日本一高い場所へ〜その7〜
とにかく一刻も早く降らなければ。
本能がそんなふうに働いたんだろう。
「降れ内田…降れ…!!!」
脳が必死に信号を出しているような気がした。
富士山には下山用のわりと簡単なルートがある。
ひたすら坂道。
登ってきた道を考えたら本当にシンプルな道。
とはいえ約3700メートルある山を降るというのはいくら道が簡単でも容易なことではない。
富士山の山道の写真を見たことがある人はわかると思うけど、延々と続くジグザグ道。
でも見下ろすと雲があって、その下に街が見えていて。
河口湖も見えている。
その時にはそんな余裕はなかったけど今思うとやっぱり景色は絶景だった。
でも登りとは違ってガシガシ降ってる感はある。
正直まったくと言っていいほど標高は下がってる気はしないのだけど、進めてる感がすごい。
この調子ならまだ明るいうちに降り切れるのかな?なんて考えてたのも束の間。
一瞬で辺りは暗くなり始めた。
これが富士山か。気温もすごく寒い。
ちなみに内田は無装備。
意識は朦朧としてしまって、歩きながらも何度も意識が飛んでいた。
眠りたい。今すぐここで。
山田さんの用意してくれたヘッドライトが本当に役にやっている。
が、ぼくは 無装備の為にライトなし。
山田さんが予備に持っていたミニ懐中電灯を貸してくれた。
本当に冗談かと思うくらいに一瞬で下山道は暗闇に変わった。
真っ暗。音もない。
ライトを消したら30センチ先は見えない程に暗い。
ひたすら歩く。歩く。歩く。
こんな道を日常生活の中で歩いていたらとてつもなく怖いのだろうけど「生きなきゃ」と思う一心からか、怖いという感覚は一切なかった。
ただ、酸素が足りなくて精神的にもどうにかなっていたのか。
落ちている石ころ、岩が人や顔に見える。
石たちがこっちを見て笑っている。
どの石にも顔がついている。
暗闇の下山道。言っても 山道なので崖沿い。
下を見たらライトに照らされた石が笑う。
異様な状態(笑)
たぶん2人はぼくを気づかって早めのペースでがんばってくれている。
が…山田さんのペースが落ちてきた。
山田さん「膝をやられた」
そうだ。
山田さんは途中からずっと先頭でペースを引っ張ってくれていた。
相当負担を感じていたはず。
その山田さんの足がついに壊れた。
ペースがどんどん落ちていく山田さん。
それを気づかう言葉もかけられないほどに内田(無装備)の意識は朦朧としていた。
山田さん「ごめん、俺もう無理やけん」
!?
山田さん「俺はもうこのペースでは歩けん。でもこのままじゃシャトルバスの時間に間に合わなくなるけん」
!?
山田さん「このままだと内田が危ない。まだ元気な田実くんがどうにか内田を引っ張って先に降ってくれ」
!?!?
山田さん「バスで駐車場まで行ったら車で五合目まで迎えに来てくれ。それまでに下山しとくばい」
!?
田実さん「まじすか!大丈夫ですか!?」
内田(無装備)「コクリ」正直
では。
アディオス。
ぼくはすぐに降り始めた。
ぼくは基本的には自分が辛くても我慢するタイプ。
嘘でも大丈夫と言うタイプ。
とくにこの2人に対してはすべてをYesで答えて付き合ってきたつもり。
そのぼく(無装備)が後ろもふり返らずに下山を始める。
山田さん、ごめんなさい。
出会ってからもう11年になります。
本当に楽しかった。
たくさん遊んでもらったし、バカなこともしました。
また次回も遊びに行きたかった。
もっとこれからも一緒にいろんな思い出を作りたかった。
本当にありがとうございました。
ぼくは生き延びてみせます。
さようなら!!
田実さん、急ぎましょう!!
続く…
日本一高い場所へ〜その6〜
な、なんてことだ(汗)
やっぱり人は素直な気持ちを相手に伝えなくちゃだめだ。
相手を気づかう。
これはすごく大事だけど、我慢してまで気づかうのは日本人の悪い癖だ。
なぜ今「無理です。降りましょう」が言えなかったんだ。
内田のバカ。すごくバカ。
もう山田さんは先頭で登り始めてしまった。
あぁ…数秒前の内田のバカ。
雪はやまないし。
グローブをしているのに指先がもう凍傷になってるんじゃないか?
と思うくらいに冷えて痛い。
この時点で「もう二度とギターは弾けなくなる」と思った。
寒いよ。頭痛いよ。苦しいよ。
サングラスの下は涙。
でもあと少し。本当にあと少し。
頂上は見えている。
見えているのに…頂上も一緒に前に進んでいるんじゃないかと思うくらい先に進まない。
途中岩場で崖っぽくなっているところでおばちゃんが岩にしがみついていた。
「落ちる!もう登れない!!ぎゃぁあ!」
おばちゃん。それたぶん大丈夫だよ。
でももしも下に落ちてきたら内田を巻き込むよ。
おばちゃんは助かるけどぼくは落ちるよ。
カーリングになるよ。
はぁ…
はぁ…
しばらく歩くともう我々3人以外に頂上を目指している人はいなくなっていた。
もう時間も遅いし、この雪だからね。
眠い。
とてつもなく眠い。
まさかこれがあの有名な…
「雪山で眠くなる」ってやつか(汗)
本当に眠くなるんだ(汗)
やばい。すぐにでも眠りたいくらい。
でも確かこれは寝たら死ぬやつだ。
山田さんと田実さんは眠くないのかな?
それを聞く力はもうない。
あまりの眠さに何度も杖を落としてしまう。
鳥居を超えて…最後の山小屋を超えて…
記憶がもうこの辺から曖昧なんです。
飛び飛びでまるで覚えていない…(忘)
あぁ…頂上かも。
山田さん「ついたけん!3人で同時に頂上の1歩踏むけん!」
おぉ…着いたか。
せーの…ちょこん。
力のない1歩しか出来なかったけどゴール。
ここが頂上。
日本で一番高い場所。
山に登る前日
「頂上で裸で写メ撮ってくるよー」
なんて友達に言ってきた内田。
手・袋・す・ら・脱・ぎ・た・く・な・い…
もうどうしたらいいのかわからなくなっている。
パニック。まさにパニック。
体が爆発しそう。
はじけ飛びそうなツボミになったみたい。
パーンしちゃう…もうすぐ内田パーンしちゃう(泣)(泣)(泣)
心の中でこんなふうに思っていた。
あぁ…涙が。
!!!!!
自販機だ!!!!
内田の心の声…
ホットください!!!
お願いですホット!!!!
やったーラッキー!!
しかし実際は…
内田「タジツサン…アトデ…オカネカエスンデ…ナンデモイインデ…アッタカイノクダサイ…スグニ」
完全に内田は死亡していた。
田実さんがココアを買ってくれた。
あちい…手が壊れそうなくらいにあちい(HOT)
一気飲み。あんなアツアツのココアの一気飲みをしたのは人生で初めて。
頂上で少し休憩。
何せ登ってきたからには降らなければいけない。
これからがまだ勝負なわけだ。
山田さんと田実さんは降り用の装備の準備をしている。
山田さんの買ってくれたトレッキングスパッツを履いたり、ヘッドライトをつけたり。
内田…装備チェンジの気力なし。
無装備。
もうリュックをおろしてあけるのも無理と判断(底)
でもそんな姿を2人には見られたくないのでトイレに避難。
2人の準備が終わるまでトイレに隠れて泣いていました。
あぁ…かつてこんな過酷な試練があっただろうか。
そこに準備を終えた2人が。
山田さん「あとほんの数メートルだけ登れるとこがあるけん。そこが本当の頂上やけん。行っとく?」
内田「いえ、大丈夫です」
即答の内田。これからは正直に生きることを決意。
山田さん「火口の前で写真撮ろう」
山田さん「もうちょい先までのぞいてみる?」
内田「いえ、大丈夫です」
即答の内田。正直に生きている。
だめだ。もうしゃべれない。
早く。
とにかく早く降らなければ。
ぼくは無装備のまま降りを急いだ。
富士山には降り専用の楽々ルートがあるのをぼくは知っていた。
帰りはわりとすんなり行くだろ。
そう思っていたのだけど。
まさかこの先もあんなことになるとは。
続く…
日本一高い場所へ〜その5〜
ザッ…ザッ…
はぁ…はぁ…
無音。登れば登るほど一切音がない。
聞こえるのは自分の足音と呼吸。
鳥もいない、虫もいない。
冷静に考えてまわりを見渡すとけっこう異様な光景。
さて、お気づきの通り内田は五合目の時点から高山病にかかっています(照)
こんなはずじゃなかった(笑)
なぜ…
なぜ前の晩に早く寝なかったのか。畜生。
睡眠不足は高山病の元だって知ってたのに。畜生。畜生!!
頭が痛い。眩暈もする。くぅ。
でも明らかに頂上が近づいてきた。
ちらほら見える鳥居。
あれだ…あれが頂上。
そこで神様からのプレゼント。
「内田へのトドメ」
くっ…雪だ。。
8月…雪か。
やってくれるぜ。
山の天気は変わりやすい。
山田さんが予め教えてくれていた。
どうせ通り雪だろ。
…が通るどころか吹雪。
うぅぅ…
こ、これはきびしい…
山田さん、田実さんは大丈夫なのか?
それを聞く力すらもう残っていない。
うぅ。ここまでか(泣寂)
と、そこで小休憩。
山田さん「内田大丈夫か?諦めて降る覚悟はできてるけん。無理しないでえぇけん」
少し考える。
もう頂上は見えている。
でも寒い。とてつもなく寒い。
頭が痛くて割れそうだ。息も出来ない。
だけどあと本当に数100…数10メートルかもしれない。
…本当に2人には申し訳ないけれど…
ごめんなさい。内田はギブアップです。
降りましょう。
そう心で思いながら…
内田「いや、大丈夫です!もう少しです!行きましょう!!」
この顔色の悪さ、体調悪そうな雰囲気、辛そうな感じを見たら2人は
「いや、無理するな!降ろう!体が大事だ!」と言うはず。
返ってきた答え…
2人「よし!行こう!!!」
内田「えぇぇぇぇぇぇぇえええええ!!!!!(泣)(泣)(泣)(泣)(泣)(泣)」
続く…
日本一高い場所へ〜その4〜
「日頃の我々の行いが天気に現れましたね」
…あんなに晴れていた空はいつのまにか雨。
「日頃の我々の行いが天気に現れましたね」
「日頃の我々の行いが天気に現れましたね」
「日頃の我々の行いが天気に現れましたね」
そうそう。
青梅から新宿まで歩いた日もそうだった。
出発前日に「うちらの日頃の行いが明日の天気に出ますよー♪」
当日…どしゃぶり。
そう、我々の戦いはいつも雨だった。
とは言え暑すぎず寒すぎずの天候なので暑さによって体力が奪われるみたいな ことはない。
そこは暑がりのぼくにとっては都合が良かった。
坂道、砂利道、岩場を歩いているわりには足は疲れないしむしろきついなぁ…という感覚はなかった。
ただ空気が薄い。
少し歩くだけで苦しい。
本当に10メートル歩くごとに休憩をしないと息が出来ない。
心拍数はバンバンあがるし、心臓が胸を突き破って飛び出しそうなくらいに鼓動を打っていて怖い(汗)
頭いて。(内緒)
田実さんの持って来てくれた酸素を吸いながらコツコツ登る。
富士山=約3700メートル。
考えようによっては上に3.7キロ歩けば頂上なわけだ。
でも実際は100メートル登るのに道によっては1~2時間かかってしまう レベル。
これは…
舐めてはいなかったけど予想以上だ。
おしゃべりしながら登山♪なんて気楽さはない。
何せしゃべれば息が苦しくなるし、笑いなんてしたら息が出来なくなりそう(笑)
生れてからこの日まで、これほど心拍数を気にして歩いた時間はなかった。
ぼくは「大丈夫です」と答える。
でも今回は大丈夫じゃないかもしれない(笑)
少し広めの休憩所で長めの休憩。
山田さんは寝て、田実さんは休んでて。
ぼくは食べたくもないのにカップラーメンを買った。
山 田さんの話しによると富士山は気圧?標高?か何かの関係でお湯の温度も限界があるらしく、出来上がったカップラーメンはアツアツではなかった。
自動的にかた麺ヌードルの出来上がり。
でも冷え始めていた体には優しい。
それにしてもさすが富士山。
登山者は多い。
子供もおばちゃんも、ぼくなんかより全然元気(汗)
おかしい。
休憩をしたはずなのに…
ますます体調が悪いような気が…
そして後半戦出発。
まだまだ頂上は見えない。
もうケータイ電話をポケットから出す力もないかも…
でも雨が止んできた。
よしよし。
ここからだ…
続く…
日本一高い場所へ〜その3〜
何せこの日に備えてぼくは毎日のように1日約8キロを歩いていました。
準備は万全のはずです。
でもスタートから15分後。
何だか様子がおかしい。
まだぜんっぜん歩いてないのに…少しきつい。
でもそんなことを言ったら弱虫に思われる気がしたので黙ってました。
頭も痛いし。
とは言いながらもあまりにも絶景すぎる景色を見ながらの登山は胸ワクワクが止まりません。
早い段階で写真を撮ろうとすると山田さんに「上がもっとキレイやけん」と言われたので撮影は断念。
後にあんなことになるなんて思わなかったし、撮っておけばよかった。
そして徐々に道は上向きになり険しくなるのでした。
それにしても息があがる。
なるほど。
なるほどね。そうか…
空気が薄いんだ!今更気づいた(笑)
言っても五合目の時点で2000メートルは超えてるわけですからね。
普段通りの行動は出来ませんよね。
その1でも書いたように、実際に登ってしまえばあの急な角度もないだろうと思っていたのに…
「えっ…これ本気で登れるの!?」くらいの急な山道。
一番楽なコースでこれとは…。
でも本当に天候にも恵まれたおかげですでに暑い。
「日頃の我々の行いが天気に現れましたね」なんて言いながら。
ひたすら登る。登る。
汗をかくわりには不思議と水分はあまり欲しませんでした。
陽射しもそこまで強くはなくてまぶしい!!みたいな感覚もあんまりありませんでしたね。
しかし頭が痛い。
でもこのくらいの感じならサクサク行けるだろう。そんな気がしていました。
でも気がかりなことが一つ。
上を見ても頂上が一切見えない。
頂上は真っ白な雲で隠されている。(秘密)
富士登山を数回経験している山田さんが「あの雲よりもまだまだ先はあるけん(あるよ)」と。
よ、よし。とにかくがんばろう。
そんな気持で頂上を目指してひたすら登るのでした。
それにしてもとにかく景色が良い。
続く…











