【福の神のお使い・2】お社の小さな首。<1> | 神仏広告代理店

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【菊と稲荷】

"えびすかき" は福の神を伝える神のお使い。

 

肩から下げた四角い木箱に、福の神を隠した神のお使い。

 

 


村から村へ、町から町へ。

 

山越え谷越え、諸国を周る。

 

 


これまでのお話はコチラ。→【福の神のお使い・1】かわいい神様。<前編>

 

 

 

「えべっさまー!」

 

「こっちこっちー!」

 

村の境界を守る道祖神の前を過ぎると同時に、

 

遠くから子ども達の呼ぶ声が、シマオと条介の耳に届いた。

 

 

 

「見えた見えた。お迎えやな♪」

 

「嬉しなるなあ。ほんま子どもは可愛いで」
 

 

 

シマオと条介は摂津国の戎社(えびすのやしろ)から、

 

福の神のえべっさまの神札である「御神影札(おみえふだ)」を配布しながら、

 

木偶人形を舞わして福の神のご神徳を運ぶ傀儡師。

 

 

14歳の新米傀儡師であるシマオは、3歳年上の条介と共に1年ぶりの村を訪れた。

 

 

 


「何日も前から待っててんで!」

 

「はよお社に行こ!」

 

 

 

この時代の庶民にとって、年に1度訪れる「えびすかき」は単調な毎日に変化を与える存在。

 

 

独特の頭巾姿にたっつけ袴。

 

神の使いである彼らはその姿が変わっている事もあり、子どもたちにとっては憧れだった。

 

 

 

「ひっぱらんでもええって! みんな元気にしてたか?」

子ども達に囲まれながら、賑やかに村の鎮守の神を祀るお社を目指した。

 

 

 

この村の鎮守の神のもとにある大きなご神木が見えた。

 

いつもそのご神木の下で、木偶人形を舞わしていた。

 

 

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「やっと着いたなー。ちょっと休も」

 

「えー!」

 

「いや、休ませてや。山超えてきてんで……」

 

 

 

目を輝かせてまとわりつく子どもたちと歩いていると、

 

お社から少しだけ離れた鳥居の下で、数名の村人が立って何やら話しているのが見えた。

 

 


「なんやろ?」

 

シマオと条介が立ち止まると、そこにいた村人が二人に気づき声を上げた。

 

 


「お前ら、ちょうどええ時に来た! あそこにある首、埋めたってくれ」

 

「……首?」

 

シマオは歩みを止め、眉を潜めた。

 

ぴたりと止まったシマオの横を、後ろから条介が通り過ぎて村人たちのそばに向かった。

 

 

 

「首って、何なん……」

 

「あそこに小さい首が落ちとるねん」

 

 

そばに来た条介に分かるように、村人はお社の方を指差した。

 

 

 

 

「……小さいな……あれが首?」

 

 

小屋のようなお社なのだが、その前の地べたに丸い肌色のものが無造作にあった。

 

 

遠目にも目鼻が分かった条介は、近づくことはせず、

 

その場で目を細めて見ながら問いかけた。

 

 

 

「ここにも "キヨメ" がいるやろ?」

 

「今日はおらん。この前の大雨で崩れた山道を直しに出ててな」

 

 

 

腕を組んで、当然のように村人は続けた。

 

「お前ら、ここで舞わせるんやろ? その前にここ清めるんも役目やろ」

 

 


「……なんで俺らが……っ」

 

シマオが思わず声を上げた。子どもたちは黙って見ていた。

 

 

 

「いや、俺がやるわ。シマオ、俺の神さん持っててくれ」

 

「条介! なんで?」

 

「ここの神さんも困ってはるやろし。ここの "キヨメ" が出てんのやったらしゃあないわ」

 

 

 

グッと黙ったシマオに肩から下ろした荷物一式を預け、

 

条介は小さな首が転がっているお社の方に近づいた。

 

 

 

 

 "キヨメ"

 

それは亡骸や汚物を片付け、場を清める役をする者のことだった。

 

 


特に清浄を常としなければならない神社には重要な役割で、

 

条介たち "えびすかき" も、戎社近くにそのようなものがあれば片付けた。

 

 

 

人々が恐れから嫌ったそういう役目は、

 

"神の使いである特別な存在" だからこそ、彼らの仕事の一つとされていた。

 

 

 


「お前らも後でまた来よか。今は見んでええ。えびすかきが片付けるから一旦戻ろか」

 

「……帰らなあかんの……?」

 

「ケガレは感染るからな」

 

 

 


死というものが恐怖の対象だった日本の中世。

 

死の穢れは伝染すると信じられていたため、人々は亡骸に触れる事を徹底的に忌避した。

 

 

 

村の大人たちの言葉を聞いて、子ども達はしょんぼりしてシマオ達を見た。

 

 

 


「……後でな」

 

シマオは静かにそう言いながら、条介の荷物を持つ手にギュッと力を入れた。

 

 

 
 
 
***
 
 

 

 

***

 

 

【福の神のお使い】勝手にメインテーマ曲はコチラ。名曲。。