第一章 ~薫~ 第1話
第一章 薫
自分が特別な人間だと感じたことはあるだろうか。
自分は他人よりも幸せな家庭に育った。
不幸な環境にある。
そんな風に感じたことはあるだろうか。
普通の人よりも背が高い。
普通の人よりも頭がいい。
なんだっていい。
自分だけにしかない何かを探せと、偉そうに話す学校の教師もいたような気がするが、そんな指摘なんていらないと思う。
人は誰だって、自分だけが特別なんだと思うからこそ、生きていけるのだから。
俺は三神颯太。
東京のとある大学に通う大学生だ。
俺の通っていた田舎の高校から、年に何人かしか受からないような難関大を受験すると初めて話したとき、両親はずいぶんと驚いていた。
東京に行くこと自体には大して反対されなかったが、二人は、まだ受かってもないのに何だか妙にソワソワとして落ち着きがなかったように思う。
俺が東京の大学を目指そうとしたきっかけは単純だ。
一つは田舎の家を出たかったこと。
もう一つは、当時付き合ってた彼女が東京の大学を受験すると言っていたことだった。
俺としては、実家を出られるなら東京でも大阪でもどこでもよかった。
俺の彼女は、高校のときの同級生で、尚子と言った。
背が小さく、サラサラの髪を肩の辺りまで伸ばして、いつも何かのいい香りがした。
家が厳しく、門限やら服装にうるさいらしい。悪さなんて当然したことがないような子だった。
彼女はクラスメイトから友達へと変わっていき、出会って1年くらいしたときに、相手から告白された。
断る理由は特になかった。
初めての彼女だ。
気付けばこちら側が夢中になってしまっていた。
何をするにつけてもどきどきしたし、何をしていても楽しかった。
そんな彼女と一緒に上京したいというのは、不純な動機だと友人からは馬鹿にされたりもしたが、それも楽しかった。
「本当にそんな理由で将来を決めちゃっていいの?颯くん、ちゃんと考えなきゃだめだよ!」
と、彼女からは何度も叱られたものだ。
別にいいのだ。
どこだって変わりないのだから。
俺は淡々と受験勉強をした。
電話も、メールも、彼女に対して存分にしていた。
これ以上ないくらいに勉強にも集中したし、言い方は古いかもしれないが、これ以上ないくらいに青春時代を謳歌したといっていいと思う。
季節は移り、彼女と2年ほど付き合った辺りで、俺は東京行きの切符を手に入れた。
第一志望の大学に受かったのだ。
うれしかった。
というより、ほっとしたといったほうが正しいかもしれない。
そのとき彼女は、滑り止めだったが、既に東京行きを決めていたのだった。