■『その男、凶暴につき』
やりすぎ限界映画:☆☆☆☆★★★[95]
1989年/日本映画/103分
監督:北野武
出演:ビートたけし/白竜/川上麻衣子/芦川誠
[ネタバレ注意!]※見終わった人が読んで下さい。
■やりすぎ限界男優賞:ビートたけし
■やりすぎ限界男優賞:白竜
■第2稿 2018年 6月28日 版
[北野武監督第1作目]
僕は『その男、凶暴につき』公開当時の日本映画界に悪い印象しかなかった。「面白い映画は絶対アメリカ映画」で「日本映画なんか絶対見ない」と決意してた。「たけし、待望の初監督作品」の宣伝も全く興味がわかなかった。だが1997年 第54回 ヴェネチア国際映画祭で『HANA-BI』が金獅子賞を受賞する。1989年当時、ビートたけしが「世界の北野」になることは誰にも想像できなかった。
スティーブン・スピルバーグ監督やジェームズ・キャメロン監督の全盛期。僕の1989年は『ブラック・レイン』で「外国から見た日本」の「客観視」に魂が震えた年だった。『ブラック・レイン』を見て「自分が日本人である誇り」が覚醒し日本映画学校に入学を決意した。そのため僕が初めて『その男、凶暴につき』を見たのは映画学校に入学してからだった。僕が初めて見た北野監督の映画は第3作目『あの夏、いちばん静かな海。』だった。
[北野武と淀川長治]
日本映画学校を選んだ理由は講師に映画評論家淀川長治がいたからだ。淀川先生が1998年に亡くなられる2年前、僕達11期生が「淀川長治の最期の授業」を受けた学生となってしまった。僕が映画に興味を持ったのも『日曜洋画劇場』『淀川長治 映画の部屋』の評論に大きな影響を受けたからだった。
淀川長治・杉浦孝昭の『おしゃべりな映画館』全4巻を持ってる。『おしゃべりな映画館③』の『シンドラーのリスト』で、淀川先生は「オリバー・ストーンだけがバイ菌だと思ってたら、こんな大きなバイ菌がいたのね」とスピルバーグのことを言った。24歳の僕には全く理解できなかった。『プラトーン』『インディ・ジョーンズ 最後の聖戦』の両監督を「バイ菌」と論じた淀川先生におしっこを漏らした。
二人を「バイ菌」と論じた淀川先生が『ソナチネ』では「僕、たけしが本当に映画を知ってることに驚いちゃった」と言ってる。他の全北野作品も淀川先生はべた褒めだった。24歳の僕には全く理解できなかった。淀川先生が「映画を知ってる」とべた褒めする北野監督が怖くなり、大きい方が出る寸前まで追いつめられた。そして1997年 第54回 ヴェネチア国際映画祭で『HANA-BI』が金獅子賞を受賞した。淀川先生の「目」が正しかったことが全世界に証明され「勉強しなければ」と僕は決意した。
[極限の暴力]
初めて『その男、凶暴につき』を見た感想は「こんな怖いと思わなかった」だった。こんな壮絶な日本映画を知らなかった。「極限の暴力」が極限のくそリアリズムに到達する。もはやその怖さは『タクシードライバー』と「互角」だ。瞬間で漏らした。「知らないこと」が多過ぎる無知な自分が恥ずかしくなった。
[ “本物” の「警察」]
“本物” の「警察」を感じた。子供の頃からTVで見てきたものと全く違ってた。映画を勉強して深作欣二監督まで到達した時、戦後日本の「警察」と「ヤクザ」を知った。『その男、凶暴につき』の警察像がかなり真実に近いことを理解した。
[「暴力で自白を強要」]
■「どっからだよ!」
「暴力で自白を強要」など、もう現代では考えられない大問題。今なら逆に犯罪になってしまうかもしれない。実際に行われてたかもしれない我妻諒介(ビートたけし)のビンタに震撼した。現代の視点では、日本史の恐るべき過去に見える。
[人間が絶対真似してはいけないこと]
「権力」も「暴力」も無敵の強さを持つ我妻の「死」が、自分の欲望を全部吐き出した人間の到達する最期に見えた。人間はやりたいことを全部してはいけないのだ。「自分が他人にしたことは、いずれ全部自分に返ってくる」。やりすぎ限界映画は良くも悪くもその極限に到達した人間を描く。『その男、凶暴につき』の我妻はかなり最低の人間だ。「無敵の強さ」が幻想でしかない「こうなってはいけない」見本だ。
■『その男、凶暴につき』
■『3-4X10月』
■『あの夏、いちばん静かな海。』
■『ソナチネ』
■『みんな~やってるか!』
■『Kids Return』
■『HANA-BI』
■『菊次郎の夏』
■『BROTHER』
■『Dolls ドールズ』
■[Next]
画像 2014年 5月