恋詩~koiuta~ -7ページ目

第一章 ~薫~  第3話

「あはは! 颯太くんって面白いねぇ!」


「な?こいつマジでうけるんだよ。」


俺は新宿歌舞伎町のとある雑居ビルで、

いわゆるコンパというものに出ていた。

もう20歳を過ぎているんだ。

別に酒くらい飲んだってかまわないだろう。


「んだよ。俺は真面目に言ってんの。」


ダーツをしようと誘われて、

大学で知り合った友人である沢村薫に連れられて新宿へとやってきたはずだった。

高校までは特に趣味もなく友人と遊ぶといってもダラダラ過ごしていた俺だったが、

大学で適当に始めたダーツにはのめりこんだ。

今では家の中にもダーツのセットが置いてある。


「でもさぁ、普通に暮らしてたんでしょ? 記憶がなくなってるところがあるって、どうしてわかったの?」


真っ黒に日焼けして、髪の色を何回染め直したかわからないような女の子が俺に聞く。

吐く息がメンソール臭い気がするのは気のせいだろうか?


「東京に出てくる前に、親父から聞いたんだよ。『お前は中学生のときに記憶喪失になったんだ』って。」


どういった流れでかは分からなかったが、

薫が俺の記憶喪失のことについて触れたのだ。

一応、当時のことを説明したときの話である。



「でも覚えてないんだってよ、こいつ。」

「えー? じゃぁ記憶喪失になった記憶を喪失してんの??」


ぎゃははと下品に笑うこの女の子とこれ以上はなす気にはなれなかった。
かといって、もう一人の女の子とは、薫が楽しそうに話している。

さっき一瞬合いの手を入れてくれたと思ったが、放ったらかしだ。
その後は適当にしゃべり、、

二人の女の子たちにカラオケでも行こうと誘われたが、

行く気にはなれなかった。


「わるい、明日バイトで早いから、今日は帰るわ。」


文句をだらだらとこぼす2人を脇に、

薫は、おう、と一言だけ言って、誰かに電話をかけ始めていた。

このあとに行くカラオケのメンツを探しているのかもしれない。

無理に引き止めたりはしない。

薫のこういうサバサバしたところが、俺は嫌いじゃない。



タバコを取り出しながらJR新宿駅へと向かって歩く。

次々に声をかけてくるどこかの店の呼び込みを適当にあしらいながら、

俺は歩を進めた。

似たような面々が、所狭しと行き交っている。



俺はポケットをまさぐって、ZIPPOを引き当てた。

あの子がくれたものだ。


「これはタバコを吸うためのものじゃないのよ?いい?」

「え?」

「だから!これは、二人で花火をするためのものだからね?」


高校から付き合っていた彼女がくれた、誕生日プレゼント。

当時大学1年だった俺は、袋をあけてみて驚いた。

タバコなんて絶対吸わないし、俺が吸うのも嫌がっていた彼女からのプレゼントは、

シルバーに光輝くシンプルなZIPPOライター。

それまで使ったことはなかったが、それが火をつけるものだということはわかる。

ただ、こんなものを、彼女が俺にくれる理由がよくわからなかった。


「こんなのもらったら、タバコを吸えと言ってるようなもんじゃねーのか?(笑)」

「ちがーう!」

「じゃぁなんだよ?」

「タバコを吸おうとするとき、これみたら私のこと思い出すでしょ?そしたら火をつける前にやめようって思うんじゃないかなって・・・。」


そのときの彼女の表情はもう覚えていない。

だけど、なんだか妙に胸が苦しくなって、そのまま抱きしめたような気がする。

俺は、歩きながらくわえていたタバコに火をつけた。

この手が止まることはない。

彼女とは既に別れている・・・。