【福の神のお使い・3】オマモリ形見。<12> | 神仏広告代理店

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【菊と稲荷】

“えびすかき" は福の神を伝える神のお使い。

 

肩から下げた四角い木箱に、福の神を隠した神のお使い。

 

 


村から村へ、町から町へ。

 

山越え谷越え、諸国を周る。

 

 


これまでのお話はコチラ。

【福の神のお使い・1】かわいい神様。

【福の神のお使い・2】お社の小さな首。

 

前回のお話はコチラ。→【福の神のお使い・3】オマモリ形見。<11>

 

 

 

「あのな、 "えびすかき" は旅すんねん。

だからどこかで家族に会えるかもしれんし。それにな……」

 

シマオは男の両肩を掴み、顔を見て必死に伝えた。

 

 

 

「同じやから。俺も血の繋がった家族はおらへん……それでも村の者は受け入れてくれてる!」

 

「お前……名前は?」

 

鞠日土もしゃがんで、男の顔を見つめて問うた。

 

 


「……コウタ……」

 

 


「コウタ。そうか。じゃあコウタ、生きろ」

 

鞠日土がコウタの目を見つめて、きっぱりと言った。

 

 

 


「コウタ……そうや。生きて。行こ。一緒に。な……?」

コウタの目にまた涙が溢れた。

 

 


「……名前……コウタって……久しぶりに聞いた……もう誰からも呼ばれんと思ってた……」

 

「なんぼでも呼ぶ。コウタ! ……一緒に村に行こうや」

 

 


その時、八角天が誰かの手を引いて戻ってきた。

 

手を引かれていたのは、顔を白い布で隠した "小鳥" という名の例の女だった。

 

 

 

「え!……お、おなご……?」

武庫山自体が女人禁制の上に、ここは罪人が送られるほどの険しい地形。

 

そこに現れた突然の女の姿に全員が驚いた。

 

 


「どうなってんねん! ようこんな場所まで一人で来れたな。全くどいつもこいつも……」

 

八角天が苦々しそうに女を見た。

 

「なんでこんなとこに来たん?」

 

シマオの問いに、女は小さな声で答えた。

 

 


「私は……罪を犯しました……入ってはいけないと言われたのに、入ってしまった……」

 

女は泣いていた。

 

 

「姿を変えれば許されると勝手に思って……でも許されなかった。

 

もうあの山の神様にも会えません……私は罪人です。

どうせ命も長くない……ここで死にます……」

 


「姿を変える? お前……まさか昨日、山の神の所に出た大蛇か?」

 

 

 

八角天は昨晩、ガマが大蛇が襲われていたのを思い出した。

 

あんな大蛇が自然のものであるはずがなく、物の怪だと思っていた。

 

 

 

 

「大蛇? 何の話しとるん?……って、なんやあの煙」

 

「煙?」

 

向こうの尾根の更に向こうから、煙が上がるのが見えた。

 

 


「会下山の方角やな。とうとうガマが村人に気づかれたんか……」

 

煙の方角を見ていた八角天はそう呟くと、振り返って伝えた。

 

「鞠日土、話は途中で伝える。山の神の所に行かなあかん気がする」

 

「俺もそう思う……急ごけ。おい、お前らも付いてくるちゃあよ」

 

 


「え、え、え?」

 

「コウタ、お前も一緒よ。ここからは結構あるちゃあよ。はぐれやんでよ」

 

「……え……お、俺も……?」

 

シマオがコウタの手首をぐいと引き寄せ、きっぱり言った。

 

「行くで。離さんからな」

 

 


「おい、おなご!」

 

「……はい……」

 

八角天が突然叫んだ。

 

 

 

「そこのお前も! ……お前らは罪を感じてここに来とるが、俺はそうは思わん」

「え……」

 

女とコウタは八角天の顔を見上げた。

 

 

 

 

「誰が決めたんか知らんが……なんで人の女だけがここに入ったら罪になるねん。

動物や虫は、男も女も関係なくここで生きとんのに。

 

お前もや! 昔から人は獣を狩りその恵みのもとに生きてきた。

……お前らは何も悪ない。己らを責めんな! 

責めなあかんのは人を縛るおかしな決め事や」

 

 

 

女は目を見開いて聞いていた。

 

その身体は震え、目にはいっぱいの涙を溜めていた。

 

 


「……そうや。そう。コウタ、俺は知っとる。

 

猟師の獲った毛皮がようさんの人を守っとる。

おかしな決め事してる奴らこそが、それに命を守られとうよ。

 

ほんまに……おかしい。間違っとる。お前らに罪なんてない!」

 

鞠日土は首を左右に振りながら、静かにそう続けた。

 

 


「私……私を許すと……」

 

 


女は泣きながらそう言うと、煙の上がる会下山の方を見た。

 

「行かせて下さい……先に! お願い!」

 

 


そう言うと同時に、八角天の腕を振り払い駆け出した……というか、

駆けると同時にその身はみるみる大蛇の姿に変わった。

 

小枝をばきばきと薙ぎ払い、赤く染まった枯れ葉を辺り一面に舞い散らせ、

一気に坂道を滑り落ちて行った。

 

 


「な……! 蛇ッ?!」

 

「小鳥さんっ!」

 

「とにかく俺らも急いで行こら。ガマの所に村人らが来とるんなら止めやんと」

 

 

 


山の谷間は午後に入ると時間に関係なく夕闇が迫りくる。

 

 

4人は会下山を目指し、荒地山を後にした。

 

 

 

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【福の神のお使い】勝手にメインテーマ曲はコチラ。名曲。。✨

 

 
 

 

<小説投稿サイト・エブリスタで先行連載中>

 

エブリスタ超妄想コンテスト『神様、お願い』エントリー。
百太夫神様のお話を書きたい!と思って調べていたけど、ラノベな感じでえびすかきの物語を書いてみようと始めた作品。……しっかりシリーズ化。自分がハマっています!

 

 

 

エブリスタ超妄想コンテスト『落し物』エントリー。

小説に関する勉強動画(?)を見て学んだ "小説らしさ" を取り入れだした作品。

高野聖にだだハマり中です。

 

 

 

エブリスタ『仲間の絆』エントリー。

六甲山の伝承をベースに書いています。こういうのが小説はできるんだなあを一つ一つ実感。。

 

 

 

 

 

「古事記の行間」という言葉がお気に入り*
次はサルタヒコノミコトさまとアメノウズメさまのお話の行間を埋めたいです!
 

 

 

菊田の人生を変えたプロローグ。
編集し直しながら一気読みして、また泣けました。。初心忘るべからず。

 

 

 

大国主命さまって、有名で人気ある神様だけど、淡々とされているなあと改めて。
この時はそんなに意識していなかったけど、この後コトシロヌシ神様を書いた事でこの神様のトーンはこれであってるんだなと、今では着地しています。