【福の神のお使い・3】オマモリ形見。<13> | 神仏広告代理店

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【菊と稲荷】

“えびすかき" は福の神を伝える神のお使い。

 

肩から下げた四角い木箱に、福の神を隠した神のお使い。

 

 


村から村へ、町から町へ。

 

山越え谷越え、諸国を周る。

 

 


これまでのお話はコチラ。

【福の神のお使い・1】かわいい神様。

【福の神のお使い・2】お社の小さな首。

 

前回のお話はコチラ。→【福の神のお使い・3】オマモリ形見。<12>

 

 

 

《ガマと大蛇。》

 

 

 

「ガマよ。どうやら村人がこちらに向かっているようだ……」

 


山の神は近付く村人たちの灯す松明の煙を見つつ、悲しげな表情でガマに寄り添った。

 

この大岩が生きていると気が付けば、それは "化け物" と見なされるだろう。
 

 

 

「……お前を固めるしか……もうそれしかないのか、守る方法は」

 

 

 

八角天が昨日話した言葉を山の神は思い出し、静かに呟いた。

 

ガマは山の神が静かに掲げた手に、その顔を寄せた。

 

 

 
 

「お前は何も悪くないのに……許しておくれ」

 

 


徐々に日が傾き、木々に閉ざされた森にはじわじわと闇が迫ってくる。

 

草木が生え、そこに虫たちが棲むガマの大きな身体は、

 

確かにもう既にこの山の一部になっていた。

 

 

 

「ならば私の力で、お前を固める事もできよう」

 

 

 

山の神はガマの顔を見上げた。

 

 

 

「この山に溶け、私と共に永遠にこの山を守ってくれるか」

 

 

 


山の神はガマに微笑みかけると、掌をその大きな身体にぴたりと付け、まじないを唱えだした。

 

ガマがその下瞼を閉じた。身体からは、白い小さな蛾が一斉に飛び立った。

 

 


凹凸のあった皮膚が徐々に硬化していき、質感が変わってきた。

 

山の神は目をつむったまま、ひたすらに呪文を唱え続けた。

 

 

 

山の下から風が煙の匂いを運ぶ。松明を手にした村人達が迫りつつあった。

 

 

 


その時、今度は上から何かが、激しい音を立てながら滑り落ちてきた。

 

山の神がその衝撃に目を開けると昨日の大蛇が鎌首を上げ、ガマに迫ってくるのが見えた。

 

 


「昨日の……っ。やめてくれ! もうこのガマは……!」

 

幼虫が蛹に姿を変えた直後同様、ガマの硬化はまだ不安定だった。

 

山の神はガマに背を付け、両手を広げて大蛇に向かって叫んだ。

 

 


大蛇は山の神を避け、するすると慎重にガマの巨体にその身を寄せた。

 

そのままとぐろをゆるく巻きながら、頭部は天を目指した。

 

月光に照らされたその口は、硬く閉じられたままだった。

 

 

 

てっぺんまで這い上がったかと思うと、

 

ガマの頭を庇うようにぴたりとその身を静かに落ち着かせた。

 

 

 

 

 

それは掌でそっと花を包むように、

 

大切なものを守る姿に見えた。

 

 

 

 

 

「山の神!」

 

山を知り尽くす八角天の案内で、大蛇に遅れて4人が到着した。

 

 


「間に合ったか……! え……っ」

 

「……大蛇がガマに……」

 

立ち尽くす山の神のそばに寄ったシマオ達は、その景色に驚いた。

 

 


本物の岩になりつつあるガマと、それを包むように巻きついて動かない大蛇がそこにいた。

 

山の神は黙って動かない大蛇と見つめ合っていた。

 

 


「山の神。その大蛇はよ、前に森で迷った時に山の神に助けられ、そのまま恋い焦がれてここに来た者ちゃあよ」

 

「……覚えている。幼子だった」

 

 

 


「その時に疱瘡か何かを患い、顔を布で覆った者をガマに変えたんを見とってよ……

この大蛇になった者も同じような病でな。……顔を隠しとった」

 

 

「何……?」

 

 

山の神は、隣で話す鞠日土の方に顔を向けた。

 

 


「自分もそのガマのように姿を変えて欲しいて、ここに来たらしいでよ。

 

だからそのガマになった者の辛さも知っとるし……

叶うんであれば、ここでガマのように山の一部になりたい思とるんやろな」

 

 


「一緒にここで……」

 

 

 

山の神の顔に躊躇が見えた。

 

 

 

「来るで。村人らがすぐ下や」

 

八角天が告げると、鞠日土が迎えるように前に駆けた。

 

 

 

***

 

 

 
***
 

 

【福の神のお使い】勝手にメインテーマ曲はコチラ。名曲。。✨

 

 
 

 

<小説投稿サイト・エブリスタで先行連載中>

 

エブリスタ超妄想コンテスト『神様、お願い』エントリー。
百太夫神様のお話を書きたい!と思って調べていたけど、ラノベな感じでえびすかきの物語を書いてみようと始めた作品。……しっかりシリーズ化。自分がハマっています!

 

 

 

エブリスタ超妄想コンテスト『落し物』エントリー。

小説に関する勉強動画(?)を見て学んだ "小説らしさ" を取り入れだした作品。

高野聖にだだハマり中です。

 

 

 

エブリスタ『仲間の絆』エントリー。

六甲山の伝承をベースに書いています。こういうのが小説はできるんだなあを一つ一つ実感。。

 

 

 

 

 

「古事記の行間」という言葉がお気に入り*
次はサルタヒコノミコトさまとアメノウズメさまのお話の行間を埋めたいです!
 

 

 

菊田の人生を変えたプロローグ。
編集し直しながら一気読みして、また泣けました。。初心忘るべからず。

 

 

 

大国主命さまって、有名で人気ある神様だけど、淡々とされているなあと改めて。
この時はそんなに意識していなかったけど、この後コトシロヌシ神様を書いた事でこの神様のトーンはこれであってるんだなと、今では着地しています。