第一章 ~薫~ 第4話
ちょっとした行き違いが増えてきたのはわかっていた。
講義、バイト、サークル。
大学生は忙しいのだ。
お互いに距離は離れていたわけでもないのに、
心はどんどん離れていった。
彼女が笑ったのを最後に見たのがいつだったか、
よく覚えていない。
覚えていないことだらけだ・・・。
ふと、親父の言葉が蘇る。
「お前は記憶が欠落しているんだ。」
俺の頭の中はいったいどうなってるんだろう。
中学時代、俺は部活にはげみ、県大会で優勝した。
勉強もそこそこにできたし、友人もたくさんいた。
親父から話を聞いたとき、中学時代の記憶を思い起こしたが、
どこにも問題はなかった。
だから、親父の言っていることがよくわからなかった俺はあの日、
「普通に覚えてるよ? なんだよ、改まって何の話かと思ったよ。」と笑った。
その後、父親は
「そうか。ならいいんだ。すまん、妙なこと言ったな。」
と一緒に笑って、それっきりだった。
今考えてみても、変な日だった。
駅前の灰皿にタバコを押し付け、
切符を買う前に震えたポケットから携帯電話を取り出す。
薫からメールが届いていた。
『今日はつき合わせて悪かったな。 俺も結局カラオケはやめたわ。 これからシーガル行くけど、まだ電車乗ってなかったこねーか?』
なんだよ。
結局お開きだったんなら、だらだらしててもよかったな。
そんなことを考えながら、薫にメールを書いた。
『まだ駅前だ。シーガルは一人で?飲むだけだったら付き合うよ。』
送信すると、10秒もしないうちに薫から電話がなる。
反応の早い奴は嫌いじゃない。
時間の無駄は俺の一番きらいなものだ。
「もしもし?」
「おー、もしもし? 悪いな、今日は。かなりはずれだった(笑)」
「いや、別にそれはいいよ。それより、これからどうするんだ?」
薫は少しだけ間を置いてから、声のトーンを低くして言った。
「お前が明日まじで早いなら無理にとはいわねーんだけど、ちょっと聞いてほしい話があんだよ。時間、大丈夫か?」
なんだろう。
薫がこんな風に頼みごとをするなんていうのは珍しい。
大学のノートをみせてほしいという話なら、
こんな改まった態度をとるわけはない。
「明日は別に早くからバイトなんてねーよ。さっきのは帰るための言い訳。」
「お、やっぱな(笑)」
やはりわかってたか。
わかった上でさっさと帰らせてくれたのは、
こいつのいいところだと思う。
いや、話があるみたいだから、
もともとこいつも解散するつもりだったんだろうか。
食えない奴だ。
「今駅前だから、10分以内で行けるよ、シーガル。」
「おっけ。じゃぁまたあとでな。」