『3-4X10月』 | やりすぎ限界映画入門

やりすぎ限界映画入門

ダイナマイト・ボンバー・ギャル @ パスタ功次郎

■「やりすぎ限界映画工房」
■「自称 “本物” のエド・ウッド」


■『3-4X10月』
☆☆☆☆★★[90]

1990年/日本映画/96分
監督:北野武
出演:ビートたけし/渡嘉敷勝男/井口薫仁/小野昌彦/石田ゆり子/飯塚実


[ネタバレ注意!]※見終わった人が読んで下さい。



やりすぎ限界男優賞:ビートたけし


やりすぎ限界男優賞:渡嘉敷勝男


やりすぎ限界男優賞:井口薫仁


■第2稿 2018年 6月13日 版

[北野武監督第2作目]



『その男、凶暴につき』の翌年に第2作目『3-4X10月』が公開され驚いた。『稲村ジェーン』の話題と意味不明のタイトルに日本映画への偏見がさらに増した。金券ショップで「バットの写真の前売券」を見た僕は迷わず『ダイ・ハード2』の券を買った。

『3-4X10月』を初めて見たのは映画学校の学生の時だった。もはや何が描かれてるか全くわからなかった。本当は今でも完全には理解できてない。

[北野武と淀川長治]



1997年にWOWOWで放映された『淀川長治、北野映画を語る』で、淀川先生が映画雑誌『ロードショー』の「淀川賞」に入れたと聞いておしっこは全部出尽くした。「もう少年のね、あからさまというのかね、青春というのかね、その狂った青春に近いその青春がね、これほど無邪気、反対に邪気、両方バーっと爆発させた映画ないのね。でこれ見てね、面白いなこの監督思ったんですね」と評論してる。

「バード・オブ・パラダイス」の「生意気さ」。『トレインスポッティング』より「もう前に、たけしはそれやってるんですね」という真実が僕には見えなかった。その「眼力」の壮絶さに跪いた。恐るべし淀川長治。「あんたに殺されたくねえ」。

[人間の「美点」と「欠点」]



『その男、凶暴につき』『3-4X10月』の登場人物は全員極限のくそリアリズムに到達している。「こういう人いる」という人間ばかりだ。人間には誰でも長所と短所がある。「美点」と「欠点」こそが「完璧な格好良い人間は絶対いない」現実だ。どんなに格好つけても絶対人間はボロが出る。だから僕は格好つけるのをやめた。

雅樹(小野昌彦)は井口(井口薫仁)のために無償で拳銃を手に入れに行く優しさ「美点」と野球のルールを知らない「欠点」がある。和男(飯塚実)は雅樹を無償で助ける優しさ「美点」と酒に弱い「欠点」がある。このように登場人物全員の「良い部分」「悪い部分」が極限のくそリアリズムに到達してる。全員「こういう人いる」という人間になってる。

[人間の「悲劇性」]



どんなお金持ちや美人にも人間なら誰でも辛いことがある。登場人物の辛いことが極限のくそリアリズムに到達した時、観客は登場人物の「悲劇性」に共感する。

『3-4X10月』は井口、上原(ビートたけし)、玉城(渡嘉敷勝男)やその他の登場人物達の「美点」と「欠点」をこれでもかと見せる。井口を助けるために沖縄にきたはずが、砂浜で野球をしたら楽しくてそんなこと忘れる人間の愚かさや面白さ。拳銃を実際に手に入れても撃ち方がわからない可笑しさ。「完璧な格好良い人間は絶対いない」真実こそ人間の「悲劇性」だ。これが淀川先生の「これほど無邪気、反対に邪気、両方バーっと爆発させた映画ないのね」の言葉の真実かもしれない。

[「映画は目で見るもの」]



サイレント映画の頃からの大原則は「映画は目で見るもの」。北野監督は時間経過を省く演出方法に拘る。沖縄で上原を目撃した雅樹達がカラオケバーに行くまでの時間の省略。その時間経過にこの人間達が「どうして仲良くなったか?」を描かない。だが極限のくそリアリズムに到達した演出でカラオケバーでの人間の「関係性」を違和感なく「成立」させてる。

観客が映画に引き込まれるのは「どうして仲良くなったか?」を「映ってる情報」から理解しようと「想像」するから。「悲劇性」や「関係性」を伝えるための映像を、北野監督は「わざと」いちいち細かく説明しない。北野監督は「映画は目で見るもの」として、「省略した時間」を俳優の芝居で全部「想像」させる。「僕、たけしが本当に映画を知ってることに驚いちゃった」という淀川先生の言葉。「映画は目で見るもの」を全部「知ってる」怖さが「バード・オブ・パラダイス」の「生意気さ」の真実かもしれない。僕は大きい方が出る寸前まで追いつめられた。

[トレーラー爆発]



僕には正直に全く理解できなかった。「夢オチ」と解釈する人も多いが真実はわからない。もし極限のくそリアリズムなら雅樹は野球はできない。「死」「逮捕」「ヤクザに殺される」のどれかだろう。

『3-4X10月』は強いテーマを持ち何かを世に訴える映画には見えなかった。「映画は目で見るもの」として、人間の「美点」と「欠点」、「悲劇性」、「関係性」を楽しませる娯楽映画なのか今でも不安だ。「ドリフのコント」にしか見えない「トレーラー爆発」の意味を淀川先生から教えてもらいたかった。

この歳になって『3-4X10月』を少しだけ理解した。やりすぎ限界映画 ☆☆☆☆★★★[95]でない理由は完全に理解できてないからだ。僕はまだまだ「モダン」になれない。




『その男、凶暴につき』
『3-4X10月』
『あの夏、いちばん静かな海。』
『ソナチネ』
『みんな~やってるか!』
『Kids Return』
『HANA-BI』
『菊次郎の夏』
『BROTHER』
『Dolls ドールズ』
[Next]

画像 2014年 6月