Emerson,Lake&Palmer/Works Volume2
エマーソン・レイク&パーマー/作品第二番
1977年リリース
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シングル&未発表曲で構成された
珠玉のコンピレーションアルバム
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半年前にリリースされた『ELP四部作』に続く、エマーソン・レイク&パーマー初のコンピレーションアルバム。前作までは全て新曲だったのに対して、本作の収録曲の半数は、すでにシングルで発表された曲や1973年から1976年までのアルバム制作時に録音された未発表曲となっている。内容のまとまりのなさや物足りなさから英米のアルバムチャートの順位を落としてしまったが、ブルースやジャズの影響が感じられる曲があり、これまでのアルバムとは異なる趣きのある作品として再評価されている。1975年にシングルとして大ヒットしたグレッグ・レイクのソロ作品『夢見るクリスマス』が再録音されている。
エマーソン・レイク&パーマーは、1970年に『ファースト』アルバムでデビューして以来、『タルカス』、『展覧会の絵』、『トリロジー』、『恐怖の頭脳改革』とアルバムを発表する度に英米のチャートで上位に君臨する、まさにスーパートリオといえる活躍だったといえよう。「メロディ・メイカー紙」による1971年度のリーダーズ・ポールで、ザ・ビートルズからレッド・ツェッペリンへと受け継がれたばかりの王座をたやすく奪い取った時、彼らの将来は約束されたようなものであった。それだけ、エマーソン・レイク&パーマーはあらゆる音楽的要素を貪欲に取り入れては意欲的に活動し、まさに古臭いロックの概念を根底から打ち砕くかのような作品を残してきたのである。そんな彼らが1974年の『恐怖の頭脳改革』後、3年のブランクを置いてリリースされたスタジオアルバムが『Works Volume 1(ELP四部作)』である。
彼らは1974年にリリースした『恐怖の頭脳改革』をサポートするワールドツアー終了後、長期の休暇を取っている。その間に1974年2月にカリフォルニア州のアナハイム・コンベンション・センターで録音されたトリプルライヴアルバム『レディース&ジェントルマン』をリリースし、英国のアルバムチャートで最高位6位、アメリカのビルボード200で最高位4位にランクインするという快挙を成し遂げている。ライヴアルバムでもエマーソン・レイク&パーマーの英米での人気を決定付けるものだったが、休暇中のキース・エマーソンはこの時点でグループの音楽的方向性が完全に枯渇した状態であったと言い、時間をかけてゆっくりと計画を立てたいと述べていたという。彼らは1970年の結成以来、毎年レコーディングとツアーを行っており、疲労が溜まっていたのかもしれない。3人が次のレコーディングに集まったのは1976年である。この時、キース・エマーソンの提案でスイスのモントルーに定住し、マウンテンスタジオでレコーディングを行ったという。いわゆる税金対策である。グレッグ・レイクは英国に家族がいるメンバーがいることを鑑みて、海外でのレコーディングには反対を示していたが、キースに押し切られてしまったと言っている。後にレイクはスイスのモントルーの地に着いた時「とても灰色だ。何もない。真っ白なインスピレーションが得られるかもしれない」と語り、エマーソンは彼の見解を支持して「地球の終わりだ」と応えたという。ただ、レイクとパーマーは、そのスタジオの設備と機材の品質は最高だったと言っている。そうして2枚組の大作『Works Volume 1(ELP四部作)』が1977年3月にリリースされることになる。そのアルバムはA面がキース・エマーソンとロンドン・フィルハーモニック・オーケストラとの共演によるピアノコンチェルトとなっており、B面はグレッグ・レイクらしい抒情的なヴォーカルナンバー、C面がジョー・ウォルシュらのゲストを招いたカール・パーマーのソロ作品集、そしてD面ヒットシングルの『庶民のファンファーレ』を含んだ新曲という変則的な構成となっている。しかし、往年のファンからすると聴きどころの多い重厚な力作だったにも関わらず、際立ったトータル性やコンセプト性に欠けるとして賛否両論を起こした作品と映ったようである。そして『ELP四部作』がリリースした半年後に、続編となる『Works Volume 2(作品第二番)』が同年の11月にリリースされることになる。作品の内容は前作と同様にメンバーのソロ作品で構成されたものだが、前作の収録曲は全て新作であったのに対して、本作の収録曲の半数はすでにシングルで発表されていた曲や過去のアルバム制作時に録音された未発表曲である。グループ初のコンピレーションアルバムとなったわけだが、コマーシャル的なポップな側面を打ち出したというよりも、着実なキャリアの積み重ねが生み出したメンバーそれぞれの成熟した多様性を浮き彫りにした作品だと言える。
★曲目★
01.Tiger In A Spotlight(孤独なタイガー)
02.When The Apple Blossoms Bloom In The Windmills Of Your Mind I'll Be Your Valentine(あなたのバレンタイン)
03.Bullfrog(ブルフロッグ)
04.Brain Salad Surgery(恐怖の頭脳改革)
05.Barrelhouse Shake-Down(バレルハウス・シェイク・ダウン)
06.Watching Over You(君を見つめて)
07.So Far To Fall(ソー・ファー・トゥ・フォール)
08.Maple Leaf Rag(メイプル・リーフ・ラグ)
09.I Believe In Father Christmas(夢見るクリスマス)
10.Close But Not Touching(そっと閉じて)
11.Honky Tonk Train Blues(ホンキー・トンク・トレイン・ブルース)
12.Show Me The Way To Go Home(迷える旅人)
★ボーナストラック★
13.Bo Diddley(ボー・ディドリー)
14.Humbug(ハンバッグ)
15.The Pancha Suite(ザ・パンチャ・スイート)
アルバムの1曲目の『孤独なタイガー』は、アルバム『恐怖の頭脳改革』の制作の際に録音されたアウトテイク。3人の作品とプロデュースによる軽快なキーボードとヴォーカルを中心としたブルースロックとなっている。2曲目の『あなたのバレンタイン』も3人の作品であり、シングル『聖地エルサレム』のB面に収録された楽曲。ドラムとベースのイントロから多彩なキースのキーボードソロが楽しいインストナンバーとなっている。3曲目の『ブルフロッグ』は、カール・パーマーの作品。サックス&キーボード奏者であるロン・アスペリーとベーシストのコリン・ホジキンソンとの共作であるジャズロックナンバーとなっている。EL&Pの中でもこれまでとは違う異色とも言える楽曲である。4曲目の『恐怖の頭脳改革』はアルバムのタイトル曲にもかかわらず収録されず、1977年のシングル『庶民のファンファーレ』のB面に収録された楽曲。EL&Pらしい豪快でパワフルな内容になっており、歌詞はピート・シンフィールドが担っている。5曲目の『バレルハウス・シェイク・ダウン』は、1976年にキース・エマーソン名義でリリースされたシングル『ホンキー・トンク・トレイン・ブルース』のB面の曲。キースによる軽快なピアノによるノスタルジックあふれる楽曲。オーケストレイションはアラン・コーエンが務めている。6曲目の『君を見つめて』は、グレッグ・レイクのソロ作品。ピート・シンフィールドが作詞作曲を行っており、アコースティックギターを弾きながら歌うグレッグの優しいヴォーカルが身に染みるフォークソングになっている。ハーモニカはグラハム・スミスである。7曲目の『ソー・ファー・トゥ・フォール』は、本アルバムの新曲でキースとグレッグ、ピートの作品。ビッグバンド風の演奏とホンキートンク風のグレッグのヴォーカルが印象的である。後にシングル『孤独のタイガー』のB面としてリリースされている。8曲目の『メイプル・リーフ・ラグ』は、アメリカの作曲家でピアニストあるスコット・ジョプリンの曲をキースが軽快にアレンジした楽曲。9曲目の『夢見るクリスマス』は、日本でもシングルとしてリリースしており、英国のシングルチャートで2位を獲得した楽曲。アルバム用にEL&P名義で再レコーディングしており、当時は荘厳なクリスマスソングとしても人気を博していたという。10曲目の『そっと閉じて』は、カール・パーマーのソロ作品。ブラスロック風のパワフルなインストナンバーとなっており、こちらもサックスとキーボードにロン・アスペリー、ベースにコリン・ホジキンソンが参加している。11曲目の『ホンキー・トンク・トレイン・ブルース』は、1976年に同タイトルでシングルリリースした楽曲。ブギウギ形式の作品で知られるアメリカ人ピアニストのミード・ルクス・ルイスの曲をアレンジしたものである。12曲目の『迷える旅人』は、7曲目の『ソー・ファー・トゥ・フォール』と同じく本アルバムの新曲。1925年のアーヴィング・キングの作品をアレンジしたもの。グレッグがヴォーカル、キースがピアノ、ゴドフリー・サイモンがオーケストレイションを担当して、ノスタルジックなムード音楽を盛り上げている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、新曲は2曲しかなく、ほとんどは過去のシングルとしてリリースされていたものをまとめただけのコンピレーションアルバムであり、ファンにとっては少し物足りなく感じることは仕方がないと思われる。しかし、改めて聴くと3分足らずの楽曲の中にメンバーそれぞれの強烈な個性があり、長尺の楽曲とはまた違ったエマーソン・レイク&パーマーの新たな魅力がうかがい知れる掛け替えのないアルバムだと言えよう。
アルバムは上記のように、まとまりのなさや物足りなさを感じさせた内容として、英国では最高20位、アメリカでは最高37位とそれまでのアルバムと比べると大きく順位を落としてしまうことになる。しかし、そのような順位だったにも関わらず、アメリカでゴールドディスクに認定されている。1978年になると、メンバーはもはやグループとしての活動の継続をするのには否定的となり、次のアルバムの制作中に、3人はそれを最後にグループを解散させることに合意していたという。前作に続いて税金問題の絡みもあり、アルバムのレコーディングは英国ではなくバハマで行われている。そして1978年9月に発表されたのが、最後のスタジオアルバムとなる『ラヴ・ビーチ』である。そして1977年のモントリオールでのライヴを収録した『イン・コンサート』が1979年10月に発表され、1980年2月にエマーソン・レイク&パーマーの解散が正式に発表されることになる。彼らの解散は世界的な記事となり、日本でも朝日新聞や東京新聞、北海道新聞などにも記事として掲載されたという。1980年以降、キース・エマーソンは映画音楽やソロアルバムに着手し、グレッグ・レイクはゲイリー・ムーアらと共演したソロアルバムを2作発表。カール・パーマーは自身のソロアルバム『PM』をリリースしており、3人が3様にソロ活動を開始している。1985年にEL&Pの再結成の話が浮上し、キースとグレッグが合流。しかし、カール・パーマーは1981年に結成したエイジアでの活動に集中していたため応じることができず、代わりにコージー・パウエルが加入したアルバム『エマーソン・レイク&パウエル』を1986年にリリースしている。その後、再び3人が集ってアルバムがレコーディングされるのは、解散から12年経った1992年にリリースの『ブラック・ムーン』である。その年には世界的なツアーを行い、約20年ぶりとなる来日公演も果たし、再びスーパーグループであるエマーソン・レイク&パーマーが脚光を浴びることになる。
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皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はエマーソン・レイク&パーマーの過去のシングル曲や未発表曲を集めたコンピレーションアルバム『作品第二番』を紹介しました。私は本アルバムをEL&Pの作品の中でも結構聴いた部類なのですが、アルバムが発売された当時、多くのファンは寄せ集めのアウトテイク集でしかなかったためか、それこそカネ返せ!レベルの出来だったと聞きます。確かに『ELP四部作』と合わせて本作の『作品第二番』とも売り上げは落ちてしまい、大コケしてしまったというのは間違いないです。1970年代のEL&Pの快進撃を知っている人たちにとっては、トータル性もコンセプト性もないコンピレーションアルバムなど作ってほしくなかったのかも知れませんね。ライナーノーツにも書かれていましたが、本アルバムの位置づけと背景は、かのザ・ビートルズの『ホワイト・アルバム』によく似ていると言っています。グループとして人気が高まると、どうしても個の存在が殺さなくてはいけなくなります。その手っ取り早い欲求不満の解消方法はソロ活動というわけになりますが、それを1枚のアルバムに収めてしまった彼らのようなケースは非常に珍しいとされています。前作の『ELP四部作』に続く本作は、過去のシングル曲も収録されていますが、こうして改めて3分ほどまとめたコンパクトな曲の中にメンバーそれぞれの強烈な個性と圧巻の演奏が光っています。時代の変化による単純にコマーシャル的なポップ路線の移行とも言えず、彼らの成熟した多様性がもたらした結果なのだろうと思っています。
アルバムの楽曲を紐解くと、キース・エマーソンは『メイプル・リーフ・ラグ』や『バレルハウス・シェイク・ダウン』といった往年の名曲を含めたクラシカルな路線となっており、グレッグ・レイクは『君を見つめて』や『夢見るクリスマス』など、抒情的なヴォーカル曲になっています。カール・パーマーはサックス&キーボード奏者であるロン・アスペリーとベーシストのコリン・ホジキンソンとのジャズロックであり、これまでとは違うEL&Pの楽曲を披露しています。とはいえ、すでにシングルとしてリリースされたものを収録しているので目新しさが無いものの、12曲を“改めて”1つのアルバムにすると、なぜか長尺の楽曲にも匹敵する圧倒的なインパクトを与えてくれるのは、彼らの成せる業とも言えます。不評のアルバムですが、これもまたエマーソン・レイク&パーマーのアルバムであると強く認識させる作品だと思います。
個人的にはグレッグ・レイクが歌う『夢見るクリスマス』が大好きで、この時期になると聴きたくなります。この曲は1974年にレイクによって録音され、1975年にグレッグ・レイク名義でシングルとして発売されたものです。全英シングルチャートで2位を獲得した大ヒット曲ですが、その時の1位はクイーンの『ボヘミアン・ラプソディ』だったそうです。正式なタイトルは『I Believe In Father Christmas』で、ピート・シンフィールドが歌詞を担っています。夢を与えるクリスマスが地球上を平和にするといった素晴らしい内容になっていますが、グレッグはこの曲を作るにあたって、実はクリスマスの商業化に抗議してこの曲を書いたものだそうです。ピートの方も純真である子供たちの夢や希望を汚さないでほしいという意味を込めているとのことです。本アルバムに収録している『夢見るクリスマス』は、EL&P名義となって改めて収録し直したものになっていて、こちらのほうが荘厳さが増している感じがします。ぜひ、このクリスマスの時期に聴いてもらえるとうれしいです。
それではまたっ!
※本編とボーナストラック3曲、そして『夢見るクリスマス』のオフィシャルビデオを貼っておきます。