恋詩~koiuta~ -8ページ目

第一章 ~薫~  第2話

俺の東京行きが決まったとき、両親も一緒に喜んでくれた。

だが、その表情には何かよくわからないものが浮かんでいる。

当時の俺は、思ったことは何だってすぐ口にしてしまう奴だったから、考えるより先に、聞いてしまった。


「なぁ、なんでそんな顔してんだよ?」


両親は顔を見合わせている。

何か決意したものを感じるが、深刻な話が続くとも思えない、妙な空気。
俺が二人の顔を交互に見ていると、父は俺の方に体の向きを変えて、しっかりと俺の目の奥を見据えた。


「颯太。今日は大切な話があるんだ。」


おいおい。

このタイミングで大切な話ってなんだよ?

そんなことを思ったものの、言葉が出てこない。

何だろう。

両親の離婚か?

それとも俺の出生の秘密か?

本やテレビでよく目にするような不幸な身の上話が頭をよぎる。

俺の口からは、まだ言葉が出てこない。

父は、構わず続ける。


「まずは、合格本当におめでとう。父さんは、お前みたいな子を持って、すごくうれしいよ。」


父はまっすぐ俺の目を見つめていた。


「それで・・・その・・・話っていうのはだな・・・。」


父の言葉が一瞬詰まる。

そに対して、母が口を挟んだ。


「ねぇ・・・お父さん。 今日はもうやめませんか? こんなおめでたい日なんですよ?」


「・・・なんだよ、気味が悪いな・・・。」


今度は頭の中で発した言葉が勝手に口をついて出ていた。

イライラした様子が、二人にも伝わったようだ。

二人には明らかに動揺している。


「いや、いいんだ。 ほら、お前がそんな風な態度だから颯太が困っているだろう。」


「そんなこと言ったって・・・、別に改まって話す必要もないんじゃないかって私は言ってるんです。」


二人の小競り合いなど、正直どうでもいい。

いったい俺に何を伝えるかどうかでもめているかだけ教えてくれればそれでいいのだ。


「なぁ・・・そこまで言っといて、もめるのはやめてくんない? ここで、やっぱり辞めたとかいうのは、無しだよ。」


ため息交じりの俺の辟易した態度に対し、父は焦ったように続けた。


「すまん・・・。母さんとは話し合っていたんだが、迷ってしまってな・・・。でも、ちゃんと聞いてくれ。」


俺は、一応、覚悟をした。

何を聞かされても、取り乱さないつもりでいた。

ただ、心臓が嫌な音を刻むのは防ぎようがなかった。


「颯太・・・。お前は実は・・・。」


俺は・・・?

うちの子じゃない、とかか?

それとも、重い病に・・・って奴か?

俺がごくりと唾を飲み込む音が脳内に響いたと同時くらいに、父は口を開いた。


「記憶が・・・」


「え・・・?」


「記憶が欠落してるんだ・・・・・・・・・。」