『Kids Return』 | やりすぎ限界映画入門

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ダイナマイト・ボンバー・ギャル @ パスタ功次郎

■「やりすぎ限界映画工房」
■「自称 “本物” のエド・ウッド」


■『Kids Return』
☆☆☆☆★★[90]

1996年/日本映画/108分
監督:北野武
出演:金子賢/安藤政信/モロ師岡/石橋凌/寺島進/山谷初男/大家由祐子/芦川誠


[ネタバレ注意!]※見終わった人が読んで下さい。



やりすぎ限界男優賞:モロ師岡


[北野武監督第6作目]



僕は「夢」が捨て切れず26歳で日本映画学校に入学した。理容師を捨て映画監督を志した。『Shall we ダンス?』『スワロウテイル』『Kids Return』。「悪評」しかなかった日本映画が復活し始めた時代。『ミッション:インポッシブル』『トレインスポッティング』『カジノ』に日本映画が立ちはだかった。日本映画学校に決めた理由は講師に淀川先生がいたからだ。『ソナチネ』『みんな~やってるか!』の「本当に映画を知ってる」という「教え」。俺は「真実」に近づきたかった。

[ “神” に遭う]


■淀川長治

1996年4月26日(金)。“神” =「淀川先生」に遭う運命の日となった。

■「今の日本映画は『Kids Return』だけですね。『河童』、映画じゃないね」

“本物” の “神” の声を初めて聞いて瞬間でパンツについた。“神” を間近で見るため、俺は早く登校し大教室の一番最前列のど真ん中の席を確保した。そして “神” が大教室に入ってきて教壇の前にくると、目の前にいた僕の頭を何度か叩いた。

■「あんた髪を黒くしなさい。日本人は黒くなきゃダメだ」

…俺に話しかけた。“神” が俺に触れた。俺は失神寸前だった。

[北野武と淀川長治]



■「『Kids Return』。これ見てもね、武のねえ、この、若者の感じのねえ、美しさ、怖さ、溢れる感覚、これが凄いねえ。私これ見てますとね、この、拳闘シーンがありますねえ。あるいは、その、練習場面があります。バンバンバンバンバンバン…。あの音だけでね、「うまいなあ」って思うんですねえ。映画が、文章で書けないものを持っている、瞬間の感覚、天才ですねえ」
(『淀川長治、北野映画を語る』『キッズ・リターン』より)

研ぎ澄まされた「瞬間の感覚」は『Kids Return』にも溢れ出た。『ロッキー』とは違う「一発当たった方が負ける」ボクシングの極限のくそリアリズム。現実の「怖さ」。「目で見る」映画本来の感覚を世界に叩きつけた。

■「私の、最も好きな『Kids Return』。私は洋画専門で、日本映画の方は、ベストテン、どっからも、申し込まれてもやらないの、見てないからたくさん。けどもしも、日本で、去年、ベストテンやったら、一番が『Kids Return』ですね。そのぐらいに、これに惚れ込みましたね」
(『淀川長治、北野映画を語る』『キッズ・リターン』より)

「狂気の褒め方」。もはや俺は大きい方ギリギリだった。

[自転車]



■「一番僕が言いたいことは、どなたも仰らないけどね、あの自転車ですね。あの自転車が、私には最高の感覚でしたね。これがオートバイとかね、そういうものだとか車だったらね、ちっとも、面白くないの。自転車いうのが、若さいうもの、青春というもの、少年というもの、よく出してるんですね。でこの自転車に、まず感心しましたね。ところが乗ってる、乗ってるそのポーズに、また感心しましたね」

■「二人が、一緒にね、自転車乗って回ってるところで、この映画の、狙いいうのか、この映画の、詩ですね、ポエムですね、それがもう、完全に出てるんですね」
(『淀川長治、北野映画を語る』『キッズ・リターン』より)



「子供」という言葉は「考える力が少ない人間」を表現する。「生きてる年数の少ない人間」=「子供」の知識が大人より少ないのは当然。「して良いこと」「して悪いこと」の判断が子供には難しい。



子供には判断が難しい「良い大人」と「悪い大人」。子供は常に「騙されやすい」危険性と背中合わせで生きてる。簡単に間違った方向に進んでしまう「危うさ」「不安定さ」。ヤクザを目指したマサル(金子賢)。ハヤシ(モロ師岡)に潰されたシンジ(安藤政信)。淀川先生は「自転車」に「乗ってるそのポーズ」にこの全てを見た。「恐るべき視点」。だが当時の僕は脳ミソが「恐竜」ぐらいしかなく、「乗ってるそのポーズ」の「ポエム」はつい最近まで理解できてなかった。

[映画館満員]



日本中が『Kids Return』の話題で一杯だった。信じられなかった。「日本映画なんか絶対見ない」と決意してた「どん底」が一転した。「狂気」の「映画館満員」に震撼した。

現在の日本映画への国民の関心。その土台は北野武監督と淀川長治が切り開いたように僕には見える。『あの夏、いちばん静かな海。』『ソナチネ』、そして誰一人褒めなかった『みんな~やってるか!』の “本質” を淀川長治は「見切った」。「世界の北野」を「見抜いた」淀川先生の「評論」=「人間の “本質” を見極める “目” 」に絶句した。「世界で評価される日本映画」の復活が「日本映画」に誇りを持てる時代を取り戻した。「日本映画」で「映画館満員」。その「恐るべき眼力」は “神” と呼んで大袈裟ではない。

[「バカ野郎! まだ 始まっちゃいねぇよ」]



■「マーちゃん
  俺達もう終わっちゃったのかな?」
 「バカ野郎!
  まだ 始まっちゃいねぇよ」


「途中で止めた」人間は皆失敗し、「最期まで続けた」人間が成功した。「人間」の極限のくそリアリズムを感じた。俺の「夢」も、「まだ 始まっちゃいねぇよ」かもしれない。




『その男、凶暴につき』
『3-4X10月』
『あの夏、いちばん静かな海。』
『ソナチネ』
『みんな~やってるか!』
『Kids Return』
『HANA-BI』
『菊次郎の夏』
『BROTHER』
『Dolls ドールズ』
[Next]

画像 2016年 1月