎ながらも心
ウキウキ、といったところである。しかしふっと表情を変えて、
真剣な顔つきで語りだした。
「今回のことでオレはわかったよ、おれは自分の中の心と向き合って
なかったって。ランスロに前科があるって聞いた時、おれはランスロにすぐ
疑惑の目を向けた。ランスロのことをいい人だとか、恋敵なのになついたり、ランスロを尊敬する気持ちはもちろん本当だったけど、おれは自分の中の、
恋敵に対して嫉妬するってゆう負の感情と向き合おうとしてなかったんだと
思う。宮殿の中で王子として温室で育って、いつもそういった負の感情とは
無縁な、自分にはそんな感情ないんだって目を背けながら生きて
きたのかもしれない」
フランソワはふいに、軽く握った握りこぶしをマリウスに向けた。
マリウスが問いかけるようにフランソワの顔を見ると、
そっと開いた手のひらから、白いモンシロチョウがひよひよと舞い上がった。
「モンシロチョウ。小さいころ、城の中庭でよく捕まえたよな」
「ああ」
覚えていないけれど、マリウスはとりあえずうなずいた。
フランソワは小さいころのことを無駄によく覚えており、
時折思い出してはマリウスに語るのだった。
しかしマリウスは片っ端から過去のことを忘れるタイプだったので、
困惑することもしばしばだった。
「うまれてからこれまでおれはずっと城壁の中ですごした。
そしてこれからもずっとそうだと思う。そういった生活について、
時々は自由が欲しいと思ったこともあったけど、特に激しい不満は
なかったんだ。けど今回はじめて外に出て、おれは自分の中の負の感情と
向き合うとか、その他にも色々学んだと思う。だから今回この村に来て
毒物事件に巻き込まれたことは、決して無駄なことじゃなかったと思うんだ」
マリウスはうなずく。
「無駄じゃなかったよね、マリウス」
フランソワは自分に言い聞かせるように言った。
マリウスは再び、大きくうなずいた。
「自分の心と向き合う」ということを学んだけで、
なんて大きな成長だろう。フランソワはただ、王宮を脱走し、
ヨソ様の家でタダ飯を喰い、女にフラれ、毒物事件の犯人に疑われ、
最後に原っぱでモンシロチョウをつかまえただけではない。
様々な体験を得て、成長し、一歩大人へと近づいたのだ。
そして自分はそんなフランソワの成長を一歩下がったところで
見守っていたんだよね。
と、ありきたりな結論に導かないと、
この数日間の疲労感を消化できないマリウスだった。
「さあ、マリウス、サンメリに帰ろう」
「最初からおれがそう言ってたじゃないか。
なにその全部まるく納まりましたみたいな言い方。
‥‥‥まあいい。今度こそ帰ろうじゃないか」
「ムッシュー・モンブランは頑張ってくれているかな」
「さあ、どうだか」
「案外もう、バレてたりしてね」
「ハハハハ‥」
「ぶはは‥」
二人は和やかに笑った。
事態は予想以上に、深刻だった。
フランソワの部屋の前に、女官長をはじめ医者、事務次官、使用人が
ずらりと並び、必死に扉を死守するモンブラン氏を今にも押しのき、
部屋に侵入しようとしていたのだ。
「そこをどきなさい、ムッシュー・モンブラン」
「ダメですじゃ。フランソワ様は今、面会できるような
状態ではありませんじゃ」
「ですから、お医者様をお通しするのです」
「だめですじゃ」
「ムッシュー・モンブラン」
女官長の声に合わせて、後に控える者全員が声をそろえて
モンブラン氏につめよった。
「ムッシュー・モンブラン!
ムッシュー・モンブラン!
ムッシュー・モンブラン!」
つめよる声の大合唱。
モンブラン氏は声を限りに張り上げた。
「ダメッたら、ダメですじゃあ!フランソワ様は、
具合が悪くてピクリとも動きませんのじゃ!!」
「ピクリとも動かないですって!!」
その言葉を聞いて、全員モンブラン氏を突き飛ばして部屋になだれこんだ。
「アーウチ!!」
絶叫する、モンブラン氏。滑って転んで腰をしたたか打った。
部屋の中には、バスローブ姿でくつろぐパスカルの姿。
あっけにとられ、口に入れようとしていたクッキーが膝にぽとっと落ちた。
宮殿が大騒ぎになっているとも知らずに、マリウスとフランソワは
サンメリに向かう馬車の上でのん気に歌を歌っていた。
フェリゼは荷台にもたれて頬杖をつき、やさぐれた表情を浮かべ
草原でひきちぎった茎の部分から甘い汁の出る草を噛んでいる。
「次、何歌う?」
「ベルサイユの夢」
「それおれ知らない」
「薔薇は薔薇は・美しくさく~ってやつだよ」
「ああ。サビだけわかる。じゃおれサビ」
「なんでサビだけ取るのさ。ハミングで裏メロやって」
「だからわかんないって言ってンだろ。
じゃシューベルトの「マス」にしよう」
「あ、いいよ。それハモろう。おれ上ね」
「じゃおれは下。いっせーのーでっ」
「ちょっとあんたたち!うるさいわよっ!人が落ち込んでるのにさあ!」
「まっすっはっおっよっぐぅーよっ」
「うるさいがな!」
少年たちの歌声をのせて、馬車は夕暮れを走ってゆく。
FiN
入信式
「神よ、私はあなたに懺悔する。数日前の晩、私の幼なじみのランスロと、
ランスロを恋い慕う娘フェリゼのもとにサンメリの王子、フランソワが
フェリゼを追ってやってきたとき、私は浅はかにも、ランスロのためにこの
王子をどうにかしなければならないと思った。ランスロがフェリゼに惚れて
いることは私にはすぐわかった。しかし彼はフェリゼが自分に惚れていると
知りながら、フェリゼの気持ちに気づかないふりをしていた。私はそれが
歯がゆかった。その原因が、フランソワにあるということにすぐ気づいた。
ランスロは、フランソワのことも自分の弟のように思っていたし、
フェリゼには自分より、フランソワの方が似合いなのではないかと自信の
ないことを思っていた。私はこのままではフランソワにフェリゼを持って
いかれるのではないかと思った。さらに聞けば、フランソワはサンメリの
王子というではないか。フランソワ自身は押しの弱そうな男だが、
その後ろにサンメリの王室がバックについているとなれば話は別だ。
フランソワが本気を出せば、フェリゼを簡単にさらっていってしまうだろう。そこで私はまことに勝手ながらフランソワをどうにかしてサンメリに
追い返そうと思った。そんな折、ぶどう酒を飲んだ数人が気分が悪くなった
という知らせが入った。なんのことはない、それはただの食中毒だった。
デュポン氏のぶどう酒工場の衛生状態が悪く、食中毒がおきたのだ。
(後できちんと指導するつもりだ)私はこのことをどうにかして利用
できないかと考えた。私はデュポン氏が気に入りの人間にぶどう酒を
配ることを知っていたし、中でもランスロにだけは普通より多い量の
ぶどう酒をあげることを知っていた。さらにデュポン氏がぶどう酒を
配った当日の村の集会のときに、フランソワは30分ほど席を立ち、
花摘みに興じていた。私はこの偶然と警部という自分の立場を利用して、
フランソワを勾留した。このように少し彼を脅かせば、サンメリの王子
フランソワはすぐにこの村を出て行くだろうと思ったのだ。ぶどう酒事件の
容疑をかけられれば、もうこの村にはいられないだろう。しかしながら
私の試みは失敗に終わった。私がランスロを心配し、勝手ながら恋の成就の
手助けをしようとしていたのと同じように、フランソワにも彼を心から
心配し、彼を導こうとするマリウスという友人がいたのだ。彼は秘密裏に
進め、内密に解決しようとしていたぶどう酒事件を、真犯人を見つけると
いう名目で村人に証言を聞いてまわり、ぶどう酒事件を村中に広めて
しまった。私は後に引けなくなり、とうとう自作自演の事件だということを
告白しなければならなくなった。私はここに、3つの罪を告白する。
一つはぶどう酒事件をでっちあげたことで村中に混乱を招いたこと。
二つ目はランスロのぶどう酒に毒が混入していたと思い込ませるために、
ランスロの家の前の地面にあらかじめ毒をしこみ、その上にぶどう酒を
たらし、犬になめさせその犬を殺した罪。三つ目は、フランソワに殺人犯と
しての虚偽の容疑をかけ、彼の名誉を著しく傷つけた罪だ。私はこれらの
罪を受け入れ、懺悔し、今後も罪を償っていくことを約束する。その上で、
今日のジャンの入信式という神聖な場所に同席することを許して欲しい。
アーメン」
入信式はごく近親者のみで行いたいというジャンの申し出を無視し、
ランスロは出来るだけ多くの人に呼びかけ、結果多くの村人たちがジャンの
入信式に出席した。ジャンは始終、不貞腐れた様子だった。誓いの言葉を
述べるときも、ことごとく「ノン」「嫌だね」「うぜー」と連発するので
ランスロは切れた。しかし怒りの鉄拳ではなく、愛の抱擁で諭した。
「さぶイボがたつう!」
ジャンは悶絶し、身をよじって逃げようとしたが、
ランスロは益々力を入れて離さなかった。
真相
「アンリ、本当なのか?なぜだ。なぜこんなことをした?」
「お前がいけないのだ」
「私が?」
「そうだ。お前が惚れた女をサンメリの王子におめおめ渡すような
ことをするから」
「それとどういう関係が」
「モニカにしてもそうだ。お前たちは相思相愛だったのに
、デュポンの阿保にわざわざくれてやるようなことをしやがって」
「それは…デュポンさんとモニカが似合いだと思ったからだ」
「ホントにそう思っているのか。お前はいつもいつも人のことばかりだ。
どうせデュポンが傷つくのが怖かったんだろう。今回もそうだ。
この娘をみすみす手放すのか」
「それは‥。そうした方がフェリゼにとっていいだろうと思ったからだ」
「王子だからか。金があるから、暮らしに不自由しないからか。
それでお前は黙って身を引いていいことをした気になるのか」
「私は‥‥フランソワさんのことも大事なんです。
知り合ったばかりだけれども、私は二人とも幸せになってもらいたい。
どちらかが泣いても、私は悲しいのです」
「そらみろ、このお人よし。おれはお前のそういうところが大嫌いだ。
いつも自分を犠牲にすればいいと思っているんだな。
それはお前の自己満足だ。お前のデキの悪い弟、
ジャンが窃盗で捕まったときも、お前はジャンの罪を被って自ら牢に
つながれたな。その時おれは思ったよ。こいつは一生損をする」
「いや違う、あれは私も悪かったんだ」
「お前は窃盗からは足を洗ったじゃないか」
「いや、ジャンをきちんとしつけられなかった私がわるかった」
「お前が罪を背負うことはないんだ、馬鹿なのはこいつさ」
「アンリ…!」
「ちょっとお待ちになって」
と声を上げたのは、それまで黙って事の成り行きを見守っていた
フェリゼだった。
「ランスロが惚れた女を渡すようなことをするってどういうこと?
そのほうが私のためだって‥」
ランスロはうつむいて頬を赤らめた。
ジェアノ警部はフェリゼに向き直った。
「だから、ランスロはあんたのためを思って一人悩んでいたんだ。
ランスロは、あんたに惚れている」
フェリゼは、声を震わせた。
「本当なの、本当に本当ですの、ランスロ?」
ランスロはうなずいた。
「アンリのいうとおりです…。最初に会った時から、
可愛いと思っていました」
「じゃあ、じゃあ…」
「けれど、あなたとは一緒になれません」
瞬殺とはこのことをいうのだろうか。「じゃあ…」
の続きを言おうとしたフェリゼの口から「へぐっ」という声が漏れた。
「なぜだ、また今回も身を引くのか。いい加減、
自分の心と向き合ったらどうだ、ランスロ!」
「そっそうですわよ、ご自分に素直になって、ランスロ!」
フェリゼも加担した。しかしランスロはゆっくりと、
しかし確固たる信念を持った顔つきで首を横に振った。
「いや違う、私が今向き合うべき人間は、フェリゼ、あなたではなく、
ジャン、この子なのです。今回のことで私はよくわかった。
わかってしまったのです。この子は…この子はこの村に居場所がないんだ。
私とジャンは幼いころに母親と父親に捨てられ、孤児として教会で育った。
私たちはあらゆる悪さをした。盗み、恐喝。その他いろいろ。
しかし私は後に改心し、神父の修行に勤めた。その間ジャンは、
この村でひとりぼっちで、誰からも相手にされず、馬鹿にされ、
犯罪から抜け出すことも出来ずに苦しんでいたのだ。私はそのことを
サンメリで風の噂で聞きながらも、どうすることもできなかった。私は、
ジャンを信じていると、いつも思っていた。いつか改心してくれる
だろうと、それまで見守っていようと。しかしそれは、「信じている」
といいながらジャンと直接向き合うことを避けた都合のいい
言い逃れでしかなかったのだ。私は…私はたった一人の弟なのに、
向き合うことから逃げていたのです。私はこの子と今度こそ向き合い、
この子にこの村での居場所をつくってあげたい…」
ランスロは涙を流し、ジャンを抱きしめた。
「ですからフェリゼ、あなたとは一緒になれない。
私は神に仕える身。結婚などできない。それに、私が救うべきは、
あなたではなくジャンなのです」
天国から地獄の気分をいっぺんに味わったフェリゼ。
喜びの絶頂にいるときも、悲しみのどん底につきおと落とされたときも、
同様に心臓がドキドキし、体が火照った。喜びから悲しみへの
転換が急すぎたので、体の対応が追いつかないのかとも思われたが、
いずれにせよ、どっちにしても体は激しい感情にはドキドキして
熱くなるんだと思った。大差ないんだわ、とフェリゼは珍しく
ニヒルに笑って、膝がガクガクしてその場にしゃがみこんだ。
見解を述べるマリウス
「毒物事件だと主張しているのは、ジェアノ警部、
あんただけだってことさ。客観的にみると、今回の事件は食中毒という
可能性が高い。なぜなら、他にぶどう酒を飲んだ数人はいずれも軽症だった
こと、フェリゼがぶどう酒で漬けたチェリー漬けのタルトを食べても何の
症状もなかったこと、つまり煮沸によって消毒されたこと、また、
馬に飲ませても問題なかったことだ。人間にとっては不衛生な
ぶどう酒だが、煮沸すれば問題ないし、動物にも問題ないと
いうことだろう。一方で、毒物だという主張には、大きな問題点がある。
それは、客観的な証拠がなく、ジェアノ警部による主観的な主張と
思われる点だ。毒物が混入されたと主張しているのも
ジェアノ警部であるし、ランスロのぶどう酒から高い濃度の毒物が
検出されたというが、一体どんな実験をしてそれを確かめたのか、
それもわからない。さらに、唯一、客観的に目の前で毒物であるという
反応が示されたのが、やはりジェアノ警部によって庭先のぶどう酒を
飲んだチャボが死に到った点だ。つまり、チャボが死ぬ前までは毒物は
混入しておらず、チャボが死んだ後も毒物は混入されていない。
毒物反応があったのは、チャボの時だけだ。つまり、あんたがぶどう酒に
さわったあの一瞬だけだ」
「ほう。どんなマジックで私が触れたその一瞬だけ
ぶどう酒が毒物に変わるのだ」
「そうだな…、例えば、ぶどう酒には毒は入れない。
直にチャボに飲ませたとか」
ジェアノ警部はフッと鼻で笑ったが、その目は笑っていなかった。
「そんなことをする理由は?私がチャボに毒を飲ませて、
何か特になることでもあるというのか」
「そうだ。あんたが毒物事件を起こして得になる理由。
それは発想の転換によってわかる」
「発想の転換…?」
「村中に聞いてまわって分かったことは、ランスロがこの村で
とても慕われていることだ。最初私は、ランスロに個人的な恨みを
持つ者による犯行かと考えた。しかし村人に話を聞くうちに、
ランスロに恨みを抱くような人間が見当たらないということがわかった。
そこでだ。発想を変えて考えてみた。つまり、この事件がランスロを狙い、
ランスロを恨んで犯行に到ったのではなく、ランスロのことが好きで
犯行におよんだのだとしたら?」
ランスロを好きな人間による犯行!発想の転換!その場にいた全員が
この思いがけない展開に息を呑んだ。マリウスは、その場にいた全員を
一人ひとり見わたし、最後にフェリゼを見た。彼女は口を押さえて
青ざめている。しかしマリウスはすぐに視線をジェアノ警部に戻した。
「あんたはすぐにフランソワを被疑者として拘留した」
「そうだ」
「つまり、あんたはランスロを愛していて、
ランスロに近づいたフランソワを邪魔だと思い遠ざけようとしたんだ、
違うか?」
ジェアノ警部はぶしゅっと噴出した。普段笑い慣れていない人間が
笑ったので、ぎこちなく、「グクッ」とヘンな音が出てしまい、
歯の間からツバが飛んだ。
それを見てマリウスは「うーん違ったか」
とここまで追い込んどいて人事みたいに言ったので、
「おい!」とフランソワは突っ込まずにはいられなかった。
「そんなことよりも…頼む、医者を呼んでくれ!」
ランスロが再び叫んだ。
「アンリ!頼む、助けてくれ!」
「……わかった」
ジェアノ警部は懐から包みを取り出すと、
ランスロにわたした。
「薬草だ。これを飲めば治る」
それからジャンの顔を2,3回軽く叩き、
水筒を取り出すとジャンの顔に水を静かにかけた。
ジャンは小さくうなり声をあげ、口に滴り落ちる水をなめ、
うっすら目を覚ました。
「おお、ジャン。大丈夫か」
ランスロはジャンをひしと抱きしめた。
その様子を見て、ジェアノ警部はなにか、観念したようであった。
「悪かったな、こんな大事になるとは。
そうだ、認めよう。全部おれが仕組んだ」
